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地役権とはどんな権利?土地のトラブルを防ぐ方法とは

地役権とはどんな権利?土地のトラブルを防ぐ方法とは
セゾンのくらし大研究 編集部

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不動産の購入や相続などに関連して「地役権」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。普段は接する機会が少ない言葉だけに、具体的なイメージがわきにくいかもしれません。

この記事では、地役権の概要や活用方法についてわかりやすく解説します。地役権が設定されていることを知らないまま土地を取得すると、思わぬトラブルにつながる可能性もあります。地役権の注意点も詳しく紹介するのでぜひ参考にしてください。

この記事を読んでわかること

  • 地役権とは、土地の利便性を高めるために他人の所有地を利用できる権利
  • 通行する、配管を通す、日当たりを確保するといった場合に当事者間で合意すれば設定できる
  • 地役権は相続や売買でも引き継がれるが、登記がなければ権利を第三者に対抗することができない
  • 当事者間で合意がなくても10年または20年で地役権を得られる取得時効が成立する一方で、20年行使しを続けなければ権利を失う消滅時効の対象にもなる
  • 物件購入後や相続後に地役権の存在をめぐってトラブルに発展する可能性もあるため、内容を入念に確認することが重要
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地役権(ちえきけん)とはどんな権利?

地役権(ちえきけん)とはどんな権利?

地役権とは、所有する土地の利便性を高めるために、他人の土地を利用する権利です。民法第280条に定められています。地役権で利便性が上がる土地を「要役地」、利用される土地を「承役地」といいます。

地役権にはさまざまな種類がありますが、中でも「通行地役権」が代表的です。通行地役権は、例えば自宅がある土地Aからバス停がある公道に向かう際、隣家の土地Bを通行すると大幅な時間短縮となる場合に、遠回りを避けるため土地Bを通らせてもらうケースが想定できます。

地役権(ちえきけん)とはどんな権利?

Bの土地の一部を賃借する方法も考えられますが、賃借の場合は通行だけでなく独占的に土地Bの一部を使用することも可能なため、所有者の合意を得にくい可能性があります。通行地役権であれば、利用は通行に限られるため合意を得られやすいのがメリットです。

この他にも、他人の土地に配管を通して水を引く「引水地役権」や、見晴らしの良さを確保するための「眺望地役権」などさまざまなものがあります。

通行地役権に似ている囲繞地(いにょうち)通行権とは?

囲繞地通行権は、国道や市道などの公道に直接出られない土地(袋地)から公道に出るため、周囲を囲む土地(囲繞地)を通行する権利を指し、民法第210条に規定されています。

通行地役権に似ている囲繞地(いにょうち)通行権とは?

土地に囲まれていなくても、池や川、崖など自然的障害があって公道に出られない場合も同様に他人の土地を通行できます。通る場所や方法は、囲繞地の所有者にとって損害が最も少ないものを選ばなければなりません。

囲繞地通行権を持つ方は、通行することによる損害に対する償金として、通行料を支払う必要もあります。ただし、土地を分割したため袋地となった場合は、対価を支払うことなく通行可能です。

これに対して通行地役権は、袋地ではなく、他人の土地を通らなくても公道に出ることが可能な土地のために設定されます。権利を設定するかどうか、設定期間、通行できる範囲などは当事者間の話し合いで決まり、袋地の所有者の権利として民法で定められている囲繞地通行権とは明確に異なります。

通行地役権と囲繞地通行権の違いをわかりやすくまとめると次の表のようになります。

【通行地役権と囲繞地通行権の違い】

通行地役権囲繞地通行権
契約当事者が合意して契約する袋地に備わる権利であり契約する必要はない
登記義務ではないが、登記がなければ第三者に対抗できない必要なし
期間当事者の合意で決まる制限なし
通行範囲当事者の合意で決まる囲繞地側の損害が最小となる範囲
対価当事者の合意で決まる必要(分筆の場合は不要)

通行地役権の登記については、本記事内「地役権の設定には登記が必要」で詳しく解説します。

地役権に似ている地上権とは?

地役権と似た言葉に地上権があります。地上権は、他人の土地に建物などを所有するため、その土地を使用する権利をいい、民法第265条に規定されています。地上権を設定した土地に建てた住宅などは土地の所有者の承諾を得ずに売ったり買ったりできます。

地役権は、他人の土地を利用するという意味で地上権と似ていますが、利用目的はあくまで隣接している所有地の利便性を高めるためです。他人が所有する土地で利用目的を達成する地上権とは異なります。

なお、地役権も地上権も、所有権と同じように「物権」です。賃借権など特定の方に要求できる「債権」とは違い、土地などに対する財産的支配権としてすべての方に権利を主張できます。要役地の売却などで所有権が移転すれば地役権も移転しますが、地役権だけを売買することはできません。

地役権と地上権の比較

地役権地上権
権利の内容他人の土地を利用できる他人の土地を利用できる
目的要役地の利便性を上げるため建物などを所有するため
売買地役権のみの売買はできない地主の承諾なく売買できる
権利の種類物権物権

地役権を設定するメリットとデメリット

要役地の所有者が地役権を設定する主なメリットとデメリットは次のとおりです。

<地役権を設定するメリット>

  • 利便性向上:通行などに不便な土地でも他人の土地を活用することで利便性を上げることができる
  • 資産価値向上:他人の建築物の高さを制限して良い眺望を確保することなどで資産価値が上がる

<地役権を設定するデメリット>

  • コストの発生:利便性向上と引き換えに承役地の所有者への対価が発生する
  • トラブルのリスク:使用方法や対価などをめぐり土地所有者間でトラブルが発生する可能性がある

地役権はどんなときに設定する?

地役権はどんなときに設定する?

地役権を設定するのはどのようなケースなのかを紹介します。地役権は地上だけでなく、地下や上空にも影響することがあります。

通行したいとき

地役権を設定するケースで代表的なのが通行地役権です。例えば、バス停がある公道まで出るのに自宅前の道路より隣地を通行した方が早い、通院するのに他人の土地を通った方がスムーズといった場合に設定されます。

交通機関や医療機関、商業施設などへのアクセスは日常生活に大きな影響を与えます。地役権を設定することで、利便性が向上する可能性があります。

配管を通したいとき

自宅まで配管を通す場合に隣地の地下を利用せざるを得ないケースでも、地役権を設定することで解決可能となります。上下水道やガスなどのインフラは、生活に欠かすことができません。通行のような地上の行為だけでなく、地下を利用する際にも地役権を設定できるのです。

契約の際には、将来的な修繕や撤去などの可能性も考慮して、期間を定めるなどトラブルを防ぐために明確な合意をしておく必要があります。

土地の上空に電線を通したいとき

他人の土地の上空に影響が及ぶ際にも地役権が活用されることがあります。電気事業者が高圧送電線を設置する場合などです。この場合、当該事業者と土地所有者との間で地役権設定契約を結びます。

高圧送電線は、発電所と変電所の間、または変電所間を結び大量の電気を高電圧で送る役割を果たします。地域の生活利便性に影響を及ぼすインフラとして不可欠です。ただ、電圧が高圧となることから、安全のため建物との十分な距離を確保するなどの配慮が求められます。

承役地の所有者は建物の高さや建設場所などの制限を受けるため、電気事業者によって対価が支払われるのが一般的です。

日当たりを確保したいとき

日当たりを確保したい場合に、南側の土地(承役地)の所有者と地役権を設定するケースがあります。斜線制限や日影規制などの建築基準法に基づく決まりではカバーできない場合に、当事者間で協議します。

承役地で建設する建物の高さ制限や、北側〇平方メートル以内には建物を建てないといった制限が想定されるでしょう。

地役権の設定には登記が必要

地役権の設定には登記が必要

地役権を設定したら登記が必要になります。大きな理由は要役地と承役地の所有者だけでなく、第三者に権利を対抗することです。

地役権は所有権や地上権などと同じ物権です。不動産に関する物権は、登記しなければ第三者に対抗できないことが、民法第177条に明記されています。

例えば、通行地役権が設定されている承役地の所有者が変わった場合、地役権の存在を知らなければ通行を拒否される可能性もあります。

登記は義務ではありませんが、権利者や権利範囲を明確にする効果もあることから、地役権を設定した場合には登記するものだと理解しておいてください。

【必要書類】

地役権の登記に必要な書類は以下のとおりです。

<要役地所有者が準備>

  • 認印
  • 本人確認書類

<承役地所有者が準備>

  • 印鑑証明書と実印
  • 土地の登記済証または登記識別情報
  • 本人確認書類

上記の他、登記原因について記載された書面や、承役地のどの部分が地役権の目的となっているかを図示する図面なども必要となる場合があります。

【手順】

地役権設定契約を交わしたら、登記に必要な書類を用意し法務局で登記申請を行います。書類作成や手続きに専門家の知見が必要な場合は司法書士に相談しましょう。

地役権の範囲には制限がない

地役権が及ぶ範囲には制限がないため、登記申請の際には承役地の全部を目的とするのか一部を目的とするのか範囲を定めます。

例えば、承役地の全部を目的とする時は「全部」と登記し、一部を目的とする時は「北側〇平方メートル」などと登記します。一部を示す際には図面の添付が必要です。

地役権は相続や売買を行っても引き継がれる

地役権は要役地の所有者が相続や売買で変わっても引き継がれます。使用方法や使用範囲などをめぐって将来的なトラブルを招かないようにするため、地役権の内容はしっかり登記しておくことが大切です。

地役権は20年で時効になる

地役権は20年で時効になる

地役権には一定期間、行使しないことで権利を失う消滅時効と、行使し続けることで権利を得る取得時効が適用されます。それぞれ詳しく解説します。

地役権の消滅時効とは?

地役権など所有権以外の財産権の消滅時効については、民法第166条2項で、権利を行使できる時から20年間行使しない際に時効によって消滅することが規定されています。

例えば通行地役権を設定している場合は、最後に承役地を通行した時から20年経過すると地役権が消滅します。

地役権の時効取得とは?

行使しないことで権利を失う消滅時効に対して、権利を行使し続けることで地役権を得られるのが取得時効です。民法第283条で、継続的に行使されかつ外形上認識できるものに限り、取得時効が成立すると規定されています。

例えば通行地役権の場合、他人の土地を舗装するなどして通路を開設し、一定期間使用し続けることで時効取得が可能になるのです。

期間は所有権の取得時効を参考にします。民法第162条では、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有した者は、所有権を取得できると書かれています。占有し始めた際、自分の所有物だと信じることに善意かつ無過失なら10年で、過失がある場合などは20年で時効が成立するルールです。

通行地役権の例では、通行を始めたときに善意無過失なら、10年通行を続ければ地役権を取得できます。過失があっても20年で時効が成立します。

地役権はある?土地を購入するときの注意点

地役権はある?土地を購入するときの注意点

地役権に関連して、土地を購入する時の注意点を解説していきます。

地役権が設定されているか書面と現地で確認する

土地を購入する時には地役権が設定されているかどうか、まずは書面つまり登記簿で確認します。登記簿には土地の所在地や所有権に関する情報の他、地役権のような所有権以外の権利関係も記載されています。

登記されていない場合も必ず現地確認を行うことが大切です。例えば、購入を検討している土地Aの隣家の住民が、通行のため舗装した土地Aの一部を毎日通っているとすると、通行地役権の契約や登記がなくても一定期間継続利用していれば取得時効が成立している場合があります。

通行地役権だけでなく、日照や眺望を確保するための地役権などがあれば、承役地を購入しても利用に制限が生じることもあります。土地の購入を検討する際は、利用を制限する地役権の有無について書類や現地、仲介する不動産会社などに対する入念な確認が重要です。

土地にかかる税金について確認する

地役権が設定されている土地も、毎年納める固定資産税や、相続時に発生する相続税の対象になります。納税義務があるのは地役権を基に土地を通行する方や日照を確保している方などではなく、あくまで土地の所有者だからです。

一方で、利用が制限されるため、承役地の評価額は地役権がない場合に比べて下がる傾向があります。購入を検討する際は売主側に評価額を確認してみることも有効でしょう。

また、地役権を設定すると、承役地の所有者は対価として権利金を受け取ることがあります。権利金収入は譲渡所得または不動産所得として扱われます。

譲渡所得は、他の所得と切り分けて税額を計算する分離課税の対象です。権利金収入が承役地の時価の50%(地役権の設定が地下または空間について上下の範囲を定めたものの場合は25%)を超える場合は譲渡所得、時価の50%以下なら不動産所得となります。

参照元:国税庁|No.3111 土地を貸し付けて権利金などをもらったとき

地役権は変更が可能

地役権は、登記後でも期間や使用料などを変更できます。住んでいる方の状況に応じて期間を延ばしたり短縮したりしたい場合、あるいは物価高が進んでいるので使用料を引き上げたいといった場合も対応可能です。

内容を変更する際には、当事者間で協議の上、合意する必要があります。内容を変更した場合は第三者に対抗するため登記の変更も行いましょう。

地役権にまつわるトラブルに注意!

地役権にまつわるトラブルに注意!

地役権にまつわるトラブルについて紹介します。実際にあった事例を参考にすることでトラブルを避ける参考にしてください。

物件購入時のトラブル

物件購入時に起こりやすい地役権をめぐるトラブルとしては、地役権の存在が登記や契約書などで明示されていないケースがあります。

明示されていれば権利が及ぶ範囲や期間、内容を確認できますが、口約束や暗黙の了解などの場合は購入後のトラブルを避けるためにも、売主側や要役地の所有者などに十分確認することが大切です。

また、要役地の所有者が取得時効で通行地役権などの権利を得てしまっている可能性もあります。地役権の存在を売主がわからないまま売買しているケースもあり得るため、現地確認が重要になります。

私道を共有している場合のトラブル

実際のトラブル事例として、周辺住民で共有する私道に通行地役権を設定して使用していたケースがあります。要役地で賃貸物件の建設を計画したところ、相続で新たに私道の共有者となった方から、車の通行量増加や騒音の心配などを理由に私道を通行する同意を得られないことになりました。

結果として、私道を使えないため賃貸物件建設計画は断念することになります。この場合、共有者みんなで私道の使用方法について合意書を交わしておくことで、計画断念を避けられた可能性があります。

土地の相続時のトラブル

地役権は所有権に従属する財産権であり、要役地が相続されれば相続人に引き継がれます。通行地役権が設定されている土地なら、相続後も引き続き決められた通路を通ることができるのです。

ただ、登記がなければ第三者に対抗できません。通路がある承役地を相続した方がその存在を知らず、取得時効も成立していない状態なら、通行を拒否される可能性もあります。こうしたトラブルを避けるためにも、登記が重要です。

相続によって承役地が複数の相続人に分割される場合もトラブル回避を意識する必要があります。例えば、土地の一部の利用が通行地役権で制限されている場合、負担が不均等になることがあります。このようなトラブルを避けるため、遺産分割協議を進める場合は地役権の内容を念頭に入れることが大切です。

セゾンの相続 相続対策サポート」では、今回取りあげた土地の相続時のトラブルを含め、相続に関するお悩みをワンストップでサポートします。「これってどうなのだろう」と思うことがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。

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相続してから数年後に起きたトラブル

土地を相続してから数年後に起きた地役権をめぐるトラブルとして、通行地役権がある要役地を相続で取得したケースを紹介します。

亡くなった被相続人は約50年前に土地を購入した直後、公道に出るために隣地の一部を一般の道路と信じて自ら舗装し、通行し続けました。

この要役地をめぐる相続が発生した後に、今度は承役地で相続が発生します。その際、承役地の相続人は通路の使用を拒否。ポールを立てて通行できないようにするトラブルになりました。

このケースでは通行地役権の取得時効が成立しており、要役地の相続人はポールの撤去を求めることができました。承役地の以前の持ち主が定期的に使用中止を求めるなど、取得時効の進行を止める事実があれば、通行できなくなった可能性があります。

おわりに 

地役権は、公道に接していなかったり、日当たりが悪かったりする土地でも利便性を上げることができる重要な財産権です。その存在や効果を確認せずに土地を取得すると、住民同士でトラブルに発展する恐れもあります。

土地を購入する際には書面で地役権の存在を確認するとともに、現地に訪れて現況をチェックするなど、注意を払って取引を進めるようにしてください。

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