2024年、学科試験の合格率が10%程度と言われる難関資格「ファイナンシャル・プランニング(FP)技能検定1級」を取得した、お笑いコンビ・サバンナの八木真澄さん。現在はその知識を活かし、金融の知識を活かした講演や講演会などで全国を飛び回っています。
八木さんがFPの勉強を始めたのは、40代後半のこと。自ら「世界一ゆるい勉強法」を編み出し、実践していったといいます。「勉強は趣味のひとつであり、人生を豊かにする方法」と話す八木さんに、勉強法やマインド、お金の知識を身につけたことによる変化などをうかがいました。
《インタビュー》

八木真澄
1974年生まれ。京都府出身。立命館大学産業社会学部卒業。1994年に学生時代の後輩・高橋茂雄とお笑いコンビ・サバンナを結成。「ブラジルの人、聞こえますか〜!」など1000個以上のギャグを持ち、柔道二段・極真カラテ初段の筋肉芸人としても活躍中。著書に『未確認生物図鑑』『年収300万円で心の大富豪』など。2025年3月に共著『FP1級取得!サバンナ八木流 お金のガチを教えます』(KADOKAWA)を上梓。
自分のペースで生み出した「世界一ゆるい勉強法」
改めて、FPの資格を取ろうと思ったきっかけについて教えてください。
理由はいろいろあるんですけど、ひとつは「講演会の仕事ができるようになりたいな」と思ったんです。48歳のときにレギュラー番組が全部なくなって。年齢的にも、営業(全国の各種イベントへの出演する仕事)もいつまで行けるかわからない。それなら何か資格を取って、講演会みたいな仕事もしてみたいな、と。
もともと、「お金を管理できないとダメ」っていうのが、僕の中にあったんです。お金って、生きていくのに切っても切れないものじゃないですか。だから、若手のころから節制していましたね。
1日の食費が3食500円に収まるように、劇場に家からお茶と弁当を持って行ったりして。ティーバック1個を3回まで煮出すと決めていたので、周りから「お前のお茶は薄い」っていわれてました(笑)。

30歳になって日本経済新聞を読み始めて、為替も株も20年ぐらい続けています。お金に興味があるから、FPの勉強もオモロいんですよ。自分なりに「世界一ゆるい勉強法」を編み出しながら、毎日勉強を続けています。
ちなみに1日の勉強のスケジュールは、どのような感じだったのでしょうか。
仕事がない日だと…。朝5時に起きて8時まで勉強して、朝ご飯を食べてジムに行き、YouTubeの講義を聞きながらトレーニングします。で、お昼を食べて13時から15時まで勉強して、昼寝したりお風呂に入ったりして、また18時から21時までやる。だいたい8時間くらい勉強してますね。
もはや受験生ですね。まったく「ゆるい」とは思えないのですが…。
いやいや、ゆるいですよ。みんな「8時間!?」ってびっくりしますけど、仕事を8時間してる日のほうが絶対しんどいはずじゃないですか。勉強は寝ながらやったりしてしますし、なにより、自分のペースで好きにやってるので苦じゃないんです。
僕、小学校のとき塾で落ちこぼれだったんですよ。授業って、1回わからなくなると、もうついていけないじゃないですか。すっかり置いてかれてしまって。でも、ある時、家で教科書を1ページ目から読み直したら、どんどん頭に入ってきたんです。結局、自分のペースで勉強するのって楽だし、理解できるんですね。
FPの勉強も自分のペースで、毎日のルーティーンのひとつとして続けていました。だから試験当日も、いつもと同じ勉強のルーティーンだと捉えていて。終わった後、結果も見ませんでしたね。
試験を受けたのに、結果が気にならないんですか!?
勉強は趣味でやってることですからね。受かっても受からなくても次の日からまた勉強をするので、別に結果はどうでもいいんです。どうでもいいからプレッシャーもありません。
FP1級の学科試験も3回落ちましたけど、気づいたら4回目で受かっていましたね(笑)。
勉強セットがあれば、行列も無人島も「心地いい空間」に
FPの勉強は、どのような形で進められていたのでしょうか?
使うのはiPadと電卓とペンと100均の落書き帳。これだけです。やってることも単純なんですよ。過去問をひたすら繰り返すだけ。

毎日、FPの過去問を載せているサイトをiPadで見て、1回分の試験を通しで落書き帳に書きながら解きます。1日1回分を解くと、3日で3回分、1週間で7回分ですね。過去問を全部解いたらまた最初に戻ります。これを延々繰り返していました。
最初は1回分を解くのに13時間くらいかかったんですけど、後半は1時間で解けるようになりました。なぜなら、答えを覚えているから(笑)。繰り返しすぎて、計算問題の数字も覚えちゃうんですね。でも、仕組みさえ理解できれば、あとは本番で数字を変えるだけなので。
問題をひたすら解いて、やり方を覚えていったんですね。
はい、過去問から入りました。1級の勉強を始めたばかりの頃は過去問を見ても、問題文の意味がわからなくて。まずは問題集の答えとYouTubeを見ながら、解き方を学んでいきました。
ただ、過去問の問題集は字がめっちゃ細かいので、頭に入れるために全部拡大コピーして読みやすくしました。FP1級は6科目で、問題集も6冊もあるから大変で。東京と大阪の自宅に一冊ずつ置くために、コンビニのコピー機で1万円くらい使いましたね。
ご自宅以外でも、このセットを使って勉強されていたんですか?
そうですね。このセットさえあれば、どこでも僕のデスクになることに気づいたんですよ。
一番良かったのは、猿島ですね。横須賀にある無人島なんですけど、平日朝に船で島に渡って、テラスで海を見ながら6時間勉強して、最終の船で帰りました。
なぜ、わざわざ猿島まで?
海外のセレブって、プールサイドで椅子に寝そべって本を読んでるイメージがあるじゃないですか?あれをやりたかったんです(笑)。

もし勉強がなかったら、猿島に行ってもすることがなかったと思うんです。ちょっと散歩はしましたけど、水が冷たくて泳げないし、1人でバーベキューも変でしょう?でも、1日中海を見ながら気分よく過ごせたのは、勉強があったから。そう思うと、勉強ってつらくないんです。
このセットさえあれば、おしゃれなカフェでノマドみたいなこともできるし、行列に何分並んでいても気になりません。ある程度知っている問題を解いているので、疲れることもない。どこに行っても、心地いい空間で優雅な一日を送れます。そんな感じで、心地いい毎日を過ごしているうちに、気づいたら試験に受かってるわけです。
脳を限界まで疲れさせてから、サウナに行くのが最高の喜び
2025年1月には、八木さんの奥さんも行政書士試験に合格したとお聞きました。お二人で一緒に勉強されることもあったのでしょうか。
リビングで一緒に勉強していましたね。お互い「ちょっと聞いてくれへん?」って、勉強していることを相手に説明するんです。そうすると頭に入るんですよ。
奥さんから質問されたとき、「ちょっとわからへんな…」って答えられないことが出てきたら調べ直したりして。僕も奥さんから行政書士の話を聞いていたので、民法がちょっとわかるようになりました。
アウトプットはめっちゃ大事ですね。僕、勉強したことをコラムにして、毎日スマホに書いているんです。テキストも何も見ないで。そうすると、やっぱり覚えていないところは書けない。ということは、ここがもっと伸びるんだなと。
自分の弱点がわかるわけですね。他にも、工夫されている勉強法はありますか?
YouTubeはよく使いました。僕は『東大式FPチャンネル』が大好きで、ほんだ先生のファンなんです。ジムでトレーニングしながら聞いていましたけど、もう勉強というか、ほんだ先生の声がただ聞きたいだけで(笑)。
今も別の先生のファンになって、その人の歌を聞く気分で講義を聞いています。先生のファンになるのはオススメですね。
それにしても、八木さんはなぜここまで勉強を続けられるのでしょうか。途中でやめようと思ったことはありませんか?
やめてなにすんねん、って話なんですよ。逆に言うと、勉強をやめたらすること、趣味がなくなるんです。勉強以外にハマるものができたら、やめるかもしれないですけど、その「ハマるもの」が難しくて。

30年前からトレーニングを毎日続けているので、ゴルフとかテニスとか、体を動かす系の趣味を増やすのはちょっと無理なんですね。頭を使う系の趣味も、絵とエッセイもすでに毎日やってて。映画とか見るだけのものは好きじゃないし、お金がかかる趣味もなんか嫌で。そうなると、僕の中ではもう勉強しかできる趣味が残らないんですよ。他にあったら教えてほしいくらいです。
消去法で勉強に行き着いているんですね…!
でも、勉強をすることで、楽しいことが明確になりました。中学生のとき、テスト勉強の合間にテレビで『大相撲ダイジェスト』を見るのが好きだったんですよ。別にいつでも見られるのに、勉強の休憩に30分だけ相撲を見られるのがうれしくて。
今、それと同じようなことが起きていますね。つまり、「勉強の合間」の価値が上がってるんです。僕、宇多田ヒカルさんが好きなんですけど、すごく難しい問題を解いたあとに曲を聞くと、めちゃくちゃ染みるんですよ。
あと最高なのはサウナ。脳を限界まで疲れさせたあとに、サウナに行くんです。そこで体を限界まで追い込んだあと、サウナを出て濃いめのハイボールを飲む。これほどおいしいものはないですね。こうなるともう、勉強はサウナに行くための前振りです(笑)。
理想の生活を夢見ることが、勉強のモチベーションになる
FPの勉強で、人生観やお金の向き合い方などに変化はありましたか?
世の中の仕組みや制度を知ることで、「怖さ」がなくなりましたね。
ひとつのモデルケースですけど…。年収800万円の男性が57歳で退職するとしますよね。そこから再雇用で60歳まで働くとする。年収がそれまでの8割ぐらいになるので、640万円。さらに65歳まで働くと、3割カットされて年収450万円ぐらいになります。

この人が、2人の息子を大学に通わせるとしましょう。年収800万円のうちに2人が大学を卒業するには、父親57歳・次男22歳がギリギリのライン。
仮に父親が35歳を超えてから次男が生まれた場合は、次男の大学卒業前に年収640万円以降のゾーンに入ります。43歳のときの子なら、同じ頃には年収450万円。だったら、教育資金として学資保険などを早めに準備しておいたほうがいいんですね。
こうやって老後にいくらあったらいいとか、自分がなんぼの家を買えるのかとかを把握できると、今日使えるお金が見えてきます。なんも知らないと「お金足りんのかな…」って怖いじゃないですか。お金の勉強することで、怖さがなくなるんです。
確かに、見通しが立つと明るい気持ちになりますよね。
そうなんですよ。スーパーに行っても、お金の心配をしながら安売りのものを探すのと、余裕あるわ~と思って買い物するのとでは、全然ちがいますからね。ひとつの物事をどう捉えられるかが、めちゃくちゃ大事だと思っています。趣味に集中できるのも、安心あってこそです。
年を重ねると「今さら新しいことを覚えるのも…」と腰が引けてしまいがちですが、八木さんのように勉強をひとつの趣味として捉えれば、楽しく続けられる気がします。
勉強はいい趣味だと思いますよ。今は資格もいっぱいありますし、年齢は関係ないですから。
どうせ勉強するなら、興味があるものがおすすめですね。うちの奥さん、次はインテリアコーディネーターの資格を取ろうとしてるんですよ。もともと家の間取りとかを見るのがすごく好きだから、やってみようと思ったみたいで。結局、勉強でも何でも、楽しくないと続かないじゃないですか。
あと、理想の生活をイメージするのもアリだと思います。僕の場合、地方へ旅行するのが好きなので、まず「いろんな地方に行って講演会をする自分」を夢見たんですよ。こんな生活できたらいいなって。それが勉強のモチベーションになるんですよね。
お金の勉強なら身近にいる優雅な生活をしている人をイメージするとか、料理を勉強するなら近所の人たちを集めておいしい料理を振る舞う姿をイメージするとか、そういうのでいいんです。理想の生活を夢見ながら勉強したら、それだけで人生楽しいですよ。
(取材・執筆=井上マサキ 撮影=塩谷哲平 編集=鬼頭佳代/ノオト)