2024年7月3日より新しい紙幣の流通が始まりました。デザインの変更は実に20年ぶりとのことです。キャッシュレス決済が普及してきたとは言え、まだまだ日々の暮らしにおいて欠かせないのが「紙幣」です。
新しい紙幣で描かれるのは、いったいどのような人物なのでしょうか。その経歴や功績とともに、新紙幣の技術についても紹介します。すでに手にした方も、まだ手にしていない方も、新しい紙幣に込められた技術と想いを知ることで、これからの日本のさらなる発展を希望とともに感じることができるでしょう。
- 20年ぶりに刷新される新紙幣は、2024年7月3日以降、順次流通しています。
- 新しい紙幣の発行は、偽造対策の強化とユニバーサルデザインの向上を目的としています。
- 新一万円札の新しい顔は、近代日本経済の父といわれる渋沢栄一、五千円札は女性の地位向上と女子教育に尽力した津田梅子、千円札は近代日本医学の父といわれる北里柴三郎。
- 新紙幣には、日本の最先端技術が採用され、さまざまな工夫がされています。
新紙幣の発行は2024年7月3日から
約20年ぶりに新紙幣が発行されます。新たなデザインに変更されるのは、一万円札・五千円札・千円札の3つの券種で2024年7月3日より流通が始まりました。すでに手にした方も多いかもしれません。
新しいお札の肖像は、一万円札がこれまでの福沢諭吉から渋沢栄一、五千円札が樋口一葉から津田梅子、千円札が野口英世から北里柴三郎へと変更されます。
キャッシュレス化が進むなか、なぜ今、新紙幣なのかと疑問に思われるかもしれませんが、新紙幣の発行には理由があります。変更の理由、また変更箇所については、以下のとおりです。
新しい紙幣が発行される理由
紙幣のデザインが変更される理由として、偽造対策の強化とユニバーサルデザインの向上があげられます。
日本ではこれまで53種類ものお札が発行されてきましたが、いずれの時代も、紙幣にはその時の最先端技術が取り入れられています。今回の新紙幣発行にあたっては、偽造紙幣が作られることを防ぐため、これまでにない新しい技術がちりばめられています。
また、触って確認できる券種ごとの識別マークの配置、漢数字ではなくアラビア数字での表記など、誰もが判別しやすいよう工夫されています。
新紙幣の変更箇所
新しい紙幣となる一万円札、五千円札、千円札は、それぞれ表面に描かれる人物の変更とともに、裏面のデザインが変わります。
高精細すき入れや3Dホログラムはこれまでの紙幣でも採用されていましたが、より最先端技術が施されています。また、識別マークの形状や配置を券種ごとに変えることで、感触で識別できるよう配慮されています。
新紙幣に描かれる人物は誰?功績を紹介
これまで40年間にわたり一万円札の顔として親しまれてきた福沢諭吉は、明治時代の日本の改革を推進し、平等思想を広めることで意識改革、そして学問の重要性を教え広めた人です。福沢諭吉に代わり新しい顔となるのは、どのような人物なのでしょうか。
新一万円札に描かれる渋沢栄一とともに、五千円札の津田梅子、千円札の北里柴三郎について紹介しましょう。
新一万円札:渋沢栄一
新一万円札の新しい顔は、日本の実業家であり、近代日本経済の父といわれる渋沢栄一です。
明治時代に数多くの企業や銀行を設立。日本の経済が飛躍し、多くの人々が繁栄する社会を築くための基盤を築きました。企業経営においては、利益追求だけでなく、社会的な責任や倫理観をもって経済活動を行うことが大切という考えを持っていました。この考え方は、企業のCSR(企業の社会的責任)の先駆けと言えます。
渋沢栄一を選んだ理由として、財務省は「傑出した業績を残すとともに、新たな産業の育成といった面から日本の近代化をリードし、大きく貢献した」ことをあげています。
新五千円札:津田梅子
新五千円札の新しい顔は、日本初の女性留学生のひとりであり、教育改革者として知られる津田梅子です。
明治時代、6歳でアメリカに渡り、先進的な教育を受けました。帰国後は、日本における女性教育の重要性を訴え、1900年に「女子英学塾」(現津田塾大学)を設立しました。日本の女性が高等教育を受ける機会が得られるようになり、社会進出が進んだことは、その努力と働きかけによるものと言えます。
新千円札:北里柴三郎
新千円札の新しい顔は、医学者であり、細菌学の先駆者として知られる北里柴三郎です。
ドイツでロベルト・コッホの下で学び、世界で初めて破傷風菌の純粋培養に成功しました。帰国後は、1892年に北里研究所(現北里大学)を創設し、感染症の研究を推進。日本の公衆衛生の改善と人々の健康増進に大きく貢献しました。
新紙幣のデザインを紹介
新しい紙幣は、どのようなデザインになるのでしょうか。ここでは、構成されるデザインとともに、偽造防止およびユニバーサルデザインに対する工夫などを紹介しましょう。
新一万円札のデザイン
表面は、渋沢栄一の肖像を右側に配し、中央にはお札を光にかざすと肖像が浮かび上がる高精細すき入れが施されています。アラビア数字の「10000」の左には、ストライプタイプホログラムと呼ばれる帯状の3Dホログラムがあり、左右に傾けると肖像が回転して見えます。肖像以外の図柄も見る角度によって変化します。
裏面は、渋沢栄一が創設に関わったとされる第一国立銀行の建物を背景に、「赤レンガ駅舎」として親しまれる東京駅丸の内駅舎のイラストが描かれています。
新五千円札のデザイン
表面は、津田梅子の肖像、中央に「5000」の額面が印字され、その左側には帯状の3Dホログラムがあります。五千円札は、左側に透かしを配置することで一万円札や千円札と識別しやすくなっています。
裏面には、古事記や万葉集にも登場し、古くから親しまれている藤が描かれています。
新千円札のデザイン
表面は、北里柴三郎の肖像、中央には、肖像が浮かび上がる透かし、その左に「1000」の額面が印字されています。左下には、これまでなかった3Dホログラムが新たに採用されました。傾けると肖像が左右に回転して見えます。
裏面には、江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の代表作で知名度も高く、世界の芸術家に影響を与えた「富嶽三十六景(神奈川沖浪裏)」がモチーフとして描かれています。
新紙幣デザインの特徴
新しい紙幣では、日本の文化や自然を表現する要素を多く採り入れていることが特徴と言えます。表面の人物と関連する建築物や風景の組み合わせ、和の色彩や伝統的な模様を使用しています。また、11本の斜線で統一された識別マークを券種ごとに位置を変えることで識別できるよう配慮されています。
新紙幣で採用される偽造防止技術・ユニバーサルデザイン
使い慣れた紙幣を刷新する理由として、偽造防止とユニバーサルデザイン向上があげられることは前述のとおりですが、具体的には、どのような技術がどこに採用されるのでしょうか。従来の紙幣との比較とともに以下で解説します。
高精細すき入れ
お札を光にかざすと肖像などが浮かび上がる技術を「すき入れ」と言います。これまでは、すき入れは肖像のみでしたが、新紙幣では、肖像だけでなく肖像の背景に小さなひし形の模様が連続的に入っています。より繊細な線で構成されるため、偽造することは極めて困難です。
3Dホログラム
新紙幣では、高精細なすき入れ模様だけでなく、さらに最先端技術を用いた3Dホログラムを採用しています。ホログラムは、角度を変えると違った図柄が見える技術です。新紙幣では、3Dで表現された肖像が回転します。3Dホログラム技術がお札に導入されたのは世界初です。
これまでも、一万円札と五千円札には「ホログラム」が採用されていましたが、改刷にあたって、新しい技術の導入とともに千円札にも使われています。
ユニバーサルデザイン
2006年に国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」では、「ユニバーサルデザインとは、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲ですべての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。」と定義されています。
新紙幣は、年齢や国籍、障害の有無を問わず、すべての方にとって使いやすいよう工夫されています。例えば、識別マークと呼ばれる「ざらつき」は、指で触って識別できるよう11本の斜線がそれぞれ券種により異なった配置で印刷されています。一万円札はお札の左右、五千円札はお札の上下、千円札は右上と左下にあります。
また、「すき入れ」の位置を変更、「ホログラム」の形状を変更することで感触の違いで券種を識別することができます。さらに、額面数字についても、漢数字からアラビア数字へ変更とともに拡大することで、使い慣れない外国人などでも戸惑うことなく使えるよう工夫されています。
新紙幣の発行に関するQ&A
新紙幣が発行され、早く手にしてみたいという期待と希望がある一方で、不安や疑問の声も多く聞かれます。ここでは、国立印刷局、財務省の情報をもとに、よくある疑問とその回答をお伝えしましょう。
紙幣の肖像となる人物の選定基準は?
紙幣の肖像となる人物については、法令等での制約はありませんが、歴史的・文化的な貢献とともに知名度や教育的価値を提供できる人が日本の紙幣の顔となるべき基準と考えられます。
また、偽造されないよう精密な写真が入手できること、肖像彫刻の観点から品格のある紙幣にふさわしい肖像であることも考慮されるようです。
新紙幣が発行されたら旧紙幣は使用できなくなる?
新紙幣が発行された後も、引き続き、旧紙幣を使用することはできます。
お札は、法律で無制限の強制通用力があることが定められています(日本銀行法第46条2項)。法律上の特別な措置がとられない限り、この通用力を失うことはありません。
すでに発行が停止されたお札のうち、現在でも使えるお札は22種類あります。ただし、古過ぎる紙幣は、精算機やATMなどでは対応できず、日本銀行本支店ほか金融機関の窓口での交換となります。
【現在も使用できる紙幣一覧】
発行開始年 | 券種 | 肖像の人物 |
---|---|---|
(E券) 2004年発行 2004年発行 2004年発行 | 一万円券 五千円券 千円券 | 福沢諭吉 樋口一葉 野口英世 |
(D券) 1984年発行 1984年発行 2000年発行 1984年発行 | 一万円券 五千円券 二千円券 千円券 | 福沢諭吉 新渡戸稲造 (守礼門) 夏目漱石 |
(C券) 1958年発行 1957年発行 1963年発行 1969年発行 | 一万円券 五千円券 千円券 五百円券 | 聖徳太子 聖徳太子 伊藤博文 岩倉具視 |
(B券) 1950年発行 1951年発行 1953年発行 1951年発行 | 千円券 五百円券 百円券 五拾円券 | 聖徳太子 岩倉具視 板垣退助 高橋是清 |
(A券) 1946年発行 1946年発行 1946年発行 1946年発行 | 百円券 拾円券 五円券 壱円券 | 聖徳太子 国会議事堂 彩紋模様 二宮尊徳 |
1943年発行 1889年発行 1885年発行 | 壱円券 改造壱円券 旧壱円券 | 武内宿禰 武内宿禰 大黒天 |
※戦後発行された紙幣は、発行順を表すため、ABCDEFの記号で区別しています。
新紙幣を手に入れるにはどうしたら良い?
新紙幣は、7月3日以降順次、金融機関に引き渡され、流通が始まっています。少しでも早く手にしたい場合には、金融機関の窓口や両替機、ATMに出向くことをおすすめします。
新しい紙幣の発行日である7月3日、記念の式典が行われた日本銀行本店では、植田日銀総裁が、「本日、1兆6000億円の新しい日本銀行券を世の中に送り出しています。キャッシュレス化が進展していますが、現金は、誰でもいつでもどこでも安心して使える決済手段で、今後とも大きな役割を果たしていくと考えられます。新しい日本銀行券が国民の皆さまのお手もとに広く行き渡り、わが国経済を支える潤滑油となることを期待しています」と挨拶しました。
とくに流通量の多い千円札については、総裁の言葉どおり、順次コンビニや近隣のスーパーなどで手に入るようになってくることでしょう。
紙幣の改刷は何年ごとに行われる?
紙幣の絵柄やデザインを変えることを改刷と言います。前回の改刷が2004年(平成11年)11月1日、その前が1984年(昭和59年)11月1日ですので、およそ20年ごとに行われてきたということになります。ただし、明確に間隔が定められているわけではありません。
裏面には何がデザインされている?
裏面のデザインは、日本を代表する歴史と伝統、美しい自然、文化などを採用しています。
- 新一万円札…「赤レンガ駅舎」として親しまれた歴史的建造物(重要文化財)の東京駅(丸の内駅舎)
- 新五千円札…古事記や万葉集にも登場し、古くから親しまれている花(藤)
- 新千円札…江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の代表作で知名度も高く、世界の芸術家に影響を与えた「富嶽三十六景(神奈川沖浪裏)」
おわりに
2024年7月3日に改刷された新しい紙幣には、一万円札が渋沢栄一、五千円札に津田梅子、千円札に北里柴三郎と近代日本において社会的・経済的基盤をつくり、その後の発展へと貢献した人物が描かれています。
彼らの功績を知り、身近に感じることで低迷する日本経済にとって、明るい兆しとなることが期待されます。今後はキャッシュレス化が進み、現金(紙幣)の流通は減ることが予測されます。それでも、紙幣がなくなることはないでしょう。
だからこそ、これからも長く流通することを視野に、最新の偽造防止技術が施されたユニバーサルデザインの紙幣へと改刷する必要があったと言えます。
なお、新紙幣発行に伴う詐欺も報告されています。記事のなかでも紹介したとおり、これまでの紙幣は引き続き使用することができます。「旧紙幣は使えなくなるから、○○円で新紙幣と交換します。」といった勧誘などは詐欺です。また、金融機関を名乗り、「新紙幣の発行にともない、あなたのキャッシュカード(クレジットカード)の情報を入力してください。」といった詐欺メールには、くれぐれも注意してください。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。