不動産売買契約は「大家ライフ」のスタート地点です。しかし、契約書を交わすまでに踏むべきプロセスと、契約後に待ち受ける義務やリスクを理解しておかなければ、思わぬ損失を抱える危険性があります。そこで今回、自身も大家経験のある山村暢彦弁護士が「売買契約の流れ」「実際にやること」「ミスしやすいポイント」を整理したうえで「失敗しない大家デビュー」のコツを解説します。
物件調査は必須だが…プロに“聞いてはいけない”ワケ

「中古アパートを購入して、家賃収入を得たい」
そう決意した瞬間からあなたは“投資家”であり、同時に“事業を行う事業者”です。
厳密には不動産売買契約を締結した段階から資格を持つことになりますが、それぐらいの覚悟をもって臨むべきといえます。
不動産売買契約にいたるまでには、大まかに以下のようなプロセスがあります。
物件調査
まず、買いたい・買うべき物件の調査を行います。ここで注意すべきは「そんなに簡単にいい物件はない」ということです。
利回りが高い・価格が安いと感じた物件を見つけるとすぐに「掘り出しものを見つけた」と感じる人もいるかもしれません。しかし、売り手も仲介者も、海千山千のプロがひしめく世界です。そんなお宝物件はめったにないと考えておきましょう。
したがって、もし「いい物件を見つけた!」と思ったら
① このエリアの弱点やリスクを踏まえた価格設定ではないかと疑う。
② 弱点・リスクを把握したうえで、改めて利回りの妥当性を検討する。
など、長所と短所を自分の言葉で説明できるかチェックしてから購入の可否を判断するとよいでしょう。
なお、この段階で不動産業者や熟練投資家といったプロに聞く・見てもらうというのはあまりおすすめしません。
なぜなら、真剣に不動産投資に向き合っている人であれば、下手にすすめた物件が失敗して恨まれたくもないでしょう。反対に、スキルのある人は審査目線が高すぎて、すべて聞いていては買える物件がなかなか見つかりません。しかも、自分で判断できないのでは、結局スピードで負けて、プロ目線に耐える物件は買えないでしょう。
さらに、もしその“プロ”が悪質である場合、その人物が儲かるための物件に購入を誘導され、騙されてしまう可能性もあります。
したがって、誰しもはじめの1歩は不安だと思いますが、今後の成長のためにも、自分で勉強したうえで納得できる物件を購入することをおすすめします。
投資物件が決まったら

物件調査を終えて実際に購入する段階になったら、次の手順を踏みます。
価格交渉・買付証明書提出
売り出している業者に連絡をとり、細かな条件等をすり合わせたうえで、「買付証明書」を提出します。この書類に法的な拘束力はなく、提出後であってもキャンセルは可能です。ただし、実務的には購入の意思表示として重要な役割を持つ書類であり、安易な提出やキャンセルは業者との信頼関係を損なう可能性がある点に注意しましょう。
また、売買が成立すると信頼させて売主に建物の工事をさせたにもかかわらず解約した場合、売買契約締結前であっても買主側が損害賠償責任を負った事例もあるため、安易なキャンセルはおすすめしません。
また、SNSなどで時折“値切り行為”を推奨している記事やコメントを見かけます。しかし、これはおすすめしません。
物件をよく分析して、根拠を示して説明できる指値ならまだ良いでしょう。しかし、なにも考えずに指値を行っていると「知識のない買主だ」と相手にされないばかりか“カモ”として騙されてしまう可能性もあります。
売買契約締結・重要事項説明
買付証明書提出後、いよいよ売買契約を締結することとなります。
一般的には、署名捺印前に書類のドラフト(草稿)が送られてきて、そのチェックを行います。タイトなケースでは契約の2~3日前に送られてくる場合もあります。
正直なところ、初心者があらゆるリスクを想定して売買契約書や重要事項説明書を読みこむのは、かなりのハードルです。そのため、不動産取引に詳しい弁護士にリーガルチェックしてもらうのがベストです。とはいえ弁護士費用は決して安くないですから、これもあまり現実的ではありません。
そこで、不動産オーナーの体験談などを読んでリスクのあるポイントを把握しておき、わからないことがあったら仲介業者や売主業者に聞いてクリアする。実際には、このような地道な準備・対応をするのがいいと思います。
決済・引渡し
最後は代金を支払い、その送金を確認して司法書士が登記を移転。これで無事、不動産取引の完了です。
「ハズレ物件」の見極めポイント

筆者の経験上、不動産投資には初心者が見落とす“落とし穴”がいくつか存在します。
接道関係
筆者の日頃の業務の中でも「接道」に関する相談は非常に多いです。たとえば「利回りが高いと思って購入したものの接道が私道だったため、売却や建て替え時にその私道オーナーとトラブルになった」といったケースです。
国や自治体が管理する「公道」とは違い、個人が所有している道を「私道」といいます。
接道が私道である場合、売却や建て替えの際に、私道の所有者から通行や掘削するための「承諾書」が必要になることがあります。ここで同意が得られない場合、トラブルに発展する可能性が高まります。
他にも「地中に埋まっていた水道管が越境していた」「私道の所有者が一部不明になっている」など、具体例は挙げはじめるとキリがありません。読者のみなさまには「私道と接している物件はトラブルになる可能性がある」という点を頭の片隅に入れておいていただきたいです。
一方、日本には私道としか接していない土地がたくさんあります。そのため、購入した物件が私道に接しているからといって必ずしも「ババをつかまされた」というわけではありません。あくまで「リスク」という意識をもっておくことが重要です。
老朽区分マンション
これもすべての物件が当てはまるわけではありませんが、老朽化している区分マンションはマンション管理組合による管理がずさんになっている場合があります。
マンションは「管理組合」という区分所有者の集まりによって管理・維持が行われます。建物全体が老朽化した場合、この管理組合が補修や建て替えを進めていきます。
ただし、ある程度しっかりした不動産会社が音頭をとっていないと、単なるマンションオーナーの集まりが補修や建て替えに関わる諸問題をスムーズに決断したり、進めていったりするのは正直困難です。
そのため、管理組合とは名ばかりで実際には管理不全に陥っているケースも少なくありません。区分マンションのなかにはこうした難しい物件も混じっているというリスクを把握しておく必要があるでしょう。
リスクヘッジと同じくらい重要なのが“はじめの一歩”

不動産購入時に注意すべき点はたくさんありますが、リスクに怯えていてはなにもできません。
そのため、致命傷にならないようなリスクを回避するために勉強したうえで、“はじめの一歩”は勇気をもって踏み出す必要があります。
筆者が日頃相談を受けている熟練投資家の方々も、最初はリスクに気づかずに物件を購入しているケースがあります。しかしそのうえで、それほど損を出さずに売却し、新しい物件を買って、今度は少し儲かった。次の物件ではさらに儲かったと、長年、経験と勉強を繰り返しながら成功を掴んでいます。
机上で学ぶ理論だけでは限界があります。不動産投資においては「経験しながら学ぶ」というスタンスが重要です。不動産投資をはじめるかどうか迷っている人は、ぜひ“はじめの一歩”を踏み出して経験と勉強を積み重ねていってください。
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