自衛官として働いている方の中には、自衛官であっても退職金を受け取れるのかと気になっている方も多いのではないでしょうか。退職金の有無によって老後に必要な資金が大きく変わるため、自衛官が退職金を受け取れるのかどうかを把握しておくことは大切です。
このコラムでは、自衛官が退職後にもらえるお金の種類、退職金の計算方法、再就職事情などについて解説します。自衛官の退職金について詳しく知りたい方は是非参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 自衛官であっても退職後には退職金を受け取れます。また、退職金以外に若年定年退職者金給付や調整額なども受け取れます。
- ただし、退職金を含むこれらのお金はどのような理由で退職したかによって異なるため、計算方法も把握しておくと良いでしょう。
- また、自衛官は一般的な企業とは異なり、定年が早いので再就職を検討する必要があります。老後を安心して迎えるためにも、老後の必要なお金をどのように確保するかをしっかりと考えましょう。
自衛官が退職後にもらえるお金の種類
国家公務員である防衛省・自衛隊に勤務している自衛官の中には、退職金が支給されるのかどうかが気になっている方も多いでしょう。結論から言うと、自衛官も退職金は支給されます。
しかし、一般的な企業と比べて退職後に支給されるお金に違いがあるため、事前にどのようなお金が支給されるのか把握しておくことが大切です。退職後に支給されるお金は以下の3つです。
- 退職金
- 若年定年退職者給付金
- 調整額
それぞれのお金について詳しく見ていきましょう。
退職金
退職金とは、自衛官が定年や任期の満了によって退職する場合に支給されるお金のことです。退職金や特例退職手当などがあります。
定年や任期の満了を迎える前に退職した場合には支給されないということもありません。自己都合退職や死亡退職した場合などにも退職金が支給されます。
若年定年退職者給付金
若年定年退職者給付金とは、再就職時に下がる給料をカバーするために定年退職する自衛官のために支給されるお金です。若年定年退職者給付金は退職金に上乗せして支給されます。
若年定年退職者給付金が支給される理由は、定年の年齢が一般企業と比べて低いためです。一般的な企業の定年は60歳に設定されていますが、自衛官の定年は50歳が原則です。
階級ごとに定年の設定は異なりますが、一般的な企業よりも10年定年が早く、年金を受け取れるまでの収入を再就職によってカバーしなくてはなりません。
再就職に時間がかかると収入がなくなる、また再就職できたとしても一時的に収入が減少することから、退官月に応じて次の4月か10月に1回、翌々年の8月に1回の計2回支給されます。
調整額
自衛官には階級が与えられます。1曹以上の自衛官の場合、退職時には退職金にプラスして調整額を受け取れる場合があります。
支給額は退職時の階級に基づいて決まるわけではありません。支給額は退職前の5年間(60ヶ月)でどのような階級に所属していたのかによって決まります。
自衛官をどう退職するかでもらえるお金が変わる
自衛官はどのような理由で退職するかによって退職時に支給される金額が変化します。主な退職理由として挙げられるのは、以下の3つです。
- 定年退職
- 自己都合退職
- 死亡退職
それぞれの退職理由による違いを詳しく解説していきます。
定年退職
自衛官の定年退職は若年定年制と任期制の2種類に分けられます。定年の年齢は若年定年制で50代、任期制で20~30代です。
若年定年制
自衛官のほとんどは若年定年制で採用され、定年となる年齢は、階級によって異なります。以下の早見表を見ていきましょう。
階級 | 定年退職年齢 | |
幹部 | 1佐 | 57歳 |
2佐 | 56歳 | |
3佐 | ||
1尉 | 55歳 | |
2尉 | ||
3尉 | ||
准尉 | 准尉 | |
陸曹 | 曹長 | |
1曹 | ||
2曹 | 54歳 | |
3曹 |
退職するのは誕生日を迎えた年度末ではありません。定年の年齢になった誕生日が退職日となるので注意が必要です。
任期制
任期制とは、一般的な企業における契約社員のような契約形態です。自衛官候補生は定年制ではなく任期制で採用されています。
陸上自衛隊の1任期は2年、海上自衛隊と航空自衛隊の1任期は3年(2任期以降については2年)です。自衛官候補生の採用は27歳未満が多いため、20~30代で定年を迎えます。
任期満了後には、特例退職手当が支給されます。
自己都合退職
定年前に自己都合で退職した場合にも、退職金が支給されます。しかし、支給率が割り引かれるのが一般的です。その理由は、調整額が勤続期間と階級によって決まるためです。
自己都合退職者で勤続年数が9年以下であれば調整額は支給されず、勤続10年以上24年以下であれば調整額は半額になります。定年で退職する場合と比べて自己都合による退職のほうが少なくなる方が多いということが分かるでしょう。
死亡退職
死亡退職とは、任務中のトラブルが原因で亡くなったことを理由に退職することです。危険な任務に就くことも多い自衛官は、任務中のトラブルで命を落としたり、重度の障害が残ったりして退職するケースも少なくありません。
このような死亡退職についても、定年退職や自己都合退職と同様に、退職金が支給されます。また、賞じゅつ金も支払われます。賞じゅつ金とは、職務遂行の功労に応じて支給されるものです。
参照:国税庁
自衛官はいくらもらえる?退職金の計算方法
自衛官の退職時の手取り額がいくらになるのか気になっている方も多いでしょう。ここでは自衛官が退職時に支給される退職金の計算式を退職理由別に詳しく解説していきます。
定年による退職
定年や任期満了による退職の場合は、退職金の支給率に割引は適用されません。例えば、任期満了で退職する場合の退職金は以下の通りです。
陸上自衛官 | 海上自衛官・航空自衛官 | |||
1任期 | 1任期目2年 | 約59万3,050円 | 1任期目3年 | 約97万2,243円 |
2任期 | 2任期目2年 | 約148万円 | 2任期目2年 | 約153万4,000円 |
累計 | 2任期4年勤務 | 約207万3,050円 | 2任期5年勤務 | 約250万9,243円 |
また、定年の場合は「退職月の給料×支給率+調整額」で計算できます。勤続年数35年、基本給60万円の自衛官が退職した場合の退職金をシミュレーションすると以下の通りです。
- 60万円×49.59+調整額=2,975万4,000円+調整額
参照:内閣官房
自己都合による退職
自己都合の退職まであれば、勤続年数によっては支給率の割引が適用されます。また、調整額が適用されないケースも多いため、自己都合による退職は定年による退職よりも退職金の額が少なくなります。
勤続年数35年、基本給60万円の自衛官が自己都合で退職した場合の退職金をシミュレーションすると以下の通りです。
- 60万円×41.325=2,479万5,000円
参照:内閣官房
シミュレーション結果では、定年の場合よりも500万円+調整額の分だけ少なくなるでしょう。
自衛官の退職金にも税金がかかる
自衛官が退職時に受け取れる退職金は、一般的な企業よりも高額であるケースが多いです。
自衛官に支給される退職金と1回目の若年定年退職者給付金は、収入扱いとなるので課税対象となりますが、退職所得控除が適用されます。退職金の支給日には所得税や住民税が天引きされており、確定申告は不要です。
ただし、2回目に支給される若年定年退職者給付金は、一時所得として扱われます。他の一時所得と合算して50万円を超える場合は確定申告が必要です。
自衛官の再就職事情
自衛官は一般的な企業よりも退職年齢が低いです。年金の受給開始はまだまだ先なので、それまでの収入源を確保しなくてはならず、再就職をする必要があります。
しかし、何らかの就職サポートがないと、年齢的にも退職後に再就職することは容易ではありません。自衛官の再就職事情について詳しく見ていきましょう。
防衛省による再就職支援
高齢での再就職は難しいという背景があるため、防衛省は退職した自衛官の再就職を援護する再就職支援(援護)を行っています。
定年退職後の自衛官の多くは、これらの支援を利用して民間企業や官公庁に再就職しています。
民間企業への再就職は段階的に収入が減る
民間企業に再就職するケースでは、再就職先で段階的に収入は減ることが一般的です。例えば、まずは最初の就職先で自衛官時代よりも給与が減る、再就職先で定年退職してからさらに再々就職によって給与が減るといった具合です。
自衛官として働いている間の給与や退職金が多いという点は魅力ですが、退職後に苦労する可能性が高いという点には注意してください。
退職金の使い道は慎重に検討しよう
退職時には、若年定年退職者給付金や調整額を含むある程度のまとまった退職金を受け取れますが、退職金の使い方には気を付けなくてはなりません。
その理由は、退職後の再就職先では給与が減り、退職金を切り崩して生活すると老後資金が不足する恐れがあるためです。
再就職がうまくいったり、貯金で生活費を確保できたりしている方は、退職金を資産運用に充てて老後資金を確保するのも効果的です。
おわりに
自衛官として働いている方は、若年定年退職者給付金や調整額を含むある程度のまとまった退職金を受け取れます。しかし、退職金を多く受け取ったからといって安易に使用してはいけません。
一般的な企業と比べて退職年齢が低く、再就職では給与が減少するため、退職金を安易に使用すると老後に必要な資金が不足するので注意してください。
老後を安心して迎えるためにも、老後に向けて貯金・貯蓄をしっかり行い、受け取った退職金を資産運用に回して老後資金をしっかり確保しましょう。