資産運用というと株や投資信託を思い浮かべるかもしれませんが、それ以外の投資もあります。例えば、コモディティ投資はエネルギー資源、貴金属、穀物といった商品に投資する金融商品。
株、投資信託以外の選択肢としてポートフォリオに組み込むことで分散投資も可能になり、リスクヘッジにも役立ちます。このコラムでは「株や投資信託以外の投資もしてみたい」という方のために、コモディティ投資について詳しく解説しましょう。
この記事を読んでわかること
- コモディティ投資とは、商品先物市場で取引されている原油やガソリンなどのエネルギー、金やプラチナなどの貴金属、トウモロコシや大豆などの穀物といったようなコモディティ(商品)への投資を指します。
- 分散投資が可能でインフレリスクにも強いですが、ドル建てであるため為替変動リスクが伴ううえ、天候や政変により価値が乱高下するおそれもある点に注意しなくてはいけません。
- なお、コモディティ投資は現物取引、ETF、投資信託など多様な方法により行うことができます。
コモディティ投資の基礎知識
最初に、コモディティ投資の基礎知識について解説します。株や投資信託への投資と何が違うのかを理解しましょう。
コモディティ投資とは
コモディティ投資とは、商品先物市場で取引されている原油やガソリンなどのエネルギー、金やプラチナなどの貴金属、トウモロコシや大豆などの穀物といったようなコモディティ(商品)への投資を指します。
一口にコモディティと言っても「現物の受け渡しが伴うか」によって「直物市場」と「先物市場」での取引に分かれる点に注意が必要です。両者の違いについて、仕組みを中心に詳しく解説しましょう。
コモディティ投資「直物市場」の仕組み
直物市場とは、金融資産を現金と交換したうえで、その場ですぐに受け渡しを行う市場のことです。
例えば、食品メーカーが自社製品のスナックを作るために大量のトウモロコシを調達しないといけなかったとしましょう。この場合、在庫がなければ、直物市場に参加してトウモロコシを購入することで確保できます。同様に、別の会社がただちに売却したいトウモロコシの在庫を抱えていれば、直物市場に参加して売却することも可能。
なお、直物市場では世界的な規模で膨大な取引が起こっているため、トレーダーによる毎回の検品を経なくても売買が問題なくできるように仕組み化されているのも大きな特徴です。
コモディティ投資「先物市場」の仕組み
先物市場とは、売り手と買い手が将来の特定日に、特定の金額で一定額の資産を交換することを合意する市場のことです。直物市場の場合とは違い、取引所で実際の資産を取引するわけではありません。
取引参加者は先物契約の売買を行い、期日前に反対売買して決済をすることもできます。この仕組みを利用して、コモディティ価格を使った投機的取引をすることも可能です。つまり、取引の目的物を現実に受け渡しせず、相場変動によって生じる差額による利益を得ると考えましょう。
コモディティ投資のメリット
コモディティ投資のメリットとして、以下の2点が挙げられます。
- 分散投資が可能
- インフレリスクに強い
分散投資が可能
コモディティ投資を利用すれば、株式に投資をしながら金にも投資を行うなどの分散運用が可能です。投資において、大きな損失を避けるには異なる値動きをする複数の商品に分散投資を行うのが効果的とされています。
コモディティ投資の代表例として挙げられる金は、株式市場が不安定になった場合に値上がりする傾向があるのが特徴的。つまり、株価が暴落したとしても、金の価値はそれほど下がらないため、全体としてリスクを軽減できます。
インフレリスクに強い
インフレに強いのも、コモディティの大きなメリットです。コモディティは実物資産への投資であるため、インフレによって物価が上昇すると、同様に値上がりする傾向が。
なお、物価が上がれば企業の収益が伸びるとされているため、株式もインフレに強いといわれています。ただし、実際は株価が上昇するケースもあれば、下落するケースもあるため「インフレリスクに強い」とは言い切れないのが実情です。
コモディティ投資のデメリット
一方、コモディティ投資にはデメリットもあります。以下の4つのデメリットについて、詳しく解説します。
- 為替変動のリスクがある
- インカムゲインがない
- 価格の変動が先読みしにくい
- コモディティによっては気候の影響を受ける
為替変動のリスクがある
コモディティは外貨建ての金融商品であるため、為替変動のリスクは免れません。例えば、金のコモディティが2,000ドル(1トロイオンス当たり)だったとしても、1ドル100円のときと150円のときとでは、日本円に換算した場合の評価額は大きく異なります。
一般的に、円高の場合は評価額が下がり、逆に円安の場合は評価額が上がると考えましょう。
インカムゲインがない
コモディティには株式の配当金のようなインカムゲインはありません。実物資産である以上、保有し続けても利益は生まれないためです。
売買差益である利益(キャピタルゲイン)のみが得られます。株などインカムゲインが得られる金融資産に比べると、得られる利益は少ないかもしれません。
価格の変動を先読みしにくい
価格の変動が先読みしにくいのも、コモディティの大きな特徴です。例えば、地政学的リスクが発生すれば、その地域に関連するコモディティが急騰します。
地政学的リスクとは、ある特定の地域が抱える政治的・軍事的な緊張の高まりが、地理的な位置関係により、その特定地域の経済、もしくは世界経済全体の先行きを不透明にするリスクのこと。
2022年2月に起きたウクライナ危機により、液化天然ガスのコモディティ(LNG)が急騰したのも、地政学的リスクが絡んでいます。ロシアが液化天然ガスの輸出大国であったためです。
コモディティによっては気候の影響を受ける
気候の影響を受けるコモディティもあります。例えば、農畜産物のコモディティは天候の影響を強く受けるのが特徴です。日常生活においても、天気が悪い日が続くと野菜が高くなる現象は起きますが、それと同じことがコモディティの価格にも起こっていると考えてかまいません。
コモディティの種類とそれぞれの特徴について
コモディティは「どんな商品を取引するのか」によって分類することもできます。
大まかには、ハードコモディティとソフトコモディティに分類可能です。
ハードコモディティ | エネルギー資源や金属を取引する |
ソフトコモディティ | 農産物や畜産物を取引する |
それぞれについて詳しく解説します。
ハードコモディティ
ハードコモディティとは、エネルギー資源や金属を対象にしたコモディティです。具体的に取引される商品やその特性について詳しく解説します。
エネルギー
以下のものが主に取引されます。
- 原油(WTI原油や北海原油など)
- NYヒーティングオイル
- NY無鉛ガソリン
- NY天然ガス
火力発電をしたり、工場を操業したりする際の燃料に使われるものと考えましょう。石油に関連した商品が多いため、世界的な産油国が多く集まる中東の情勢に影響されるなど、国際情勢によって価格変動の可能性が高いのが大きな特徴です。
金属
以下のものが主に取引されます。
- 金
- プラチナ
- 亜鉛
- アルミニウム
- 銅
これらは、アクセサリーなどのぜいたく品や工業製品、抗がん剤など薬品の材料に幅広く使われるため、一定の需要は見込めます。そのため、安全資産として人気が高いですが、生産量や流通量に価格が左右されるのが大きな特徴です。
ソフトコモディティ
ソフトコモディティとは畜産物や農産物を取引するものです。
それぞれの特徴について、詳しく解説します。
畜産物
主に以下のものを取引します。
- 飼育牛
- 生牛
- 赤身豚肉
農産物と同じく、需要と供給のバランスにより価格が決まります。比較的需要は安定しているとされていますが、飼料価格が変動したり、鳥インフルエンザや狂牛病など疾病が流行ったりした場合は、需給バランスが崩れ、価格も大きく変動するので注意が必要です。
農産物
以下のものを主に取引します。
- 小麦
- トウモロコシ
- 小豆
- 大豆
- 米
- コーヒー
- 砂糖
- ゴム
天候や自然災害を受けやすいという特徴があります。雨が続いたり、ハリケーンなどの大規模な災害が起きたりしたら不作になるため、需要が減り、価格も高くなると考えましょう。
コモディティに投資の手法
さまざまな方法を使ってコモディティに投資することが可能です。ここでは、主な投資手法として以下の5つについて解説します。
- 現物取引
- ETF
- 投資信託
- 先物取引
- CFD取引
現物取引
インゴット(金地金)やプラチナなどの現物を取引する方法です。現物取引のほとんどは金や銀、プラチナ、ダイヤモンドなどの貴金属。農産物や原油は個人で保管・取引するのが難しいためです。
なお、金や銀、プラチナ、ダイヤモンドなどの現物は、貴金属メーカーや商社、デパートなどで購入できます。ただし、保管方法や取り扱いが難しく、盗難の対象になりやすい点に注意が必要。
ETF
ETFとは、日本語で「上場投資信託」という、株式のようにリアルタイム取引が可能な投資信託のことです。インデックス(市場の全体的な動きを表す指標)に連動するように設計されているため、ETF銘柄を一つ購入すれば、市場を丸ごと購入したのと同様の効果を得られます。
例えば、農産物に投資したい場合は「パワーシェアーズDBアグリカルチャー・ファンド(DBA)」を選びましょう。これは、大豆、砂糖、とうもろこし、小麦、ビーフなどに投資するETFです。
投資信託
証券会社や銀行で購入できる投資信託を通じてでも、コモディティに投資することはできます。ファンドマネージャーといわれる投資のプロにまかせて銘柄選びや売買タイミングが決められるので、投資初心者でもチャレンジしやすいでしょう。
投資信託を運用目標という視点で分けると、アクティブファンドとインデックスファンドの2つに分類することが可能です。
アクティブファンド | インデックスファンド | |
運用目標 | 指数(インデックス)を上回る | 指数(インデックス)に連動する |
組入銘柄 | 調査や分析を通じて優良な銘柄を厳選 | 指数と同様の構成 |
手数料 | 高い | 低い |
先物取引
先物取引とは、ある商品(原資産)を、将来の決められた日(期日)に、取引の時点で決められた価格で売買することを約束する取引です。レバレッジをかけることで元手資金以上の取引ができるので、少ない資金でも大きな利益を得られる可能性があります。
しかし、大きな損失が発生するリスクもあるため注意が必要。どちらかといえば、中・上級者以上向けの取引と考えましょう。
CFD取引
CFD取引とは、「差金決済取引」のことです。
CFDとは「Contract For Difference」を略した言葉で、商品先物のように現物の受け渡しは行わず、取引結果の差額を取引するデリバティブ商品(金融派生商品)となっています。
先物取引と同様レバレッジをかけられるとともに、「売り」から入ることで、相場上昇時・下落時に関係なく利益を狙うことが可能。
24時間取引可能なCFD商品もあるため、日中は忙しい方でも取引できます。
コモディティ投資を始める前に知っておきたい注意点
コモディティ投資は特定の商品に投資する金融商品です。そのため、コモディティ投資ならではの性質を知らずにいきなり高額を投資してしまうと、大損する可能性もあります。
ここでは、コモディティ投資を始める前に知っておきたい注意点をいくつか解説しましょう。
国際情勢や需給、金融政策の影響を受ける
コモディティ投資は、国際情勢や需給、金融政策の影響を受ける商品です。
例えば、2022年のウクライナ危機では、小麦のコモディティ価格が急激に跳ね上がりました。同国は世界有数の小麦輸出大国だったものの、戦乱により輸出が大幅に減る可能性が高いと考えられたためです。
コモディティ投資で一定の成果をあげるためには、常に国際情勢や需給、金融政策の動向をチェックした方が良いでしょう。金や銀、プラチナなどの貴金属はあまり影響を受けないとされていますが、それでも無関係ではありません。
いきなり高額を投資しない
コモディティ投資に限らず、投資初心者がいきなり高額を投資するのは失敗のもと。高額を投資したものの、判断を誤り損失が出てしまっては、実生活にも影響が及ぶ可能性が出てきます。生活費を確保せずにすべて投資資金にするのはもってのほかです。
おわりに
コモディティ投資を始める場合、まずは金や銀、プラチナなど貴金属に少額から投資してみると良いでしょう。比較的価値が落ちにくく、毎月1,000円程度の出資で続けられるからです。
また、コモディティを組み込んだ投資信託を購入するのも、初心者が気軽にチャレンジできる方法。同時並行で仕組みについても勉強し、ある程度知識がついてきたら、CFDや先物など、より高度な投資にチャレンジしてみましょう。