骨粗しょう症は50歳以降の女性の4人に1人いると言われ、70代では約半数に達すると言われています。人生100年時代、健康寿命を延ばすためには骨を強化して骨粗しょうにならないよう予防することが不可欠。骨粗しょう症になる原因と予防法について、整形外科医の伊藤薫子先生に聞きました。
骨粗しょう症ってどんな病気?
「骨粗しょう症」とは、骨の強度が低下して、骨折しやすくなる骨の病気のこと。骨粗しょう症により骨がもろくなると、つまずいて手や肘をついた、くしゃみをした、などの軽い衝撃で骨折してしまうことがあります。
骨粗しょう症はがんや脳卒中、心筋梗塞のように、すぐに命をおびやかすような疾病ではありませんが、特に高齢者の場合、骨がもろくなり骨折することで外出や運動が制限され、運動機能が衰えて要介護にもつながることがあるので軽視できません。特に足のつけ根の大腿骨を骨折した場合は入院や安静を強いられるケースが多く、運動機能や内臓機能が低下して寝たきりの原因になり、死亡リスクも高くなっています。
骨粗しょう症になる原因
骨粗しょう症になる原因には、不可避なものと予防できるものがあります。一つひとつ原因を見て、対策を考えましょう。
加齢
骨は成長期にカルシウムを蓄積し、女性の場合は18歳頃、男性は20歳前後に人生最大の骨量に達します。成長期以降は骨の新陳代謝を繰り返しながら、40歳半ば頃まで最大骨量が保たれますが、50歳前後から低下します。加齢によって骨密度が低下するのは、腸管でのカルシウムの吸収が悪くなったり、カルシウムの吸収を助けるビタミンDをつくる働きが弱くなるなどの理由が挙げられます。
閉経後の女性ホルモン低下
出典:公益財団法人骨粗鬆財団
骨粗しょう症は特に女性に多い病気で、患者さんの80%以上が女性と言われています。女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、骨の新陳代謝に際して骨吸収をゆるやかにして骨からカルシウムが溶けだすのを抑制する働きがあるため、閉経期を迎えて女性ホルモンの分泌が低下すると、急激に骨密度が減り、男性に比べて早いうちから骨密度が低くなる傾向にあります。
また、子宮内膜症など婦人科系の治療ではエストロゲンの分泌量を低下させ閉経と同じ状態を作り出すことがあり、長引いたり治療を繰り返したりすると骨代謝が乱れて骨密度が低下する可能性があります。
生活習慣
極端なダイエットなどによる栄養不足も、骨粗しょう症の原因になります。とくに成長期は丈夫な骨をつくり骨にカルシウムを貯蓄する大事な時期のため、極端なダイエットをすると、将来の骨密度に悪影響を及ぼすことがあります。
また、運動量が少ない人も注意が必要です。骨は負荷がかかるほど、骨をつくる細胞が活発になります。外出する機会が少なかったり、身体を動かす習慣がない人はそうした負荷が少なくなるため、骨が衰えやすいのです。
病気や薬による影響
特定の病気や、服用している薬が原因となって発症する場合もあります。 原因となる代表的な病気としては、副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、関節リウマチのほか、糖尿病をはじめとする生活習慣病を有する方に骨粗しょう症の発症率が高いとされています。
これらの病気では、骨代謝に影響を及ぼすホルモンが不足したり、骨形成に必要な細胞などに異常が起こったりして骨密度が減るものもありますが、骨の中に骨質を劣化させる物質が増えて骨がもろくなってしまうものもあります。また、薬の副作用による骨粗しょう症では、代表的なものにはステロイド薬の長期服用が挙げられます。
遺伝的要因
実は遺伝的要因も大きく、母親が骨粗しょう症、あるいは両親のどちらかが大腿骨骨折をしている人はリスクが高まると言われています。
骨粗しょう症予備軍?危険度チェック
今まで挙げた要因に加え、以下の項目が一つでも当てはまるようなら、骨密度検査を受けるようにしてください。骨粗しょう症を早期発見するために有効な方法のひとつです。
☑洗濯ものを高いところに干せなくなった。
☑︎ちょっとした段差などで、転びやすくなった。
☑︎ふと鏡に映った自分の背中が丸いと感じた。
☑︎背中や腰に痛みがある。
☑︎糖尿病や慢性腎臓病と診断されたことがある。
☑︎消化器系の手術を受けたことがある。
☑︎関節リウマチや副甲状腺機能亢進症と診断されたことがある。
☑︎ステロイド薬を使用している。
☑︎閉経を迎えた。
☑︎どちらかというと痩せ型。
☑︎喫煙、飲酒の習慣がある。
骨粗しょう症予防はいつから始めるべき?
骨粗しょう症は思春期から予防、対策ができる病気です。この年代のお子さんやお孫さんがいる方は、骨密度の最大値を増やすため、牛乳などカルシウムを多く含んだ食品を摂らせたり、適度な日光浴を意識させるなどしてください。この時期の積み重ねが、後々の「骨貯金」になります。
骨粗しょう症予防のために今からできること
もう更年期になってしまったからと言って、骨粗しょう予防を諦めないでください。今が人生で一番若い時なのだと意識し、今からできることに取り組みましょう。
骨密度を高める食事
まず始めて欲しいのが、食生活の見直しです。厚生省では、一日に必要なカルシウムの摂取量として600mgを推奨していますが、骨密度が下がる更年期の方や骨粗しょう症の方は800mgを目指すようにしましょう。とはいっても、日本人の多くがカルシウム600mgを摂ることができています。骨粗しょう予防、対策のためには、今よりもプラス200mgと覚えておくといいでしょう。
具体的にはいつものメニューに牛乳1杯やヨーグルト1パックを足したりするだけで十分です。他にも、桜エビやしらす、煮干し、とろろ昆布など、サラダやお豆腐にプラスできる カルシウムを豊富に含む“ちょい足し食材”を常備しておくのがおすすめです。
日光を浴びる
カルシウムの吸収を助けるビタミンDは、紫外線を浴びることで体内でもつくられます。夏の直射日光を長時間浴びることは、皮膚が赤くなるなどダメージにつながりますが、適度な日光浴は骨の健康に役立ちます。冬であれば30分から1時間程度散歩に出かけたり、夏であれば暑さを避けて木陰で30分程度過ごすだけでも十分です。
日焼けが気になる方は、「UVBフィルタリング技術」を採用した日焼け止めを使うのがおすすめです。ビタミンD生成に関わるのはUVB波のうちの290~310nmですが、この波長帯だけを透過させ、肌ダメージの原因になるその他の波長をカットする技術を採用した日焼け止めであれば、ビタミンDの生成を妨げることはありません。
運動習慣
骨は、負荷がかかるほど骨をつくる細胞が活発になり、強くなる性質があるため、運動を習慣づけることも重要です。とは言っても骨が弱くなる更年期に無理をすると怪我のリスクを高めてしまうためまずは散歩を日課にしてみたり、ちょっと遠くのスーパーまで足を伸ばしてみるなど日常生活の中でできるだけ運動量を増やすよう心がけてみてください。
かかと落とし
歩くことに加えて、ぜひ取り入れて欲しいのが、つま先立ちの姿勢から踵をストンと落とす「かかと落とし」です。骨に程よい刺激を与え、毎日続けることで強くしなります。理想は1回につき10回程度を1日5回くらい。歯磨きをしながら、手を洗いながらなど毎日必ず行うことにかかと落としを追加すれば、習慣化しやすいと思います。みぞおちとおへそを伸ばして、丹田と呼ばれる下腹部の箇所と、お尻にきゅっと力を入れるのがポイントです。
STEP1:肩の力を抜き背筋を伸ばし足を肩幅に開いて立つ。
STEP2:両足のかかとを上げる。
STEP3:両足のかかとを床にストンと落とす。 2、3を繰り返す。
骨密度検査を受ける
症状が無くても、女性は40歳を過ぎたら定期的に骨密度検診を受けることが必要です。日本では、40歳以降の女性を対象に5年刻みに骨密度の節目で検診を行う自治体が多くなっています。 特に閉経後の女性は、可能であれば年に一回の頻度で検診を受けるようにしましょう。
骨の強さの指標となる「骨密度」の値や、自分でも気づきにくい「脆弱性骨折の危険性」がないか、糖尿病や腎臓病、心臓疾患など骨に悪影響を与える疾患リスクが高まっていないかをチェックすることができます。自分の骨の状況を把握することは生活習慣を見直すきっかけとなり、健康寿命を伸ばすためにも重要な指針になると思います。
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骨粗しょう症と診断されたら
現在、骨粗しょう症の治療薬が次々に登場し、個々の患者さんの症状や病気の進行度に応じて、選択肢が増えてきています。最近では、従来の治療薬よりも強力に骨密度増加が期待できる薬や、継続しやすいように投与間隔や剤型に配慮したものもあります。
具体的な最新の治療法としては、骨密度の検診や採血の結果によっては、薬を使って骨密度を上げる選択肢もあります。これまで骨粗しょう症は、骨が壊れるのを薬で防ぐのが一般的でしたが、近年、同時に新しく骨をつくる働きをする薬が開発され注目されています。月に一度病院に通い、2か所に注射を打つことや、価格が1万円を超えてしまうなどの負担がありますが、1年に約10%も骨密度が上がるとのデータもでています。
まずは骨粗しょうにならないよう予防することが大切ですが、罹患しても悲観せず、医師や薬剤師の指示のもと治療を続けるようにしましょう。
まとめ:一生ものの骨を育てよう
日本は世界でもトップクラスの長寿国ですが、平均寿命と健康寿命の差が大きく、男性では約9年、女性では約12年もあり、骨粗しょう症もその大きな一因と考えられています。骨粗しょう症は予防ができる病気だからこそ、食生活や運動を通じて骨を丈夫に保つよう普段から心がけ、また、骨粗しょう症のリスクがないか定期的にチェックしておくことを習慣にしてください。
骨は一生もの。今日から自分の骨を鍛える生活を意識して、人生後半戦も楽しくアクティブに過ごしましょう。
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