気温が下がる11月から要注意なのがヒートショック現象。自宅の浴槽で亡くなったまま発見される高齢者のニュースも少なくありません。毎日のお風呂をより安全・快適にするために、そして大切な家族や自分自身を守るために、どのようなことが原因で入浴関連事故が起きてしまうのかをまず知っておくことが大切です。
ヒートショックになりやすい人、いますぐできる予防策についてお風呂教授こと石川泰弘さんに聞きました。
冬に高齢者の入浴事故が多いのはなぜ?
気温が低下するこの時期は入浴中に意識を失い、そのまま浴槽内で溺れて亡くなるという不慮の事故が増える傾向にあります。
特に65歳以上の高齢者の死亡事故が多く、毎年11月から4月にかけて多く発生しています。厚生労働省人口動態統計(令和3年)によると、高齢者の浴槽内での不慮の溺死及び溺水死亡者数は4,750人で、交通事故死亡者数2,150人のおよそ2倍です。冬場こそ入浴時の注意が必要です。
出典:消費者庁「 冬期に多発する高齢者の入浴事故(令和元年」 「高齢者の不慮の事故」
寒くなったら要注意!ヒートショックとは?
出典:政府広報オンライン
入浴時の事故が多くなる原因のひとつは、急な温度差による血圧の急激な変化で、ヒートショックといいます。
温かい場所から寒い場所へ移動すると、交感神経が優位となり、身体の熱を逃さないようにするため全身の血管を収縮させることで血圧が上昇します。逆に寒い場所から温かい場所へ移動すると、血管が広がり血圧が下がります。
急激な温度変化によって血圧が上昇と低下を繰り返すことで負担がかかり、心筋梗塞や不整脈、脳出血・脳梗塞を誘発します。自宅内では暖房の効いたリビングから移動した先の廊下やトイレ、お風呂で頻発します。
ヒートショックになりやすい人とは?
ヒートショックが急激な温度変化によって引き起こされることがわかりました。次に、ヒートショックになりやすい人に焦点を当ててみていきましょう。
高齢者(65歳以上)の方
統計的にもヒートショックを起こす方の多くは65歳以上の高齢者が大半を占め、中でも75歳以上の割合が特に高くなっています。 高齢者は血管の柔軟性が低下し、急激な温度変化に対応する力が弱いため、ヒートショックになりやすいのです。
高齢者は皮膚感覚の鈍化によって、温度変化を感じにくくなっている点も、ヒートショック及び入浴関連の事故が多いひとつの要因になっていると考えられています。
高血圧心血管系の疾患を持つ人
高血圧、心筋梗塞、脳梗塞などの疾患を持つ人も、ヒートショックのリスクが懸念されます。高血圧の方は、元々血圧も高いため血圧の変動も大きくなりやすく、また動脈硬化を伴っていることも多いため、血圧の変動に伴い心臓や脳への血流が低下しやすくなります。
薬で血圧を管理している場合でも、大幅な変動には対応が難しいといわれています。
糖尿病患者
糖尿病を持つ人は自律神経の調節障害を伴っていることがあり、その影響でどうしても血圧も不安定になりがちです。温度変化への適応が遅れ、血圧が不安定になりやすいため、ヒートショックに注意が必要です。
浴槽から出ようと立ち上がったときに、血圧が急に下がりやすいので要注意です。
アルコール摂取後の人
飲酒後の入浴にも注意が必要です。飲酒によって血管が拡張し、一時的に血圧が下がっている状態のため、寒暖差でさらに血圧が乱れやすくなります。アルコールで意識が低下しているため、異常を感じにくいことも、危険性を高めます。
また、飲酒の利尿作用により脱水傾向となり、この点も血圧低下の一因となるでしょう。
肥満型の人
肥満型の方は、新血管系に負担がかかりやすく、血管の反応が鈍くなるためヒートショックのリスクが高まります。
体重が重いと、心臓への負担が大きくなるため、急激な温度変化には特に注意が必要です。健康的な体重を維持することが重要です。
運動不足の人
日頃の運動不足により血流が悪化していると、血圧の調整機能が弱くなり、温度差で生じる血圧の変動に、体がうまく対応することができません。
生活習慣病予防も兼ねて、日常的に体を動かす習慣を身につけておくことが大事です。
冷えやすい住環境にある人
脱衣所や浴室に暖房設備がない場合もヒートショックが生じやすいです。浴室や脱衣所は室内でも気温が低下しやすく、ヒートショックが起こりやすい場所といえます。暖かい室内から冷えた浴室に入ることで、急激な寒暖差によりヒートショックが起きることがあります。
特に旧家屋は断熱性能が低いため、ヒートショックの発生リスクが高まる傾向にあるので注意しましょう。
熱いお風呂や一番風呂が好きな人
一番風呂や42℃以上の熱いお風呂が好きな人もヒートショックに気を付けた方が良いでしょう。熱いお湯につかると一時的に血圧が上昇しますが、その後は血管が拡張して血圧が低下します。冬の一番風呂は浴室の温度も低く、湯温が高いと温度差も大きくなります。
温度が高いほど血圧の変動が激しくなり、結果としてヒートショックが生じやすくなるため、十分に注意して入浴しましょう。
いますぐできるヒートショック対策
高齢者中心とはいえ、ヒートショックは私たちの身近に潜むリスクです。「若いから自分は大丈夫」などと過信せず、自分にも起こりえるという意識を持つことが大切です。安心してお風呂を楽しむために、身につけておきたいヒートショック対策をご紹介します。
入浴前に脱衣所や浴室を暖めておく
温度の急激な変化を避けるため、入浴前に脱衣所や浴室を暖房器具で暖めることで、血圧の変動を抑えることができます。特に風の吹き込む窓まわりは熱が逃げやすいので、内窓を設置するのも効果的です。
また、浴槽のお湯を入れる際、高い位置からシャワーで給湯すると、蒸気で浴室全体が暖まります。自動給湯の場合は、最後の5分をシャワーで給湯するだけでも浴室を暖める効果があります。 同時に、湯につかる前に入念なかけ湯を行って温度差を軽減しておくのもおすすめです。
湯温は40度以下、お湯につかる時間は10分を目安にする
半身浴でも長時間入浴すれば、体温が上昇するので気をつけましょう。 また、今流行の高温サウナは、室内での温度差もあり、高齢者や生活習慣病のある方は注意が必要です。
湯温は40度以下、湯船につかる時間は10分未満を目安にしましょう熱い湯に浸かると血圧変動が大きく、また長時間の入浴で脱水すると、意識障害を起こし、浴槽から出られなくなるなど溺水やショックによる心停止の危険性があるとのデータがあります。
入浴前に水分補給を心がける
水分不足になると、血液の粘度が上がり血管に負担がかかりやすくなります。 その状態で入浴すると、ヒートショックのリスクが高まることも。 こまめな水分補給を心がけるとともに、入浴前にコップ一杯のお水を飲むようにすると、リスクの低下につながります。
食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴は避ける
食事直後や飲酒時は、血圧が下がり、意識障害が起こる可能性があります。溺水やショックによる心停止の危険性があるので注意が必要です。 薬を服用している人は医師・薬剤師に入浴のタイミングを確認しましょう。
お風呂に入る前に、同居する家族にひと声かける
異変の発見が遅れると死亡事故につながることがあります。可能な場合は、家族の見守りがある時間や公衆浴場などを活用し、一人での入浴を控えましょう。また、家族に一言声をかけてから入浴したり、高齢者と同居する家族は定期的に声をかけるなど、動向に注意するようにしましょう。
一人暮らしの場合は外部と連絡がすぐ取れるように携帯電話を近くに置いておくようにしましょう。
ヒートショックが起きた場合の対処法
もし、ヒートショックが起きた場合はどのように対処すればいいのでしょうか?自分に起きた場合と、倒れた人を見つけた場合の対処法についてご紹介します。
自分に起きた場合の対処法
めまいや立ちくらみを感じたとき、あわてて立ち上がるのは危険です。浴槽にいる時は温熱の影響もあり、血管が広がり血圧が低い状態になっています。普段は立ち上がると自律神経が働き血圧を調整するのですが、ここで急に立ち上がると調整が遅れて脳への血流が減少しやすくなります。その結果、貧血を起こして倒れるリスクが高まります。
めまいや立ちくらみを感じた時は、焦らず、ゆっくりと身体を動かし、浴槽から出ましょう。
倒れた人を見つけた時の対処法
呼吸しているが意識がない場合は、舌の付け根が喉をふさいで窒息しないように横向きにして気道を確保し、救急車を呼びましょう。救急車を待つ間は、バスタオルをかけるなどして体温が低下しないようにしましょう。
入浴環境の見直しと日々の体調管理でヒートショックを予防しよう
ヒートショックから身を守るために、できる限り家の中を暖かくし、部屋間の温度差を小さくする対策をしましょう。脱衣所に限らず、トイレなど温度が低くなりやすい場所に暖房器具を設置することや、内窓を取り付けて熱を逃しにくくすることが有効です。
また、体調に異変を感じた時には、無理せずお風呂を控えるのも賢明な策。ヒートショックを自分事として意識し、決して無理しないことが、ヒートショックを防ぐためには重要です。しっかり対策すれば予防できますので、「自分は大丈夫」と過信はせずに、細心の注意を払って冬のお風呂を安全に楽しみましょう。
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