投資信託での資産運用を考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、投資である以上リスクはつきものです。特に長期分散投資が鉄則の投資信託での運用にはどのようなリスクがあるのか、不安に感じるかもしれません。
この記事では、長期分散投資のメリットやリスクのコントロール方法、危険を回避しながら資産を増やすポイントなどについて解説します。
(本記事は2024年01月19日時点の情報です)
- 長期分散投資では、個別の投資信託の変動や時間の経過によるリスクを低減できる
- 複利効果を高めるポイントは、長期間の運用、元本を増やす、運用コストの削減の3つ
- 分散投資の対象は、資産・地域・時間の3つ
- 投資信託でリスクを回避しながら資産を増やすポイントは、アクティブファンド・インデックスファンド・ポートフォリオの3つ
長期分散投資でリスクがコントロールできる理由
投資においてリスクをコントロールするためには、長期分散投資が有効だとされています。長期分散投資とは、複数の異なる種類の投資信託に分散して投資し、長期的に保有することです。
分散投資とは、一つの投資信託にすべての資金をつぎ込むのではなく、複数の投資信託に分散して投資することです。一つの投資信託が損失を出しても、他の投資信託が利益を出す可能性があるため、個別の投資信託の変動によるリスクを低減させられます。
分散投資のコツは、投資信託の種類や地域、通貨などを多様化することです。例えば、国内株式、国際株式、債券、不動産などの投資信託に分散して投資することで、市場の変動に対応することが可能です。
次に、長期投資とは、短期的な市場の変動に左右されずに長期的な視点で投資を続けることです。市場の変動によるリスクを平均化できるため、時間の経過によるリスクを低減することができます。
長期投資のコツは、目標やライフプランに合わせて投資期間を決定することです。例えば、老後の資金や子供の教育費などの目標に向けて5年、10年以上の長期的な投資を行うことで、市場の変動に左右されずに資産計画が立てられるでしょう。
リターンとリスク両面から見る長期保有のメリット
長期分散投資にあたっては、投資信託を長期にわたって保有することになります。投資はリターンを期待して行うわけですが、当然ながらリスクも発生します。それでも長期保有を行うメリットはどこにあるのでしょうか。ここでは、長期保有のメリットである複利効果と、投資期間とリスクの関係について解説します。
単利と複利
投資信託で長期保有するメリットの一つが、複利効果です。複利効果は、投資した資金が利益を生み、その利益がさらに利益を生む仕組み。例えば、年利10%の投資信託に100万円を投資した場合、1年後には10万円の利益が発生します。利益分を再投資すると、2年目の投資額は110万円なので利益は11万円です。
一方、単利では、年利10%の投資信託に100万円を投資した場合、1年後に110万円になる点は同じですが、毎年の利益を回収し翌年以降再投資しないため、2年目以降も利益は10万円のままです。
単利と複利の違いは、長期的に見ると大きくなります。年利10%の投資信託に100万円を投資した場合、単利では10年後に200万円になりますが、複利では約259万円、20年後には単利では300万円ですが複利では約672万円です。このように、複利では投資期間が長くなるほど投資成果が大きくなります。
複利効果を高めるポイント
複利効果を高めるポイントは、以下のとおりです。
- 長期間運用する
複利効果は時間とともに大きくなるという特徴があります。得られた利益を再投資していくことで、利益は徐々に増えていくからです。そのため、短期間の投資では十分な複利効果を享受できません。相場によっては利益が出にくい場合もありますが、すぐに売却するのではなく運用を継続することが大切です。
- 元本を増やす
複利効果を得るためには、資産運用で生まれた分配金や運用益などを再投資し、元本を増やす必要があります。元本が増えれば運用できる資産が増えるので、複利効果をより得やすくなるでしょう。ただし、元本が増えれば相場状況によって損失も拡大する可能性があるため、収入や支出、資産状況などを把握し、無理のない範囲で増やすことが大切です。
- 運用コストを削減する
複利効果を得たくても、運用コストがかさんでは元本が増えず、複利効果を享受できなくなる可能性があります。そこで、購入時や売却時の手数料、信託報酬等、利益にかかる税金を見直し、収益率を高めましょう。手数料や信託報酬などは証券会社によって異なるので比較し、できるだけコストを削減することをおすすめします。また、つみたてNISAやiDeCoを活用し、分配金や運用益を非課税にすることも検討してください。
リスクと投資期間の関係
投資信託を長期保有するもう一つのメリットは、リスクを低減できることです。リスクとは、投資した資金が減る可能性のこと。投資信託では、市場の変動によって投資した資金が増えたり減ったりします。この変動の度合いを表す指標が、「標準偏差」であり、標準偏差が大きいほど変動が激しいということです。
標準偏差は投資期間によって変動し、一般的に投資期間が短いほど標準偏差が大きくなります。これは、短期間の投資では市場の変動による影響が大きくなるからです。逆に、投資期間が長いほど標準偏差は小さくなります。長期間の投資により市場の変動による影響が平均化されるからです。
標準偏差と投資期間の関係には、「√T倍ルール」という法則があります。この法則は、標準偏差が投資期間の平方根に比例するという法則です。
例えば、年率10%の標準偏差を持つ投資信託に投資した場合、1年間の標準偏差は10%ですが、4年間の標準偏差は、「√4×10%」=20%です。つまり、投資期間が4倍になっても、標準偏差は2倍になるだけです。このように、投資期間が長くなるほど標準偏差は小さくなります。
標準偏差が小さくなればリスクも小さくなるので、投資信託を長期保有することによってリスクを低減することができます。
分散投資における3つの対象とメリット
分散投資には3つの対象があります。
- 資産
- 地域
- 時間
それぞれについて、メリットと合わせて見ていきましょう。
資産を分散する
資産の分散とは、株式や債券など、資産の銘柄を分散して投資を行うことです。
一つの銘柄にすべての資金を投資すると、その銘柄の業績や市場の動向によって大きな損失を被る可能性があります。これに対し、複数の銘柄に分散して投資すると、一つの銘柄で損失が出ても、他の銘柄で利益が出る可能性があるわけです。そのため、個別の銘柄の変動によるリスクを低減し、収益の安定が見込めます。
資産を分散するときのコツは、株式や債券などの資産クラスの特徴や相関関係を理解しておくことです。例えば、株式はリスクが高い代わりにリターンが高く、債券はリスクが低い代わりにリターンが低いという特徴があります。
また、株式と債券は相関関係が低いとされているため、株式が上がるときは債券が下がることが多く、逆も同様です。投資の目標やリスク許容度に合わせて、適切に資産配分を行いましょう。
地域を分散する
地域を分散するとは、複数の地域や通貨を組み合わせて投資を行うことです。
一つの地域や通貨にすべての資金を投資すると、経済や政治の状況によって大きな損失を被る可能性があります。これに対し、複数の地域や通貨に分散して投資すると、一つの地域や通貨で損失が出ても、他の地域や通貨で利益を出せる可能性があるでしょう。地域を分散することにより、地域や通貨を取り巻く情勢の変動によるリスクを低減し、収益が安定します。
地域を分散するときのコツは、地域や通貨の特徴や相関関係を理解することです。例えば、日本や欧州などでは、経済が安定している代わりに成長が低いとされています。一方、中国やインドなどは、経済が成長している代わりに一気に不安定になる可能性が否定できません。
また、日本円や米ドルなどの主要通貨は、安全資産としての需要が高いですが、オーストラリアドルや南アフリカランドなどの資源国通貨は、資源価格の変動に影響を受けやすいという特徴があります。
地域や通貨の特徴や相関関係を考慮して、適切に資産を配分する必要があるでしょう。
時間を分散する
時間の分散とは、投資のタイミングを分散させて投資を行うことです。
同時にすべての資金を投資すると、その時点の市場の状況によって大きな損失を被る可能性があります。しかし、少しずつ分割して投資すると、市場の状況が変わっても平均的な価格で投資することが可能です。時間を分散することで、市場のタイミングによるリスクを低減することができます。
また、時間を分散して投資することで、市場の変動に一喜一憂せずに投資を継続できるため、心理的な負担も軽減できるでしょう。
時間を分散する方法の一つに、「ドル・コスト平均法」があります。ドル・コスト平均法とは、一定額を定期的に投資することで、市場の変動に左右されずにコストを平均化する手法です。例えば、毎月1万円ずつ同じ投資信託に投資することが挙げられます。
ドル・コスト平均法により、市場が上昇しているときには少ない単位を、下落しているときには多くの単位を購入することができるため、市場のタイミングによるリスクを低減し、長期にわたる安定的な投資が可能です。
長期分散投資に潜む3つのリスク
長期分散投資にはリスクを分散し複利効果が得られるメリットがありますが、投資である以上リスクもあります。
- 投資市場の不安定性
- 経済状況から受ける影響
- 類制リスクの増加
ここでは、これら3つのリスクについてそれぞれ解説します。
投資市場の不安定性
投資市場の不安定性とは、金利や物価の変動、自然災害などによって、投資信託の価格や収益が常に影響を受けることです。例えば、以下の点が挙げられます。
- 価格変動リスク
価格変動リスクとは、投資信託の価格が上下することによって損失を被る可能性があることです。例えば、投資信託の価格が100円だったときに購入し、その後90円に下がったときには10円の損失が発生します。価格変動リスクの要因は、市場の需給や景気の動向、金利の変動などです。
- 通貨変動リスク
通貨変動リスクとは、外国通貨建ての投資信託の価格や収益が、為替レートの変動によって影響を受けることです。例えば、米ドル建ての投資信託を購入した場合、その後円高に振れると円換算での価格や収益が減少します。通貨変動リスクの要因は、各国の経済や政治の状況、金利差などです。
投資市場の不安定性に対処するためにも、市場の動向を常にチェックし、適切に投資資産を分配することが大切です。
経済状況から受ける影響
長期にわたって投資していると、経済状況の変化により投資対象の価値が下がるリスクがあります。
投資対象企業の業績や市場の評価が下がることによって、投資信託の価値が低下する可能性があります。例えば、株式投資信託を購入したとしましょう。その後、投資対象の企業の業績が悪化したり市場の需要が下がったりすれば、投資信託の価値は下落します。こうした資産価値の低下リスクの要因は、経済の成長率や競争環境の変化、技術革新などです。
また、物価の上昇によって投資信託の実質的な価値や収益が減少する「インフレリスク」も想定しておかなければなりません。例えば、債券投資信託を購入した場合、その後インフレが発生すると債券の利回りが物価上昇率を下回ることがあり、そうすると投資信託の実質的な収益がマイナスになります。インフレリスクの発生要因は、貨幣の供給量や需要量、原油価格の変化などです。
こうしたリスクに対処するためには、投資対象の業績や市場の評価を常に分析し、インフレに強い投資信託を選ぶことが有効です。。
累積リスクの増加
年率リスクが投資期間とともに下がるのに対し、累積リスクは上がっていく可能性があります。
年率リスクとは、1年間で投資信託の価格が下がる確率のことです。年率リスクは投資期間が長くなるほど下がります。これは、長期間の投資では、市場の変動による影響が平均化されるからです。
例えば、ある株式投資信託の標準偏差を年率10%としましょう。1年間運用した場合の年率リスクは10%ですが、4年間運用した場合の年率リスクは「10%÷√4=5%」です。つまり、年率リスクは1/2に下がります。
これに対し、累積リスクとは、投資期間中に投資信託の価格が下がる確率のことです。累積リスクは、投資期間が長くなるほど上がります。長期間の投資では、市場の変動による影響が蓄積されていくからです。
先ほどの株式投資信託で考えてみると、投資期間1年間の累積リスクは10%ですが、4年間では「10%×√4=20%」です。
累積リスクの増加に対処するためには、投資期間に応じてリスクとリターンのバランスを見直すことや、定期的にリバランスを行うことが有効です。
投資信託で危険を回避しながら資産を増やすポイント
では、リスクを回避しながら投資信託で資産を増やしていくためには、どうすれば良いのでしょうか。ここでは、投資信託を成功に導くポイントについて解説します。
長期投資:アクティブファンド
アクティブファンドとは、プロの運用担当者が市場の動向や個別の銘柄の分析に基づいて積極的に投資先を選択する投資信託のことです。アクティブファンドのメリットは、運用者のスキルや判断力によって相場の平均以上のリターンを狙うことができる点にあります。
アクティブファンドで成功するためのポイントは、以下のとおりです。
- 運用者の実績や方針を確認する
アクティブファンドは、運用担当者の戦略によって投資対象やリスクレベルが大きく異なります。そのため、投資の目的やリスク許容度に合ったファンドを選ぶことが重要です。運用者の実績や方針は、目論見書や運用報告書などで確認できます。
- 長期投資が鉄則
アクティブファンドは短期的な市場の変動に左右されやすい傾向がありますが、長期的に見れば運用担当者のスキルや判断力が発揮される可能性が高まります。アクティブファンドに投資する場合は、少なくとも5年以上を目安に、長期間投資することが望ましいでしょう。
- 手数料や税金に注意が必要
アクティブファンドは、運用担当者の積極的な売買によって手数料や税金がかかることがあります。これらの費用が投資成果にマイナスの影響を与える可能性も否定できません。手数料や税金の負担を抑えるために、投資信託の種類を吟味し、非課税制度を利用するのがおすすめです。例えば、つみたてNISAでの運用などが挙げられます。
分散投資:インデックスファンド
インデックスファンドとは、特定の株価指数や債券指数などをベンチマークとして、その構成銘柄を同じ比率で保有する投資信託のことです。インデックスファンドのメリットは、市場の動きに連動するリターンを安定的に得ることができる点にあります。
インデックスファンドで成功するためのポイントは、以下のとおりです。
- 投資対象指数を理解する
インデックスファンドは、投資対象の指数の動きを忠実に追うことを目指します。そのため、指数を構成する銘柄や特徴を理解することが重要です。例えば、日経平均株価は日本の代表的な株価指数ですが、構成銘柄は225社に限られており、時価総額ではなく株価で重み付けされています。そのため、他の株価指数と比べて、特定の銘柄の影響を受けやすいです。
- 分散投資が鉄則
インデックスファンドは、一つの指数だけでなく複数の指数に連動するものもあります。例えば、グローバルインデックスファンドは、世界の主要な株式市場に連動する指数を組み合わせたものです。インデックスファンドを複数選ぶことで、分散投資を行うことができます。分散投資により、リスクを軽減しながらリターンの安定性を高めることができるでしょう。
- コストを抑える
インデックスファンドでは運用担当者が積極的に売買を行うわけではないため、手数料や税金を抑えることが可能です。そのため、投資成果にプラスの影響を与えるでしょう。インデックスファンドを選ぶ際には、信託報酬や販売手数料などのコストを比較し、できるだけ低いものを選ぶことが大切です。
分散投資の組み合わせ:ポートフォリオ
ポートフォリオとは、投資家が保有する資産の組み合わせのことです。ポートフォリオは、投資家の目的やリスク許容度に応じて株式、債券、不動産、金融商品などの資産を適切に配分することで、最適化できます。
ポートフォリオが分散投資において重要なのは、以下の理由からです。
- リスクとリターンのバランスが取れる
ポートフォリオは、リスクとリターンの関係を考慮して組み立てることが可能です。一般的に、リスクが高い資産ほどリターンも高く、リスクが低い資産ほどリターンも低いといわれています。ただし、それぞれの資産の値動きは必ずしも同じではありません。相関性の低い資産を組み合わせることで、リスクを軽減しつつリターンを高めることができます。
例えば、株式と債券の相関性は低いとされているため、株式と債券を適切な割合で組み合わせ、株式のリターンを維持しながら、債券の安定性を得ることが可能です。
- 目的や期間に応じて変更できる
投資の目的や期間に応じて、どのポートフォリオが最適なのかは変わります。例えば、老後資金を投資の目的とする場合、長期的な視点で投資することが望ましいでしょう。その場合、リターンも高いけれどリスクが高い株式よりも、リターンが低くてもリスクが低い債券の比率を高めるのが有効です。
ポートフォリオを組む際には、投資目的やリスク許容度を明確にしましょう。ポートフォリオの資産配分や変更のタイミングが変わってくるからです。
また、資産の特徴や相関関係を理解する必要もあります。リスクやリターン、価格変動の度合いなどをしっかり把握しておきましょう。
さらに、定期的にリバランスを行うことも大切です。リバランスとは、ポートフォリオの資産配分を元の目標に戻すことです。リバランスにより、ポートフォリオのリスクとリターンのバランスをコントロールできます。
例えば、株式と債券を50:50の割合でポートフォリオを組んだとしましょう。その後、株価が上昇し、債券価格が下落した場合、そのままではみすみす株価の上昇分の利益を逃し、価値が下落した債券を持ち続けることになります。そこで、株式を売り、債券を買って、元の50:50の割合に戻すのがリバランスです。
おわりに
投資信託で資産を運用する際には、長期分散投資が基本です。長期分散投資はメリットが多いですが、投資方法について理解を深め、発生するリスクについてもあらかじめ把握しておきましょう。資産をうまく分散して長期的視点から運用し、将来のライフプランに合わせて投資を行うことが大切です。どのように資産運用を始めたら良いか迷ったときは、プロに相談することをおすすめします。