人生を「教育→仕事→老後」と大きく3つのステージに分けると、40代は「仕事」のちょうど真ん中あたり。業務の責任が重くなり忙しさに拍車がかかる人も増える一方で、結婚や子育て、住宅購入など、支出が多い時期でもあります。そこで「夫のみが働いている世帯」と「夫婦共働き世帯」の2つの事例をもとに、40代が資産形成で注意すべきポイントについて、ファイナンシャル・プランナーの三藤桂子さんが解説します。
40代は収入も支出も多い世代

「40代」というと、20代で社会に出てスキルを身につけ、30代で実績を積み、収入が右肩上がりとなる人も多い年代です。
国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」によると、40代の平均給与は下記のようになっています。
40代後半……男性:660万円/女性:347万円
月額に直すと、40代男性の平均給与は約53万円、女性が約29万円です。ただし、上記はあくまで“平均”で、事業規模によって開きがあり、その差は300万円以上にのぼります。
他方、総務省統計局の「家計調査報告(2024年)」によると、世帯主の年齢階級別家計収支(2人以上の世帯のうち勤労者世帯)における40代の実収入は70万607円、一方支出は46万1,133円(非消費支出+消費支出)です。
よって、収支は23万9,474円の黒字となるわけですが、黒字の内訳は預貯金や金融資産、保険の純増等ですから、毎月の収入から支出を引いたものではありません。
上記から、男性が世帯主の場合には、給与から支出を引く(53万円−46万円)と7万円を貯蓄等にまわすことができますが、世帯主が女性である場合や、勤務先の事業規模によって、赤字となる可能性があることがわかります。
近年は共働き世帯も増え、兼業や副業が進むなど働き方も多様化していることから、1世帯の収入を“1つの大きなお財布”と考えれば、上記のデータより収入増となるかもしれません。
しかし、40代は教育費に住宅ローンにと、なにかと出費が多い世代です。さらに、物価高の影響をもろに受け、なかなか資産形成ができないと悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
そこで、ある2組の事例から、40代の資産形成のポイントと注意点をみていきます。
年収1,000万円でも“不安”なA家と、年収650万円でも“盤石”なB家

まず紹介するのは、都内在住のAさん一家。世帯主の会社員Aさん(45歳)と専業主婦の妻(45歳)、2人の子どもの4人家族です。
Aさんは大学を卒業後、とあるメーカーに就職。持ち前のコミュニケーション能力を発揮し、営業職として順調にキャリアを重ねた獲得したAさんは、40代半ばで1,000万円ほどの年収がありました。周囲からみると羨むような家庭ですが、Aさんは将来に不安があるようです。
というのも、Aさんの勤務先は外資系。外資系企業の多くは「成果主義」であり、成果を出せなくなると解雇されるケースもめずらしくありません。
Aさんの月収は60万円で、このほか賞与が年2回、150万円ずつ出ています。いまのところ経済的な問題はありませんが、Aさんは外資系企業に勤めていることから「いつクビになるかわからない」と、結婚後すぐに資産形成を始めました。
また、2人の子どもはどちらも中学受験を経て、私立中学に通っています。
「教育費については、私大に進んでも大丈夫なように準備しておきたい。解雇だけでなく、病気やケガなど自身に万が一のことがあった場合の保険もかねて、資産形成している」とAさんは話します。
「塾代」をきっかけに夫婦共働きに…世帯年収650万円のB夫婦
一方、同じ都内在住のBさん一家は共働き夫婦で、都立高校に通うひとり息子との3人家族です。Bさん(47歳)も妻(41歳)も、高校卒業後に就職。妻は結婚後に一度退職しましたが、現在は扶養の範囲内でパート勤務をしています。
Bさんの勤務先は、社員が10名ほどの町工場。長年同じ会社で働き続けていますが、なかなか給与が上がらず、年収は450万円です。
子どもが生まれたタイミングでマイホームを購入した夫婦は、住宅ローンの負担に苦しんでいましたが、なんとかやりくりしていました。
しかし、中学校に入った子どもが「塾に通いたい」と言い出し、息子の夢を叶えたいと思った夫婦は、相談の末妻がパート勤務をして塾代を捻出することにしました。また、「子どもには大学まで行かせてあげたい」と考え、パート収入の一部を「NISA」にあて、資産形成をスタートさせました。
しかしその後、高校受験期になると、塾代はさらにかさんでいきます。そこで、妻が扶養から外れ正社員になり、収入を増やすことに。これで、世帯年収は650万円になりました。
ただ、扶養から外れたことで手取り額が減少。B夫妻はここに不安を感じて相談に来たといいます。
親が40代→子どもは受験期…もっとも教育費のかかる時期

収支の多寡はあるものの、A家とB家の共通点として、教育費が家計をひっ迫する恐れがあるということが挙げられます。
公益財団法人生命保険文化センターの調査によると、世帯年収に占める在学費用※の割合は、平均約15%となっています。
※ 在学費用……学校教育費(授業料、通学費、教科書・教材費等)と、家庭教育費(学習塾・家庭教師の月謝、通信教育費、参考書等の購入費、習い事の費用等)を含む、子どもにかかる費用の合計。
世帯年収階層別にみると、「世帯年収800万円以上」では在学費用の負担割合が11.6%であるのに対し、「200万円以上400万円未満」の場合は26.7%と、年収の4分の1を占めます。このように、世帯年収が低くなるほど在学費用が占める割合は高くなっているのです。
解決策としては、2組に共通して、子どもが独立するまで(=教育費がかからなくなるまで)のリスクに備える必要があるでしょう。
夫のみが働いているA家の場合、Aさんに病気やケガなど万が一のことがあった場合、収入が途絶えてしまいます。
社会保険に加入しているため、公的制度で多少は保障されるところがあるかもしれませんが、子ども2人が私立学校に通うにはかなりの金額が不足するでしょう。
まずは子どもが独立するまでの教育費を計算し、必要な金額を可視化しておきたいところ。また、現状の収入が高いことから、リスクを洗い出したうえで、死亡や医療(介護)、就労保障など、加入している保険でカバーできているか確認すると良いでしょう。
さらに、賞与はなるべく貯蓄に回し、剰余資金は分散投資などを行うことで、中長期的に貯蓄を増やすことをおすすめしました。
一方、共働きのB家の場合、収入がゼロになる可能性は低いでしょう。とはいえ、夫婦のどちらかに万が一のことがあった場合を考え、それぞれ不足額の洗い出しが必要です。
Bさんは妻が扶養から外れたことに不安を感じていましたが、社会保険に加入するためケガや病気で働けなくなった場合には「傷病手当金」が支給されます。また、老後の備えという意味でも、厚生年金保険に加入することで老齢厚生年金が上乗せされます。
現状、貯蓄にまわせる金額は少ないかもしれませんが、リスクが少ない積立タイプの資産形成を行うなど、コツコツと無理なくできる方法を選ぶといいでしょう。
老後を見据えた資産形成として、「iDeCo」も視野に
出費の多い40代ですが、老後を見据えた資産形成手段として「iDeCo」は欠かせません。
iDeCoは掛金全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となり、運用益も非課税で再投資できます。家計に無理のない範囲で、少額からでも検討してみることをおすすめします。
子どもと自身の老後のために、長期的な視点で資産形成を

子どもに苦労させたくないという思いからお金をかけすぎた結果、家計がひっ迫している世帯は意外と多くあります。まずは家計にあった教育費の割合を把握したうえで、全体の支出を調整しましょう。
40代は、子育て中の方は子どもの受験や進学・留学、親の介護がある方も増えるなど、なにかとイベントの多い年代です。だからこそ将来を見通した収支計画が欠かせません。もっとも、定年退職まではまだ10年以上あります。そのため「長期的な目線」で少額でも老後に向けた資産形成を意識することが大切です。iDeCoやNISAなど非課税制度を上手く活用しながら無理のない範囲でお金を育てていきましょう。
〈出典〉
- 国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査 事業所規模別及び年齢階層別の給与所得者数・給与額」
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編2024年(令和6年)平均結果の概要」
- 公益財団法人生命保険文化センター「教育費が家計に与える影響は?」
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。