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不動産投資で可処分所得が増える?50歳会社員が知りたい“成功”と“リスク”の実例

不動産投資で可処分所得が増える?50歳会社員が知りたい“成功”と“リスク”の実例
山中 伸枝(株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役)

執筆者

株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役

山中 伸枝

1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーを目指す。2002年にファイナンシャルプランナーの初級資格AFPを、2004年に同国際資格であるCFP資格を取得した後、どこの金融機関にも属さない、中立公正な独立系FPとしての活動を開始。金融機関や企業からの講演依頼の他、マネーコラムの執筆や書籍の執筆も多数。

50代に突入すると、いよいよ定年後の生活が現実味を帯びてきます。そのようななか、「このまま定年を迎えて年金生活に入っても、老後は大丈夫なのか?」という不安を抱く人も少なくありません。そこで今回、50歳会社員の事例をもとに、50代からはじめる資産形成のポイントと注意点をみていきましょう。

同僚との差を感じ一念発起、不動産投資に挑戦した50歳男性

同僚との差を感じ一念発起、不動産投資に挑戦した50歳男性

都内在住の田代さん(仮名/50歳・男性)は、20年以上同じ会社で働くまじめな会社員です。年収は950万円と安定した収入があるものの、子どもの教育費や住宅ローンの返済などで、思ったほど手元に残らないという実感を持っていました。

そんなある日、同僚の安田さん(仮名/51歳・男性)との雑談のなかで「可処分所得(手取り額)が100万円以上多い」と知り驚きます。

「社歴も役職も同じだから年収も同程度のはずだろ……なんでこんなに差があるんだ?」

安田さんの収入源が気になって仕方がない田代さん。後日、思い切って安田さんにその秘密を尋ねると、その理由は不動産投資であることがわかったのです。

安田さんが購入したのは、都内の中古ワンルームマンション1室でした。購入価格は3,000万円で、利回りは4%。管理会社に委託し、賃料として毎月10万円の家賃収入を得ているといいます。

田代さんは、安田さんが安定的に家賃収入を得ていることに加えて、「減価償却による節税効果も助かっている」という話を初めて聞いて、年齢や収入が同じなのであれば自分にもできるのではないか、と考えたのだそうです。

妻の冷静なひと言

安田さんから「不動産投資は手元資金がなくとも気軽に始められる」と聞いていた田代さんは、すぐにでも投資を始めたいと思っていました。

しかし、奥さんにその話をしたところ「なにも知らない素人が簡単にはじめていいわけないでしょう。ほかの選択肢とも比較しながら私たちができる投資なのか、ちゃんと話を聞いてきて」と言われ、ファイナンシャルプランナーである筆者のもとを訪れたそうです。

不動産投資というと、「不労収入」という言葉で表現されることもあるように、手軽に家賃収入が得られると思っている人も少なくありません。しかし、実際に不動産投資で成功しているのは「不動産業」を営む経営者として研鑽を積んでいる人が多いとわかります。

勢いでとびつきそうな田代さんの言動が気になった筆者は、不動産投資を始める前に知っておきたい基本的なことを伝えました。

もちろん、田代さんもいい話ばかりを鵜呑みにしていたのではなく、空室リスクや不動産物件を維持するための費用、金利上昇のリスクなど、一通りのことは調べたとのこと。それでも、会計的な知識はまだ理解不足とのことであったため、節税が期待できる「減価償却」について補足しました。

減価償却を意識した物件選びが重要

減価償却を意識した物件選びが重要

減価償却とは「建物などの資産は時間とともに価値が減っていくものだから、その価値の減少分を毎年少しずつ経費として計上する」という仕組みです。ただし、土地には減価償却は適用されず、あくまで「建物の部分」が対象となります。

不動産投資の場合、家賃収入から経費を差し引いた分が所得税・住民税の課税対象です。この「経費」には、火災保険やローンの利息、不動産物件のメンテナンスに関わる費用のほか、減価償却費が含まれます。この減価償却はその他の費用とは異なり、現金を支払うことなく経費として計上できるのがポイントです。

たとえば、

  • 家賃収入:年間120万円(月10万円)
  • 経費(管理費や修繕費など):年間20万円
  • 減価償却費:年間30万円

となると、課税対象は「120万円-20万円-30万円=70万円」となり、減価償却30万円分が利益から差し引かれるため、その分課税対象が圧縮され、節税効果が得られるという訳です。

この減価償却の計算方法は、建物の耐用年数や構造により法律で定められています。木造の新築での法定耐用年数は22年、軽量鉄骨(骨格厚3mm未満)なら19年、鉄筋コンクリート(RC造)は47年といった内容です。

たとえば、中古RCマンション(築25年)を2,000万円で購入したとしましょう。RC構造の法定耐用年数は47年でした。残存耐用年数は以下のように計算します。

残存耐用年数=(47-25)+25×0.2=22+5=27年

次に、減価償却費(定額法)を計算します。

減価償却費=2,000万円×0.9÷27年≒666,666円/年

つまり年間約67万円を経費計上することになるわけです。

仮に家賃収入よりも減価償却費が大きい場合「不動産所得は赤字」です。前述の通り、減価償却は実際に支払いが発生しているわけではないので、手元の資金が減っていないにもかかわらず、計算上は赤字となります。

不動産での赤字はその他の所得、会社員であれば給与所得と損益通算できます。これにより年間の総所得を減少させ、所得税や住民税を下げることにつながります。つまり、節税により可処分所得を増やすことができるのです。

特に年収が950万円もある田代さんですが、税金の負担は少なくありません。減価償却による赤字で税金が減らせるのであれば、子どもの教育費の捻出もいまよりずっと楽になるでしょう。

減価償却の注意点

ここまで聞くと、不動産投資はメリットだらけのようにも思われるかもしれません。しかし、もちろん注意点もあります。減価償却は支払う税額こそ軽減されますが、税金が還付されるわけではありません。また、減価償却が終わるとその分税金が増えるため、中長期での資金計画が重要です。

さらに、修繕費やリフォームといった突発的にかかる費用の発生のほか、ローンの金利負担増なども慎重に考える必要があります。

安田さんのように、不動産投資によって実質的な手取りを増やし、老後に備えるのは非常に有効な方法です。しかし、誰でもうまくいくわけではありません。市場の動向、物件の選定、資金計画のバランスが取れて初めて“成功”と呼べる投資になるのです。

“知識”と“計画”が投資を成功させるカギ

“知識”と“計画”が投資を成功させるカギ

会社員であれば、多くの人は50代が収入のピークです。一方、老後生活が現実味を帯び始めることからリスクを取りにくい年齢でもあります。これから借入れを起こし、慣れない不動産業に時間を費やしながら、思ったような利益が取れるのか……。不動産投資を自身の将来設計のなかでどう活かせるのか、納得がいくまで検討したほうがよいでしょう。

マイナスなことばかり考えて投資に臆病になるのも考えものですが、会社員が限られた時間のなかで投資を成功させるためには「失敗しないための知識」と「具体的なプランニング」がなにより重要です。

悠々自適な老後を迎えるためにも、何歳までにいくら貯めたいのか、月々いくら必要で、どのようなことにお金を使う予定なのかを考えたうえで、自分の将来設計に合った投資プランを考えてみてはいかがでしょうか。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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