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ふるさと納税、2025年10月から「ポイント付与禁止」で“得する人”と“損する人”【お金の専門家が解説】

ふるさと納税、2025年10月から「ポイント付与禁止」で“得する人”と“損する人”【お金の専門家が解説】
鄭 英哲

執筆者

株式会社アートリエールコンサルティング

鄭 英哲

<保有資格> 公認会計士 ・税理士・証券アナリスト・CFP・宅地建物取引士 公認会計士試験合格後、KPMGあずさ監査法人に入所。株式公開本部に配属。 その後、株式会社アートリエールコンサルティングを設立。 5つのマネー資格を活かし、投資信託、住宅ローン、節税、生命保険、ライフプラニングといった個人のお金に関連するアドバイスをしています。また、個人の税理士事務所として、税理士業も行っています。 趣味:ブラジリアン柔術 ランニング

ふるさと納税はこれまで、さまざまな問題が指摘され、制度改定が行われてきました。今回の「ポイント付与禁止」もその一環です。

本記事では、2025年10月からのポイント付与禁止によって、利用者・自治体・仲介業者のそれぞれの立場から“得する側”と“損する側”にわけて、公認会計士・税理士・証券アナリスト・宅建士・CFPの資格を持つ鄭英哲氏が解説していきます。

なお、ふるさと納税は所得の大小により、ふるさと納税の経済的な負担が最低ラインの「2,000円」ですむ「ふるさと納税の『限度額』」が変わります。しかし、今回は話を簡略化するため、「限度額」については言及しませんのであらかじめご了承ください。

ふるさと納税のポイント付与が禁止に

ふるさと納税のポイント付与が禁止に

令和6年6月25日、総務省はふるさと納税について、令和7年10月1日より寄附に伴うポイント等の付与を行う者を通じた募集を禁止する決定を発表しました。つまり、セゾンのふるさと納税、楽天ふるさと納税やふるさとチョイスといった仲介サイトを通じてふるさと納税を行った場合、これまで仲介サイト内でもらえていたポイントが、2025年10月からはもらえなくなるということです。これにより、自治体、仲介サイトおよび我々ふるさと納税の利用者は大きな影響を受けることになります。

実際、楽天グループは総務省からの発表があった直後の6月28日から、反対書署名を開始し、10日程度で約100万人以上の反対署名を集めたことを公表しました。

実はメリットだけじゃない…ふるさと納税の意外なデメリットとは

実はメリットだけじゃない…ふるさと納税の意外なデメリットとは

ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です(一定の上限はあります)。

たとえば、年収700万円の給与所得者の方で扶養家族が配偶者のみの場合、3万円のふるさと納税を行うと、2,000円を超える部分である2万8,000円(3万円-2,000円)が所得税と住民税から控除されます(総務省HP「ふるさと納税のしくみ」より)。

2,000円の経済的な負担だけで、返礼品がもらえることに加えて、さらに、仲介サイトからポイントがもらえるとなると、ふるさと納税の利用者にとってふるさと納税は2つのメリットがあり、有利な制度だと思われますが、1点だけデメリットもあります。

それは、総務省がいう「所得税と住民税が控除される」タイミングが遅いという点です。つまり、ふるさと納税は、寄附をした瞬間に自分の通帳にいくらかの税金が戻ってくるわけではなく、ふるさと納税の寄附をしたのちに、遅れて節税メリットが発生するのです。わかりやすくするため、令和6年中に3万円のふるさと納税をしたAさんを例に、所得税と住民税にわけて考えていきます。

所得税

所得税分の控除がされるためには、年が明けた令和7年1月1日以降に確定申告をしなければなりません。年明け早々に確定申告をしたとしても、税務署から所得税が還付されるのは早くても2月上旬くらいになります。そのため、1月1日にふるさと納税した場合であれば、還付までに1年強かかります。一方、12月31日にふるさと納税をした場合であれば、1ヵ月程度で所得税は還付されます。

つまり、所得税は早いタイミングで確定申告をしたとすると、最長で1年強、最短で1ヵ月程度で税金が戻ることになります。

ここで、次の住民税の解説のため、仮に、Aさんの所得税率が20%の場合の還付金の計算例を記載しておきます。

(3万円-2,000)×20%=5,600円…所得税の還付金

住民税

住民税の節税のタイミングは所得税に比べて、さらに遅くなります。まず、Aさんの住民税の節税金額を計算し、確認してみましょう。

3万円-2,000円-5,600円(所得税の還付金)=2万2,400円

所得税5,600円と住民税2万2,400円を合計して、2万8,000円になります。

続いて、節税のタイミングは以下のとおりです。

ふるさと納税をした翌令和7年に確定申告すると、給料から新年度の住民税が天引きされる令和7年6月から12ヵ月に渡って、住民税に影響をおよぼします。具体的には、2万2,400円÷12ヵ月=約1,800円です。本来、給与から天引きされる住民税から1,800円が差し引かれることで節税メリットを受けることになります。つまり、最後の1,800円の節税メリットを受けることになるのは、令和8年の5月の給与になるのです。

令和6年12月31日にふるさと納税をしても、最短でメリットを取りきるためには約1年半かかります。一方で令和6年1月1日にふるさと納税をしたら約2年半かかることになります。このように、支払ったふるさと納税を節税のメリットとして取りきるには時間がかかるのです。この点は、ふるさと納税のデメリットといえるでしょう。

今回、ポイントの付与が禁止になった背景

今回、ポイントの付与が禁止になった背景

今回ポイントの付与が禁止になった背景として、総務省は、仲介サイトがポイントで集客を競うなか、自治体が仲介サイトに支払う経費が膨らみ、本来の寄附の目的を果たしていないということを理由として挙げています。

これに対して、ふるなび、ふるさとチョイス、さとふる、楽天の大手4サイトは、ポイントは自社で負担し、ポイント競争の過熱と自治体の経費の多寡は無関係だとしています。

とはいえ、自治体が仲介サイトに経費を支払うこと自体については否定できないでしょう。ふるさと納税の寄附を自治体にするといっても、直接自治体に連絡をして返礼品を選び、銀行振り込みをすることはほぼあり得ません。

ふるさと納税はほとんどの場合、仲介サイトを通じて行われます。各社仲介サイトは、非常に使い勝手のよいサイトを提供しています。たとえば、ネット通販も展開する大手サイトを例にすると、返礼品の検索機能、ジャンルごとのランキング、金額の比較、クレジットカード決済など、ネット通販で物品を購入するのとほぼ変わらないくらいの利便性の高いサイトを運営しています。一方で、これと同等のサイトを地方の自治体が運営できるかといえば、まず不可能でしょう。

これらを見ても、現在のふるさと納税の高い認知と浸透は、仲介サイトが牽引してきたといっても過言ではありません。

ポイント付与禁止によっておよぶ影響

ポイント付与禁止によっておよぶ影響

最後に、今回のポイント付与禁止によって、利用者、自治体・仲介サイトそれぞれにどのような影響があるのかみていきます。

ふるさと納税の利用者への影響

各仲介サイトがポイントに代わるサービスを新たに提供しない限り、ふるさと納税の利用者にとっての新たなメリットはないといえます。そもそも、ふるさと納税をする動機は、

・「返礼品+ポイント」の2つのメリット
・「節税メリットを取りきるまでに時間がかかる」1つのデメリット

これらを天秤にかけてもメリットが大きいと感じる場合でしょう。今回のポイント付与禁止により、メリットは1つに減少します。そうなると、

・自治体が現在よりも魅力的な返礼品を提供する
・自治体が返礼品に対する寄附金額を下げる
・国が限度額を上げる

のいずれかをしない限り、ふるさと納税に対する相対的な需要は減ると考えられます。

実質的な損をするわけではありませんが、いままでもらえていたものがもらえなくなるという心理的な損失は大きいでしょう。結果的に、自治体の財政にも悪い影響を与えることにも繋がる可能性があります。また、上記の3つのいずれも、広くみればふるさと納税に対する全体なコストを上げることになり、自治体の経費を抑制するという本来の目的が達成されないことにもなり得ます。

自治体・仲介サイトへの影響

自治体レベルで考えた場合、「減少する経費」と「減少するふるさと納税」との比較で得する自治体と損する自治体が分かれると考えられます。

得するのは「減少する経費>ふるさと納税の金額の減少」となる自治体です。具体的には、魅力のあるふるさと納税の返礼品に対しての需要が衰えず、ふるさと納税の金額がそれほど落ちない場合、得をします。

一方で、損するのは「減少する経費<ふるさと納税の金額の減少」となる自治体です。仲介サイトに支払う経費は抑制できても、ふるさと納税の返礼品に対しての需要がそれ以上に減少し、ふるさと納税の金額が落ちない場合は損をするでしょう。

そして、仲介サイトのレベルで考えると、淘汰される仲介サイトも出てくる可能性があります。「自治体からの経費=仲介サイトの運営費+利益」であるため、自治体の経費が減少すれば仲介サイトの運営自体が赤字になり、撤退せざるを得ない可能性も。

もちろん、淘汰される仲介サイトが出てくれば、残った仲介サイトで需要をわけ合うことになるため、その点では残った仲介サイトが得する可能性もあります。

まとめ 

今回のポイント付与禁止にとどまらず、ふるさと納税の制度改定は今後も行われる可能性があります。自治体、仲介サイト運営者だけに限らず利用者も、ふるさと納税の本来の制度趣旨・目的がどこにあるのかを見極め、変化に伴った選択が求められるでしょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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