ニュースや新聞で「市場金利」という言葉を聞いたことがあるものの、定義やしくみを十分に理解できていないと感じる方は多いのではないでしょうか。市場金利の動向は、投資だけでなく日常生活にも影響を与えます。
このコラムでは市場金利について解説します。金融知識に自信のない方でも簡単に理解できる内容になっているので、ぜひ参考にしてみてください。
- 市場金利は短期・長期があり、政策金利と密接に関係している
- 長期の市場金利は住宅ローン金利に影響を与える
- 市場金利から景気動向を予測するためには、短期金利と長期金利の差に注目すると良い
市場金利とは
この章では市場金利の概要について解説します。
市場金利の定義
市場金利は、金融市場において金融機関同士が取引をする際に用いられる金利です。「市中金利」や「実勢金利」とも呼ばれ、一般的な預金や融資に用いられる金利とは異なります。主に資金の需要と供給のバランスによって決まり、日々変動しています。
市場金利の種類
市場金利には短期・長期の2種類があります。それぞれの特徴について解説します。
短期金利
短期金利とは取引期間が1年以内の金利を指します。代表的な指標とされる「無担保コールレート翌日物」には、以下のような特徴があります。
- 金融機関が短期的な資金の過不足を調節する「コール市場」における無担保の資金貸借
- 約定日に資金を受け渡し
- 返済期日は翌営業日
金融機関は日本銀行に対し、所定の額を預金すると定められています。しかし、日々の取引で預金額が所定の額から不足する場合があります。ほかの金融機関から借り入れによって基準額を満たそうとするときに使われるのが無担保コールレート翌日物です。
「無担保コールレート(オーバーナイト物)」や「無担保コール・オーバーナイト・レート」は「無担保コールレート翌日物」と同じ金利を指しています。そのほか日本の短期金融市場にある短期金利の例は、以下のとおりです。
- レポレート
- CP(コマーシャル・ペーパー)発行レート
- 譲渡性預金金利
- 国庫短期証券利回り
- 銀行間取引金利(TIBOR)
長期金利
1年以上の貸し借りのときに適用される金利が「長期金利」です。代表的な指標として10年物国債利回り(国債金利)が挙げられます。10年国債は国が発行する債券で、1年以上の融資の指標として10年国債利回りが用いられています。例えば住宅ローンの金利は、債券市場で売買される国債の利回りが指標となって決定されます。
政策金利と市場の関係
短期金利と政策金利は密接に関係しています。政策金利と市場との関係について解説します。
政策金利とは
政策金利とは、日本銀行のような中央銀行が一般の銀行に資金を貸し付ける際に用いられる金利を指します。景気・物価の安定などを目的として景気動向を見ながら段階的に引き上げ・引き下げが実施されます。
政策金利が適用されるタイミング
政策金利が適用されるのは、景気動向に変動が見られるタイミングです。一般的に政策金利の引き上げ・引き下げのタイミングと景気動向の関連は、以下のとおりです。
景気動向 | 政策金利 | 期待される効果 |
デフレ(物価下落) | 引き下げ | 経済を刺激 |
インフレ(物価上昇) | 引き上げ | 経済の過熱を抑制 |
それぞれ詳しく解説します。
利下げ
利下げは中央銀行による政策金利の「引き下げ」です。景気が低迷している(デフレ)と判断されると、中央銀行は景気刺激策として政策金利の利下げを実施します。
政策金利の利下げが行われると市場金利が下落し、個人や企業が資金を借り入れしやすい状態になるため、個人消費や設備投資の促進に効果的な施策です。金融緩和策とも呼ばれており、促進された消費や投資行動によって景気が回復しやすいとされています。
利上げ
一方、利上げとは中央銀行による政策金利の「引き上げ」を指します。景気が過熱している(インフレ)と判断したときに、経済の過熱抑制を目的として中央銀行が実施する金融施策です。
政策金利の利上げにより市場金利は上昇するため、個人や企業の新規借り入れが減少します。資金力の低下は購買活動の減少につながり、物価上昇を防ぐ効果があります。金融引き締めとも呼ばれる施策です。
政策金利が為替市場へ与える影響
為替は2つの通貨が組み合わさっています。例えばドル円レートであれば、取引されているのは「ドル」と「円」です。
一方の通貨に金利政策が行われると、2つの通貨の金利差は変動します。お金は金利が高い方に流れやすい性質をもつため、金融政策による利上げ・利下げは為替相場の変動と密接に関係しています。
例えば、アメリカが利上げを実施すると発表したとしましょう。金利が上がったドルを買ったほうが利回り上昇が期待できるため、ドルが買われ円が売られる傾向にあります。
金利の変動幅はわずかであっても、市場への影響の大きさは定かではありません。国内外の政策金利の動向は、注視しておきましょう。
政策金利が暮らしに与える影響
政策金利の利上げ・利下げが私たちの暮らしに与える影響の例は以下のとおりです。
利上げ | 利下げ |
・住宅ローンやカーローンが利用しにくくなる ・貯蓄にまわす人が増える | ・住宅ローンやカーローンが組みやすくなる ・預貯金に利息がつきにくくなる |
金利の高い状態で住宅ローンやカーローンを組むと支払う利息が増えるため、利上げされると個人は資金を借りにくくなります。一方、利下げが実施されると低い金利でお金を調達可能です。そのため住宅や車を購入する資金を借りやすくなります。
また、利上げは預金者にとって有利に、利下げは不利にはたらきます。政策金利の変更は、個人の暮らしに影響を与えるといえるでしょう。
現在の市場金利動向
2023年9月22日に発表された日本銀行の「政策委員会・金融政策決定会合」に基づく発表において、以下の内容が決定しました。
■長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)
- 短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用する
- 長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う
直近での政策金利引き上げは見送られた格好になりました。しかし米国の政策金利の上昇など、今後の動きには目が離せません。
市場金利から景気の推移を予測するには
市場金利から景気の推移を予測するためには、2つの方法があります。
- 短期金利と長期金利との差を見る
- 株式市場の動向を見る
それぞれ順番に解説します。
短期金利と長期金利との差を見る
イールドカーブとは債券の最終利回りと残存期間に対応する点をつないだ利回り曲線を指します。通常、長期金利は短期金利を上回っており、イールドカーブは右上がりの曲線です。しかし短期金利が長期金利を上回り、イールドカーブが右下がりの曲線になる場合があります。
イールドカーブにはマーケットの将来的な金利予想が反映され、短期金利が長期金利の水準を上回っている場合、景気後退や株価調整に転じるシグナルといわれています。短期金利と長期金利の差は経済の今後の成長を見通す重要な指標となるため、定期的にチェックしましょう。
おわりに
市場金利には貸付期間1年をさかいに、短期・長期があります。政策金利と密接に関係しており、長期金利の引き上げ・引き下げは住宅ローンの金利などに影響を与えます。市場金利について理解するためには、ニュースや新聞などによる普段の情報収集が重要です。
市場金利に対する理解を深めて、ご自身の投資活動に活かしてみてください。