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おひとりさまが認知症になったときに起こることとは?専門家が詳しく解説します!

おひとりさまが認知症になったときに起こることとは?専門家が詳しく解説します!
脇 美沙稀(キャストグローバルグループ 行政書士)

執筆者

キャストグローバルグループ 行政書士

脇 美沙稀

入社以来、相続及び生前対策を専門とし、さまざまな相続手続きや遺言書の作成に携わる。近年はおひとりさまの生前対策に力をいれており、任意後見契約、死後事務委任契約を含めた総合的な備えを提案している。また、認知症対策セミナー、生前対策セミナーを金融機関、事前団体、Webなどさまざまな場所で開催している。

前回の記事では、おひとりさまが亡くなられた後に残る財産について、誰が受け取ることになるのか、どのような問題が発生するのかについて解説しました。

今回の記事では、おひとりさまが認知症になったときにどのようなことが起こるのか、困るのかについて解説します。その上で、認知症の方に必要な支援のひとつである、成年後見制度の利用と任意後見契約について、おひとりさまサポートサービスの専門家が提案します。(全5回の連載の最終回です。)

第1回の記事はこちら

高齢者を取り巻く状況と認知症の現状

高齢者を取り巻く状況と認知症の現状

日本は世界一の長寿国と言われています。厚生労働省「令和4年簡易生命表」 によると、日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳であり、人生100年時代という言葉は決して大げさではなく、真実味を帯びたものになりつつあります。

一方で、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間と定義される健康寿命は、各調査において、平均寿命より10年以上短いとされています。

「おひとりさま」ではない方も含め、家族や親族と別居してひとり暮らしをしている高齢者は年々増加しています。厚生労働省「令和4年版高齢社会白書」によると、ひとり暮らし高齢者の割合は、1980年の男性4.3%、女性11.2%から、2020年には男性15%、女性22.1%まで増加しています。また今後の推計値からこのまま進めば、2040年には男性20.8%、女性24.5%(約4人に1人)が一人暮らしをしている可能性があるとされています。

高齢者人口に占める一人暮らし高齢者の割合

私が相談をお受けする中でも、ひとり暮らしの高齢の方の「病気やケガによって健康を損なうことを避けたい」「元気なまま最期の時を迎えたい」という願いは非常に切実なものであると感じます。

2021年の太陽生命保険株式会社の認知症の予防に関する意識調査によると、最もなりたくない病気は認知症であると回答する人は全体の46.2%もおり、認知症について非常に強い不安を抱いている方が多いことがわかります。

実際、平成29年度高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が高齢者人口の15%という割合(約460万人)だったものが、2025年には高齢者の5人に1人、20%の割合で認知症になるという推計があります。

長寿大国である日本では、他の病気やケガと同じように、認知症は誰もがなる可能性のある病気です。今後も平均寿命が延びることが予想される中、判断能力が失われた際にも安心して暮らせるよう、他人事ではなくご自身の問題として向き合っていく必要があります。

認知症患者の推定者数と高齢者に占める割合(有病率)

もしかして認知症?から支援につながるまでの流れ

もしかして認知症?から支援につながるまでの流れ

認知症とは、さまざまな脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態とされています。

「物忘れ」と「認知症」は混同されがちなのですが、異なるものとされています。忘れていたことを誰かに言われて思い出せるのが物忘れ、言われても思い出せないのが「認知症」とも言われます。また、約束の日にちを忘れて、約束したことは覚えているなど物事の一部を忘れるのが物忘れ、約束したこと自体を忘れているなど物事の全てを忘れてしまうのが「認知症」という見解もあります。ただ、いずれにしても、もしかして認知症かもしれないと早期に気がつくきっかけになるので、近くにいる人が見守っていくことが大切とされます。

認知症を発症すると、日常生活において下記のような支障が出てきます。

  1. 生活費などの管理が困難になる、詐欺被害にあう
  2. 火の始末や掃除・ごみ捨てができなくなる
  3. 悪徳商法に騙される、同じものを大量に購入してしまう
  4. 物やお金を盗られたと思い込む
  5. 約束や病院の予約、薬を飲むことを忘れる
  6. 道が分からなくなり、自宅に帰れなくなる・保護される

大きく分けると、「財産を管理すること」「日常生活を円滑に送ること」が難しくなります。

ご自身で資金の管理ができなくなると、公共料金の支払いができずに滞納してしまったり、銀行で何度もお金を下ろそうとしたり、通帳やカードをなくしてしまったりして、生活にも多大な影響があります。

火の不始末や掃除・ごみ捨てができなくなったり、約束の失念や物盗られ妄想によって友人や支援者との関係が悪化したりすると、さらに生活の質を下げてしまいがちです。通院日や薬の飲み忘れが体調を悪化させることもあります。

ひとり暮らしの高齢者が支援につながるきっかけは、まずは、「もしかして認知症かも?」と周囲の人に気がついてもらうことです。

家族、友人、近所に住む人、病院で、銀行で、など、関わる人が多いほど、気がついてもらいやすくなります。仕事を退職された方、配偶者を亡くされた方などは特に、自宅にこもりがちにならないよう、近所付き合いや趣味を続けることをおすすめします。

そして次に、近い親族がいらっしゃらないおひとりさまの場合は、もしかして認知症かも?という気づきから、病院の受診と行政等への支援要請につなげてくれる人が必要です。友人や近所に住む人の場合、もしかして認知症かもしれないと気がつくことはできても、その先の支援に関わることは難しいものです。これは、おひとりさまならではの困難といえるでしょう。

認知症を発症した方の支援には、「成年後見制度」が用いられます。

成年後見は、判断能力が不十分な人の生活を助け、法的な保護と権利の擁護を図るために、家庭裁判所から選任される人です。

成年後見制度には、

1)判断能力が低下した後に親族や市区町村長の申立によって選任される「法定後見」
2)あらかじめ契約により、判断能力が低下した後に備えて後見人及び後見人の業務内容を決めておく「任意後見」

の2種類があります。成年後見人は本人の財産管理・身上監護の状況について、裁判所に定期的に報告をします。また、成年後見人は一度選任されると、本人が回復するまで制度利用をやめることができません。本人を守るためには安心できる仕組みですが、家族や親族が自身の裁量で金銭管理をしていた場合と比べると、融通が利かない点もあります。

後見人の業務は主に2つに分けられます。

  • 財産管理…生活費・介護関係費・医療費等の支払、通帳や印鑑の管理
  • 身上監護…介護・福祉サービス、施設・病院等の住居などの契約

まさに、認知症によって日常生活に支障の出る、「財産を管理すること」「日常生活を円滑に送ること」を支えるための存在ですが、具体的な生活支援である、身体の介助や掃除、食事の用意、買い物の代行は、後見人自らが行うのではなく、身上監護の一環で後見人が手配する形で本人を支援します。自宅の生活ができなくなったことをきっかけに後見人が選任された場合は、施設への入居を進めることで本人の生活支援を確保することも多いです。

おひとりさまと「法定後見制度」

判断能力が低下したに、成年後見制度の利用を始める場合、本人が認知症と診断された診断書を添付し、裁判所に成年後見人の選任の申立てを行う必要があります。申立てを受け、裁判所が本人の状況を鑑みて、法定後見人を選任します。つまり、申立てをする人がいないと、後見人が選任されることもありません。

法定後見制度

申立人になれる人は親族であれば、配偶者・四親等内の方です。

日常的に行き来のある親族がいる場合は、後見人という形でもそうでない形でも、支援の要請はしやすいのです。親族がいない場合は、市区町村長が申立てを行う形で後見人の選任がなされます。市区町村長が申立人になるまでには、病院の受診から、診断後に地域包括支援センターや社会福祉協議会などの支援につなげてくれる人が必要になるため、親族でない人にはハードルが高いものになっています。日常生活に著しい困難が生じ、近所の人を困らせ、行政が介入するような状況になって初めて行政に繋がるケースも多く、早期に支援に繋がれていたらと思うことも少なくありません。

家族や親族がいれば、「病院の受診、行政への支援要請につなげてくれる人」になることが多いのですが、近年ではいわゆる「おひとりさま」でなくても、家族や親族も遠方に住んでおり、ひとり暮らしが長い高齢者の方は、おひとりさまと同じように、支援が必要な状況に気がついてもらいにくいケースが増えています。

家族のあり方の多様化もあって、おひとりさまサポートサービスに加入する方は、家族構成を問わずに増えています。

おひとりさまと「任意後見制度」

おひとりさまと「任意後見制度」

おひとりさまの場合は特に、認知症になってから支援を要請したり、生前や死後の色々な対策をしたりすることは困難です。おひとりさまサポートサービスは本人が契約するものですから、判断能力が低下すると契約をすることができなくなってしまいます。こうなると支援につながることを待つことしかできなくなってしまいます。

これを防ぐために、判断能力が低下するの対策として、後見人になってもらいたい人と、事前に任意後見契約を締結するという方法もあります。

任意後見契約は、将来的に判断能力が衰えてしまったときに備えて、あらかじめ後見人になってもらう人と、自分の財産や生活についての希望を反映した上で、してもらうことを決めて締結するものです。事前に意向を伝えておくことができるので、おひとりさまサポートサービスでは、判断能力低下後に後見人を選任しようとするのではなく、任意後見契約を締結しておき、予め後見人を同社や関連法人・専門家に定めておくことが多いです。

おわりに

おひとりさまに限らず、ひとり暮らしを前向きに楽しむ高齢者の方にとって、元気な間は自由に楽しみ、困ったときには支援を受けられるようにしておくと、今後の生活の質を大きく上げることができると思います。任意後見契約のほか、おひとりさまサポートサービスの活用が一助になればという思いで、私は日々の相談をお受けしています。ご興味を持たれた方は、司法書士、行政書士などの専門家にぜひ相談をしてみてください。

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