前回の記事では、おひとりさまのお住まいの問題に焦点を当て、相続・生前対策コンサルティングの専門家が住居に関する現状と課題、問題点と対策について解説しました。
今回の記事では、おひとりさまが亡くなられた後に残る財産について、誰が受け取ることになるのか、どのような問題が発生するのかを解説します。その上で、「財産の終活」ともいえる遺言書の作成について、おひとりさまサポートサービスの専門家が提案します。(全5回の連載の第4回です。)
第1回の記事はこちら
「財産の終活」遺言書作成の重要性
前回までの記事では、終活という言葉をキーワードに、「自分の人生の終わりに備えた準備をする活動」を具体的に紐解いてきました。第1回の記事では、終活とは大まかに、下記の4つの準備に分けることができるとお伝えしました。⇒第1回の記事はこちら
- ①医療やケア、老後の過ごし方を考えること
- ②お住まいや身の回りの物を整理すること
- ③お葬式、お墓の準備をすること
- ④財産の整理や相続の準備をすること
第2回の記事は、③を始めとした死後の事務手続きについて。⇒第2回の記事はこちら
第3回の記事は、①と②のお住まいと老後の過ごし方について。⇒第3回の記事はこちら
それぞれ執筆していますので、ぜひあわせてお読みください。
今回第4回の記事では、④の財産の整理や相続の準備について、「財産の終活」として、遺言書を作成しておくことの重要性について解説します。
遺産とは?相続とは何か?
現代は財産の形も多様化しています。この記事をお読みの皆さまもさまざまな形で資産を形成されているかと思いますが、特に多くの方が保有されているのは以下の資産です。
- 不動産
- 預貯金
- 有価証券
- 自動車
いわゆる「遺産」になるのも上記であることが多く、親御さんから上記の資産を相続した方も数多くいらっしゃることでしょう。私も専門家として数多くの相続手続きをお手伝いさせていただきましたが、相続を経験された方は皆さま、手続きは簡単ではなく大変だった、時間がかかった、とおっしゃいます。
遺産を相続するためには、亡くなられた方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を、まず相続人が集めなければなりません。遺言書がない場合、相続人になる人全員が合意をしていなければ、不動産や有価証券の名義を特定の相続人に変更したり、金融資産を解約したりすることができないため、亡くなられた方の相続人が誰であるのかを証明する必要があります。
戸籍謄本が集まったら、次に亡くなられた方の財産を調査した上で、相続人全員で遺産をどう分けるかの協議(遺産分割協議)をすることになります。誰がどの財産を相続するかを決め、これを遺産分割協議書という書面にまとめ、遺産分割協議書を用いて各所で相続手続きを取ります。相続人全員で合意したとおりに不動産や有価証券、自動車は名義を変更し、預貯金は解約して分け合う、というような形で、遺産は相続されます。
遺言書があれば、誰がどの財産を相続するかは生前に指定されているため、遺産分割協議も不要ですし、各所での相続手続きも遺言書を用いて行うことができます。このため、本人にとっては亡くなった後のことではありますが、相続人にとっては、遺言書があると手続きが非常に楽になります。
また、相続人は、亡くなられた方の財産だけでなく、債務も承継することになります。
アパートローンやカードローンなどのほか、葬儀費用や未払いの入院費、税金なども、相続人に支払義務があります。亡くなられた方には財産より債務が多いと分かっている場合などであれば、財産も相続できなくなることを承知の上で、故人の死亡日または死亡を知った日から3か月以内に相続放棄をすることで、債務の返済や支払の義務から解放されることができます。しかし、資産状況を近しくない親族に教えている方は多くはないでしょうし、普段の生活を知らない間柄の相続人が、亡くなったことを知って3か月以内で資産状況を調査するのは困難です。
「相続手続きが大変」という話をセミナーなどでさせていただくと、非常に大きなご資産のある方か、家族関係が複雑であったり不仲であったりする方に限ったことで、自分には関係がないと思われる方も多いのですが、決してそうではないのが実情です。
特に、おひとりさまの場合は資産額に関わらず、相続人がいない、または、相続人が続柄・関係性・居住地などあらゆる意味で「遠い」人であることが多いため、事前に準備が必要なのです。
相続人になるのは誰なのか?
相続で争いが起こるとはよく聞くけれど、私は両親が亡くなった後は天涯孤独で、取り合いになるような財産もないので大丈夫です、とおっしゃるおひとりさまは少なくありません。
しかし、「相続人が存在しない」という意味で「天涯孤独」であるという方は、私どものような数多くのおひとりさまのお客様を見ている専門家であっても、意外にも大多数を占めるわけではありません。よくよく家族構成をお伺いすると、「相続人」は誰かしらいらっしゃる方がほとんどです。
さて、「相続人」とは、どこまでの親族が対象になるのでしょうか。
まず、亡くなられた方に配偶者と子ども2人がいる場合。
これはご存じの方が多いと思いますが、この場合に相続人になるのは配偶者と子ども2人です。もし、現在の配偶者とは別の方との間に子どもがいる場合は、そちらの子どもも相続人になります。
次に、亡くなられた方に子どもがおらず、親が存命の場合。
この場合は、配偶者がいれば配偶者と、両親も相続人になります。
最後に、亡くなられた方に子どもがおらず、両親が亡くなっていて、兄弟姉妹がいる場合。
この場合は、配偶者がいれば配偶者と、兄弟姉妹も相続人になります。ちなみに、兄弟姉妹が亡くなっていて、その方に子どもがいる場合は、亡くなった兄弟姉妹の代わりにその子ども(甥姪)が相続人になります。
「子どもがおらず、親が亡くなっていて、兄弟姉妹がいる場合、配偶者とともに兄弟姉妹も相続人になること」は、最近でこそ終活や相続への意識の高まりにより、知る人も増えてきましたが、まだ知らない人も少なくありません。
兄弟姉妹やその子どもがいる場合は、少なくとも遺産の相続においては「おひとりさま」ではない、ということを念頭に、「財産の終活」は行う必要があります。
「おひとりさま」の違い
1)相続人が誰もいない場合
「おひとりさま」として思い浮かべられることの多い家族関係として、このようなケースは比較的想定がしやすいと思います。
両親亡き後は兄弟姉妹がいないため相続人が誰もいなくなる、という状況です。
このような方の場合は、
- 財産を受け取る人がいない
- 死後の不動産の処分(空き家問題)や退去ができない
- 未払いの公租公課や医療費等の支払いができない
などの問題が想定されるため、
- お世話になっている人や団体に財産を遺す
- 死後の手続きを任せる親族がいる場合は、その方に財産を遺す
遺言書を作成する必要があります。もちろん、遺言で財産を遺すつもりでも、生前や死後のことを任せられる人はいない、という場合には、生前の身元保証や後見、死後の事務手続きを行う専門家にサポートを依頼することも選択肢のひとつになるでしょう。
2)相続人がいる場合
「おひとりさま」でも、実際には相続人が数多くいらっしゃることもあります。例えば、下記のようなケースです。
兄弟姉妹がいる場合、そして亡くなっている兄弟姉妹の子ども(甥・姪)がいる場合は、これほど多くの方が相続人に該当します。
このような方の場合は、
- 「相続でモメる」可能性がある
- 関係・距離が遠く相続人同士も連絡が取れないなどの理由で、相続手続きが困難
- 未払いの税金や葬儀代等の「マイナスの財産」がある場合、相続人に請求がなされる
などの、相続人がいない方とはまた違った問題があります。
やはり相続人がいない方と同じように、遺言を作成する必要性が高くなります。
相続人が複数名いる場合、親交のある相続人に財産を遺したくても、遺言書がないと、相続人全員で合意をしなければ相続ができないため、相続人の中に連絡の取れない方や協議のできない方がいると、相続手続き自体が非常に困難になる可能性があります。
また、親族との関係が良くても、生前の身元保証や死後の手続きは緊急性を伴うことが多いため、やはり負担を鑑みて、専門家に依頼される方も数多くいらっしゃいます。
遺言を作成する方法
遺言の作成は、今すぐご自身で行うことも可能です。
◆自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、自身で本文、日付、署名を自筆し、印鑑を押印した遺言書です。
取り急ぎ遺言を書いてみたい、という方は、上記の自筆証書遺言であれば、無料でいつでも作ることができるので、まずはやってみても良いと思います。
ただ、自筆証書遺言には、下記のようなデメリットもあります。
- 見つけてもらえなかったり、改ざんされたりする可能性がある
- 死後、遺言を使う前に家庭裁判所で「検認」手続きが必要→大変
- 不備があると使用できない
特に、おひとりさまの場合、「見つけてもらえないかもしれない」可能性は、家族がいる場合よりも高くなります。また、「誰が遺言どおりに手続きをしてくれるのか」という点でも、一人で書いた自筆証書遺言では、心もとないところがあります。
このため、専門家が作成に携わる場合に用いることが多いのが、下記の遺言方法です。
◆公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場(※1)で公証人が本人であること、遺言をする意思を確認し、証人が2名立ち会った上で、署名、押印をする遺言書です。
遺言書を一人で作成し、そのまま自宅などに保管する自筆証書遺言とは異なり、認証された原本が公証役場に保管されるため、遺言が紛失せず、改ざんされないというメリットもあります。また、自筆証書遺言の場合は検認(※2)という家庭裁判所での手続きが必要ですが、これも公正証書の場合は不要です。
公正証書を作成した上で、遺言のとおりに相続手続きをする者である「遺言執行者」を専門家に任せる形であれば、相続人がいない場合にも、相続人がいて負担を軽減したい場合にも、万全の備えをしておくことができます。
おわりに
「おひとりさま」として日常は一人で生活しているにもかかわらず、相続人がいるという意味で本当の意味で一人ではないという方は、時にそのことが歯がゆく感じられるかもしれません。
しかし、言い換えれば、親交のある親族の方がいれば、その方に財産は承継してもらいながら、負担のかかる生前の身元保証や死後の事務手続きは専門家に任せ、親族とよい関係を保ったまま、専門家との連携を支えてもらうようなことも可能です。その意味では、遺言書の作成は非常に有効で重要な対策になり得ます。ぜひ、専門家へご相談ください。
※1 公証役場…遺言や任意後見契約などの公正証書の作成,私文書や会社等の定款の認証,確定日付の付与など,公証業務を行う公的機関(法務省・法務局所管)
※2 検認…相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
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