日本女性の平均寿命が90歳に近づいている今、更年期は人生の折り返し地点とも言える重要な時期です。更年期を上手に乗り越えることが、人生後半戦を豊かなものにするポイントとなってきます。
更年期の基礎知識、備え方について「クレアージュ東京 レディースドッククリニック」婦人科顧問、大島乃里子先生に教えてもらいました。
更年期と更年期の症状について
更年期とは、女性の閉経の前後5年のことを指します。閉経年齢には個人差があるものの、平均すると50歳前後のため、多くの女性が45〜55歳頃に更年期を経験します。この期間にはさまざまな症状が現れますが、この中で臓器そのものに異常がないにもかかわらず心身に不調を感じる場合を「更年期症状」、さらに、更年期症状が日常生活に支障をきたす病態を「更年期障害」と呼びます。
予兆となるサインはさまざまですが、月経の乱れはひとつのサイン。月経周期が大きく乱れたり、持続日数が短くなったり長くなったりする、月経量が変化するなど、月経の様子がこれまでと変わってきたと感じるようになったら、ホルモン的にはそろそろ更年期の始まりのサインが出ていると考えて良いでしょう。
代表的な更年期症状をチェック
更年期になれば、誰にでも女性ホルモンの急激な減少がみられます。しかし、更年期症状の現れ方は個人差が大きく、症状が比較的軽い方もいれば、日常生活に支障をきたすほど強く出る方もいます。代表的な症状をご紹介します。
自律神経失調症状
自律神経失調により現れるのが「ホットフラッシュ」と呼ばれる、上半身ののぼせ、ほてり、発汗です。急に顔が熱くなったり、汗が止まらなくなったりする症状が一日に何回も出ては消えます。「上半身だけ暑くて、のぼせる」「冬でも大汗をかくので人前に出るのが恥ずかしい」など悩む方が多い症状です。
具体的症状
- のぼせ
- ほてり
- 発汗
- 寒気
- 冷え症
- 動悸
- 胸痛
- 息苦しさ
- 疲れやすい
- 頭痛・肩こり
- めまい
精神症状
更年期は子育てや仕事、介護などが重なり特に忙しい年代でもあります。女性のライフステージの中でも心理・社会的にも不安定でストレスを受けやすい時期と言われ、抑うつ気分、病的不安が起きやすくなります。
具体的症状
- イライラ・怒りっぽい
- 情緒不安定
- 抑うつ気分
その他の症状
その他にも代表的なものに喉の乾きやドライアイといった皮膚・分泌系の症状、嘔気、食欲不振などの消化器系症状、腰痛、関節痛、痺れなど運動器官系の症状があります。
更年期症状と決めつけずまずは病院で診察を
更年期症状はホルモンの変化だけでなく、ストレス、生活習慣、家庭環境などといったさまざまな因子によって起きるものです。心身の不調を「きっとこれは更年期だからしょうがない」と決めつけず、重大な病気が隠れていないかを調べることも必要です。動悸と思っていたら甲状腺の病気だったという場合もあるので要注意です。
月経の乱れや、何となく不調であるといった不定愁訴を感じるようになったら、まずは一度、婦人科やかかりつけの医療機関を受診して、今の自分の状態を知ることが大切です。
更年期症状は治療できる?
更年期症状は治療することが可能です。何より症状に合った専門のお医者さんと一緒に自分に合った方法を見つけることが重要で、更年期症状全般で悩んでいる場合は婦人科にかかるのが一般的です。更年期症状なのか、他の病気なのか判断ができない場合や、かかりつけ医がいる場合は内科を受診してもよいでしょう。また、精神症状がつらい場合は心療内科、精神科、メンタルクリニックなど、専門医に相談することをおすすめします。
続いて、代表的な更年期症状の治療法をご紹介します。
ホルモン補充療法
ホルモン補充療法(HRT)は、減少したエストロゲンを補充する療法です。その名の通り、少なくなった女性ホルモンを薬で補う治療法です。HRTには飲み薬、塗り薬、貼り薬(パッチ)の3種類があり、少量タイプも登場しているのでより細やかな調整が可能になっています。
また、子宮を有する場合には、黄体ホルモンを一緒に投与します。HRTは保険適用で、自己負担も少なく、更年期障害の根本的な治療法として注目を集めています
こんな症状におすすめ
- ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)などの血管運動系の症状の緩和に
- 動悸や知覚異常など自律神経系の不調の改善に
- 閉経後の骨粗しょう症の予防に
- 泌尿器生殖器の粘膜が萎縮や乾燥して起こる萎縮性腟炎や性交痛などの改善に
漢方薬
東洋医学から生まれた漢方は、多彩な更年期障害の症状を訴える場合に、まず試みられる方法です。
更年期障害では体温調節がうまくできず、上半身に熱感やほてりを感じたり、下半身に冷えを感じたりすることがあります。 漢方薬は体内の熱と寒さのバランスを調整することで、これらの症状を和らげる可能性があります。 例えば、熱感やほてり、めまい、不眠、頭痛、肩こりなど、更年期障害の多くの症状に対応する漢方薬があり、その方の体質を診て処方されます。
カウンセリング・心理療法
うつや不安などの精神神経症状が主たる症状の場合には、カウンセリングを受けることにより自分自身の問題を整理・認識し、ストレスが軽減されます。カウンセリングは、女性が更年期症状に備え、これらの変化をよりよく理解し、この新しい人生の段階への移行をよりスムーズにするのに役立ちます。症状によっては抗うつ薬や抗不安薬が使用されます。
更年期症状・更年期障害の大きな要因には、心理、社会的な変化の影響もあると考えられています。さまざまなストレスに上手に対処していくためにも、カウンセリングや心理療法はおすすめです。
更年期を乗り越えるために、習慣にしたいこと
更年期症状、障害は、ホルモン、加齢、社会環境、心理要因なども原因となっておこります。すべてがホルモンの影響ではないため、自身で生活全般を整え、心と身体が少しでも楽に過ごせるような環境を調整することも予防につながります。
食生活の見直し
更年期に備え、今すぐ始められることが食生活の見直しです。5大栄養素と言われる、たんぱく質、ミネラル、ビタミン、脂質、炭水化物をバランスよくしっかりと摂ることが大切なことは知られていますが、特に意識して摂ってほしいのがカルシウムとビタミンDです。
ビタミンDは、カルシウムの吸収を助け、骨や歯を丈夫にする働きのほか、神経伝達や筋肉の収縮、免疫機能などを調整する栄養素です。閉経後、女性はホルモンの関係で骨密度が急激に下がるため、骨粗しょう症予防のためにも骨と筋肉を強化することが大切です。
また、更年期症状の発現には肥満も関連し、過体重になるとホットフラッシュなどの症状が悪化しやすいと言われています。栄養バランスと摂取カロリーを適正にすることは有効な対処方法です。
睡眠を大切に、運動習慣を身につける
睡眠不足が続くと体調だけでなく、メンタル面での落ち込みやうつ症状も出やすくなるため、しっかり睡眠時間を確保するように心がけましょう。運動は自律神経のバランスを整える効果があり、イライラや倦怠感、肩こりなどの不定愁訴の改善につながり、睡眠の質も良くする効果も期待できます。
高血圧に気を付ける
更年期に差しかかると、若いころが低血圧だった人でも高血圧になる可能性が増えます。更年期高血圧は血液量が増加したり、動脈硬化など血管壁が硬くなって血流への抵抗性が高まることによる一般的な高血圧とは異なり、ホルモンバランスの乱れから自律神経に影響することが原因とされています。自分も高血圧になる可能性があると自覚し、まずは定期的に血圧を測る習慣を身につけましょう。
体温36度以上を保つ
身体が冷えると血管が収縮し、全身の血流が低下します。血の巡りが悪くなると、身体の各部位で本来の働きが鈍化してさらに冷えが進むという悪循環にも。さらに状態が進んで脳に届く血液量まで減ると、女性ホルモンの分泌や自律神経に指令を出す視床下部がうまく働かなくなり、さまざまな不調を起こすことになります。身体を冷やさない生活習慣と、適度な運動で筋肉をつけて基礎体温36度以上を目指しましょう。
更年期ドックを受ける
更年期治療に特化しているクリニックでは、血液検査による卵巣機能等のホルモン値の検査以外にも、希望に応じて生活習慣病に関係する血液検査や骨密度検査、血管年齢検査のほか、婦人科の検査を行っています。
私が顧問を務める「クレアージュ東京レディースドッククリニック」では、「更年期ドック」をご用意しています。女性ホルモン検査だけでなく、甲状腺機能をはじめとした更年期症状と間違えやすい病気も検査し、更年期状態かどうかを調べることができます。また、心・血管疾患やコレステロール、や中性脂肪の増加、骨量の減少など、更年期に高まる健康リスクの現状チェックも。治療が必要な場合は、まずどの科を受診すべきかの指針にもなるのでおすすめです。
更年期を乗り越えるためには、相性のいい医師を見つけることも重要なポイント。医師の説明の仕方や話し方など、頼れるかかりつけ医を見つけておくと安心です。日本女性医学学会に更年期障害に詳しい「女性ヘルスケア専門医」のいるクリニックのリストがありますので、ご興味があれば調べてみてください。
まとめ 更年期をこれからのライフプランを考えるチャンスに
年齢を重ねることに対しては、どうしてもネガティブな考えになりがちです。しかし、女性なら誰にでも訪れる更年期だからこそ、「自分の心と体を見直すいい時期」だと捉え、これからのライフプランを考えるチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。一人で抱え込まず、時には医師のみならず、家族や友人、職場のサポートを得ることも大切です。
また、元気なうちに生活習慣を見直して健康状態のピークをできるだけ高めておくことも、更年期に備え、乗り越えることにつながります。未来の健康を貯金するつもりで、自分の身体と向き合ってみてください。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。