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睡眠環境の第一人者が伝授。朝まで快眠を手に入れる寝室の暖房活用術

睡眠環境の第一人者が伝授。朝まで快眠を手に入れる寝室の暖房活用術
水野 一枝

監修者

和洋女子大学家政学部服飾造形学科准教授

水野 一枝

東邦大学医学部生理学第一講座、獨協医科大学第一生理学教室、産業技術総合研究所NEDOフェロー、東北福祉大学感性福祉研究所特任研究員を経て現職。専門分野は被服衛生学、睡眠温熱環境、睡眠時の体温調節など。寝衣、寝具、暑さ寒さ等の睡眠環境が睡眠に及ぼす影響、快適で安全な寝具など、睡眠環境に関する研究を行う。NHK『あさイチ』をはじめとするメディア出演も多数あり。

手足が冷えて眠れない、朝方寒くて目が覚めてしまう、布団から出たくない、など、睡眠の質は寒さに左右されがちです。そして、寒さが厳しくなると暖房をつけても寝室がなかなか温まらなかったり、温まっても乾燥して寝苦しさを感じたりすることもあります。本記事では、睡眠に関する研究を行う「和洋女子大学」准教授・水野一枝先生に、快適に朝まで過ごせる暖房器具の正しい使い方や注意点をうかがいました。これを機に、冬の睡眠環境を見直してみましょう。

就寝時に暖房を使わない人は7割以上も

就寝時に暖房を使わない人は7割以上も

2022年パナソニック「エオリア」調べ(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000726.000024101.html

ここ数年続く記録的な猛暑の影響で、夏にエアコンをつけて就寝するのはもはや当たり前の行為になったのではないでしょうか。熱中症の恐れもあることから、メディアを中心に「睡眠時には必ずエアコンを入れましょう」と注意喚起されることが多いため、夏の睡眠環境への意識は自然と高まっています。

しかし、冬の睡眠環境への関心は夏ほど高くなく、20代から60代の男女を対象に行なったアンケートによると、「冬に暖房を使用しない」と答えた人が7割以上いるというデータも。就寝時に暖房を使わないというのが一般的といっても過言ではありません。冬は、寝具や身につけるもので調節できるのでつけなくても問題ない、もしくは寒くても乾燥が気になってあえてつけない、という方も多いのが現状です。

確かに冬の方が寝苦しい夏よりも眠れているのは事実です。私たちが行った研究で、若い男性で寝具の保温性が十分であれば3度くらいまでなら寝ていられる、という結果が出ているほどで、ある程度の寒さなら耐えられるのです。ただ、たとえ眠れていたとしても、低い気温の中で起床することで心臓への負担が心配されます。自分で実感しにくいからこそ、冬の睡眠には特に注意が必要と考えています。

起床時の‟ヒートショック現象”に注意を

起床時の‟ヒートショック現象”に注意を

寒い環境での就寝には、自分では気づきにくい危険が隠れていると水野先生はいいます。

体をリラックスさせる副交感神経の活動は、寒いところで眠ると必要以上に活発になってしまいます。リラックスしているなら問題ないと思われがちですが、そうではないのです。

通常、睡眠時は徐々に副交感神経活動が弱まり、次に交感神経活動が優位になることで体が目覚めるという仕組みになっています。しかし、副交感神経の活動が活発で、ずっとリラックスしているという状態から一気に起きて交感神経へ切り替えようとすると、その急激な変化によって心臓への負担が大きくなってしまう恐れがあります。このような現象がいわゆる“ヒートショック現象”と呼ばれるもの。特に高齢者の方は夜中にトイレに起きることも多いので、より一層注意していただきたいですね。

朝までぐっすり。正しい暖房の使い方と今日からできること

朝までぐっすり。正しい暖房の使い方と今日からできること

寒さが厳しくなってなかなか寝付けない日が続いても、室内の乾燥や高い電気代のことが気になって、暖房を付けるのを躊躇してしまう…なんてことはないでしょうか?

“起床時のヒートショック現象”を避けるためにも覚えておきたい、暖房を入れる基準や賢い使い方、さらには今日から実践できる睡眠環境の整え方を水野先生に教えていただきました。

室温は“10度を下回らないこと”を基準にする

一般的に冬の寝室は、室温20℃前後、湿度は40~60%が理想と言われています。

温度に関しては、感じ方や耐性は人それぞれですよね。なので、必ずしもこの室温に合わせる必要はなく、エアコンを一晩中つけっぱなしにする必要もないと考えています。
ただ、先ほどお話しした「起床時のヒートショック現象」を起こさせないためにも、私がエアコンをつける基準としているのが、‟室温が10度を下回りそうならつける”ということです。その場合は朝までつけたままにするのがおすすめです。一晩中エアコンを使用するのが難しければ、起床する時間帯にタイマーでエアコンをつけて部屋を温めると良いでしょう。
また、肌の乾燥やのどの痛みなどが気になる方も多いと思います。乾燥が気になる方は加湿器を寝室に置いて、起床時までつけたままにするといいですね。

高齢の方や心臓が弱い方は特に、部屋の温度は10度以上にするよう上手に暖房を活用してください。

布団で調整できる環境を

就寝時に熱いと感じた時、布団を剥いだり、手足を布団から出したりと、人は無意識に体温調整を行なっています。そのため、冬物のパジャマや下着は厚手で着脱が難しいため、布団で調整することが望ましいといえます。

布団に関しては、寒い時に、上に掛けるものを増やそうとしがちですが、体の下に敷くものを変えてみるのもおすすめです。一般的な平織りの綿素材のシーツはヒヤッと冷たく感じやすいので、厚みのある柔らかいガーゼ素材にするだけでも暖かく感じます。
また、人は“柔らかさ”に暖かみを感じやすいので、固めのマットレスやベッドパッドを使っている方は、冬の間だけ柔らかめのものに変更するというのも効果的ですよ。

足が冷えて眠れない、という方は圧倒的に寝具の暖かさが足りていないことが多いので、そのあたりを見直してみて下さい。

布団を寝る前に温めておくと効果的

足の冷えが原因で夜の寝つきが悪くなってしまう方も少なくありません。特にそうした方におすすめなのが、事前に布団を温めておくことです。

就寝する30分から1時間くらい前に電気毛布などを使って布団の中を暖ためておくと、2、3時間はその状態が保たれるので眠りにつきやすいと思います。まず足元を暖ためてあげることが大切なので、もし電気毛布を使うのであれば、ベッド全体ではなく足元のみでも十分効果が得られます。下から上に熱が徐々に届いてくるので布団全体が暖まるはずですよ。
また、寝返りを打つ時にどうしても冷たい空気が入ってきてしまうので、しっかりと首元が閉められるパジャマやインナーだと良いですね。また、袖と裾を絞ったデザインだと空気が入り込みにくいのでおすすめです。

起床1時間前から部屋を温めておく

室温が10度以下にならなくても明け方はグッと気温が下がります。寒くて起きられないという方には辛い時間帯です。また、起床時のヒートショック現象も心配になります。

起床する1時間ほど前から暖房のタイマーをセットしておくと、徐々に部屋が暖まるため身体への負担も軽減され、スムーズに起きられます。暖房をつけっぱなしにすると電気代が気になりますが、タイマーを活用することで電気代の節約にもつながります。
また、冬は日が昇る時間が遅く、寝室が暗いままなので起きられないのかも知れません。上手に「光」を活用するのも良いでしょう。最近では徐々に明るくなるLEDライトなどがありますので、そういったものを取り入れてみてください。

暖房を付ける目安になる‟睡眠指数”とは

暖房を付ける目安になる‟睡眠指数”とは

出典:日本気象協会

水野先生は2018年に「日本気象協会」とともに睡眠のとりやすさやエアコンを使用する目安を表す「睡眠指数」を開発し、天気予報専門メディア「tenki.jp」で公開しています。

気温や湿度から割り出した睡眠環境の予測を、‟よく眠れそう”から‟暖房は必須!”まで5段階でレベル分けしています。暖房をつけようか迷った時、朝だけつけよう、とか、一晩中つけっぱなしにした方がいいな、という目安になってくれます。向こう9日間をお住まいの市レベルまで見られるようになっていますので、ぜひ活用してみてくださいね。

冷え込む日にやりがちなNG習慣

暖房の有無に関わらず、暖かい状態で眠りにつきたいと誰しも思うことです。しかし、寝る前や就寝中に良かれと思い取り入れていることの中には、実は間違った行為ということも少なくありません。

もこもこした厚手のものや化学繊維のパジャマを着る

軽くて肌触りの良い合成繊維のものや、温かさを重視した厚手のパジャマはついつい選びがちですが、注意が必要だといいます。

就寝中暑いと感じた時、寝具なら一枚剥ぐなどの調整が出来ますが、寝ている時にパジャマを脱ぐのは難しいですよね。なので、あまり厚手のものは避け、寝具で調整することを心がけて欲しいです。

合成繊維素材の冬の部屋着やパジャマは定番ではありますが、まず汗を吸いにくいので、汗をかいた時にかえって身体が冷えてしまう恐れがあります。さらに、静電気を起こしやすい素材のため、寝具の組み合わせによっては寝返りを打った時に”パチパチ!”となるのが心配です。100パーセントでなくても良いので、綿などの天然素材が含まれているものを着るのが望ましいです。

また「靴下を履いたまま寝るのはNG」とよく言われますが、足が冷えると寝つきが悪くなるため、靴下を履いて寝ても問題ないと考えています。ただ、暑くなった時に布団の中で脱げるようにゴムの締め付けがきついものは避け、ゆったりとしたものを選ぶと良いでしょう。

就寝前に熱めの風呂に入る、シャワーで済ます

1日の疲れを癒やし、リラックスするのに役立つのが入浴ですが、入る時間や温度によっては交感神経活動が活発になって目が覚めてしまい、寝付きに影響が出てしまう可能性があります。より良い睡眠につながる入浴はどのようにすれば良いのでしょうか?

入浴は、最低でも就寝の30分から1時間前に済ませるのが望ましいです。感じ方に個人差はありますが、少しぬるめと感じる温度で10分から20分程度ゆっくり体を温めるとより良い睡眠につながると思います。ただ、寒さもあって熱い温度のお湯に入りたいと思う方もいらっしゃいますよね。もし熱めのお湯に浸かりたい時は就寝の2時間前までに済ますと良いでしょう。

電気毛布の電源や湯たんぽを入れたまま就寝

電気毛布やよりエコな湯たんぽを取り入れている方も、使い方によっては要注意です。

電気毛布の電源をいれたまま寝てしまったり湯たんぽを入れっぱなしにしたりすると、脱水症状や低温やけどの恐れがあるので注意してください。このように布団の中を温める器具を使う場合は、いずれも寝る前に温め、就寝時は電気毛布の電源を切る、湯たんぽは布団から出すようにし、安全に使用してください。

上手に暖房を活用して、快適な睡眠環境を整えよう

上手に暖房を活用して、快適な睡眠環境を整えよう

身体が冷えてなかなか眠れない、明け方の寒さが原因で起きられないなど、冬の睡眠について感じる不快感はいくつかあります。しかし、“心臓への負担”については自分では意識しにくいため、率先して睡眠環境を整えることが大切です。

睡眠の質への関心は夏に目を向けられがちですが、冬も軽視できない危険が潜んでいます。まずは室温が10度を切ったら暖房を付けることや、寝具やパジャマを見直してみるなど、体への負担を減らし、朝まで快適に眠れる環境を整えていきましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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