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母から娘に伝えたい将来のための選択肢―グレイス杉山クリニック岡田先生に聞く「卵子凍結」

母から娘に伝えたい将来のための選択肢―グレイス杉山クリニック岡田先生に聞く「卵子凍結」
セゾンのくらし大研究 編集部

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豊かなくらしに必要な「お金」「健康」「家族」に関する困りごとや悩みごとを解決するために役立つ情報を、編集部メンバーが選りすぐってお届けします。

今20~30代の娘をもつ母親は、女性の社会進出があまり進んでいない時代を過ごしてきた世代です。そのため、現代女性の人生設計に戸惑いつつも、娘を応援しているという方も少なくないでしょう。

現在では晩婚化や晩産化が進み、現代の女性たちは自分のキャリアを見据えながら結婚や出産の時期を考えるようになりました。その中で、柔軟なライフプランを描くためのひとつの選択肢が「卵子凍結」です。日本でも徐々に認知が広がってきている「卵子凍結」について、グレイス杉山クリニックの岡田先生にお話を伺います。

岡田有香先生
グレイス杉山クリニックSHIBUYA院長。子宮内膜症や低用量ピルの診察と、がん治療前の卵子凍結などに携わる。多くの人が不妊治療に悩む現状から、不妊治療前に定期的に婦人科にかかり不妊予防を行う重要性を認識。妊活や卵子凍結についての発信を精力的に行っている。日本産婦人科学会/日本産科婦人科内視鏡学会/日本生殖医学会/日本女性医学学会/NPO法人日本子宮内膜症啓発会議などに所属。
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卵子保管サービス「グレイスバンク」
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将来の妊娠のための「卵子凍結」とは?

将来の妊娠のための「卵子凍結」とは?

将来の出産を見据えた「卵子凍結」が行われるようになったと聞きました。「卵子凍結」とはどのようなことか教えてください。

卵子凍結は、将来の妊娠や体外受精に備えて、自分の卵子をあらかじめ採取して冷凍保存しておく医療技術です。これまでは、体外受精という不妊治療の一部として行われてきました。

日本は、実は世界一の不妊治療大国です。体外受精の総数が日本は約50万件、アメリカは約33万件と、総人口比にすると約4倍に上ります。一方で、体外受精から生まれる赤ちゃんの数は、日本が7万人と総数の14%に対して、アメリカは8.4万人と総数の25%。つまり、日本の体外受精の出生率は低いことがわかります。

これは日本の医療技術が低いからではありません。理由の一つが、不妊治療を行う年齢の高さです。不妊治療を行う年齢の平均は、日本は38歳です。アメリカの36際よりも2歳高い傾向があります。

つまり、年齢が高いと不妊治療も難しいということですか?

実は、卵子というのは生まれる前に体の中に作られているもので、その後増えることがありません。そのため、卵子も年齢とともに老化します。卵子が老化すると、妊娠率が低下し、流産率も増えてしまう傾向にあります。

そこで、将来の妊娠の確率を高めるために、若い時に行う「卵子凍結」が注目され始めました。冷凍保存することで、卵子の老化を半永久的に止めることができます。解凍しても90%前後の生存率を保てるため、希望のタイミングでパートナーの精子と合わせて子宮に戻すことで、妊娠に導けると考えられています。

若いうちに「卵子凍結」を行うメリットは?

若いうちに「卵子凍結」を行うメリットは?

具体的な出産が決まっていない頃に卵子凍結をするのでしょうか?

お母様世代が出産していた頃、例えば1988年は、第一子出生時の平均年齢が26.6歳でした。そうすると2人目を30歳前後で出産することになるので、まだ自然妊娠がしやすい年齢であり、不妊治療の必要性はほとんどなかったのです。

一方で、2020年の第一子出生時の平均年齢は30.7歳。2人目を33歳前後に出産することになりますが、33歳を過ぎると卵子の質と量が急激に低下するため、不妊治療を含めても4人に1人はお子さんを授かれないのが現状です。不妊治療をすれば子供が授かれるというものではないのです。

現在は、女性も仕事のキャリアを見据えながらライフプランを考えるようになりました。若いうちに卵子凍結をしておくことで、出産を望む年齢が上がったとしても、妊娠の可能性を高めることができます。

医療的にもメリットはありますか?

そうですね。若い卵子を保存できるだけでなく、実は別のメリットもあります。生まれた瞬間には約200万個もの卵子がありますが、歳を取るにつれて減少し、35歳になると平均して1~2%の1~3万個ほどしか残りません。

そのため、1回の処置で採れる卵子の数は、20~30代前半までだと平均14個程度ですが、40代以降では平均6個程度に減少してしまいます。若い時に卵子凍結を行えば、処置の回数や費用の負担も減るため、そのメリットは大きいのではないでしょうか。

実際の処置はどのように行われるのですか?

まず事前に、婦人科系の病気の有無の診察や、卵巣の中の卵子の個数を調べるAMH検査を行います。そして、月経開始から1~3日以内に来院して排卵誘発を開始します。これは、内服薬の服用と、卵巣を刺激する排卵誘発剤の注射をご自身で1日1回お腹に注射するものです。自分で注射をすることに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、針が刺さったかわからないくらい細いものなので、ほとんど痛みはありません。

その後7~10日後に診察して採卵の日を決定します。採卵処理は午前中に10分ほどで済みます。採卵個数が20~30個と多く採れる方は静脈麻酔が必要なため、処置後は2時間ほど休む必要がありますが、局所麻酔で手術した方は30分程度で帰宅できます。そのまま仕事に向かう方もいらっしゃいますよ。

処置は、経腟から卵巣に向かって針を刺すため、出血や感染の可能性が0.1%ほどあります。また、一時的にお腹が張るような副作用もみられますが、入院を要するような重度なケースは全体の1%以下となっています。日本国内だけでも、1日1,000~2,000人の方が採卵処置を行っているので、過度に心配し過ぎる必要はないと思います。

まずは婦人科に定期的に通うことを薦めたい

まずは婦人科に定期的に通うことを薦めたい

母から娘に「卵子凍結」を伝えるメリットをどうお考えですか?

日本では性に関するリテラシーが低いのが現状です。学校での性教育では、性行為の同意や避妊程度しか語られておらず、妊娠や出産については詳しく教えられませんでした。体外受精についても公に語られることは少なく、有名人の出産のニュースから、高年齢でも自然妊娠できると考えられがちです。

母親は、娘の性教育を担ってきた存在です。成長の段階で、生理の知識を伝えたり、成長に合わせた下着を一緒に買いに行ったりしていたと思います。また、娘にとって母親は、妊娠や出産を経験した一番身近な先輩です。日常の会話の中で将来のライフプランを聞きながら、妊娠についての客観的なデータや、卵子凍結についても知識をさりげなく共有できるのが理想ですね。

具体的には、どんなサポートができますか?

もちろん母娘であっても、妊娠についてはデリケートな話題なので、言い出しにくいと感じられる方が多いのではないでしょうか。まずは、婦人科に定期的に通うことを薦めてみてください。特に子宮がん検診は20代から必要であり、2年に1度はクーポンによる無料の検診も受けられます。それを機に1年に1回は婦人科を受診し、ご自身の身体の状態を知ってもらうのが妊娠そして卵子凍結のスタートだと思います。

卵子凍結の処置は、普段の生活に支障なく行えるものですが、睡眠時間を7~8時間確保し、3度の食事を摂るといった規則正しい生活習慣を保つことが重要です。もし娘さんが卵子凍結を決断した際には、あまり神経質にならずその辺りを気にしてあげる程度でいいと思いますよ。

卵子凍結を伝える際に、気を付けたいことはありますか?

一番大切なことは、ご自身で卵子凍結を決断することです。卵子凍結を実施した方の89%は「やって良かった」と感じられていますが、11%は「卵子凍結をしなくても良かった」とか「どちらでもない」と答えています。

考えていたより卵子の数が採れなかったなど、理由はさまざまですが、ご自身の決断により、妊娠に向けて今やれることをやったという気持ちがあれば、後悔につながらないのではないでしょうか。

私が診察する際には、卵子凍結をする方への心理的なサポートを重視しています。卵子凍結を決める前に、しっかりとカウンセリングを行い、ご自身が納得したうえで卵子凍結を選んでいただくようにしています。

娘さんのことを思ってであっても、あまりにプレッシャーをかけてしまうのは逆効果です。「母親に言われたから卵子凍結をする」という意識にならない配慮が必要です。

福利厚生や助成金制度も進む卵子凍結

福利厚生や助成金制度も進む卵子凍結

「卵子凍結」はこれから増えるとお考えですか?

最近では、企業が福利厚生として卵子凍結を導入するケースも増えています。卵子凍結に係る費用の一部を負担する制度で、会社としてもキャリアのある優秀な女性人材を確保できるメリットがあるようです。

東京都にも卵子凍結の助成金制度があり、卵子凍結を実施した年度に最大20万円、次年度から保管更新時1年ごとに一律2万円が5年間助成されます。日本では1回の採卵処置が平均40万円、保存費用が年間3~4万円程度なので、費用のおよそ半分が助成されるイメージです。このような助成金は、少子化対策として今後ほかの自治体にも広がっていくと予想されます。

また、これまでは不妊治療を行っている不妊治療専門のクリニックのみが卵子凍結を行っていたため、若い女性が足を踏み入れにくい面がありました。ですが、当院では卵子凍結に重きを置いており、来院のハードルを感じないよう意識しております。心理的なハードルが下がれば、より卵子凍結が身近なものになると期待しています。

生理の悩みや卵子凍結についてのご相談は、グレイス杉山クリニックまで

おわりに

女性の人生が多様化している現在、娘世代もキャリアを積み重ねる人や、専業主婦として子育てに専念する人など、さまざまな生き方があります。そのために、かえって同年代の友人同士では、妊娠や出産などの話題が避けられることもあるようです。

そんな中で、娘にとって母親は気兼ねなく妊娠や出産についての話ができる貴重な存在かもしれません。将来の可能性を広げるための一助として、「卵子凍結」という選択肢を娘さんに伝えてみてはいかがでしょうか。

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