不動産投資で安定した収益を得るには、利回りの正しい理解が重要です。利回りは物件タイプや築年数、地域に応じて傾向が異なり、物件ごとに最低ラインを意識する必要があります。このコラムでは、利回りの目安や実際の推移をわかりやすく解説するほか、不動産投資を行う際の注意点や成功のポイントを紹介します。的確な投資判断につなげるためにもぜひ最後までご覧ください。
(本記事は2024年9月6日時点の情報です)
- 実質利回りは、表面利回りより実態に即した収益性を表し、適切に把握することが重要
- 利回りの最低ラインは、不動産投資で損失を出さないために死守したいライン
- 物件タイプや築年数、地域によって利回りは大きく変わる
- 不動産投資の利回りは、あくまで投資判断の目安と考えることが大切
不動産投資の「利回り」をおさらい
不動産投資の利回りは、投資金額に対して年間でどれくらいの収益を得られるかを示します。ここでは、利回りの種類とその意味、そして投資判断に役立つ最低ラインの考え方を解説します。
不動産投資の利回りには種類がある
不動産投資の利回りには、「表面利回り」と「実質利回り」の2種類があります。それぞれ詳しく解説します。
表面利回りの概要と計算式
表面利回りは購入する物件の価格に対する家賃収入の割合を示します。計算式は次のとおりです。
表面利回り=年間の家賃収入÷物件価格
例えば、6,000万円のアパートを一棟購入し、年間の家賃収入が500万円だとすると、表面利回りは約8.3%(=500万円÷6,000万円×100)となります。
表面利回りは簡単に計算できるため、似たような物件の収益性をすばやく比較したい場合によく使われます。
実質利回りの概要と計算式
実質利回りは、物件価格と購入時の諸経費を合わせた金額に対し、家賃収入から維持費を差し引いた金額がどれくらいの割合かを示します。計算式は次のとおりです。
実質利回り=(年間の家賃収入ー年間の維持費)÷(物件価格+購入時の諸経費)
年間の維持費と購入時の諸経費には、主に次の項目があります。
<年間の維持費の例>
- 固定資産税・都市計画税
- 管理会社への委託料
- 共用部の光熱費
- 入居者募集費用
- 修繕費用
- 修繕積立金(区分マンションの場合)
- マンション管理費(区分マンションの場合)
- 火災保険料
- 融資の利息など
<購入時の諸経費の例>
- 不動産会社への仲介手数料
- 登記費用(移転登記や司法書士報酬など)
- 不動産取得税
- 印紙税(売買契約書などにかかる)
- 固定資産税と都市計画税の精算金(売主に支払う)
- 融資事務手数料など
以上のように、実質利回りは実際に支出したコストも踏まえた数値が示されます。つまり、修繕費や入居者募集に伴うリスクなども踏まえた収益性を反映させるため、表面利回りより投資物件の真の価値を判断しやすくなります。不動産投資の可否を判断するには、実質利益を適切に把握することが欠かせません。
6,000万円のアパートを購入し、年間家賃収入が500万円になるとした先ほどの例で、維持費が年100万円、購入時の諸経費が400万円だったとすると、実質利回りは次の計算で求められます。
実質利回り=(家賃収入500万円-維持費100万円)÷(物件価格6,000万円+諸経費400万円)×100=約6.3%
利回りの「最低ライン」とは
利回りの最低ラインとは、不動産投資で損失を出さないために最低限確保すべき利回りのことです。この最低ラインは、投資家の資金調達コストや物件の維持管理費用、将来の修繕費用などを考慮して設定します。
例えば、ある投資家が以下の条件で不動産投資を検討しているとします。
- 融資の年間金利:2%
- 年間の維持管理費用(物件価格の1%と仮定):1%
- 将来の修繕費用の積立(物件価格の1%と仮定):1%
- 税金や保険料(物件価格の0.5%と仮定):0.5%
この場合、単純に合計すると4.5%になります。つまり、この投資家にとっての利回りの最低ラインは4.5%となります。実質利回りがこの数値を下回ると、投資は赤字になる可能性が高くなります。
ただし、安全マージンを考慮して、最低ラインにさらに1~2%程度上乗せすることが一般的です。この例では、5.5~6.5%が実質的な最低ラインとなるでしょう。
投資家はこの最低ラインを基準に物件を選定し、これを上回る利回りが見込める物件に投資することで、安定した収益を得る可能性が高まります。ただし、最低ラインは投資家の資金力やリスク許容度、投資目的によって異なるため、個々の状況に応じて適切に設定することが重要です。
不動産投資における利回りの最低ラインと実際のデータ
不動産投資で失敗を避けるには、利回りの最低ラインを意識することが重要です。最低ラインを下回る物件は、想定外の空室や修繕などで収支がマイナスになる可能性が高く、投資リスクが上がります。一般的な最低ラインの目安として、表面利回り5%、実質利回り3%といわれる場合がありますが、一概にはいえないことに注意してください。
利回りは物件のタイプや築年数、立地している地域などによって左右されます。融資を受ける場合は、金利の高さや返済期間などの条件も影響します。
画一的に最低ラインを当てはめるのではなく、それぞれの物件の特性を考慮し、リスクを踏まえて安定的に賃貸経営できる最低ラインをご自身で定め、投資判断をすることが重要です。ここでは、物件タイプ別、築年数別、地域別の利回りの相場を確認していきます。
物件タイプ別の傾向
まず、物件タイプ別の傾向を確認します。不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)の調査によると、区分マンション、一棟マンション、一棟アパートの表面利回りは下の表のようになっています。利回りは一棟アパートが最も大きく、次いで一棟マンション、区分マンションと続きました。
<物件タイプ別の表面利回り>
物件タイプ | 表面利回り | 価格 |
---|---|---|
区分マンション | 6.86% | 1,994万円 |
一棟マンション | 7.68% | 1億8,245万円 |
一棟アパート | 8.15% | 7,767万円 |
出典:不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家 ( けんびや ) 収益物件市場動向四半期レポート2024年4月~6月期
区分マンションは、分譲マンションの専有部分を購入して賃貸する方式です。一棟マンションはマンション全体、一棟アパートは主に木造や軽量鉄骨造の賃貸住宅に投資します。一棟アパートは、鉄筋コンクリート造が多いマンションに比べて建築コストが低いため、表面利回りが高めに出る傾向があります。
近年の物件価格上昇に伴い、全体的に利回りは低下傾向です。実際、2022年4月~6月期と比べると、区分マンションの利回りは0.65ポイント、一棟マンションは0.20ポイント、一棟アパートは0.22ポイントそれぞれ下落しています。
築年数別の傾向
利回りに大きな影響を与える要素のひとつが、物件の築年数です。健美家の調査で築年数別の表面利回りを確認すると、すべての物件タイプにおいて、築年数が経過するほど表面利回りが上昇することがわかります。
<物件タイプと築年数別の表面利回り>
物件タイプ | 築10年未満 | 築10年以上~20年未満 | 築20年以上 |
---|---|---|---|
区分マンション | 4.30% | 4.64% | 7.64% |
一棟マンション | 5.03% | 6.50% | 8.22% |
一棟アパート | 6.34% | 7.46% | 9.51% |
出典:不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家 ( けんびや ) 収益物件市場動向四半期レポート2024年4月~6月期
特に、築20年以上の物件は、築10年未満と比べて、区分マンションで3.34ポイント、一棟マンションで3.19ポイント、一棟アパートで3.17ポイントも利回りが上昇しています。
築年数が古い物件ほど利回りが高くなる主な理由は、建物の価値が築年数とともに下がるためです。築年数が経過した物件は、建物の老朽化や設備の劣化が進み、新築時と比べて売却価格が大幅に低下します。賃料も新築時よりは下がりますが、それ以上に価格の低下が大きいため、表面利回りの上昇につながるのです。
ただし、築年数が古い物件は、設備の更新や大規模修繕などの費用がかかる可能性が高いです。表面利回りだけではわからない支出のリスクを想定することが大切です。
地域別の傾向
不動産投資における利回りは、物件の所在地によっても大きく異なります。健美家の調査では、首都圏、東海、関西といった大都市圏の利回りが低く、信州・北陸や東北などの地方では利回りが高い傾向にあることがわかります。
<物件別・地域別の表面利回り>
エリア | 区分マンション | 一棟マンション | 一棟アパート |
---|---|---|---|
北海道 | 11.66% | 8.74% | 11.54% |
東北 | 12.35% | 8.73% | 11.18% |
首都圏 | 6.35% | 6.80% | 7.58% |
信州・北陸 | 15.34% | 12.64% | 13.76% |
東海 | 9.49% | 9.27% | 9.04% |
関西 | 6.92% | 8.23% | 8.79% |
中国・四国 | 12.56% | 11.84% | 11.79% |
九州・沖縄 | 9.42% | 8.69% | 9.89% |
出典:不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家 ( けんびや ) 収益物件市場動向四半期レポート2024年4月~6月期
大都市圏の利回りが低い理由は、土地の値段が高く、物件価格が高額になるためです。都心部は経済活動が活発で、利便性が高いため、多くの方が住みたいと考えます。その結果、需要が供給を上回り、資産価値も上昇するので不動産価格が高くなります。一方、人口が少ない地方では不動産価格が相対的に低いため、利回りが高くなるのが一般的です。
ただし、地方の物件は都市部に比べて賃貸需要が少なく、空室リスクが高くなる可能性があります。表面利回りが高いといっても、期待するほど利益を得られないケースも念頭に置く必要があります。
不動産投資の利回りに関する注意点
次に、不動産投資の利回りに関する注意点を解説します。利回りとはあくまで、投資判断を行う際の指標のひとつであることを意識してください。
利回りの最低ラインは参考程度に考える
一般的にいわれる利回りの最低ラインは、あくまで参考値です。物件のタイプや立地、築年数、建物の管理状況、設備の状態など、さまざまな条件によって利回りは大きく変わります。
投資目的や投資家自身の資金力、リスク許容度などによっても、受け入れられる最低ラインは異なるでしょう。リスクを負って高収益を目指すのか、リスクを抑えて安定収益を目指すのか、運用中は低利回りでも将来の値上がりを目指すのかなど、ご自身の投資スタイルに合わせて判断することが重要です。
表面利回りを信用し過ぎない
不動産投資では、表面利回りを過信しないよう注意が必要です。物件の販売資料では表面利回りが強調されていますが、これは取得後のランニングコストを含まない単純な計算であり、実際の収益性を正確に反映していません。
具体的な数値例で考えてみましょう。
表面利回り = 300万円 ÷ 5,000万円 × 100 = 6%
この6%という数字は魅力的に見えますが、実際にはさまざまな経費が発生します。
- 固定資産税・都市計画税:75万円/年(物件価格の1.5%と仮定)
- 管理費・修繕積立金:60万円/年(家賃収入の20%と仮定)
- 空室損失:30万円/年(1ヶ月分の家賃と仮定)
- 経年劣化による賃料低下:15万円/年(5年後に5%の賃料低下と仮定)
これらの経費を考慮すると、実質的な年間収入は
実質利回り = 120万円 ÷ 5,000万円 × 100 = 2.4%
このように、表面利回り6%の物件が、実際には2.4%程度の実質利回りになる可能性があります。さらに、突発的な修繕費用や、立地悪化による長期空室なども考慮する必要があります。
例えば、自殺や犯罪などで事故物件となった場合、心理的要因から極端に家賃を下げざるを得なくなったり、長期間空室が続いたりする可能性もあります。最悪の場合、表面利回り6%の物件が、実質的にはマイナスの利回りになることさえあり得るのです。
したがって、投資判断の際は表面利回りだけでなく、想定されるすべての経費や潜在的なリスクを考慮に入れ、慎重に検討することが重要です。物件の立地、築年数、設備の状態、周辺環境の将来性なども含めて総合的に判断し、長期的な収益性を見極める必要があります。
不動産投資を成功させるためのポイント
不動産投資を成功させるには、 高い利回りを目指すとともに、余裕を持ったキャッシュフローを実現することなどが重要です。ここでは、収益をより高めていくためのポイントを解説します。
長期的な見通しを立てる
不動産投資で成功するためには、目先の利回りにとどまらず、長期的な見通しを立てておくことが欠かせません。物件の収益性は、将来的な人口動態や経済状況によって左右されます。物件の老朽化に伴う修繕費用も、計画的に準備しておくべきです。
人口減少や経年劣化などに伴う賃料の下落や、今後想定される大規模修繕などのコストも含めた収支計画を作成するのが、手堅い賃貸経営を行うために重要になります。
時代のニーズに応えられる物件を選ぶ
時代のニーズに応えられる物件を選ぶことも大切です。例えば、IoT(モノのインターネット)を活用したスマートホームなど最新設備を備えた物件は、入居者から人気を得られる可能性が高まります。
現在は、無料Wi-Fiや宅配ボックスを備えた物件が増えています。スマホを活用したスマートロックや防犯設備なども設置することで、さらに入居者の関心を引けるでしょう。
家賃を引き上げる際は付加価値をつける
利回りは、物件価格が同じなら家賃を引き上げると高まります。しかし、家賃引き上げで入居者がつかなくなっては本末転倒です。物件の付加価値を高めつつ、家賃を上げることが大切になります。
例えば、築古物件でインターホンにカメラがついていないならカメラ付きに変更する、トイレに温水洗浄便座を取り付けるといったことが考えられます。単身者の増加を意識した宅配ボックスの設置も有効でしょう。エアコンが必須の地域では、省エネ性能を高めた最新設備への更新も入居者から喜ばれる可能性があります。
空室リスクや思わぬ出費も想定して資産管理をする
空室リスクや思わぬ出費も想定して資産管理をすることも重要です。不動産投資では、実質利回りをしっかりと確認することが大切ですが、それだけでは不十分なケースもあります。想定外の出来事によって、収益が大きく減少するリスクがあるためです。
例えば、景気の急激な悪化、大学や大型商業施設の撤退などで入居者の確保が突然困難になるケースもあり得ます。地震や台風などの自然災害で建物が損傷を受け、大規模な修繕工事が必要になる場合もあるでしょう。このような想定外の出費は、利回りの計算には含まれません。家賃の一部を積み立てておくなど、不測の事態に備えた資金管理が不可欠です。
返済額や期間に余裕をもって融資を受ける
融資を受けて収益不動産を購入する際は、返済額と期間に余裕を持って設定することが重要です。これにより、予期せぬ事態に対応できる資金的な余裕が生まれます。具体的な数値例を見てみましょう。
例:6,000万円の物件を購入する場合
【ケース1:余裕のない返済計画】
- 融資額:5,400万円(自己資金10%)
- 返済期間:20年
- 金利:2%(固定金利と仮定)
- 月々の返済額:約27.4万円
- 年間の返済額:約329万円
想定家賃収入:月40万円(年間480万円)
年間の諸経費(管理費、修繕費等):96万円(家賃収入の20%と仮定)
実質的な年間収入:480万円 – 96万円 = 384万円
返済比率:329万円 ÷ 384万円 = 約85.7%
このケースでは、収入の85.7%が返済に充てられるため、突発的な修繕や空室に対応する余裕がほとんどありません。
【ケース2:余裕のある返済計画】
- 融資額:4,800万円(自己資金20%)
- 返済期間:30年
- 金利:2%(固定金利と仮定)
- 月々の返済額:約17.7万円
- 年間の返済額:約212万円
実質的な年間収入:384万円(ケース1と同じ)
返済比率:212万円 ÷ 384万円 = 約55.2%
このケースでは、収入の55.2%が返済に充てられるため、残りの約44.8%(約172万円/年)を予備費や追加の修繕費、将来の投資に充てることができます。
一般的に、家賃収入に対する返済比率は50%以下に抑えることが望ましいとされています。ケース2のように返済期間を長めに設定し、可能であれば自己資金比率を上げることで、月々の返済額を抑え、資金的な余裕を持つことができます。
この余裕があることで、以下のようなメリットが生まれます。
- 突発的な修繕費用に対応できる
- 長期の空室期間があっても経営が継続できる
- 将来の金利上昇リスクに備えられる
- 追加の設備投資や物件の価値向上のための資金が確保できる
ただし、返済期間が長くなると支払う利息の総額は増えるため、繰り上げ返済などを活用して総返済額を抑える工夫も必要です。個々の財務状況や投資目的に応じて、最適な返済計画を立てることが重要です。
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不動産投資は、数千万円、数億円という物件を購入することになるため、金融機関からの融資が欠かせないケースが大半です。投資家は、できるだけ投資効率を高めようと、多くの資金をより長期間、より低金利で借りたいと考えるケースが多いです。
セゾンファンデックスの「不動産投資ローン」は、融資期間が最長30年で、複数の不動産を担保とすることなどでフルローンも可能になります。収入や借入れ枠などの問題で銀行から融資を受けられなかったり、築古物件のためローンが組めなかったりするケースでも、融資が可能な場合もあります。柔軟に対応できるセゾンファンデックスの「不動産投資ローン」をぜひご検討ください。
おわりに
不動産投資で適切な購入物件を選ぶには、利回りに関する知識が欠かせません。利回りは、物件タイプや築年数、立地によって目安が大きく異なることを意識しながら、投資判断の基準となる最低ラインをご自身で決めて物件を選ぶことが重要です。長期的な視点や入居者目線を持つことで適切な賃貸経営を進め、想定外の支出への備えも忘れないようにしながら、ぜひ投資を成功させてください。