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2025年4月に義務化!賃貸住宅も対象の「断熱等級4」とは?

2025年4月に義務化!賃貸住宅も対象の「断熱等級4」とは?
岩前 篤 (近畿大学 建築学部 建築学科 教授 (副学長))

監修者

近畿大学 建築学部 建築学科 教授(副学長)

岩前 篤

1961年和歌山市出身。県立桐蔭高校卒業後、80年に神戸大学工学部建築系環境計画学科に入学、86年に同大学院を修了し、住宅メーカーに入社、研究所で住宅の断熱・気密・防露に関する研究開発に携わる。95年、神戸大で博士号を取得する。2003年春、退社し、近畿大学理工学部建築学科に助教授として就任、2009年教授、2011年建築学部創設と共に学部長就任、現在に至る。経済産業省技術委員をはじめ、国交省、環境省、文科省、大阪府・市、福井県などの建築の省エネに関わる技術的な評価、開発に携わる。

2025年4月から、新築住宅の断熱性能に関する新たな基準「断熱等級4」が義務化されました。これは、一戸建てはもちろん、アパートやマンションなどの賃貸住宅も例外ではありません。「断熱性能が上がると、私たちの暮らしにどんな影響があるの?」そう思われる方もいるのではないでしょうか。

この記事では、断熱等級4の義務化によって、私たちの住まいにどのような変化が起こるのか、新築住宅を建てる際にどんな点に注意すべきなのかを詳しく解説していきます。

家の快適性を左右する「断熱」とは?

家の快適性を左右する「断熱」とは?

断熱とは、簡単に言うと「熱の移動を抑えること」です。住宅における断熱は、外の気温が室内に伝わりにくくすることで、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるようにすることを指します。近畿大学教授の岩前さんによると、日本の住宅における断熱は、1970年代中頃から北海道を中心に広がり始め、徐々に南へと普及していったといいます。

従来の日本の住宅は、隙間が多く、外気温と室温を区別するという概念が希薄でした。当時は囲炉裏や火鉢、ストーブなど室内で火を焚くことで寒さをしのいでいました。しかし、1980年代頃から、住宅に「暖かさ」や「快適さ」が求められるようになり、断熱技術が注目されるようになったのです。

次第に断熱技術の先駆けである北欧やドイツ、カナダなどの地域で培われた技術が日本にも導入され、住宅の断熱性能が向上していきました。

断熱材にはさまざまな種類があり、壁の中や床下、天井裏などに設置されます。断熱と合わせて重要なのが「気密」です。隙間を塞ぐことで、断熱効果を最大限に引き出すことができるのです。一般的に、断熱と気密はセットで考えられます。

断熱のメリット①光熱費の大幅削減

断熱性能の高い住宅は、外気の影響を受けにくいため、一年中快適な室温を保つことができます。夏は涼しく、冬は暖かい——まるで魔法瓶のような理想的な住環境が実現します。エアコンの使用頻度を減らすことができ、冷暖房効率を格段に向上できます。家計への負担を軽減するだけでなく、エネルギー消費量の抑制にも貢献し、地球環境にも優しい暮らしを実現できます。

断熱のメリット② 温度差の少ない快適空間

断熱は、健康的な生活を送る上で非常に重要です。室内の温度差を小さく保つことで、ヒートショックのリスクを低減できます。特に、高齢者や小さな子どもがいるご家庭では、安全で快適な住環境で安心して過ごすことができます。

断熱のメリット③結露の防止や建物の耐久性向上

断熱性能の向上によって、壁や窓の表面温度が安定するため、結露の発生を抑制することができます。これにより、カビやダニの繁殖を防ぎ、アレルギーや喘息などの健康被害を未然に防げるというメリットも。さらに、建物の構造体を湿気から守り、耐久性を高める効果も期待できます。

断熱のメリット④遮音性の向上

高断熱住宅は、優れた遮音性も兼ね備えています。特に、交通量の多い道路沿いや騒がしいエリアに建つ住宅では、この遮音性が生活の質(QOL)を大きく向上させます。外の騒音によるストレスを軽減させ、自宅で穏やかな時間を過ごせるようになります。また、高断熱材は外からの騒音を遮るだけでなく、室内の音の反響も抑えてくれるため、読書や映画鑑賞、音楽鑑賞もより快適な環境で楽しむことができます。

住宅の断熱性能は、単に光熱費を削減するだけでなく、健康にも大きく影響します。快適な室温は、日々の暮らしやすさや心地よさに繋がり、結果として住む人にとって大きなメリットとなります。

無断熱の恐ろしさ

もし、住まいが無断熱の状態だったら、一体どうなるでしょうか?夏はまるでサウナのように蒸し暑く、冬は冷蔵庫の中にいるかのように凍える日々になるでしょう。そんな環境では、健康を害する可能性さえあります。

無断熱の住宅は、室内の温度差が激しいため、ヒートショックのリスクが格段に高まります。特に、高齢者や乳幼児にとっては、命に関わる重大な問題です。また、冷暖房効率が著しく悪いため光熱費が膨れ上がり、家計を圧迫します。

さらに、無断熱の住宅では結露が頻繁に発生し、建物内部の木材を腐らせてしまうことさえあります。これは、建物の寿命を縮めるだけでなく、地震などの災害に対する耐久性を低下させることにもつながります。そして、結露によって発生したカビやダニは、アレルギーや喘息などの健康被害を引き起こすだけでなく、室内の空気を汚染し、住環境を著しく悪化させます。

近年、住宅の断熱性能と健康の関係がますます注目されています。特に、2018年にWHO(世界保健機関)が発表した「住宅と健康に関するガイドライン」では、室温が18℃を下回ると健康障害のリスクが高まることが指摘されています。日本の厚生労働省もこの見解を公式に認めており、健康的な生活を送るためには、適切な断熱対策が不可欠であるという認識が広まっています。

住宅の断熱性能を数値で示す「断熱等級」

国土交通省:住宅性能表示制度の見直しについて
(出典:国土交通省:住宅性能表示制度の見直しについて

断熱の重要性がわかったところで、そもそも「断熱等級」とはどのようなものなのでしょうか?

断熱等級とは、住宅の断熱性能を評価するための指標で、正式には「断熱等性能等級」といいます。国土交通省が定めた「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づき、建物の断熱性能を1から7までの等級で表します。等級の数字が大きいほど断熱性能が高いことを示します。2022年3月までは等級4が最高等級でしたが、2022年4月に等級5が、同年10月に等級6と7が新設されました。また、2025年4月以降に新築されるすべての住宅には、原則として省エネ基準(断熱等級4)への適合が義務化されます。

​​断熱等級4は、1999年(平成11年)に定められた「次世代省エネ基準」に基づく断熱性能の指標です。この基準を満たすには、UA値(外皮平均熱貫流率)が0.87以下、ηAC値(冷房期の日射熱取得率)が2.8以下である必要があります。UA値は住宅の断熱性能を、ηAC値は日射熱の入りやすさを示し、これらの数値が低いほど性能が高いことを意味します。

日本で初めて省エネルギー基準が策定されたのは1980年のことです。この基準は、住宅の断熱性能向上を目的としたガイドラインとして示され、1982年にはその内容が具体化されました。その後、1992年に基準が改定され、1980年の基準は「旧省エネ基準」、新たに制定された1992年版は「新省エネ基準」といわれるようになりました。さらに、1999年には「次世代省エネ基準」が導入され、より高い断熱性能が求められるようになります。2000年には「住宅の品質確保促進法(品確法)」が施行され、住宅の性能を「見える化」するための等級制度が導入されました。これにより、断熱性能も「断熱等級」として定義され、等級3は1992年の「新省エネ基準」、等級4は1999年の「次世代省エネ基準」 に相当するものとして整理されました。この制度により、住宅の断熱性能が数値化され、品質の確保がしやすくなりました。

なぜ断熱等級4が求められるのか?

2025年4月から新築住宅において省エネ基準(断熱等級4)への適合が義務化される背景には、主に以下の2つの理由があります。

1.地球温暖化対策

住宅を含む建築物は、日本のエネルギー消費量の大きな割合を占めています。そのため、住宅の省エネ性能を向上させることは、温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化対策に貢献するために不可欠です。政府が目指す「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた重要な施策の一つとして、省エネ基準の義務化が進められています。

2.エネルギー自給率の向上

日本はエネルギー資源の多くを海外からの輸入に頼っています。住宅の省エネ性能を向上させることで、エネルギー消費量を削減し、エネルギー自給率の向上に貢献することが期待されています。

2022年6月に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」によって、2025年4月1日から原則すべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務化されることが定められました。

2025年から断熱等級4の義務化が決定されましたが、5年後の2030年には断熱等級5の義務化が予定されており、今回は段階的な基準の引き上げが考慮されました。2030年にはZEH水準の省エネ住宅が新築の標準になります。欧米ではすでに等級7レベルが標準となっています。日本でも今後、更なる断熱性能の向上が求められるでしょう。 

罰則よりも届出制

断熱等級4の義務化は、罰則を伴う規制ではなく、建築確認申請時の届出制を主体としています。つまり、新築住宅を建てる際には、断熱性能に関する書類を提出し、基準を満たしていることを証明する必要があります。もし基準に適合していなければ、申請は差し戻され、建築許可は下りません。

しかし、書類上の基準を満たしていても、実際の施工がその通りに行われているかを確認することは容易ではありません。そこで重要な役割を果たすのが、「性能表示制度」です。性能表示制度とは、住宅の性能を客観的に評価し、表示する制度であり、断熱性能だけでなく、耐震性や耐久性など、さまざまな性能が評価対象となります。

この制度を利用することで、壁の中の断熱材の施工状況など、目に見えない部分も確認することができます。届出制と性能表示制度を組み合わせることで、建築確認申請時の書類と実際の建物に相違がないかを確認し、より安心して高断熱住宅を選ぶことができるのです。

2025年4月から始まる住宅の省エネ基準適合義務化は、現段階では新築住宅に限定されています。既存住宅の改修義務化は、技術的・経済的な課題が多く、現時点では見送られています。しかし、既存住宅の省エネ化は、国が抱える重要な課題の一つです。そのため、政府は断熱リフォームに対する補助金制度を設け、既存住宅の省エネ化を促進しています。2022年のデータによると、日本の住宅の断熱等級は、等級2が最も多く、全体の約65~70%を占めています。等級4の住宅は20%程度、それ以上の高断熱住宅は10%未満という状況です。

断熱等級4に適合するハウスメーカー選びのポイント

断熱等級4に適合するハウスメーカー選びのポイント

2025年から断熱等級4が義務化される中で、これから新しく住宅を建てる方には、ハウスメーカー選びが重要になります。ハウスメーカーを選ぶ際には、以下のポイントを押さえて選ぶとよいでしょう。

1. 断熱性能に関する実績と評価

  •  断熱等級4以上の実績が豊富かどうか
  • これまでの施工事例をチェックし、断熱性能に関する第三者評価や認証(ZEH認証、BELS評価など)を取得しているか

2. 断熱材と工法の選択肢

  • 使用する断熱材の種類(発泡ウレタン、グラスウール、セルロースファイバーなど​​【※】)
  • 外張り断熱や充填断熱などの施工方法が適切かどうか
  • 省エネ基準を満たすための窓やサッシの性能(Low-E複層ガラス、樹脂サッシなど)

3. 気密性と施工技術

  •  断熱性能だけでなく、**気密性(C値)**を重視しているか
  • 施工精度が高く、隙間なく断熱材を施工できる技術力があるか
  • 住宅展示場やモデルハウスで実際の住環境を体感し、断熱性能の違いを確認

4. ランニングコストや保証制度

  • 断熱性能が高いほど冷暖房費が抑えられるため、長期的なランニングコストも考慮
  • 断熱性能に関する保証制度(長期保証、定期メンテナンスの有無)を確認

5. 省エネ住宅への対応力

  • ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)対応住宅を標準仕様にしているメーカーを選ぶと、将来的な省エネ性能向上にも対応できる。

2025年の断熱等級4義務化を控え、住宅の高断熱化は進んでいますが、ハウスメーカーの中には、価格上昇を理由に等級4を推奨するケースも見られます。しかし、将来的な標準を見据えれば、等級5以上を選択することが望ましいと言えます。断熱性能の指標である、UA値やηAC値などの専門的な知識は必須ではありませんが、断熱等級の重要性や今後の動向について理解しておくことが大切です。特に、5年後に等級5以上が義務化されることや、等級6・7が標準となる可能性を知っておきましょう。
​​【※】これらの断熱材は、地域別の仕様基準や性能基準に応じて選択されます。特にお住まいのエリアで適用される断熱仕様は異なるため、詳しくは施工会社・ハウスメーカーに確認しましょう。

まとめ:断熱等級を知り、快適で健康な住まいを選ぼう

まとめ:断熱等級を知り、快適で健康な住まいを選ぼう

2025年4月から、新築住宅の断熱等級4適合が義務化されます。しかし、将来的な標準を見据えれば、等級5以上を選択することが望ましいでしょう。断熱性能は、光熱費の削減だけでなく、健康や快適性にも大きく影響します。ハウスメーカー選びでは、性能だけでなく、実際の住み心地や暮らしぶりも確認し、あなたの理想の住まいを実現しましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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