「眠っても夜中に何度も起きてしまう」「寝つきが悪くてつらい」「寝ているつもりなのに休息感を得られていない」など、何かしら睡眠の問題を抱えている方も多いのではないでしょうか?睡眠の状態は、就寝環境や生活習慣などが大きく影響します。
日中や寝る前の過ごし方を少し見直せば、睡眠の質は改善が期待できます。本記事では、睡眠を知り尽くす「株式会社S’UIMIN」の睡眠研究アドバイザー・谷明洋さんにお話を伺い、深く眠れるようになるポイントを教えていただきました。
‟ 良い睡眠”とはどのような状態?
深く眠る方法を学ぶ大前提として、‟良い睡眠”とは一体どんなものを想像するのでしょうか?「良く寝られたな」「今日は目覚めがいい」「夜中一回も目を覚まさなかった」など、何をもって良い睡眠とするかは、個人の感覚によるところが大きいのかもしれません。
一般的に睡眠の質を考える時、「眠れている時間の長さ」「眠れていない時間がどのくらいあったのか」「眠れている時の睡眠の状態はどうか」の3つを考えます。しかし、自分の睡眠を客観的に評価するのはとても難しいものです。自分の中では良く眠れたと感じていても、実は不眠状態だった、という相違が生まれることも珍しくありません。
良い睡眠を得るための考え方や、改善できる生活習慣などを紹介していきます。
睡眠は減点法で考える
良い睡眠をとるために、誰にでも当てはまるというような効果的な方法はありません。睡眠は原則として「減点法」と捉えましょう。寝る前のスマホ、アルコールにコーヒー、不安な精神状態など、睡眠に良くないことをすればするほど減点となり、睡眠が悪くなっていくということです。
とはいえ、何が自分の睡眠に悪影響なのかは人それぞれ。寝る前に仕事のことを考えてしまうから?カフェインの摂り過ぎが原因?など、どこに原因があるのかを突き詰めて排除していくことが大切です。
ビング・ダイニングの明かりを暗めにする
就寝前のスマホは良くない?
「寝る前にスマホを見るのは禁物」と言われますが、全く見ないというのは現代人にとって難しいものです。完全に使用しないということではなく、うまく付き合っていく方法を考えてみましょう。
スマホが及ぼす影響とは?
睡眠前にスマホがもたらす影響を3つの観点で説明します。
1.「光の影響」
波長の短いブルーライトの影響によって「脳が覚醒する」「メラトニンの分泌が抑制される」「光によって体内時計が狂う」の3つが睡眠の妨げになります。
2.「情報の影響」
さまざまなコンテンツが制限なく見られるのがスマホの楽しさですが、画面から入ってくる情報によっては睡眠に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
3.「費やす時間」
ショート動画やSNSのやり取りなどを際限なく見続けた結果、睡眠時間が削られてしまっては本末転倒です。
うまく付き合えば良い影響も?
ただ、必ずしもスマホ使用の全てが悪影響を与えるとは言い切れません。使い方次第では睡眠に良い影響を与えてくれるかも知れないのです。
例えば、仕事やプライベートでの心配事を考えて寝付けなくなってしまう場合、癒される動画などを見ることによって幸福感が増しリラックス効果を生み、結果的に睡眠の手助けをしてくれることもあり得ます。
どんなコンテンツが自分にあっているのかを見極め、リラックスできるものを見つけてみてください。ただ、どんなにリラックスできるものだとしても長時間の使用は睡眠時間を削ることになるので注意しましょう。
寝室は暗く静かで朝まで適温が基本
インタビュアー:どんな環境で寝るのが理想ですか?
谷さん:まず、眠るときは真っ暗にするのが理想です。遮光カーテンや雨戸などを使い、外からの光を遮断しましょう。ただ、真っ暗になると怖くなり、心が落ち着かなくなってしまう、という方もいるかもしれません。そういった場合は、弱いレベルの常夜灯や間接照明をつけてリラックスできる状態にしてみてください。シーリングライトなどの照明に付いている豆電球もありますが、仰向けになった時に直接目に入ってきてしまうので、体の横あたりの位置に光があるのが理想的だと言えます。」
インタビュアー:音楽を聞く時の注意点は?
谷さん:音も光と同様、脳を刺激するので注意が必要です。もし音楽を聞きたいなら音が消えるタイマーを使うなどの工夫をしてみてください。
インタビュアー:エアコンの使い方について教えてください。
谷さん:快適に眠れる温度を朝まで保つことも重要です。真夏や真冬など、エアコンが必要な季節は朝までつけっぱなしにすることをおすすめしています。
「エアコンのかけすぎは良くない」とタイマーを使用する方もいますが、特に夏場はタイマーが切れると寝苦しくなり目を覚ましてしまうことがよくあります。エアコンが苦手な方は、パジャマや掛布団、エアコンの風向きなどを調整することで、睡眠にとって最適な環境を作ってみてください。
眠るためお酒を飲むのはNG
インタビュアー:どうして寝る前にお酒を飲んではいけないのですか?
谷さん:確かにアルコールには寝つきを良くする効果がありますが、眠りが浅くて覚醒しやすくなるなど、睡眠の質を低下させるのも事実です。また、耐性が生じやすく、その効果が弱くなっていくため、結果的に飲酒量が増え、アルコール依存症や肝障害を引き起こすリスクもあります。
ただ、我慢しすぎることが睡眠にとって悪影響の場合があります。お酒が好きな方が睡眠に良くないからと飲むことを完全に断ってしまうと、かえってそれがストレスになってしまうこともあります。睡眠のために完璧な行動を取ろうと思わないことが大切です。
インタビュアー:お酒を飲みたい時はどんなタイミングが良いですか?
谷さん:夕食前の晩酌くらいに留めておきましょう。寝る頃にお酒が抜けている感覚があれば、睡眠への影響は軽減されると思います。お酒を全く飲まないということではなく、楽しく適度に嗜むことがQOLを高め、結果的に良い睡眠に繋がるかもしれません。
自分に合う入眠習慣を見つけてみよう
谷さん:「眠る前にこれをやる」という習慣を見つけてみましょう。毎晩眠る前に特定の習慣に繰り返し取り組むと、脳や身体に「これをやったら眠るんだ」とインプットされ、入眠がスムーズに行えるのです。入眠前の習慣は、ストレッチや音楽を聞くなど、自分に合ったものを見つけてみてください。気分が落ち着く動画を見たり、読書を取り入れるのもいいと思います。ただ、初見のものだと展開が気になりドキドキして脳が興奮してしまう可能性があるので、すでに読んだり見たことがあるものを選ぶなど、落ち着いて睡眠を呼び起こせる工夫が必要です。
眠くなってからベッドに入る
インタビュアー:眠くなくてもベッドに入った方が良いですか?
谷さん:「眠くなくても目を瞑っているだけで効果がある」といったことを耳にすることもありますが、それは都市伝説に過ぎません。眠くないのに布団に入り、眠れないまま留まっていると「眠らなくては」という思いが強くなり、ストレスとなります。また、眠れないことを脳や体が感覚として覚えてしまうことがあり、悪循環に陥ってしまうのです。
インタビュアー:対処法はありますか?
谷さん:そんな時は無理に寝ようとせず、気分転換をしてみましょう。そして先ほどの入眠習慣にも通じますが、「眠れない時はこれをやる」というルーティンを作っておくことが大切です。再び眠くなったら、布団に入るようにしましょう。
深く眠るために今日からできること
深い睡眠を得るために始められることがいくつかあります。睡眠環境を整えたり、入浴時間に気を付けてみたり、よりスムーズに入眠するために今日から始められることをご紹介します。
寝室には温湿度計を置いて快適な温湿度をキープ
寝る時の温度と湿度は睡眠の質に大きく影響を与えます。室温は、23〜25度程度、湿度は40〜60%前後をキープすると良いとされています。そのために温度計や湿度計を置き、一定の温度と湿度が保てるようにしてみてください。
また、二酸化炭素の濃度が上昇すると睡眠に悪影響を及ぼすことが分かっています。適度に換気を行い、空気を入れ替えることが重要です。
入眠前の入浴で身体の深部を温める
入浴は寝る時間の1,2時間前までに済ませるようにしましょう。身体の芯から温まるよう、湯船に10〜20分程度浸かると効果的です。一時的に体温が上昇し、その後の体温の低下によって入眠を促進するのです。適温は個人差がありますが、10分以上浸かっても負担にならない温度が望ましいです。
また、体温が上がり過ぎると寝つきが悪くなるため、入浴後すぐに寝る場合には湯船には浸からず、シャワーのみで済ませると良いでしょう。
マットレスやパジャマを見直してみる
寝室の環境を整えることももちろん大切ですが、実際に身体を預ける寝具やパジャマにも着目してみましょう。
マットレスを使用している場合、長い間同じ場所で寝ているとその部分が沈んでへこみ、姿勢が悪くなって体への負担が大きくなります。定期的に向きを変えたり、上下を裏返して使用してみてください。
身体を包むパジャマについても、身動きが取りやすく、着用していてリラックスできるものを選ぶと良いでしょう。
客観的に自分の睡眠を計ることも重要
これまで、日常の中で取り入れられる意識付けや生活習慣などをお伝えしてきましたが、自分の睡眠を客観的に判断するのはやはり難しいことです。
最近では、スマートウォッチやスマホの睡眠計測アプリなどで睡眠時間を計ることができるので、毎日の睡眠時間をチェックしてみるのも自分の睡眠を把握するためにはいいでしょう。
睡眠の状態が自宅で計れる「脳波測定」がオススメ
谷さん:自身の睡眠がどうなっているのかを実際に計測してみるのが、自身の睡眠を最も良く知ることができる手だてです。「株式会社S’UIMIN」では、自宅で簡単に「脳波測定」ができるサービスを実施しています。電極を頭に張って眠ると、病院の検査と同じレベルで詳細に睡眠の質を測ることができるというものです。
比較的中高年に多いとされる「無呼吸症候群」や「睡眠誤認」といった症状が隠されているかもしれません。自分の睡眠が気になるという方は、ぜひ活用してみてください。
無理なく自分にあった方法で深い睡眠を手に入れよう
過去の自分と比較して「前より眠れなくなった」と思う方が多いのではないでしょうか?実際、年齢を重ねるほどに眠れないことに悩んでいる方が増えているのが現状です。そうなった時、睡眠の妨げになっている原因をひとつひとつ排除していくことが重要です。そして、仮に途中で起きてしまっても、すぐ寝られるような状態にすることや、眠れなくなる要因を最小限に抑えていくことが、‟良い睡眠”への近道だと言えます。
人生の約3分の1もの時間を占める「睡眠」。残りの3分の2の活動時間を充実させるには、睡眠の質がモノを言います。ただ、そればかりに捕らわれてしまうと逆にストレスとなって睡眠に影響することもありますので、今回ご紹介した方法をできる範囲で無理なく取り入れ、睡眠の変化を実感してみてください。