今回は、相続税が発生するとわかった時点でその相続税額を納めるお金がない、という方に向けた対策を解説しています。お金がないので税金を納めません、という訳にはいきません。税金を納めないと罰則があること、お金以外にも税金を納める方法があることなどを知るとともに、相続が発生する前から納税資金を準備しておくことの大切さを確認しましょう。
この記事を読んでわかること
- 相続税が発生するかしないかを知ることで、納税資金対策が必要なのかどうかを知ることができる
- 相続税は、自分で申告書を作成し、自分の現金で一括納付することが原則
- 納税額が大きい場合にその納税額をどのように準備しておくべきか
相続税の基本知識
相続のことが気になりだしたら、相続税が発生するかどうかを試算することが大切です。その試算の結果、相続税が発生するのであれば、その相続税額を納めるためのお金を準備する必要があります。
相続税額は、原則が現金で一括納付することとなっています。つまり、この現金(納税資金)の確保が必要となります。
相続税の発生とは?誰が納税する?
相続税は、現預金や不動産、株式などを持っているからといって必ずしも発生する税金ではありません。相続税には「基礎控除額」が設けられ、この金額以下であれば、相続税は発生しません。
「基礎控除額」とは、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。例えば、父・母・子の3人家族で父が亡くなった場合は、「3,000万円+600万円×2人(母・子)=4,200万円」となります。
相続税が発生するのは、「現預金や不動産などのプラス財産の価額合計額」から「住宅ローンの残高や葬式費用などのマイナスの財産の価額の合計額」を差し引いた金額が「基礎控除額」を超える場合です(その後の計算で発生しない場合もあります)。
相続税が発生する場合、亡くなった方(被相続人)から財産を引き継いだ方(相続人)は、その亡くなった日の翌日から10ヵ月後を期限として、相続税額を原則現金で一括納付する必要があります。
どういった方が納税資金を用意しておく必要がある?
相続人は、引き継いだ財産のほとんどが現預金であれば、その現預金を納税資金に使うことができるので、納税資金に困りません。しかし、日本では困るケースが多いのが現状です。
令和3年12月の国税庁「令和2年分相続税の申告事績の概要」によると、相続財産のうち、現預金の占める割合は、全体の約34%です。一方で不動産(土地・家屋)の占める割合は約40%です。不動産をはじめ貴金属や自社株といった財産は、相続税額を納める期限までに現金化することが難しい財産です。
そのため、引き継いだ財産のうちに現預金以外の現金化しづらい財産の占める割合が多い方は、相続税額を納められない可能性があるので、事前に相続税が発生するかどうかの試算をし、納税資金が足りるかの確認をしておく必要があります。
相続税が支払えないとどうなる?
「相続税は発生するけれど手元に支払う現預金がないので、現預金の準備ができるまで支払わない」、「相続税が発生しているかどうかは誰にもわからない」、などと考える方がいるかもしれませんが、相続税が発生しているにもかかわらず、その税金を納めないと罰則などが科せられます。その内容について説明します。
延滞税がかかる
延滞税は、税金が発生しているにもかかわらず、決められた期限までに納めなかった場合に、その期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、その遅れた日数分の利息として課せられる税金です。
税額は、納付しなければいけない税金(本税)に対して一定の税率(遅れた日数等により異なります)を乗じて計算します。
無申告加算税がかかるケースも
無申告加算税は、決められた日までに自らが申告書を作成して、その作成した申告書を提出しなかった場合に課せられる罰金としての税金です。
税額は、本税の金額に対して、500,000円までは15%、500,000円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額となります。
重加算税がかかるケースも
重加算税は、納税者自身が事実を仮装・隠蔽して申告し、または申告しなかった場合に課せられる罰金としての税金です。
税額は、その仮装・隠蔽した金額に対して一定の割合(仮装・隠蔽した異なる事実をもって申告したのか申告しなかったのかなどにより異なります)を乗じて計算されます。
過少申告加算税がかかるケースも
過少申告加算税は、申告書を提出したけれど誤りに気づいて修正申告書を提出した場合に、その修正前後の差額に対して課せられる罰金としての税金です。
税額は、その差額に一定の率(誤りに気づいたのが自分なのか、税務署の調査があることを予知して修正申告書を提出したのかなどにより異なります)を乗じて計算されます。
事前に備える納税資金対策とは
相続税が発生するかしないかを、事前に調べることは可能です。そのため、発生する税額が大きい場合は納税資金を準備する必要があります。
ここでは、その納税資金対策を解説します。法人の経営者は、法人の経営とのバランスを保ちながらの対策になるので、特に注意してください。
不動産などを現金化しておく
相続税が発生する方の多くは、不動産を所有していることが多いです。不動産は相続税額を大きくするひとつの原因でありながら、その不動産で相続税額を現金の代わりとして原則納めることはできません。
そのため、不動産に限らず、すぐに現金化できない自社株や貴金属などについては、計画的に現金化することをおすすめいたします。
生命保険を利用する
生命保険は、受取人を指定することができます。そのため、相続人を受取人として生命保険に加入することで、その受け取る生命保険金を納税資金として活用することができます。
また、生命保険金を相続人が受け取る場合、一定の金額(500万円×法定相続人の数)までは相続税の財産として含まない(非課税)、という規定があります。例えば、父・母・子の3人家族で父が亡くなり、生命保険金を母と子が600万円ずつ合計1,200万円を受け取った場合、500万円×2=1,000万円までは非課税となり、1,200万円-1,000万円=200万円が相続税の対象となる財産になります。
非課税の規定を利用しつつ、相続人に生命保険金を渡すことも納税資金を確保するための対策のひとつです。
相続人の収入を増やす資産を生前贈与する
納税資金は、相続税額を支払うために必要なものです。そのため、相続人が納税資金を十分に持っているのであれば、対策は不要です。ところがそのような方は少ないため、生前贈与を考えるのもひとつです。
配当金の生じる株式や家賃収入を伴う不動産など、現金を作ることのできる資産を生前贈与で相続人に移しておくことにより、その相続人は事前に納税資金を作ることができます。この移転は早ければ早いほど効果が大きいです。
しかし注意も必要です。贈与時に贈与税が発生します。また、暦年課税制度による相続の開始前3年以内の贈与財産及び相続時精算課税制度を利用した贈与財産は、相続税の計算時に再計算されること(贈与時に発生した贈与税は一定の条件のもと控除されます)を知っておいてください。さらには令和5年度の税制改正により、暦年課税制度の再計算期間である「3年」が「7年」になったことや、相続時精算課税制度の大幅な改正についても知っておきましょう。対策は、専門家に相談しつつ行ってください。
遺言書で遺産分割内容を指定する
遺言書を作ることで、納税資金を確保することもできます。遺言書はあらかじめ財産を誰に渡すかを指定できます。そのため、作成時に不動産や自社株などの現金化に時間のかかる財産を引き継ぐ方に対して、現預金や比較的現金化の容易な投資信託や上場株式などを含めて渡すことを遺言書には明記できます。この含めた分を納税資金に充てます。
しかし、ここも注意が必要です。遺言書による遺留分の侵害により、もめ事が起きる可能性もあるので、事前に含める資産のことを周知させておくことをおすすめいたします。
流動性が高い株式・投資信託に資産を寄せておく
引き継ぐ財産のうち不動産や自社株など、現金化に時間のかかる財産の占める割合が多い方は、納税資金の確保が必要です。そのため、現金化しにくい財産から現金化しやすい財産に変更しておくことも、ひとつの納税資金対策です。
死亡退職金や弔慰金を用意しておく
経営者に限れば、事前に納税資金の準備をしておくことができます。自社の役員退職金支給規定や弔慰金支給規定を整備し、退職金や弔慰金の受取人を自社株を引き継ぐ方にしておくことで、納税資金を渡すことができます。
納税資金対策をする前に亡くなった場合の対処法
人は亡くなる時期を選べないため、突然の予期せぬ別れも存在します。このような場合は、納税資金対策が間に合わないこともあります。しかし、納税資金は法定納期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月後)までに準備しなければなりません。どのような方法があるのか、解説します。
銀行から借入をする
銀行などから融資をしてもらい、納税する方法です。金融機関により金利は異なるので、金融機関ごとに金利を調べたうえで、「延納」の制度による金利より金融機関の金利が低いのであれば、利用しましょう。しかし、融資の場合は担保設定が必要となるケースが多く、その設定費用がかかるので注意してください。
延納や物納の申請を検討する
相続税の納付は金銭一時納付が原則です。しかし、金銭で一括に納付することが難しい場合もあるので、そのときには「延納」制度を利用して、金銭で分割して納付することができます。さらに、金銭で分割して納付することも難しい場合は「物納」制度を利用でき、受け取った相続財産で納付することができます。
しかし、どちらの制度も税務署長の許可が必要で、手続きも難しく審査に時間もかかります。さらには審査後に却下となる場合もあるので、これらの制度はあくまでも補完であり、現預金の準備を優先してください。
不動産を売却する
不動産は現金化に時間がかかることが問題となるため、相続後にその不動産の使用方法がない場合は、事前に不動産会社と話し合い、相続登記が終わったと同時にその不動産を売却し、その資金をもって納税をする方法もあります。
自社株を買い取ってもらう
経営者の方で自社株を保有している場合、その自社株を引き継いだ方が、その自社株を発行法人に買い取ってもらうことにより、納税資金を作る方法があります。この方法は、法人に自社株を買い取ってもらえる資金があることが最低条件であり、専門家に相談して行うことをおすすめいたします。少しの手違いにより、予想外の税金や費用が発生する可能性もあるので、注意してください。
リースバックを活用する
リースバックとは、所有している居住用不動産を売却し、その後も引き続き賃貸物件として同じ物件に住み続けられる制度です。つまり、売却代金を納税資金として活用することができます。また住み慣れた家には、賃貸料を支払いながら今までどおり生活を続けることができます。
しかし、安易にリースバックを活用することを考えるのではなく、売却代金と納税資金・賃貸料とのバランス、その後の生活費なども考えながら検討しましょう。
リバースモーゲージを活用する
リースバックと混同されやすいものとして、リバースモーゲージがあります。リバースモーゲージは、リースバックと異なり売却しません。所有している居住用不動産等を担保として提供することによりお金を借り、それを納税資金とします。最終的にその借りたお金は、担保となった不動産を売却することで返済に充てます。これも安易に考えないよう、注意が必要です。
二次相続についても考えておく
両親のうち片方の親が亡くなったときと残りの親が亡くなったときとでは、同じ財産の価額であっても、相続税額が大きく異なります。
二次相続とは?
二次相続については具体例をあげて説明します。父・母・子の3人家族をイメージしてください。二次相続というのは、子の立場です。父と母のうち先に父が亡くなった場合を一次相続といい、次に母が亡くなった場合を二次相続といいます。
一次相続では、父の財産を母と子が取得します。母には「配偶者の税額軽減」という制度があり、相続税額を大きく減らすことができます。ところが二次相続では、子のみが母の財産を相続するため、配偶者の税額軽減の制度は使えず、相続税額を減らすことができず、二次相続では大きな税額の負担が子に発生する可能性があるのです。そのため、二次相続のための納税資金対策が必要となります。
二次相続のための納税資金対策とは
相次相続控除を利用する
親は同世代のことが多いため、比較的短い期間に一次相続と二次相続が発生します。この一次相続がおこった後10年以内に二次相続が発生した場合には、「相次相続控除」という税額控除の制度があります。
そのため、この制度が使える場合は、相続税額を減らすことができるので、忘れないようにしてください。
生前贈与を利用する
生前贈与とは、生きている間に親から子に財産を贈与するということです。もちろん贈与に対しては贈与税がかかります。しかし通常、1年間で110万円までの贈与は税金がかかりません(暦年課税制度)。また条件が合致すると相続時精算課税制度が使え、生涯で2,500万円までの贈与については税金がかかりません。
しかしどちらの制度も、相続のときに、この贈与した財産を相続財産として一定の方法により再計算されるので、注意が必要です。
さらに、どちらの贈与についても、令和5年度の税制改正により、大きな改正がありました。その改正も踏まえたうえで、生前贈与を検討してみてください。
一次相続で調整しておく
二次相続の納税資金確保のために、一次相続のときに配偶者の相続財産を減らして子に多く相続させるというのもひとつの方法です。つまり、一次相続と二次相続をトータルで考えます。
この方法は、一次相続と二次相続それぞれでシミュレーションをする必要があります。分け方により納税額が変化することを理解した上で、一次相続では誰にどの財産を渡すと納税額がいくらになるのか、二次相続のときはどうするのか、というそれぞれのパターンでシミュレーションをし、納税資金が不足しないかの調整を行います。
相続する財産を現金にしておく
納税資金は、原則は現金です。物納を除いては現金が必要です。そのため、二次相続においても不動産などの現金化に時間のかかる財産は、事前に現金に替えておくことをおすすめいたします。
生命保険を利用する
二次相続においても生命保険を利用することができます。保険金受取人を指定することができるため、事前にどの程度の納税資金が必要なのかがわかれば、必要な納税資金の金額を保障額として生命保険に加入することで対策はできます。一方で、非課税制度は相続人のみが受けられる制度なので、その受取人が相続人であるかを注意し、利用してください。
相続対策の相談は専門家へ
相続対策には、多くのシミュレーションを必要とし、最新の税法を知っていないと失敗をするケースもあります。そのため、相続のことで対策が必要になるのであれば、専門家に相談することをおすすめします。
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おわりに
納税資金対策は、納税額がいくらになるかを知ることから始めてください。そして手元にある預貯金や相続財産として引き継ぐ預貯金等の額とその必要な納税資金とを比較して、足りない納税資金の額を確認しましょう。
その上で、最終的に対策が必要となるのであれば、これまでのさまざまな方法により、自分に合った対策をすすめてください。