不動産・株式投資、いずれも20年選手のベテランであるキャイ~ンの天野ひろゆきさん。投資のうまみも大失敗も経験してきました。
そんな天野さんが不動産投資を始めたのは、たった一枚のチラシがきっかけだったそう。また、不動産投資料理や家電、ゲームなど多趣味な天野さんは、「よその人がすすめる知らない銘柄よりも、自分が本当に面白いと実感できる企業や銘柄を信じて、投資を続けてきた」と言います。浮足立つことのないお金との付き合い方には、これから投資を考える方が肝に銘じておきたいヒントがたくさんありました。
《インタビュー》

天野ひろゆき
1970年、愛知県生まれ。1991年、ウド鈴木とともにお笑いコンビ・キャイ~ンを結成。2013年には、著書『ウドちゃんでもわかる マネー芸人・天野っちの「アマノミクス」的蓄財術』を上梓。発売から10年以上経った今でも、投資に対する心構えやお金の価値観について考えさせられる内容となっている。『ザ・マネー「天野ひろゆきと松園勝喜の今だから聞きたい投資な世界」』(ラジオNIKKEI第1)など、経済番組のレギュラーも多数。2025年4月には、関根勤構成・演出の「カンコンキンシアター36 クドい!~水道橋に引っ越しました~」に出演。
お笑い芸人として忙しい中で始めた不動産投資と株式投資
天野さんは2013年に、著書『ウドちゃんでもわかる マネー芸人・天野っちの「アマノミクス」的蓄財術』を上梓されました。以来、ラジオNIKKEIやテレビ東京系で多くの経済情報番組を担当されています。まずは、天野さんが投資を始めたきっかけを教えてください。
不動産投資のきっかけは、キャイ~ンで売れだした25歳の時に遡ります。当時住んでいた賃貸マンションで偶然、新築マンションの月賦額が書かれた不動産の折込チラシを目にしました。その金額が、今後僕が自宅をグレードアップしたときに払うであろう家賃とほとんど変わらないものだったんです。
そう考えると、お金を払えば自分のものになるマンションの「毎月のローン返済」は「物件購入を目的とした月々の貯蓄」になる。そこで所属事務所にお目当ての不動産会社を調べてもらい、僕の返済プランも相談に乗ってもらいました。ちょうどバブル崩壊後で若造の芸人だった僕でも買える額だったこともあって、山手線の内側で駅から徒歩1分、1LDKの新築マンションを購入しました。
その後、自分に子どもができて、広い家に住み替えることになった時には、誰か知り合いに貸してあげられたらいいなと思ったんです。駅近物件で、値段も落ちていませんでしたから。

今、僕は今まで住んできたマンション2部屋の大家をしていて、どちらも実際に住んで10年前後で賃貸に出しています。いずれも駅近で、一つは駐車場アリのため、家賃も下がっていません。賃貸は空き部屋が一番のリスクですが、相場より家賃を安くしているせいかほぼ空くことがなく、どちらの物件も皆さん、長く住んでいただいています。
ただし僕が表に出る仕事をしているので、借り主さんとのやり取りは管理会社さんにお任せしています。管理費が割高になっても、しっかりした管理会社さんにお願いをすると、大家としても安心ですね。
大家さん歴20年。不動産投資、すすめる!?すすめない!?
お持ちの不動産は、いずれも都心の駅近物件でしたね。購入の際は、どういうところを見ていましたか?
駅から遠いとやっぱり借りづらいと思うんですよね。あとは補償にも影響するので、販売する企業が信用できるかはしっかりチェックするようにしていました。
購入前に必ず聞いていたのは物件のマイナスポイント。「パンフレットで充分いいことはわかっているんですけど…」って切り出すと、いろんなことがわかる。正直に聞くことが大事です。
例えば、「実はドアノブが他社より安いんです」など、資材を安く見積もっていたりしていることがあります。素直に聞けば、不動産会社もきちんと話してくれますよ。
最初の物件をお貸しになられてから、約20年経ちました。大家さんとしてトラブルも体験されましたか?
トラブルはね、いっぱいあります。最近だと排水管。下の階に水が漏れちゃったそうで…。建物自体は保険に入っているので大丈夫なんですが、それでも大家さんの責任になるんです。そういう時は大きな問題になる前に、僕はすぐ対応していますね。
その他だと、エアコンが壊れたとか。「ガスは永遠に使えるだろう」と高を括っていたら、給湯器も食洗機も10年ほどでガタがきたり。自分が住んでいる時は新築でも、10年後に人に貸す頃にはあちこち痛み始めてくる。貸す前にきちんとリフォームをすると、その後に住む方にはご迷惑がかからなくなると思います。
ちなみに、物件を売ろうと考えたことはありますか?
考えたこともなかったですね。売却と賃貸ならば、僕は貸す方がいいと思います。物件にもよりますが、今は借り手がいっぱいいるので。
ただし半分も入居していなくて、夜は薄暗い雰囲気になっているタワーマンションは難しいかもしれません。最近は、外国の富裕層の方が投資用にタワーマンションを買って、結局は使わずゴーストタウン化しているというニュースも聞きます。戸建てなら、周辺の昼夜の状況を見ながら判断ですかね。
ただ正直、今から不動産投資を始めるのは難しいので、オススメしづらいです。僕の最初の不動産はバブルがはじけた後に購入しているんですが、今の不動産価格ってバブル期と同じぐらいの値段でしょう?値段がまだ落ちないとはいえ、為替や金利の状況が一気に変わったら、僕でも売却することを考えるかもしれません。
僕と同年代の50代半ばで不動産を持っていて、お子さんが早く独立されて部屋が余っている…という方は、このタイミングで売却するのはいいと思います。ただ他の物件も値段が上がっているので、新たに良い物件を買うのは難しいかもしれませんね。
でも、逆に都心以外の利便性が高いエリアはそこまで値段が上がっていません。夫婦2人だけで都心で暮らす理由がなければ、ゆっくり過ごせる郊外に住み替えるのもひとつの手だと思います。
苦節20年。株を買う時の心意気と僕の大失敗
株式投資は38歳で始められたのですね。こちらのきっかけは?
株式投資は、2008年のリーマン・ショックがきっかけでした。当時、ニュース番組でも「100年に一度のことが起きた」といわれていて、とにかく大変なことが起きたという感覚でした。
でも、もう株価が奈落の底まで落ちたのなら、その後はゆっくり上向いていくだろう。それと銀行に預けていても、ATMで手数料は取られるのに超低金利で預金が増えない。ならば、株を買って自分のお金が目に見える形で使われる方が、僕は納得がいく。そう考えて、株式投資を始めました。

そのほかの投資はいつからですか?
株式投資よりちょっと早く始めたのは、J-REIT(不動産投資信託)です。銀行のアドバイザーの方のご提案で、タイミングよく購入して、今に至ります。
それと今は日本の個別株をおよそ20銘柄持っています。結局、家電やゲーム業界など、自分が好きでよく知っている業界の銘柄に落ち着きました。
ちなみに、なぜ日本の会社の個別株を購入されたのでしょうか?
僕、企業の個別銘柄を買うことは「推し活」だと思っているんです。だから、好きな業界で「これは!」と思ったら買ってみるのもアリ。
例えば、注目しているのはDeNAですね。最近、ポケモンカードをコレクションする「ポケポケ」(Pokemon Trading Card Game Pocket)というスマートフォン向けのゲームを発表して、大人気です。
もともとポケモンカードって、カードゲーム自体のファンも多く、収集家の間ではカード自体が高値で取り引きされていて。だから、「世界中のカードゲームがデジタルデータで取引できるようになったら、収集家もゲーム好きも取り込めるはず。ポケモンカードもゲームになったらいいのにな」とずっと思っていました。
だから、「ポケポケ」が発表された時、僕は「コレ、絶対に当たる!」という確信に近いものを感じました。
ちなみに、天野さんのように特定の業界で確信めいたものがない方はどうすればよいですか?
いや、ちょっと知っているだけで、本当にプラスになると思います。何かしら興味のある業界があればいいんです。化粧品や日用品など、身近で関心のある業界はたくさんあると思います。
もちろん投資という意味では、盲目的に一企業を信じてはダメです。でも、店頭に行った時に「ああ、最近はコレが人気なんだな」とか俯瞰でバランスよく物が見えている業界が良いのかな、と。
あとは、ご飯は一生食べ続けるから、外食産業とかね?今、「鰻の成瀬」とかは「鰻は高い」という、業界では当たり前の固定観念を打ち崩してめちゃくちゃ伸びているでしょう?外食産業はいつもそういう会社さんが出てくるから、面白いですよね。
それと個人認証の業界。生成AIが伸びていく中で、これからは「私が私である証明」が必要になってくると思います。
これまで失敗はなかったのでしょうか?
失敗したのは、ブラジル国債です。「2014年にサッカーのW杯、2016年にはオリンピックもあるし、金利もすごい」とすすめられて買いました。僕自身はリオのカーニバルぐらいしか、ブラジルのことを知らないのに(笑)。
そうしたら不穏なニュースばかり聞こえてきて。W杯ツアーのバスに乗っている人の宝石が引きちぎられて奪われるとか、看守が少なくて牢屋が無法地帯になっているとか…。やっぱり債権価格も上がらなくて。自分がちゃんと知らない国や銘柄を買うのは恐ろしいと、気づかされたんですよね。
正しく怖がって、情報収集。天野式の株式投資とは
株式投資を正しく怖がるには、天野さんはどのようなところに、気をつけたほうがいいと思いますか?
肝に銘じていることが2つあって、1つは「急上昇は急降下あり」。みんなが「買い」と言った時は、もう時既に遅しということです。20年続けてみて感じたのは、よその人のオススメで当たるのは半々ぐらい。投資は自己責任なので、安易に人を信用しないほうがいいと思います。
もう1つは、「こいつが言い始めたらもう遅い」という人間を判断基準にすること。僕、最初の上り調子の時に手を出さなかったものは、その後値上がりしても手を出さないんです。だから、後輩芸人が「天野さん、コインビットって知ってますか?」と言ってきた時は、ヤバいと思いました(笑)。「ビットコイン」を「コインビット」といってしまうような人間が仮想通貨を語りだしたときは、もう遅いですよね。
あと不動産購入と一緒で、「いい話だけを聞くスタンス」はいったんやめて、リスクについてきちんと聞くことです。
最近は手数料を取らないネット証券が全盛ですけど、わからなかったらご贔屓にしている銀行や金融機関の窓口に行って対面で買ってみてもいいと思うんです。手数料はかかるけど、それは勉強代。きちんと質問して、商品について理解をする。その後、段階を踏んでネット証券に移行してもいいですしね。

ちなみに、天野さんはいつもどこから情報収集をしていますか?
いつも観ているのは、テレビ東京系の『ワールドビジネスサテライト』と『カンブリア宮殿』です。理由は、その会社のリーダーを観たいから。「この社長、明快だな」とか、「この人、ちょっと危なっかしいけど、喋っていることは間違っていないな」とか。ある程度大きい企業のトップは、チャーミングな人が多い。あとは、逃げも隠れもしない堂々とした姿勢の人は惹かれますね。
興味を持った会社を拾い読みするのは、四季報と日本経済新聞。ただし、新聞の株式欄は見ていません。僕は「家電芸人」でもあるので、家電量販店の店頭で店員さんとお話しして、直接情報を仕入れることもあります。
でも一番の情報源は、僕が持っているラジオNIKKEIの経済番組『ザ・マネー~天野ひろゆきと松園勝喜の今だから聞きたい投資な世界』です。すごく頭のいい専門家がいっぱいいらして、ちょっと先の未来を教えてくださる。よく出る話題は、エネルギー問題や半導体。ちょっとずつわかるようになってきました。全部を鵜呑みにして投資するわけではありませんが、自分では調べられないことも多いのでとても助かっています。
投資をしていて良かったな、と思うことはありますか?
世界のニュースが自分ごとになることですね。株価とニュースって密接に繋がっているんです。世界って、言葉の壁はあっても、お金の壁がないんですよ。
例えば、トランプ大統領が相互関税を実施したら、関税のかからないエンタメ業界の銘柄に注目しよう。先日、中国のアニメ映画『ナタ:魔童鬧海』が世界歴代興収1位を記録したけど、ここに来て日本のアニメも改めて注目されるんじゃないか、USJをV字回復させた森岡毅さんが手掛ける沖縄のテーマパーク「ジャングリア」はやっぱり注目だ…とかですね。
天野さんのお話をうかがっていると、投資を楽しんでいるんだなと感じます。
経済のニュースは「何かしら失敗しても、やっぱり頑張っていこう」という前向きな内容が多いのがいいですよね。経済が悪くなることを望む人は、そういない。だって、みんなが潤っていいわけですから。

松坂桃李くん主演のドラマ『御上先生』(TBS系)でも、金融の話が出てきましたよね。お金のことを知らずに「世の中、お金じゃない」と思うんじゃなくて、未来を生きる子どもたちも僕ら世代も、ある程度お金のことを肌感覚でわかったうえで、どう感じて振る舞うか。
投資をするとき、僕はいつも「こうなったらいいな」という未来を想像しています。始めるのに遅すぎることはありません。今は、銀行に預けっぱなしにする事もリスクになり得ます。正しく怖がりつつ、ぜひ投資の道へ一歩踏み出してみてください。
(取材・執筆=横山由希路 撮影=栃久保誠 編集=鬼頭佳代/ノオト)
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