人生100年時代といわれて久しい昨今、60歳で定年を迎えても、65歳の年金受給開始まで会社の再雇用などを活用し、働いている人は少なくありません。そのようななか、ファイナンシャルプランナーの石川亜希子FPは、65歳まで働く場合「失業手当」の受取方次第で約70万円も損する可能性があるといいます。それは具体的になんなのか、詳しくみていきましょう。
似ているようで違う…「失業保険」と「高年齢求職者給付金」とは
失業保険は、失業した方の生活面をサポートし、再就職に向けた支援のために支給される給付金のことです。正式な名称は「雇用保険」ですが、一般的に失業保険と呼ばれています。
失業保険の基本手当(失業手当)を受給するには、下記の要件を満たしている必要があります。
・離職の日以前2年間に通算して12ヵ月以上の雇用保険の被保険者期間があること
失業手当の給付日数は、離職の理由や年齢などによって変わります。自己都合による退職の場合、雇用保険の被保険者期間が20年以上であれば、150日分支給されます。
60歳以上で月収が50万円であれば、基本手当日額の上限が7,294円となり150日分で約109万円の支給が見込まれ、同じ条件で月収が20万円であれば、基本手当日額が4,746円となり、150日分で約71万円の支給が見込まれる計算になります(厚生労働省「雇用保険の基本手当日額が変更になります~令和5年8月1日から~」)。
なお、会社都合による離職であれば給付日数はより多くなりますが、ここでは割愛します。
今回注目しなければならないのは、失業手当の給付は、対象が20歳以上64歳以下となっているという点です。
「高年齢求職者給付金」とは
高年齢求職者給付金は、65歳以上の被保険者が受け取ることのできる失業保険という位置づけになります。2017年の雇用保険法改正によって、それまで64歳までだった雇用保険の被保険者の年齢制限がなくなり、65歳以上でも雇用保険への加入が可能となりました。
これによって、65歳以上で離職した場合、下記の要件を満たしていれば、高年齢求職者給付金を受給することができます。
・離職の日より1年間を通算して6ヵ月以上の雇用保険の被保険者期間があること
給付される金額は、被保険者期間が1年未満で30日分の一時金、被保険者期間が1年以上であれば50日分の一時金が支給されることになります。
65歳以上で月収が50万円であれば、基本手当日額の上限が6,945円となり、50日分で約34万円の支給が見込まれ、同じ条件で月収が20万円であれば、基本手当日額が4,916円となり、50日分で約25万円の支給が見込まれる計算になります。
64歳と65歳では、もらえるお金に大きな差が出るという事実
お気づきでしょうか?高年齢求職者給付金は65歳以上の失業保険という位置づけにもかかわらず、64歳までの失業保険とは給付金額に大きな差が生じることがわかります。その差は、月収20万円の場合の給付金額は約46万円、月収50万円の場合だと70万円以上となり、同じ状況でも64歳と65歳ではもらえるお金が大きく変わってきてしまうのです。
つまり、65歳前後での退職を考えているならば、65歳になる前に退職して失業保険を受給したほうがお得ということになります。
65歳前後の失業保険は、受け取り方が3パターンある
もう1点考慮しなければならないことは、特別支給の老齢厚生年金(65歳になる前に支給される厚生年金)との関係です。65歳前後の退職について、パターンごとに賢く受け取る方法を考えてみましょう。
65歳前後の退職に伴う雇用保険(失業保険もしくは高年齢求職者給付金)の受け取り方について、「65歳以上」「65歳未満」に分けて整理してみます。
①「65歳以上」で退職、その後も働く
65歳を過ぎてから退職し、その後も働く意思がある場合、要件を満たせば高年齢求職者給付金を受給することができます。65歳以降は年金を受給することになりますが、高年齢求職者給付金と年金は同時に受け取ることができます。
②「65歳未満」に退職、その後も働く(失業保険の給付を受ける)
65歳前に退職し、そのあとも働く意思がある場合は、要件を満たせば失業保険を受給することができます。失業保険の給付対象は20歳から64歳となりますので、65歳前に退職することで、失業保険の給付を受けることができます。
ただし、特別支給の老齢厚生年金(65歳になる前に支給される厚生年金、年金制度の受給年齢が60歳から65歳に引き上げられたことにより緩和措置として、一定の年齢以上で支給されます)を受給している人は注意が必要です。特別支給の厚生老齢年金と失業保険の両方を受け取ることはできません。
したがって、特別支給の老齢厚生年金を受給中に失業保険を申請すると、年金の受給は停止されることになります。受給が停止された分の年金は、あとから受け取るということもできないので注意が必要ですが、どちらか給付が多いほうを選択することは可能です。
③「65歳未満」に退職、その後も働く(失業保険の給付と年金どちらも受け取る)
失業保険と年金をどちらも受け取ることが可能な方法もあります。65歳になる直前に退職し、65歳以降に失業保険の申請をして受給する方法です。
失業保険を受給できる期間には期限があり、原則として「離職した日の翌日から1年間」となります。この期限を過ぎると、所定の給付期間が残っていたとしても、その残っていた期間は対象とならず失業保険は給付されません。
つまり、たとえば64歳になってすぐに退職してしまうと、65歳になってから失業保険の申請をしても受給される期間が極端に短くなってしまうのです。むしろ、その期間、退職せずに勤務を続けて給与として受け取ったほうが金額も大きいでしょう。なるべく65歳になる直前に退職したほうがお得ということになります。
雇用保険法では、年齢到達日は「誕生日の前日」という取り扱いのため、誕生日が11月25日だとしたら、誕生日の前日、11月24日に65歳になるということになります。つまり、65歳前に退職するのであれば、誕生日の前々日(11月23日)に退職するのが最もお得なのです。
そうすることにより、64歳までは特別支給の老齢厚生年金を受給し、65歳以降は失業保険と年金を受給する、といったことも可能となります。
退職時期が近づいてきたら、最新の制度の確認を!
年齢によって変わってくる失業保険と高年齢求職者給付金の賢い受け取り方について、主に、「65歳未満」の段階で退職することのメリットについて触れてきました。とはいえ、早く退職すると、その分の給与や賞与、退職金に影響がある可能性があるという点には注意が必要です。
2021年の高年齢者雇用安定法の改正により、企業には、雇用する労働者について65歳までの雇用確保義務に加えて、70歳までの就業機会の確保についての努力義務が追加されました。
給料も年金ももらえないといった「空白の期間」が生じないようにするため、希望者全員を65歳まで雇用義務化する制度が導入されています。こうした制度が開始されたことで、私たちの選択肢も増えています。
情報は自分で取りにいく時代になってきています。知らないと損をしてしまうこともありますので、退職の時期が近づいてきたら、65歳以降の人生を豊かに過ごすためにも、どのような選択肢があるのか最新の制度を確認するようにしましょう。