老後に向けた資産形成やインフレ対策など、さまざまな要因から「不動産投資」をはじめる人が増えています。しかし、要点をおさえぬまま営業担当者のいいなりになって物件を購入した結果、思い描いていたような収益が得られないケースは少なくありません。
そこで、不動産法務に詳しく自身も不動産投資経験がある山村暢彦弁護士が、はじめての不動産投資で「ここは押さえておきたい」というポイントについて、自身の経験を交えながら解説します。
「はじめての不動産投資」におすすめの物件は

近年、資産形成を目的に不動産投資を始める人が増えています。しかし、不動産会社の営業担当者に言われるがまま、あれよあれよと契約してしまった結果、あとになって悔しい思いをする人が少なくありません。今回は、筆者自身の経験も踏まえて、不動産投資の基本的な流れと準備すべき事柄についてお話します。
不動産投資は「戦略」ありき
まず、収益不動産を選ぶ際には、個別の物件を見比べるだけではなく、どういう戦略で不動産投資を行うかという大きな枠組みを考えてから臨むべきでしょう。
一般的に、はじめて収益不動産を購入するという場合、選択肢に入る物件は下記の3タイプです。
- ①区分マンションの1室
- ②土地つきで6~12戸程度の1棟アパート
- ③やや郊外にある、土地つき戸建ての賃貸物件
比較的トラブルが少ない「築浅・新築の物件」を購入できるとベストですが、新しい物件の場合、利回りが低く、資産形成には向かないという側面もあります。
そのため、上記①~③の物件の種類とトラブル発生リスクの大小を比較検討し、築浅にするか築古にするかを決めていくといいでしょう。
①~③のなかでは、①の区分マンションが比較的トラブルが少ないといえます。②、③のように土地がついてくると、隣地との権利関係でトラブルが生じかねません。たとえば、騒音・ゴミ出し時のトラブルや、売却時に隣地と揉めたことで確定測量できないといったトラブルです。
ただし、区分マンションの場合であっても、注意が必要なケースが存在します。それは、マンション管理組合が機能不全を起こしている物件です。
このような物件は複雑なトラブルに発展しやすい傾向があります。たとえば、漏水が生じた際、マンション管理組合が修繕すべきか所有者が修繕すべきかで揉めるケースなどが存在します。
ここまで見てきてわかるように、どのタイプを選んでも一長一短ありますし、不動産投資の経験が乏しいと判断が難しい場面も多いです。したがって、「いまの自分にはなにが買えるのか」という観点から方向性を決めるのもひとつの手でしょう。
収入があるだけじゃダメ?融資の可否を左右する「判断基準」

収益不動産を買うとなると、どうしても物件のほうに目がいきがちです。しかし、どの物件を買うかを考える前に「どのような物件なら買えるのか」を考えておく必要があります。
なぜならば、資産形成の場合は特に金融機関でローンを組んで収益物件を買うことがほとんどだからです。年収や保有する資産額によって、金融機関の融資可能額が異なります。
このあたりは、熟練になってくるとすでに顔見知りの担当者がおり、その金融機関の審査にはどのような資料が必要か熟知しており、スムーズに融資の交渉をしていくような人もいます。
しかし、これから不動産投資を始める人の場合、はじめからこのような進め方は難しいでしょう。したがって、最初の物件は不動産会社のサポートを受けながら、その会社の提携している金融機関から融資を行い、徐々に不動産投資を理解していくことをおすすめします。ただし“丸投げ”は厳禁です。
融資可能額が決まる「審査項目」とは?
融資の可否や融資額の判断基準となるのは、経済的な「信用」と呼ばれるものです。これは、職種などによっても変わってきます。たとえば、いくら高収入であっても、自営業よりも公務員のほうが融資を引きやすいといえます。
また、物件の属性も重要な審査項目です。たとえば、築浅の物件であれば2.5%のローンを利用できる一方、築古の戸建てではNGというケースがあります。
これを踏まえたうえで、自身の現在の資産状況と年齢を鑑み、今後どのような不動産投資を行い・続けていきたいのかという目的意識を持つことが、不動産投資を成功に導くカギといえます。仮に多少失敗をしたとしても、それが次につながる投資となるでしょう。
筆者も実際そうでしたが、最初は不動産会社等に頼りながら、“オートマ”で購入を進めていくほかはありません。だんだんと経験を積んでいくにつれ、“マニュアル”で購入できるようになっていきます。
おそらく、現在熟練の大家さんであっても、最初の時期に購入した物件がそのままうまくいっているというケースは少ないのではないでしょうか。ここが難しいところですが、不動産投資を始める前に完全にリスクを抑え、すべて勉強しきってから臨むというのは現実的ではありません。
もちろん勉強は必要ですが、実際不動産投資を始めると必ずといっていいほど“予想外の出来事”が起こります。そのため、“致命傷を受けない程度”の失敗も経験しながら学んでいくというのが、現実的で堅実な進め方だといえるでしょう。
「築古の戸建て」を購入した筆者が数年で売却したワケ

筆者は、最初の物件として「築古の戸建て」を購入しました。最悪どれだけ失敗しても数年働けば取り戻せるよう、総額数百万円の物件です。
戸建て賃貸を選んだ理由は、戸建てならではの“特性”を期待したためです。
区分マンション1室と戸建て1室では、どちらも空室になると家賃収入がゼロとなり、融資返済だけが残るという点は同じです。しかし、区分マンションは入退居が激しい一方、戸建ては一度入居者が決まれば長く住んでくれるだろうと思ったのです。
戸建て賃貸の場合、土地がついている分、按分などの影響で売却時に問題が起きやすいかもしれないとは思いましたが、その点は弁護士という職業柄、自身の勉強にもなるだろうという思いでチャレンジしました。
結果として損はしませんでしたが、事前のシミュレーション以上にさまざまな問題点があることを購入後に自覚し、数年で売却することになりました。
不動産投資は「勉強」と「チャレンジ」のバランスを意識して

どの投資でも同じですが、不動産投資を始める際、物件購入に“全財産”を使うことは厳禁です。
不動産は修繕などイレギュラーなトラブルが発生した場合、数十万円、数百万円といったレベルで支出を強いられることも多々あります。こうした事態に慌てないためにも、現金等の手元資産にも余裕をみておくべきです。また、融資を引く場合にも、融資余力を残しておいたほうがいいでしょう。
一方で、仮に5,000万円の不動産を購入したとして、「5,000万円のリスクを負っている」と考えるのは、リスクを重くとらえすぎているといえます。5,000万円の不動産が、完全にゼロ円になるような事態は、よっぽど特殊なケースを除いてめったにありません。
不動産投資は、人任せにしておけば成功するような簡単なものではありません。とはいえ、はじめる前にすべてを勉強しきることも不可能です。また、不動産投資には時間をかけて成果が出るという性質もあります。
筆者自身も失敗しながら学んだことが多く、「勉強」と「チャレンジ」のバランスが大事だと実感しました。
もしも不動産投資に興味を抱いているのならば、ぜひこの点を意識したうえでトライしてみることをおすすめします。
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