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お気に入りの服をずっと着たい!かわいく楽しむ「ダーニング」入門

お気に入りの服をずっと着たい!かわいく楽しむ「ダーニング」入門
野口 光 (テキスタルデザイナー)

監修者

テキスタルデザイナー

野口 光

武蔵野美術大学卒業後、英国にテキスタイルデザインを勉強に留学。1985年からロンドンにてニットテキスタイルデザインブランドhikaru Noguchi textile designを主宰。英国のダーニング繕い文化を初めて日本に紹介して以来、ダーニング関連の技術研究、資材の開発、執筆、指導など国内外で活動をしている。著書に「野口光の、ダーニングリペアメイク」「初めての靴下ダーニング」(共に日本ヴォーグ社刊)

お気に入りの服に小さな穴や擦り切れ、シミなどを見つけたとき、あなたはどうしていますか?

「まだ着たいけど、人前ではちょっと」と着る機会が少なくなった一着。そんな服にもう一度、息を吹き込む方法、それが“ダーニング”です。英語で“縫う”を意味するダーニングは、衣類を補修しながら、装飾的にも実用的にもアレンジできるテクニックです。

今回は、初心者でも楽しく始められるダーニングの魅力や、服と長く付き合うためのヒントをご紹介します。現代ダーニングを広く紹介しているテキスタイルデザイナーで、ダーニングのエキスパートの野口光さんの活動も交えながら、暮らしに役立つ情報をお届けします。

ダーニングとは?

ダーニングとは?

古くはヨーロッパの家庭で行われていた実用的な針仕事だったダーニング。近年は、補修にとどまらず装飾や自己表現としても楽しめると注目されています。小さなほつれや穴を丁寧に繕うことは、単なる修理ではなく、暮らしや物との関係性を見直すきっかけにもなっています。色の組み合わせ次第で、刺しゅうのように模様を描くこともできるため、「直す=楽しい」と考える方が増えています。素材をそのまま活かし、元の製品より価値が高まる新しい製品として作り直すアップサイクルや環境に配慮したサステナブルな暮らしに関心のある方を中心に支持を集めています。

ダーニングの魅力

ダーニングの魅力

ダーニングには、補修という実用の枠を超えて、“物を慈しむ”という文化的な魅力もあります。お気に入りの一着をもう一度着られるようにするだけでなく、その補修の跡がむしろデザインとなり、世界に一つだけの服に仕上げることができる。その創造性と実用性のバランスが、多くの人の心を惹きつけています。

縫いが表す“その人らしさ”

近年注目されている“見せる繕い”は、単なる修繕ではなく、服との新しい向き合い方のひとつ。補修の跡をあえて目立たせることで、繕う人の感性やセンスがにじみ出ます。

野口さんは「きれいに仕上げることより、自分の感覚に合った繕い方を楽しむことがいちばん大切」と語ります。ダーニングには明確な正解がないため、型にとらわれる必要がなく、自分らしさをのびのびと表現できるのが特長です。

壊れた部分にこそ愛着が宿る

たとえばお気に入りのセーターや靴下に施された小さな模様のようなダーニング。直した跡がアクセントとなり、持ち主にとってますます愛着深い一着になることも。誰かの手で時間をかけて繕われた跡には、物を大切に想う気持ちが自然と込められています。

「穴が空いた服を繕うことで、傷も含めて“自分のもの”として受け入れられるようになったという声をよくいただきます」と野口さん。ダーニングは補修であると同時に、自分の感情や関係性を見つめ直すきっかけにもなるのかもしれません。

ダーニングの基本道具

ダーニングの基本道具

裁縫が得意でなくても大丈夫。ダーニングは身近な道具で手軽に始められます。緻密さや正確性を追求するものではないため、感覚的に楽しみながら覚えられるのもポイントです。ここでは、最初にそろえたい道具と基本のやり方を紹介します。

ダーニングマッシュルーム

ダーニングマッシュルームは、ダーニングを行う際に傷んだ箇所を安定して作業をするための台のような道具です。キノコのような丸みのある形をしており、生地を均等に張ることで作業しやすくなります。

代用品として、ガチャガチャの球形ケースや電球を使うことも可能ですが、仕上がりをきれいにしたい場合は、専用のダーニングマッシュルームを使うのがおすすめです。

糸や毛糸

ダーニングに使う糸は、補修する生地に合わせて選ぶことが大切です。たとえば、ウールのセーターには細めの毛糸、デニムには手縫い糸や刺し子糸が適しています。市販の「ダーニング糸」もありますが、必ずしも専用の糸でなければならないわけではありません。手持ちの細めの毛糸や刺繍糸や心惹かれる色の糸を使い、自分らしいダーニングを楽しみましょう。

使用する糸に合った針を選ぶことで、縫いやすさが変わります。基本的には「使いたい糸がスムーズに通る太さの針」を選べば問題ありません。

ダーニングの基本をマスターしよう

ダーニングの基本をマスターしよう

ダーニングは、少しの練習で誰でも簡単にできる補修技術です。傷んだ服を補修するだけでなく、デザインとして楽しめます。ここでは、初心者向けに基本的なダーニングのやり方と、失敗しないためのポイントをご紹介します。

バスケットダーニング

ダーニングの基本の一つが、縦糸と横糸を交互に織り込んでいく「バスケットダーニング」と呼ばれる方法です。着心地の良い仕上がりになるポイントを押さえながら、順番に進めていきましょう。

  1. 準備
    ダーニングマッシュルームを傷んだ生地の下にセットし、ゴムで固定します。生地が歪まないよう、引っ張りすぎないように注意しながら、緩みやゆがみなく張ることがポイントです。
  2. 縦糸をかける
    傷んだ箇所を覆うように、縦方向に糸を等間隔で渡します。糸と糸の間は、使っている針1本分かそれより広めの感覚を保つことが最大のポイントです。こんな感覚があって大丈夫?と思うくらいが適正です。
  3. 横糸を織り込む
    縦糸に対して直角に横糸を通します。縦糸を1本ずつ交互に針をくぐらせ、端に来たら生地を縦糸に平行になる方向で2㎜ほど縫い、織り進めてゆきます。縦糸に対してみっちり横糸を織り入れると固くなります。緩いぐらいが着心地が良く仕上がります。
  4. 仕上げ
    横糸を織り終えたら、ゴムとダーニングマッシュルームをはずします。糸は全て生地裏で始末をします。軽くスチームをあてるとダーニングをした箇所が整います。

傷みの大きさに合わせたダーニングのポイント

ダーニングの方法は、傷みの大きさや生地の状態によって適したアプローチが異なります。適切な方法を選ぶことで、補修部分が自然になじみ、長持ちしやすくなります。

⚫️小さな傷みの場合

小さな傷みは、周囲の生地がまだしっかりしていることが多いため、最小限の補修で済みます。糸の太さは生地に合わせて選び、目立たせたくない場合は服に似た明るさの色を選ぶと馴染んだ仕上がります。

⚫️大きな傷みの場合

大きな傷みは、補修の範囲を広めにとることで強度を高められます。使用する糸の太さは必ずしも太くする必要はなく、生地とのバランスを見ながら選びましょう。デザインとして楽しみたい場合は、カラフルな糸を使って、補修跡を装飾的に仕上げるのもおすすめです。

⚫️補強が必要な場合

摩擦が多い部分や生地が薄くなっている箇所は、裏から補強布を当てることで耐久性を高めることができます。特に靴下など負荷がかかる部分は、補強布としてストッキング生地を使うとより長持ちしやすくなります。

ダーニングは、強度を上げすぎると補修部分だけが硬くなり、ほかの部分が傷みやすくなったり、着心地が悪くなることがあります。バランスを取りながら「自然に馴染む仕上がり」を意識することが大切です。

自分らしく楽しむダーニングのコツ

自分らしく楽しむダーニングのコツ

ダーニングは単なる補修ではなく、服の魅力を引き立てる方法の一つです。糸の色や素材を工夫することで、補修跡を目立たせず自然になじませることも、ワンポイントのアクセントとして楽しめます。

以下のような工夫をすると、より自分らしい仕上がりになります。

  • 仕上がりのイメージを決める
    なじませたい場合は服に近い色を、ワンポイントにしたい場合はアクセントカラーを選ぶと、全体のバランスがとりやすくなります。
  • ツヤ感や素材感を意識する
    ツヤのある糸は華やかな印象に、マットな糸はナチュラルな雰囲気になります。手持ちの服やアクセサリーとの相性を考えて選びましょう。
  • デザインのバランスをとる
    修繕部分が目立ちすぎないよう、同じテイストの補修を数カ所に分散させると、デザインの一部として自然になじみます。

ダーニングは刺繍のよう見本のデザインをなぞる針仕事ではありません。針目の乱れが味になる自由さがあります。まずは気軽に試しながら、自分に合ったスタイルを見つけてみましょう。

かっこよく仕上げるポイント

ダーニングは一気に仕上げようとせず、ゆっくり丁寧に進めることが大切です。初心者の方は、まず小さなシミや擦れた部分から練習することをおすすめします。

ダーニングは、何度か試していくうちにコツがつかめるようになります。最初はシャツなどで練習をするのもおすすめです。整った針目も良し、乱れた針目も良し。それが味わいになります。焦らず、自分らしいダーニングを楽しんでください。

まとめ

まとめ

ダーニングは、ただの補修ではなく、自由にアレンジを楽しめる技法です。基本のルールさえ押さえれば自由度は高く、自分の好みに合わせてデザインできます。初心者でも気軽に始められ、小さな傷みの補修からチャレンジすれば、自然とコツがつかめるでしょう。

服を長く大切に使うことは、サステナブルなファッションの第一歩。ダーニングを通して、愛着のある服をもっと楽しみましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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