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もう地元には戻らないが…母逝去で空き家となった実家、「ご近所の目」を気にせずスムーズに売却する方法【弁護士が解説】

もう地元には戻らないが…母逝去で空き家となった実家、「ご近所の目」を気にせずスムーズに売却する方法【弁護士が解説】
山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

執筆者

山村法律事務所 代表弁護士

山村 暢彦

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社からの複雑な相続業務の依頼が多数。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

地方にある実家。親の亡きあとは空き家となってしまい、処分に頭を抱えているという方も多いでしょう。「すぐに売却すると近所の目が気になる」「そもそも遺品整理ができておらず、すぐには売却できない」……そんなときにはリースバックという選択肢が有効かもしれません。

本記事では、Aさんの事例とともに、地方の実家における売却手段の選択肢のひとつとなり得る「リースバック」について、不動産と相続を専門に取り扱う山村暢彦弁護士が解説します。

実家の空き家は、「リースバック」で有効利用ができる!?

実家の空き家は、「リースバック」で有効利用ができる!?

近年、都市部にて就職、結婚して生活基盤を築いたものの、地方にある実家の利用について苦慮するという事例が増えています。もっとも、このような実家の問題については、比較的新しい「リースバック」を利用して解決できる例も増えてきました。

ある家庭の例をみてみましょう。

Aさんは神奈川県横浜市に在住する65歳の男性です。会社員として勤続し年収は800万円、賃貸マンションに住んでいます。現在は妻と二人暮らしで、別居している娘が1人います。

Aさんは、先日母親が亡くなり、愛知県名古屋市の実家(現在空き家)を相続しました。愛知県へ戻る予定はないものの、実家に愛着もあり、また遺品等も多いことから、すぐに売却することはできません。ただ、空き家になってしまっているため、このまま長く放置するには、空き巣や放火などのリスクが心配です。今後は定期的に実家へ通い、両親の遺品・家財道具の整理をしたいと思っています。

また、横浜と名古屋では、移動費用や移動時間も軽視できません。そのため、実家への定期的な交通費・遺品整理で家財の処分等にかかる費用を工面したいと考えています。さて、このような要望をみたすには、どのような方策が考えられるでしょうか?

時間をおいて売りたい実家…売却に向けてどう進めていく?

時間をおいて売りたい実家…売却に向けてどう進めていく?

いずれ不動産を売却するためには、基本的な進め方として、遺品の整理を進めて、建物を解体できる状態、すなわち更地にできる状態で売却することが一般的です。

この方法ですと、更地として市場価格どおりに高く不動産を処分できる可能性がありますが、当然売却するためには先に遺品を整理する必要があります。

実家売却前にかかる遺品整理費用

相続問題で度々問題になるのが、「相続するには先に相続手続費用が発生する」ということです。Aさんのケースでも、単純に実家の家財道具を処分するだけであれば、遺品整理業者に何十万円かの費用を払えば廃棄は可能だと思います。もっとも、「思い出の詰まった実家のもの」を無慈悲に廃棄するのは、なかなか抵抗があるとも思います。

そのようななか、先に不要なものと残しておきたいものを選別してから遺品整理業者に依頼するとなると、前述のように、移動費用や移動時間といった先立つものが必要になります。

また、相続では最終的に相続財産を承継できるとしても、相続税や相続手続費用を先に捻出するのは、かなり家計に負担も大きいです。このような背景から、リースバックの活用事例も登場してきました。

「短期的なリースバック」のメリット

さてリースバックとは、「セール・アンド・リースバック」とも呼ばれ、現在所有している不動産を先に売って、そこからリース(賃借)するという取引形態をいいます。不動産の場合ですと、高齢者の方が、自宅を売却したうえで、買主から改めて自宅を賃借する、死亡後に買主が自由に不動産を処分できるようになる、という形での利用が進められてきました。

もっとも、今回の事案では、長年居住を継続することは想定していません。最初の3年程度を賃借し、そのうえで遺品の整理を行い、賃貸契約を解約のうえ、買主業者に不動産の処分を任せたいとのご意向です。このような一時的な遺品整理のためのリースバックというのも、新しいリースバックの利用方法だと感じます。

リースバックの一番の問題点としては、賃借人が死亡したら自由に処分できるという条件の場合、いつ買主が処分可能になるのか不安定なため、買主業者としては、そのリスクを織り込み比較的安い金額で売却金額を打診せざるを得ません。

他方、本件のように、2年、3年など比較的短い期間で、売却可能になるのであれば、処分できるようになる期間も明確ですので、一般的な売却相場とそれほど乖離せずに売却可能なのではないかと思います。

今回は、先立つ費用を実家の財産から捻出したいというニーズと、遺品についても雑に処分せずにしっかりと整理してから売却したいという希望を叶えるスキームとしてご紹介しました。

近所の人に相続してすぐに実家を売ったと思われたくない…

地方では世間体といいますか近所の目が気になるという実情もあるかと思います。相続が発生したとたん、実家を売却したとなると、世間の風当たりが気になるというお話も実際多く聞きます。そのため、今回のようにリースバックを利用すれば、2~3年期間をおいて売却することになりますので、世間体が気になるという問題にも良い解決策となるでしょう。

相続税対策にもなり得る

また、今回のようにリースバックを利用すれば、本来遺品整理をしてから売却になるところ、先に売却しその代金を受け取ることができますので、素早く動くことができれば、相続税が発生する前に売却して、相続税の納付金を準備するという利用用途も想定できます。本末転倒ではあるのですが、相続税の負担が大きく、相続財産を処分しないと相続税を払えないという地域もあるのが、実情です。

親族が利用できない実家不動産は、「売るか・貸すか」の2択

親族が利用できない実家不動産は、「売るか・貸すか」の2択

さて、今回は、地方の実家問題の解決策の一案として、リースバックをご紹介させていただきました。

リースバックを利用する側としては、建物が解体できるような更地の状態の売却査定金額よりは、リースバックのほうが売却金額は下がる可能性がある、ということは知っておいたほうがいいと思います。これは、不動産会社目線でいえば当たり前のことなのですが、同じ不動産でも、すぐに転売・売却可能かどうか、新築物件が建てられる状態なのか、他方、居住者が利用しており、事実上利用不能かどうかという点は、不動産の価値を大きく左右する要素であるためです。

また、地方の実家問題に関しては、筆者自身もなかなか頭が痛い問題だと痛感しております。基本的には、親族が利用できない実家不動産は、「売るか・貸すか」この2択しかないと思います。

貸すというのもひとつの選択肢に思えるのですが、老朽化した家屋を賃貸すると、賃借人からの修繕要求が度々生じて、収益不動産としては管理が難しい物件になってきます。

とはいえ、売却する、というのも「生まれ育った家」ということを考えると、心理的抵抗感も強いかと思います。固定資産税や管理費等も考えると、住む人がいない実家を維持するのは、なかなかの経済的負担になります。

そのようななか、遺品整理だけにはしっかりと時間をかけたいとなると、今回のような短期的なリースバックというスキームの利用も検討のひとつに入れてみてはいかがでしょうか。

地方の実家を出て、都市部で生活基盤ができたという家庭は非常に多いかと思いますので、今後、ますます実家の利活用というテーマは話題になってくるでしょう。

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