「今はパートナーがいないから、子どもについては何も考えていない」
「子どもはいつか持ちたいけれど、結婚してから健康管理すれば良いかな」
「将来のライフプランについて、パートナーと話し合えていない」
このような方は、この記事を読んで、ご自身やパートナーの健康管理について考えてみませんか?
妊娠前の健康管理という意味を持つ「プレコンセプションケア」が、近年重要視されています。
女性も男性も、若いうちから健康管理を心がけることで、将来の妊娠・出産の成功率を上げたり、自身の健康寿命を伸ばしたりすることにつながります。プレコンセプションケアの重要性や今から実践できることを、具体例も交えて見ていきましょう。
- プレコンセプションケアとは、妊娠前の健康管理という意味。対象は妊娠可能な女性やそのパートナー、周りの人全員。
- 思春期から健康・性・妊娠についての知識を正しく持つことで、健全な妊娠・出産を増やし、次の世代への健康へと繋げることができる。
- 妊娠前の健康管理によって、男女ともに不妊のリスクを減らすことができる。
- 今からできるプレコンセプションケアには、ライフプランと生活習慣の見直しや検診を受けることなどが挙げられる。
プレコンセプションケアとは?
そもそもプレコンセプションケアとは何なのか、なぜ大切なのかという点を解説していきます。
プレコンセプションケアの意味
プレ(Pre)は「~の前の」、コンセプション(Conception)は「妊娠・受胎」という意味で、プレコンセプションケアは「妊娠前の健康管理」という意味を持ちます。女性だけでなく男性も対象であり、将来の妊娠を考えている女性やカップルが自分たちの健康に向き合うケアとして、近年注目されています。
平成30年に交付された成育医療等基本法(生育基本法)の見直しが2021年に行われ、プレコンセプションケアの体制を整備する動きが始まりました。思春期の体や性、妊娠などの悩みに対応するサイト「スマート保険相談室」の設置や、妊娠を望む女性やカップルに対する相談や支援を行う「性と健康の相談センター事業」の自治体設置などが始まっています。
プレコンセプションケアの考えが世界的に普及した背景とその重要性
プレコンセプションケアの始まりは、2006年のアメリカの機関CDCが提唱したプレコンセプション・ヘルスケア(妊娠前の健康管理)からです。
当時のアメリカでは、出産年齢の高齢化だけでなく、未婚での出産、意図しない妊娠が社会問題となっていました。意図しない妊娠では、性感染症やエイズ、子宮頸がんの発症や人工妊娠中絶、流産の割合も高まり、女性の死亡率が高いことも問題です。
また、日本では出産の高齢化や女性のやせや肥満、喫煙などによる、赤ちゃんの先天異常・低出生体重児・流産・早産につながっています。そのため、妊娠前や思春期から、男女ともに性や妊娠に関する知識を正しく持つための取り組みとして、日本でも「プレコンセプションケア」がスタートしたのです。
プレコンセプションケアにまつわるよくある疑問
プレコンセプションケアという言葉をまだ聞きなれていない方も多いのではないでしょうか。
以下では、プレコンセプションケアの必要性について、よくある疑問とともに解説します。
プレコンセプションケアはなぜ必要?
厚生労働省の運営する「スマート・ライフ・プロジェクト」サイトでも、プレコンセプションケアを推進しています。このサイトでは、プレコンセプションケアの目的として次の3つを掲げています。
①若い世代の健康を増進し、より質の高い生活を実現してもらうこと
②若い世代の男女が将来、より健康になること
③ ①の実現によって、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やし、次世代の子どもたちをより健康にすること
引用元:「プレコンセプションケア」をみんなの健康の新常識に | 健康イベント&コンテンツ | スマート・ライフ・プロジェクト
妊娠前の生活スタイルの乱れ・生活習慣病・肥満・やせ・出産年齢の高齢化などの要因によって、先天異常や低出生体重児、早産のリスクが高まります。
赤ちゃんの臓器の形成は早く、受精後22日で心臓は動き始め、28日までに神経も形成されるためです。妊娠に気がついてからケアするのではなく、妊娠する前から自身の健康管理を行う必要があるでしょう。
プレコンセプションケアの対象は女性だけ?
プレコンセプションケアは妊娠を希望する女性だけのものと思われがちですが、妊娠する(妊娠させることができる)可能性がある全ての人、女性だけでなく男性も対象となります。
プレコンセプションケアでは、女性のより健全な妊娠をひとつの目的にしているものの、他にも次のようなケアが必要とされています。
- 望まない妊娠を防ぐ:人工中絶による心身の負担や子どもの貧困、児童虐待を防ぐ
- 月経関連疾患のケア・予防:女性の仕事・生活上の生産性や妊娠率の低下を防ぐ
上記は一例ですが、プレコンセプションケアにより、若い世代の健康と生活の質の向上につながります。プレコンセプションケアは、女性も男性も、若い世代に関わる周りの方々、全ての人に知ってほしい考え方です。
プレコンセプションケアにおける男性の役割
プレコンセプションケアは、妊娠を望むカップルは特に重要視する必要があります。現在、不妊の原因は女性側と男性側に半分ずつあると言われています。男性も妊娠について正しい知識を持ち、妊娠に向けて健康を見直していくことが大切です。
また、女性の望まぬ妊娠や性感染症、妊婦さんへの風しん感染など、女性・胎児の健康を損なうリスクを減らせるよう、男性自身の性に関する知識不足解消や感染症予防の対策も重要です。
性別に関係なくプレコンセプションケアに関心を持ち、自身や周りの健康へ配慮できるようにしていきたいですね。
プレコンセプションケアの主な目的
ここでは、プレコンセプションケアの目的や必要性について具体的に見ていきましょう。
妊娠にまつわるリスク軽減
プレコンセプションケアにより、妊娠に関わるリスクを軽減できる可能性があります。妊娠・出産には年齢によるリミットもあるため、若いうちから将来に向けて健康的な妊娠ができるようにケアしていきましょう。
不妊のリスク
妊娠を望む女性の方にとって、最も心配なことは「無事に妊娠できるかどうか」ではないでしょうか。いざ、パートナーと妊娠を希望して行動に移しても、なかなか妊娠できない不妊の状態に悩む方もいます。
不妊の原因は数多くありますが、女性側の原因としては稀発月経や無月経などの排卵障害や、クラミジア感染などによる卵管の炎症、一部の子宮筋腫、加齢に伴う卵子の質の低下などが挙げられます。また、男性側の原因としては、精子の数や運動率が少ないことや、勃起不全、精子の通り道が封鎖され精液中に精子が無いなどが多いようです。
これらの原因は若い世代にもあり得るため、普段から生理不順や生理痛、性交渉にまつわる悩みがあれば、専門家に相談してみましょう。また、カップルの場合には将来のライフプランを早めに立てて、加齢による不妊のリスクを減らしていきましょう。
リスクのある妊娠の増加
妊娠前の健康状態によって、妊娠・出産のリスクが増えることがわかっています。
例えば、妊娠前のBMIが18.5未満の「やせ」の状態である場合、出生児の体重が2500g未満の低出生体重児になるリスクが、通常より1.5倍高くなったというデータがあります。
低出生体重児は生まれた後に医療ケアが必要になることが多く、発達の遅延や成人後の健康リスク、保護者や本人が困難を抱える可能性も高まります。また、妊娠前からの喫煙や妊娠中の飲酒によっても低出生体重児のリスクが上がると言われています。
女性がたばこを吸わなくても、受動喫煙によりリスクは上がるため、パートナーや同居家族の喫煙状況にも注意が必要でしょう。
さらに、年齢を重ねることにより卵子や精子の質の低下が認められ、染色体異常による不妊や流産、赤ちゃんの疾患のリスクが上がります。
質の高い生活の維持
プレコンセプションケアによって、自身の健康管理をすることで生涯にわたって質の高い生活を得られるようになるでしょう。
早いうちに将来のライフプランを立てることで、妊娠・出産以外のキャリアや趣味に集中する期間を増やすことにもつながります。健康管理をすることで自身の生活習慣病をはじめとした疾患の予防や早期発見もできるため、将来の健康寿命を伸ばすことにも役立つでしょう。
カップルはもちろん、現在パートナーがいない方も、今のうちから健康管理に気を遣う姿勢が大切です。
今すぐ実践できるプレコンセプションケア
「プレコンセプションケアって難しそう」と感じてしまいますが、実際は普段の生活習慣の見直しから始められます。ここでは、今から実践できるプレコンセプションケアについて紹介します。
妊娠出産を含めたライフプランを考える
自分は子どもを持ちたいのか、持つとすれば何歳で妊娠・出産をしたいのか、仕事のキャリアはどうするかなどを考えてみましょう。女性も男性も、どんなに健康であっても年齢を重ねるにつれて妊娠率は低下します。将来の自分が後悔しないためにも、現実的なライフプランを若い段階から考えることが大切です。
また、パートナーがいる場合には、自身のライフプランをパートナーに共有して話し合いをすることが重要です。どちらかが子どもを持つことを考えていない場合や、子どもを持ちたい時期に相違がある場合には、お互いが納得できる着地点を探していく必要があるでしょう。
定期的な健康診断を受ける
妊娠・出産に影響を与える生活習慣病などの疾患は、多くの場合、自覚症状はありません。職場や自治体による健康診断は必ず受けるようにしましょう。女性の場合には婦人科検診や歯科検診を受けることもおすすめです。
例えば、子宮頸がん検診は20歳から2年に1回の頻度で受けるように推奨されています。また、妊娠中は口内環境が悪化するため、早めのケアが肝心です。
女性の場合はかかりつけの婦人科を決めておくと、検診や不安点の相談がしやすいでしょう。
風しんなどのワクチン接種漏れがないか確認する
妊娠中の感染症は、赤ちゃんの健康に影響を与える可能性があります。妊娠前のカップルはワクチンの接種漏れがないかよく確認しておきましょう。
特に、風しん・梅毒トレポネーマ・クラミジアなどは、母子感染すると赤ちゃんの発育異常や先天性の疾患を引き起こすことがあります。
風しんは感染者の7割以上が男性で、その8割が20〜40歳代です。風しんが妊娠中の女性に移ると、赤ちゃんの難聴・心疾患・白内障などの障害が出る「先天性風しん症候群」になる可能性があるため、風疹の予防接種を男女ともに受けておきましょう。妊娠中の女性は予防接種が受けられないため、妊娠前に抗体を持っているか確認しておくことが重要です。
運動を取り入れて適正な体重をキープする
運動不足は適正体重の維持が難しくなるだけでなく、体力や筋力の低下につながります。生活習慣病の原因にもなるため、将来の妊娠・出産や生活の質の向上に向けて適度な運動を心がけましょう。
運動不足の方は歩く量を増やしたり部屋の中での軽い筋力トレーニングをしたりすることからでもかまいません。日常的に体を動かす習慣をつけていくようにしましょう。
女性の場合、BMI18.5〜24.9が適正体重の範囲です。やせは低出生体重児のリスクや胎児の生活習慣病のリスクが、肥満は妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群のリスクが高まります。また、男性も肥満や動脈硬化により精液の異常や勃起不全といった男性不妊症の可能性が上がるため、日頃から体を動かすようにしましょう。
栄養バランスの良い食事摂取
主食・主菜・副菜のバランスが取れた食事を心がけることも大切です。特に、若い女性はタンパク質やカルシウムなどが不足した「低栄養」の傾向があります。
また、妊娠中に不足しがちな葉酸は妊娠前から積極的に摂取することが推奨されています。葉酸は胎児の細胞分化において重要な栄養素です。ブロッコリー・ほうれん草・納豆などに豊富に含まれていますが、サプリメントからの摂取もおすすめです。
プレコンセプションケアにおける栄養補給では、妊娠中も継続して飲めるようなサプリメントを選ぶと良いかもしれません。男性も、栄養の偏りがないようにサプリメントを補助的に使ってみるのも良いでしょう。
生活リズムを整える
生活リズムを整え、ストレスを減らしながら生活することも大切です。乱れた生活リズムや強いストレスは自律神経やホルモンバランスを乱れさせ、体調を崩しやすくなります。睡眠不足や抑うつ症状などを引き起こすきっかけにもなるため、日頃から生活リズムを整えることを意識していきましょう。
毎日の起床・就寝時間・食事の時間をある程度決めておくと生活リズムが整いやすいです。また、自分に合うリフレッシュ方法を見つけて、こまめにストレス解消をするようにしましょう。何をストレスに感じるかは個人差があるため、ストレスが続くと出てくる危険信号のサインを把握し、自分が無理をしなくて良い方法を見つけていけると良いでしょう。
喫煙・飲酒は控える
将来の健全な妊娠・出産を望む場合には、特に喫煙や飲酒には注意が必要です。
喫煙は流産や早産、低出生体重児などのリスクを高めるため、少なくとも妊娠前には禁煙し、受動喫煙の環境からも離れることをおすすめします。パートナーや同居家族も妊娠中の女性の前では喫煙しないよう配慮しましょう。
また、妊娠中の飲酒は低出生体重児や赤ちゃんの顔面を中心とした形態異常、脳障害の原因にもなります。少量の飲酒でも影響を与えるため、妊娠の可能性があれば完全に禁酒するようにしましょう。
女性は男性よりもアルコールのダメージを受けやすい傾向があると言われています。妊娠の可能性がなくても、純アルコール10g/日(アルコール度数5%のビールなら250ml、ワインなら100ml)以下に控えましょう。男性も過度の飲酒は不妊の原因になるため、パートナーと一緒に飲酒量を控えることをおすすめします。
プレコンセプションケアにまつわる社会的制度
国立成育医療研究センターでは、プレコンセプションケアセンターを設置し、妊娠を考える女性やカップルを対象に医師や管理栄養士によるカウンセリングなどを実施しています。
カウンセリングは対面とオンラインが選べるため、仕事やプライベートで忙しい方でも手軽に利用できるでしょう。また、ご自身でプレコンセプションケアについてチェックできるプレコン・チェックシートもサイトからダウンロードできます。
さらに、自治体によっては、プレコンセプションケアにまつわる検査費用の助成制度を設置しています。例えば、東京都では妊娠・出産をこれから考えている18〜39歳の都民は、尿・血液検査や感染症検査、性ホルモン検査、経膣超音波検査(女性)、性液一般検査(男性)などの複数の検査で助成金を申請できます。
都が指定する「TOKYOプレコンゼミ」への参加や登録医療機関で検査を実施する必要があるなど、いくつかの要件を満たす必要がありますが、女性では上限3万円、男性では上限2万円を助成してもらえるため、気になる方は東京都のサイトを調べてみましょう。なお、東京都の助成制度はパートナーの有無に関係なく申請できます。
プレコンセプションケアの一環として卵子凍結という選択肢も
プレコンセプションケアの1つとして、卵子凍結をするという選択肢もあります。どれだけ健康管理を徹底していても、加齢による卵子の質の低下は避けられません。特に、現在パートナーのいない女性の方は検討してみると良いでしょう。
卵子凍結とは
卵子凍結とは、自身の卵子を採取(採卵)して、マイナス196℃の液体窒素の中で凍結保管しておくことです。
卵子の質は年齢とともに低下します。若いうちに質の良い卵子を保管しておくことで、将来の妊娠率を上げられる可能性があります。
卵子凍結はパートナーがいない方が行うことが多く、パートナーとの妊娠を望んだタイミングで卵子の凍結を融解して体外受精することが可能です。
ノンメディカルな卵子凍結
卵子凍結をする理由には医学的なものと社会的なものがあります。医学的な卵子凍結とは、婦人科系のがんなどの治療により妊孕性(にんようせい:妊娠するための機能)が失われてしまう場合に、卵子や卵巣組織を凍結保管することが該当します。諸外国ではがん治療前の理由以外にも子宮内膜症や早発卵巣不全という医学的適応の卵子凍結もありますが、現在の日本では医学的な適応の卵子凍結はがん治療前に限られています。
ノンメディカルな卵子凍結は特にがんや卵巣疾患もないけれども年齢よる妊娠率の低下に備えたものでプレコンセプションケアに該当するものです。
卵子凍結に関しては、いずれの理由でも保険適用外となりますが、医学的な卵子凍結の場合とノンメディカルな卵子凍結の場合それぞれに適した助成制度が準備されています。
東京都では、卵子凍結にかかる費用の助成が2023年9月から始まっています。大阪府の池田市でも、2024年4月1日以降に採卵を実施した方は卵子凍結の費用の助成を申請できるようになりました。ただし、すでに不妊症の診断があり、不妊治療の一環として卵子凍結をした方は保険が適用されるため、これらの助成は対象外となります。
卵子凍結なら卵子凍結保管サービスの「グレイスバンク」
卵子凍結をすると、基本的には採卵〜凍結保管〜体外受精まで同じクリニックで行うことが基本となりますが、卵子の凍結保管に特化したサービスを選ぶことで、採卵時とは別のクリニックで体外受精ができることもあります。
「卵子凍結保管サービス グレイスバンク」は全国の婦人科クリニックと提携しているため、転居があった場合でも、提携先のクリニックを選んで体外受精を行うことができます。
また、医師や卵子凍結経験者によるセミナーも実施しているため、卵子凍結についての不明点を解消してから卵子凍結に臨めます。
卵子凍結も行っているグレイス杉山クリニックSHIBUYAの岡田院長へのインタビュー記事も参考にしてみてください。
おわりに
プレコンセプションケアで自身やパートナーの健康管理に気を遣うことで、将来の妊娠・出産・キャリア・ライフプランを前向きに考えられるようになります。
子どもを望む方もそうでない方も、健康的で充実した生活をいつまでも続けられるように、ご自身の健康について考えてみてはいかがでしょうか。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。