リースバックは、住宅を売却後、賃貸として住み続けるというサービスを指します。では、リースバックにはどのようなメリットがあり、またどのような場面で活用すれば良いのでしょうか。FP Officeの梅田雅美FPが、事例を交えて解説します。
そもそも「リースバック」とは
皆さんは「リースバック」というサービスをご存じですか?
リースバックは、たとえば自宅を売ってその売却代金代を受け取りながら、売却したあとの家については、家賃を払いながら引き続き自分が住む、というようなイメージです。「まとまった現金を受け取りながら住み続けることができる」という仕組みになります。
国土交通省:住宅のリースバックに関するガイドブックから引用
人生100年時代を背景に、長期で組んだローンの返済が難しくなる。また、ローンは返したが生活資金が足りなくなる。といったケースが増えているなか、リースバックを活用することにより、まとまったお金を受け取り、ローンの返済や生活費を確保することができます。また、賃貸料は発生するものの、引っ越しをする必要もなく、住み慣れた家で生活を続けることが可能です。
また、事業の運転資金が必要といった場合などに利用することも可能です。その後、事業の利益が出たところで自宅を買い戻せば、所有権が戻ります。
リースバックに似たようなものにリバースモーゲージがありますが、所有権の有無や、お金を一括で受け取る、分割で受け取る。など大きな違いがあります。
さらに、リバースモーゲージは「融資」であるため、対象物件や年齢、資金の用途などに制限がかかる場合があります。必要な融資が受けられないこともあるので注意が必要です。
リースバックのメリット・デメリット
リースバックには多くのメリットがある一方、当然ですがデメリットも存在します。
リースバックのメリット
- 一括で売却代金を受け取ることができる
- 引っ越す必要がない
- 敷金・礼金がない場合が多い
- 固定資産税がかからない
- 将来的に買い戻しも可能
リースバックのデメリット
- 所有権が無くなる
- 一般的に売却価格は安くなる
- 賃料が発生する
- 更新時に家賃が値上がりする可能性
このようなメリット・デメリットがあることを把握したうえで、失敗を避けるためにも複数の不動産会社に見積もりを依頼し、比較検討することが大切です。
また、ひとりで進めるのではなく、親族や信頼できる専門家に意見を聞き、契約内容をしっかりと確認するようにしてください。
ここまでリースバックとはどのようなものか、という部分を簡単に説明しました。ここからは、実際にリースバックを上手に活用したA子さん(83歳)の事例を紹介します。もしご自身や身内の方で似たような環境におかれている人がいたら、ぜひ参考にしてみてください。
老人ホームへの入居を検討、住んでいた家は…
83歳のA子さんは夫が10年前に亡くなり、相続した持ち家マンションで一人暮らしをしています。長年公務員として勤務してきた預金と夫から相続した遺産があり、金銭的に困窮することはありませんでした。
A子さんが80歳になりアンティーク陶磁器収集クラブで話をしていた時のこと。仲良しのB子さんが「有料老人ホームに引っ越す」と話し出しました。
B子さんは2つ年下で、趣味の会のなかでも元気で活発なムードメーカーです。A子さんは、老人ホームは介護が必要になって入居するようなところだと思っていたのでとても驚きました。
B子さんは、部屋の間取りや充実した食事、元気であれば外出も普通にできること、何より病気になっても24時間体制で見守ってくれるところが安心だと教えてくれました。気になる入居費用は、入居一時金で1,500万円、月額利用料が30万円ということです※。
B子さんに子供がいないため、夫が亡くなった後一人で暮らしていくのが不安になり、早めに終の棲家を考えたようです。
「私は財産を残す人もいないので迷惑をかけずに生活するように準備をしようと思うの。趣味も楽しみたいしね」
と、とても楽しそうにしているのが印象的でした。
「住んでいた家は売ったの?」と誰かが質問し「リースバックを使ったの」という答えにみんなざわつきます。
リースバックについて、B子さんも不動産会社の担当者に提案されるまでは知らなかったそうです。
「賃料は発生するけど、名義が変わるから固定資産税は払わなくてよくなったわ。最初は有料老人ホームに移ろうとしていたのだけど、急いで決めるのは嫌だったから。手元に資金を残して今までの生活をつづけながら探せたから、私にはぴったりだったの」と楽しそうに話すB子さんの表情が忘れられず、自分もリースバックを利用して老人ホームでの生活を思い描くようになっていくのでした。
老人ホームの入居一時金もリースバックで
数日後、息子が久しぶりに自宅に来た時、思い切ってB子さんの話をしてみました。
夫から相続した遺産は、自分が生きている間に趣味や友人との付き合いに使いたいこと、施設に入る時の入居一時金を準備したいこと。
息子は「母さんが楽しいと思うことにお金を使ったほうが良いよ。父さんもそうして欲しいと思っているだろうから」と快諾してくれました。
ただし、業者によって売却価格や家賃が違うことも多いため、焦らず複数の会社から見積もりを取って、一緒に検討していくという約束になりました。
A子さんの自宅は、港区内の駅から徒歩3分の2LDKマンションです。資産価値が高く、リースバックを利用して入居一時金のほかに趣味に費やす資金も用意することができました。
以前から手元にある預金2,000万円は、月額利用料の補填として月に5万円使ったとしても、100歳超まで人生を楽しめそうです。
A子さんは、リースバックの申し込みから3年後、施設に入るため自宅から退去しました。3年間でゆっくりと老人ホームを探せたことも良かったのですが、陶磁器収集の趣味でずっと欲しかったマイセンのアンティーク人形を購入できたことも大満足の結果でした。
もちろん、今も趣味の仲間とは会って楽しい時間を過ごしているそうです。