投資に興味があるけれど、税金のことがよくわからないという方は多いのではないでしょうか。投資にはさまざまな口座がありますが、その中でもNISA口座と特定口座の併用は、税金の節約と運用の自由度のバランスがとれた方法として注目されています。この記事では、NISA口座と特定口座の併用のメリットと注意点、併用する際の判断基準などをわかりやすく解説します。
(本記事は2024年1月23日時点の情報です)
- NISA口座と特定口座の併用には、それぞれの違いをしっかり理解することが重要
- NISA口座と特定口座の違いを理解することで、それぞれの口座のメリットを最大限に活用することが可能
新NISAおよび特定口座の概要
2024年1月から、新しい制度のもとNISA(少額投資非課税制度)が始まっています。こちらの表は、NISAと特定口座の特徴を比較するためにまとめたものです。
項目 | NISA | 特定口座 | |
つみたて投資枠 | 成長投資枠 | ||
最大利用可能額 | 1,800万円まで(うち成長投資枠は1,200万円まで) | 制限なし | |
年間投資上限額 | 120万円 | 240万円 | 制限なし |
非課税保有期間 | 無期限 | 無期限 | 設定なし ※配当金・株式譲渡益には20.315%の税金がかかる |
投資対象 | 長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託 | 国内外および外国の上場株式・ETF・公募株式投信・REIT等(一部対象除外あり) | 上場日本株式(現物・信用)、上場ETF、上場REIT、株式投信、外国株式、公社債、公社債投信など ※証券会社によって異なるため要確認 |
これらの違いを踏まえ、どの口座が自分の投資スタイルに合っているのかを考えることが重要です。
NISAは非課税投資ができる
NISAでは投資対象商品が一定の条件を満たすものに限られていますが、配当金や譲渡益などの利益が得られた場合でも、一定金額の範囲内で購入していたのであれば、税金はかかりません。これに対して、特定口座ではより幅広い投資商品から選ぶことができますが、利益には税金(所得税・復興特別所得税・住民税の合計20.315%)がかかります。つまり、投資元本の金額が同じだったとしても、特定口座よりNISA口座を通じて取引をしたほうが、より効率的に資産を増やすことが可能です。
NISAは投資対象が限定されている
NISAのつみたて投資枠では、投資対象となる商品が以下の一定の条件を満たすものに限定されています。
- 信託期間が無期限もしくは20年以上である
- 販売手数料が無料
- 毎月分配を行わない
- 信託報酬が低率である
国が提供する税制優遇の対象となる商品であることが前提となるためです。そのため、特定口座やNISAの成長投資枠では取引ができても、NISAのつみたて投資枠では取引ができない商品もあります。たとえば、投資信託であっても債券やREIT(上場不動産投資信託)だけに投資するものはNISAのつみたて投資枠では対象外となるため、特定口座を通じて購入せざるを得ません。また、信用取引(証券会社から売買に必要な現金や株式を借りて行う取引のこと)はNISAでは対象外となるため、特定口座を通じて行うしかなくなります。
そこで、つみたて投資枠の対象とならない投資商品はまずNISAの非課税投資枠を使って購入し、この枠を使い切ったあとや、成長投資枠でのみ対象となる商品は成長投資枠の非課税投資枠を使って購入しましょう。成長投資枠の非課税投資枠を使い切ったあとや、そもそもNISAでは対象とならない投資商品を買いたいという場合は投資商品を特定口座を通じて購入するという使い分けをすることで、税制優遇のメリットを享受しつつ、投資の選択肢を広げることが可能になります。
損失が出たときにメリットがあるのは特定口座
投資において特に重要なことは、損失発生時の対応策です。特定口座では、損益通算や繰越控除が可能であるため、これにより税金面でのメリットがあります。例えば、特定口座で生じた損失は、他の所得と通算することができ、また、損失があった場合には最大3年間繰り越して控除することが可能です。
一方、NISAでは損益通算や繰越控除の適用は受けられません。これらの口座が非課税の恩恵を受けるための制約であるためです。NISAでの投資は非課税のメリットが大きいですが、リスク管理の面では特定口座の利用が欠かせません。投資戦略を立てる際には、これらの特性を理解し、うまく組み合わせることが重要です。
NISAと特定口座の併用でメリットがあるのは
投資経験があり、さらに投資の選択肢を広げたい方におすすめの方法が、NISAと特定口座の併用です。NISAで非課税の恩恵を享受しつつ、特定口座を併用することで、より幅広い投資対象にアクセスすることができます。これにより、投資戦略の多様化とリスク分散が可能になります。
余裕資金がNISAの投資可能枠を超えるとき
NISAには、年間の投資枠が設定されています。この枠を超えて投資したい、または可能な余裕資金がある場合、特定口座と併用しましょう。一方で、投資初心者や余裕資金が少ない方の場合、まずはNISA口座をフル活用するのをおすすめいたします。ある程度投資にも慣れてきたり、余裕資金が増えてきたりした段階で特定口座の併用を検討すれば構いません。
NISAと特定口座の併用例
NISAと特定口座を併用することで、どのような投資戦略が可能になるのでしょうか。
ここでは、実際の併用例を通じて、それぞれのメリットを具体的に見ていきます。
例1:同じ銘柄に投資する
NISAと特定口座を併用して同一銘柄に投資する場合、余裕資金を有効活用し、期待リターンを最大化することが可能です。
特に、NISAで非課税枠を活用しつつ、追加の資金を特定口座で投資することで全体の利益を増やせるので、積極的な投資を行いたい方にとって特に有効な戦略として活用できそうです。
例2:異なる銘柄に投資する
NISAの対象外銘柄やリスクの高い銘柄に投資したい場合、特定口座を活用することで、投資の選択肢を広げることができます。この方法を使えばNISAで安定した投資を行いつつ、特定口座で高リスク・高リターンの投資を行うことが可能になるので、投資リスクを分散しつつ潜在的なリターンを追求することが可能です。
NISAと特定口座を併用するときに注意すること
NISAと特定口座を併用する際に注意するポイントとして、次があります。
- 特定口座からNISA口座へ銘柄を移管できない
- 特定口座とNISA口座とでは損益通算できない
これらを理解し適切に対応することで、投資の効果を最大化することができます。
以下では、これらの注意点を詳しく解説します。
特定口座からNISA口座へ銘柄を移管できない
特定口座で運用している銘柄を、NISA口座へ移管することはできません。仮にNISA口座で同じ銘柄を保有したい場合、新たにその銘柄を購入する必要があります。
これは、NISAの非課税のメリットを享受するためには、新たに購入する必要があるという立場に立っているためです。一方、NISA口座から特定口座への移管はできるので、この点も踏まえて資産運用計画を立てる際には、特定口座とNISA口座のどちらでどの銘柄を保有するかを慎重に検討しましょう。
特定口座とNISA口座とでは損益通算できない
特定口座とNISA口座間では損益通算ができません。
これは税制上の扱いによるもので、各口座で発生した損益は独立して計算されるため、特定口座での損失をNISA口座の利益で相殺するのも不可能です。そのため、投資のリスク管理を行う際には、各口座の損益を個別に考慮する必要があります。
NISAと特定口座を併用するときの判断基準
NISAと特定口座は、それぞれに長所と短所があります。どのようにしてこれらの口座を併用すれば、自分の投資目的や期間、商品の種類、税金の負担などに合わせた最適な運用ができるのでしょうか。
ここでは、NISAと特定口座を併用するときの判断基準として、次の5つについて解説します。
- どのくらいの頻度で売買するか
- NISA口座で投資できる対象になっているか
- 非課税投資枠内におさまるか
- 株主優待を受けられるか
- 配当金は重視するか
どのくらいの頻度で売買するか
2023年までのNISAでは、つみたてNISAおよび一般NISAのいずれにおいても、非課税投資枠が売却しても元に戻らなかったため、頻繁に売買を行いたい投資家にとっては制約になっていました。しかし、2024年1月1日以降は、売却した分の非課税保有限度額が翌年以降再利用可能になります。ただし、同一年内の再利用は認められていません。
このため、同一年度での売買の頻度が高い、投資金額が大きい場合は特定口座の利用が適しています。特定口座では、売買の頻度や金額に関する制限がないため、より柔軟な投資が可能になるためです。ただし、売却時の利益に対して税金がかかる点には注意しなくてはいけません。
どちらも一長一短の部分があるため、NISA口座と特定口座を併用する際には、これらの点を考慮し、自分の投資スタイルや目的に合わせて選択することが重要です。長期的な資産形成を目指す場合はNISA口座を中心に、短期的な利益を目指す場合は特定口座を活用することで、最適な資産運用戦略を立てることができます。
NISA口座で投資できる対象になっているか
NISA口座は特定口座に比べると、投資対象とできる商品は限られている点に注意しなくてはいけません。NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの枠がありますが、それぞれに投資対象商品が決められています。
つみたて投資枠 | 長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託 |
成長投資枠 | 国内外および外国の上場株式・ETF・公募株式投信・REIT等(一部対象除外あり) |
つみたて投資枠に比べ、成長投資枠では幅広い商品を購入できますが、それでも以下の商品は購入できないため、どうしても購入したいなら特定口座を使わざるを得ません。
- 整理銘柄や監理銘柄
- 信託期間20年未満の投資信託等
- 毎月分配型の投資信託等
- デリバティブ取引を用いた一定の投資信託等
これらは長期保有に向いていない、値動きが激しくなるなどの理由から、長期保有による安定した資産形成を目指すNISAの趣旨には合わない部分があるため、対象外となっています。自分の投資目的やリスク許容度に合わせて、NISAもしくは特定口座で何に投資するかを選ぶのが重要です。
非課税投資枠内におさまるか
NISAと特定口座を併用する際は、投資額が非課税限度枠に収まるかどうかも考えてみましょう。NISAには120万円(つみたて投資枠)、成長投資枠(240万円)という年間非課税投資枠があり、これを超えると税金がかかる仕組みです。
一方、特定口座には非課税投資枠がなく、売却時や配当金・分配金の受取時に税金がかかります。投資したい対象の価格が高い場合、1単元の金額が大きくなり、それだけで非課税投資枠を超えてしまう場合があります。そのような場合は、特定口座を利用すると良いでしょう。
特定口座では、売却時に税金がかかりますが、その分、投資対象商品や積み立て額を自由に選べるので、非課税投資枠内におさまるかどうかに応じて、NISAと特定口座の割合を調整するのをおすすめいたします。
株主優待を受けられるか
NISAのメリットとして非課税で投資ができることがあげられますが、株主優待を受けたい場合はやや不利に働く点に注意しなくてはいけません。株主優待を受けるためには、一定数の株を保有する必要があり、これにより非課税枠を超えてしまうことがあるため、特定口座を使うほうが便利な場合もあります。
例えば、ある企業の株主優待を受けるためには100株の保有が必要だったとしても、その企業の株価が高ければ100株購入するだけでつみたてNISAの非課税枠を超えてしまう可能性があります。たとえば、1株の金額が2万4,000円だった場合、100株購入すれば240万円に達してしまい、年間の非課税投資枠を使い切ってしまうでしょう。このような状況では、つみたてNISAで基本的な投資を行い、株主優待を狙う分の株の購入は特定口座で行うという戦略が有効です。
特定口座では、利益に対して税金が課されますが、株主優待のメリットを享受するためには避けられない選択と言えます。株主優待の内容やその価値を考慮し、NISAの非課税枠と特定口座の利用をバランスよく組み合わせることが、賢い投資戦略の鍵となります。
配当金は重視するか
配当金とは、企業が株主に対して支払う利益の一部で、配当金は非課税の収入として扱われます。NISAでも配当金は受けられますが、銘柄によっては一定の株数を保有していないと配当金は受け取れないため注意が必要です。配当金を受け取れるだけの数量の株を購入するだけで非課税投資枠を超えてしまうことがあるため、そのような場合は、特定口座を使用すると良いでしょう。加えて、特定の高配当株や配当利回りの高い投資信託に投資することで、積立NISAでは得られない収益を得ることが可能です。
NISAと特定口座の違いを理解して併用しよう
NISA口座と特定口座を併用することは、賢い資産運用のための有効な手段です。しかし、それぞれの口座のメリットとデメリットを正しく理解し、自分の投資戦略に合わせて利用することが重要です。
NISAの最大のメリットは、配当・分配金や売却益に対する税金が一定の範囲内で非課税になることで、長期的な資産形成を効率的に行うことができます。しかし、年間の投資額に上限があり、投資できる商品も限定されている点には注意しなくてはいけません。
一方、特定口座は投資の選択肢が広く、より柔軟な運用が可能ですが、配当・分配金や売却益に対し税金がかかるという点でNISAとは大きく異なります。
このように、NISAと特定口座はそれぞれに特徴があるため、上手に使い分けましょう。たとえば、NISAで非課税の恩恵を受けつつ、特定口座を利用して投資の幅を広げることで、より柔軟で効果的な資産運用が可能になります。
おわりに
NISA口座と特定口座の効果的な併用には、それぞれの違いをしっかりと理解することが重要です。本記事では、NISA口座、特定口座の基本的な違いから、それぞれの口座を併用する際のメリットや注意すべき点について解説しました。
NISA口座と特定口座の違いを理解することで、それぞれの口座のメリットを最大限に活用することができるでしょう。
自分の投資目標とライフスタイルに合った最適な運用方法を見つけ、賢い投資を実践しましょう。