交通事故が原因で収入が減り、生活が苦しくなる方も少なくありません。事故の加害者に請求できる損害賠償金の中には、収入減少への逸失利益(いっしつりえき)という請求が認められていますが、内容を詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
このコラムでは、逸失利益とは何か、計算方法や具体的な計算例、請求方法などについて解説します。逸失利益について詳しく知りたい方は、是非参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 交通事故が原因で亡くなった、または障害が残って収入が減少した場合、加害者に対して逸失利益を請求することが可能
- 請求できる逸失利益は後遺障害による収入減少なのか、死亡による収入減少なのか、どちらに該当するかによって計算方法が異なるが、計算方法を覚える必要はない
- どのくらい請求できるのかについて詳しく知りたい方は、計算方法を理解する必要あり
逸失利益とは
逸失利益とは、本来得られるはずだった利益が不法行為や債務不履行などが原因で得られない場合、原因となった相手方に対して請求できる損害賠償金のひとつです。
逸失利益は内容が難しいため、相手方に請求する前に基礎知識を身につけましょう。
交通事故による逸失利益って何?
交通事故が発生した場合、慰謝料や車の修理費などの損害賠償金を加害者に請求します。逸失利益も加害者に請求できる損害賠償金のひとつです。
交通事故による逸失利益は、交通事故が原因で死亡した、または障害が残って本来得られるはずだった収入が減少した場合に認められます。後遺障害があっても、収入が減少しなかった場合は原則として逸失利益が認められません。
ただ、裁判で逸失利益の請求が認められたケースもあるため、一概には言い切れないところです。
逸失利益の種類
逸失利益には、以下の2種類があります。
- 後遺障害逸失利益
- 死亡逸失利益
これらは同じ逸失利益でも、請求額に差が生じるため、違いをしっかり押さえましょう。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益は、交通事故が原因で障害が残り、交通事故に遭う前のように働くことができず、収入が減少した場合に請求できる補償です。
ここでは、あくまでも障害が残った場合のみ請求できるという点に注意が必要です。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、交通事故が原因で亡くなった場合、将来的に事故後も得られるはずだった収入を請求できる補償です。
しかし、給与の全額が補償されるわけではありません。亡くなった方の生活費が必要なくなることを考慮するため、減額される点に注意が必要です。
休業損害との違いについて
休業損害とは、交通事故でケガをして働けなくなったことによって収入が減少した場合に請求できる補償です。ケガが原因で収入が減少したという点は後遺障害逸失利益と似ていますが、症状固定前か症状固定後なのかという点で異なります。
症状固定とは、治療を継続しても治療効果が期待できなくなった状態です。休業損害は症状固定前の収入減少を補償、後遺障害逸失利益は症状固定後の収入減少を補償します。
慰謝料との違いについて
慰謝料とは、後遺障害を負ったことで精神的な苦痛を受けた場合に請求できる補償です。逸失利益は収入の減少を補償するものなので、精神的苦痛を対象としていません。
上記のように何を補償するのかによって請求できる補償が異なるので違いを理解しておきましょう。
後遺障害逸失利益の計算方法
逸失利益は後遺障害逸失利益と死亡逸失利益で請求できる金額が異なります。そのため、それぞれの計算式を把握しておくことが大切です。
まず後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出します。
後遺障害逸失利益=1年当たりの基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
聞きなれない言葉も多いため、それぞれの項目が何なのか詳しく見ていきましょう。
基礎収入額
基礎収入額とは、交通事故の被害者が事故に遭遇する前に得ていた1年間の収入。被害者ごとに基礎収入額の計算方法が異なるので違いを理解しておくことが大切です。
給与所得者
会社から給与を得ているサラリーマンの場合には、事故前の1年間の実収入が給与所得となります。事故の前年の源泉徴収票に基づいて算出します。
ボーナスや各種手当を含む、手取り額ではなく控除前の総支給額が基礎収入額の算出基準となります。
自営業・フリーランスの方
自営業やフリーランスの場合は、事故の前年の確定申告の申告所得額に基づいて算出します。実際の収入と申告額に差がある場合、実際の収入額を証明できれば基礎収入額とすることが可能です。
専業・兼業主婦(主夫)
収入を得ていない専業主婦(主夫)でも、家事労働に対する対価として、逸失利益を請求することが可能です。基礎収入は、賃金センサスの女性労働者の全年齢平均に基づいて算出します。
賃金センサスとは、厚生労働省が賃金構造基本統計調査の結果に基づいて労働者の性別や年齢などに分類してまとめた平均収入です。専業主夫も公平性の観点から専業主婦と同じ基準となります。
アルバイトやパートなどをしている兼業主婦(主夫)の場合は、実収入と賃金センサスを比較して、高いほうを基礎収入とすることが可能です。
失業者
事故当時に失業中だった場合は、収入がないので基礎収入を算出できません。そのため、加害者への逸失利益を請求することは厳しいでしょう。
しかし、転職活動中だったというように労働能力と労働意欲があった場合、失業前の収入に基づいて基礎収入を算出できます。
子ども・未就労学生
子どもはまだ収入がありません。将来の収入を予測することは困難なので、賃金センサスの男女別の全年齢の平均賃金に基づいて基礎収入を算出します。
大学生のような未就労学生の場合は、大学を卒業する可能性が高いため、大学卒の平均賃金に基づいて基礎収入を算出するという点で子どもとは基準が異なるのです。
高齢者
高齢者が働いている場合は会社員や自営業者、無職で家事をしている場合は専業主婦(主夫)と同じ基礎収入となります。
事故当時には無職でも、就職活動中だったといったように労働能力と労働意欲があれば賃金センサスに基づいて基礎収入を算出できます。
なお、年金生活者で労働意欲がない高齢者は逸失利益を請求できません。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、交通事故の後遺障害が原因で労働能力がどの程度低下したのかをパーセンテージで表したものです。以下のように等級に応じて労働能力喪失率が変化します。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
労働能力喪失率が高いほど、請求できる逸失利益が高額になります。
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、交通事故の後遺障害が原因で、労働能力が制限された期間のことです。原則症状固定から67歳になるまでの期間が労働能力喪失期間になります。
しかし、事故当時に67歳を超えている方も少なくありません。その場合は、平均余命の2分の1が労働能力喪失期間です。
死亡事故の場合には、事故当時に年金を収入源としていた方は、2分の1ではなく平均余命をそのまま計算に使用します。
属性 | 労働能力喪失期間 |
18歳未満 | 18歳から67歳までの期間 |
大学生 | 大学卒業時から67歳までの期間 |
67歳に近い方 | 67歳までの年数または平均余命の2分の1の長いほう |
67歳を超えている方 | 平均余命の2分の1 |
症状がむちうちの方 | 等級が12級で10年程度、14級で5年程度 |
ライプニッツ係数
逸失利益は全額を一括で受け取るのが原則です。受け取った金額に対しては毎月利息が発生しますが、本来は働いて受け取った収入のみに利息が発生するため、逸失利益では多くの利息を受け取ります。
そこで計算に使用するのが中間利息控除です。中間利息控除とは、受け取り過ぎとなる利息を除いて支払うという考えに基づきます。しかし、中間利息控除の計算は容易ではありません。
非常に複雑であるため、以下のようなライプニッツ係数という簡易化された数値を使用します。
年齢 | 就労可能年数 | ライプニッツ係数 |
10歳 | 49年 | 20.131 |
20歳 | 47年 | 25.025 |
30歳 | 37年 | 22.167 |
40歳 | 27年 | 18.327 |
50歳 | 17年 | 13.166 |
60歳 | 12年 | 9.954 |
70歳 | 8年 | 7.020 |
18歳未満の未成年者の場合は、事故から就労可能年数の67歳までのライプニッツ係数から、事故当時の年齢から数えて18歳までのライプニッツ係数を引いて計算します。
後遺障害逸失利益の具体的な計算例
後遺障害逸失利益の計算式は専門用語が登場するため、難しく感じた方も多いと思います。ここでは後遺障害逸失利益がどのくらいになるのかをケース別に紹介します。
例1.後遺障害等級14級に認定された45歳専業主婦の場合
後遺障害等級14級に認定された45歳専業主婦の場合、後遺障害逸失利益は以下のとおりです。
- 労働能力喪失率:5%
- 就労可能年数/ライプニッツ係数:22年/15.937
- 基礎収入:3,943,500円(賃金センサス)
参照元:賃金センサス|意味や見方を弁護士が解説【最新令和4年版】 | デイライト法律事務所
計算式に当てはめると「3,943,500円×5%×15.937=3,142,378円」です。
例2.後遺障害等級10級に認定された53歳男性会社員の場合
後遺障害等級10級に認定された53歳男性会社員の場合、後遺障害逸失利益は以下のとおりです。
- 労働能力喪失率:27%
- 就労可能年数/ライプニッツ係数:15年/11.938
- 基礎収入:8,000,000円
計算式に当てはめると「8,000,000円×27%×11.938=25,786,080円」です。
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は後遺障害逸失利益とは以下のように計算式が異なります。
死亡逸失利益=1年当たりの基礎収入×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
計算で使用する基礎収入額、労働能力喪失期間、ライプニッツ係数については、後遺障害逸失利益と同じなので後遺障害逸失利益の計算方法をご確認ください。
ここでは新しく登場した生活費控除率について詳しく説明します。
生活費控除率
死亡事故の場合、被害者が将来的に得るはずだった収入がなくなるだけでなく、消費するはずだった生活費もなくなります。生活費控除率とは、本来将来的に消費するはずだった生活費を逸失利益から控除すること。
生活費控除率の目安は以下のとおりです。
属性 | 生活費控除率の目安 |
一家の支柱の場合 | 30~40% |
女性(既婚・独身・幼児を含む) | 30% |
男性(独身・幼児を含む) | 50% |
年金受給者 | 60~70% |
あくまでも上記は目安です。それぞれの事情によって控除率が異なるので注意してください。
死亡逸失利益の具体的な計算例
後遺障害逸失利益と同様に、死亡逸失利益の計算式も複雑なので、難しく感じた方も多いでしょう。ここでは死亡逸失利益がどのくらいになるのか紹介します。
例1.既婚者子どもあり、48歳男性会社員の場合
既婚者かつ子どものいる48歳男性会社員の場合、死亡逸失利益は以下のとおりです。
- 生活控除率:30%
- 就労可能年数/ライプニッツ係数:19年/14.324
- 基礎収入:6,000,000円
計算式に当てはめると「6,000,000円×(1-30%)×14.324=60,160,800円」です。
逸失利益の請求方法
逸失利益は、加害者と示談交渉する際に請求します。加害者が任意保険に加入しているケースでは、保険会社の担当者と話し合います。
請求するタイミングは後遺障害の場合は症状固定後、死亡の場合は被害者が亡くなった後となるので覚えておきましょう。
逸失利益を請求できる期間には時効がある
逸失利益はいつでも自由に請求できるわけではありません。逸失利益の請求には時効があります。
逸失利益を含む損害賠償請求権は、人身事故の場合は5年となっており、起算日は後遺障害逸失利益の場合は症状固定日の翌日、死亡逸失利益の場合は死亡日の翌日です。
ただし、ひき逃げのように加害者が不明な場合の時効は、事故に遭った翌日から20年になります。
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交通事故はいつ発生するかわからないため、思わぬタイミングで被害に遭う可能性はゼロではありません。
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交通事故のリスクに対して賢く備えるなら、適切な保険料で必要な補償を用意できる「おとなの自動車保険」を検討してみてください。
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おわりに
逸失利益とは、本来得られるはずだった利益が不法行為や債務不履行などが原因で得られない場合、原因となった相手方に対して請求できる損害賠償金です。
死亡した、後遺障害を負ったことで収入が減少した場合のみ請求できます。後遺障害を負った場合の後遺障害逸失利益と死亡した場合の死亡逸失利益の計算式は異なります。
逸失利益をどのくらい請求できるのか気になる方は、このコラムを参考に計算してみてください。