不動産相続では、相続人全員でどのように遺産そのものを分割するか、不動産を分割するか、両方について考えなければなりません。分割方法にはさまざまな手段があるため、どう進めようか迷うことも少なくないでしょう。
そこで今回は遺産分割の方法、不動産の分割方法、遺産分割協議における揉めやすいポイント・注意点について、不動産と相続を専門に取り扱う山村暢彦弁護士がわかりやすく解説していきます。
遺産分割、3つの方法

遺産そのものを分割する方法を3つ紹介していきます。
①まずは「遺産分割協議」
まず、相続が発生した場合には遺言書がない限り、相続財産を法定相続人でどのように分けるか決めて、その内容を「遺産分割協議書」という書面にし、各自署名捺印する必要があります。ここまでやらないと、残された預貯金も払い戻しもできませんし、不動産の名義も変更できません。
このような、相続財産をどのように分けるかという話し合いを「遺産分割協議」といいます。この遺産分割協議については、法定相続人らの話し合いによって基本的に自由な内容を定めることができます。法律上「法定相続分」という、どの相続人がどの程度の割合で相続するかは決まっていますが、それに縛られる必要はありません。
たとえば父が死亡し、相続財産は1億円。相続人は母一人、子二人のケースを考えてみます。法定相続分は母が2分の1、子が二人なのでそれぞれ4分の1ずつです。単純に考えると、母が5,000万円分、子が2,500万円ずつの財産を取得することになります。
仮に母が「私は自分の預金で生きていけるから、子どもたちに相続財産を取得してほしい」と希望した場合、母の取り分をゼロ円にして、子どもらに5,000万円分ずつ分けるという遺産分割も可能です。逆に、子二人が「母の生活が心配だから、1億円すべてを母が相続し、自分たちは父の相続では財産を取得しない」と希望すれば、そのとおりに遺産分割することも可能です。
このように遺産分割は基本的に自由であり、自分が相続財産を受け取らないという実質的に相続放棄に近い分け方も可能になります。だからこそ、ここで相続人間の想いや感情が爆発してトラブルになることもしばしばです。
生前の父と同居して世話していた子が「俺のほうが法定相続分よりたくさんもらうべきだ!」といったり、母と仲が悪く、実家を離れた子に対して「お前みたいな親不孝者に分ける財産はない!」といったり……相続人間で争いになるケースもあります。
遺産分割は自由に内容を決められるので、相続人間の話がまとまれば、一般的には司法書士や行政書士などに遺産分割協議書を作成してもらい、法務局で登記を移転して、相続が完了ということになります。他方、話がまとまらなければ、弁護士に相談して裁判所を利用した方法による分割へと進んでいきます。
②話し合いベースの「遺産分割調停」 ③強制力を持つ「遺産分割審判」
さて、分け方が決まらなければ弁護士の協力のもと、遺産分割調停・審判という手続きを利用するのが一般的です。
調停というのは、裁判所に中立的な立場になってもらいながら話し合いを続けていく手続きのことです。審判というのは、裁判のように裁判所が「この事情、この経緯ならば、こう分けなさい」という判断を下してくれる手続きを指します。
筆者の経験上でお話しすると、不動産が絡むような高額な相続では、相続税申告期限(死亡後10ヵ月以内)までに遺産分割協議がまとまらないケースも多く、基本的に裁判所を利用しないとまとまらない印象です。「弁護士があいだに入って遺産分割協議を交渉で行ってほしいです」というご依頼もあるのですが、お断りするケースが多いです。
税理士のバックアドバイスがありながら、遺産分割協議が纏まらないケースでは、相続人の誰かが法定相続分と大きな隔たりのある分割案を要求しているようなケースが多く、このような方がいらっしゃると、裁判所を関与させでもしないと、法定相続分ベースの分割案に従ってもらえず、解決しないまま時間だけが過ぎていくようなことになりがちです。
話し合いベースの調停と、強制的な審判との2段階にわかれているのは、相続というのは基本的には親族間の話し合いで解決するほうがよいだろうとの考えのもと、2段構えになっています。
調停とはいっても、ここでまとまらなければ審判になるというプレッシャーのもと、裁判所の調停員などもあいだに入って話し合う手続きなので、純粋な親族間の話し合いと異なり、調停で解決することも多いです。
現実的には、審判に移行する際には不動産鑑定が必須になってしまうので、その鑑定費用の負担を嫌い、調停内で双方譲歩して話がまとまるという流れも多いです。
不動産分割、4つの方法

さて、裁判所利用となると、基本的に法定相続分ベースでの分け方になるのですが、あくまで割合が決まっているだけなので、具体的な不動産の分け方を決めていく必要があります。基本的な4つの分け方である「現物分割・共有・代償分割・換価分割」についてお話しします。
現物分割
現物分割というのは、不動産を単純に相続人で切って分けるという方法です。一つの土地があり、相続人が二人いたら、土地を二個に切ってわけて、それぞれ相続するような方法です。
イメージしていただくとわかるかもしれませんが、現実には不動産をケーキのように切って分けることは困難で、あまり利用されない方法です。土地を二つに切るとなると、測量して、「分筆」という法務局での手続きが必要になります。簡単に分けることができず、手続き費用が発生します。
加えて、土地というのは入口をどこに設けられるかによって価値も変わってきますので、単純に同じ面積で二個にわけても、同じ価値になりません。そのため、現実的にはあまり見かけない分割方法です。
共有
一方、共有で相続するという方法もあり得ます。しかしこれでは結局、意見が食い違っている相続人で共有状態になるだけで、なにも解決しないことになります。共有というのは、持分という割合を取得している相続人らが共同して不動産をもつことになるのですが、遺産分割協議で意見が割れているのに、仲良く一緒に不動産を管理し続けることなんて基本的に不可能でしょう。
たとえば、アパートを2人で2分の1ずつ持分を保有して、共有管理する例をみてみます。単純に賃料を2分の1ずつ分ければよいとはなりません。誰を入居させるのか、どういう賃貸管理会社に依頼するか、いつ建て替えるか、このような判断が逐次出てきます。これらの意見を統一しながら管理し続けるのは、土台無理な話です。
結局、代償分割か、換価分割の二つが現実的な分け方となります。
代償分割
代償分割というのは、一方が不動産を取得して、ほかの相続人にその価値に相当するお金を払う方法です。1億円の不動産を子二人で分けるならば、一人が1億円相当の不動産を相続して、もう一人には5,000万円を支払うという方法です。
換価分割
換価分割はもっとわかりやすいです。1億円の不動産を誰かに売って、その売却代金を2分の1ずつ取得する方法です。
代償分割の場合には、お金を払う側ともらう側で不動産の評価が大きく異なり、ここで揉めることが非常に多いです。特に自宅の不動産を相続するような場合、すぐにまとまったお金が入ってくるわけではないにもかかわらず、その分の代償金を支払うのが困難なことも多く大変です。
他方、換価分割のほうがシンプルに思えるのですが、売却条件をどうするかなど、仲の悪くなった親族間で調整するのが難しく、これもひと悶着です。
まとめ:相続の“教科書“と“現実“のギャップ

相続に関しては、教科書的な分け方を見ていると、簡単に思えなくもないものです。
しかし実際に実務を経験してみると、不動産についての専門的な知識も必要になりますし、体験される相続人の方々も大きなストレスを抱えて解決していくことが多いです。残された方々も非常に負担の大きい体験をすることが少なくありません。遺言書による分割を行うことで、揉めない相続が一つでも増えればよいなと感じます。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。