「不動産投資」とひと口に言っても、アパートやマンション、戸建てなど、さらには新築・中古など、その物件タイプはさまざま。それぞれ収益性やリスク、管理負担が大きく異なります。そこで今回、最新の市況データ(入居率、利回り、空室率など)をもとに、不動産投資の「タイプ別」戦略をみていきましょう。自身も大家業を営む不動産投資専門FPの伊豫田誠氏が解説します。
“競争”か“安定”か…「空室率」からみる不動産市況

不動産投資は「空室リスクの見極め」がその成否を大きく左右します。このとき、空室率はエリアや物件タイプによって大きく異なるため、最新の信頼できるデータが不可欠です。
「第11回(2023年版) 全国賃貸住宅実態調査報告書(2023年、IREM JAPAN・JPM・LIFULL調査)」によると、全国の賃貸物件における空室率は平均13.0%。これは、逆にいえば入居率87.0%ということになります。
地域別にみると、都心部(特に東京都)は空室率が低く安定した賃貸需要がある一方で、地方では空室率が比較的高く、投資効率に与える影響が大きい傾向にあります。
〈地域別空室率〉
- 東京都:9.0%(入居率91.0%)
- 神奈川県:11.1%
- 埼玉県:13.5%
- 千葉県:14.2%
- 大阪府:13.3%
- 愛知県:12.5%
- 福岡県:11.8%
- 北海道:15.1%
- 東北地方全体:17.6%(最も高い地域)
- 近畿地方全体:12.7%
構造別にみると、RC造のマンションタイプがもっとも空室率が低く、木造アパートはこれと比較すると高めの傾向にあります。これは、防音性・耐久性・築年数の経過による居住性の差が影響していると考えられます。
〈物件構造別空室率〉
- RC・SRCマンション:10.5%
- 軽量鉄骨造アパート:13.4%
- 木造アパート:15.6%
「単身者向けワンルーム」は供給も多いことから空室率が高め
また間取り別にみると、単身者向けのワンルームは需要がある一方で供給も多く、競争が激しいために、空室率はやや高めの傾向がみられます。一方、ファミリー層向けの2LDK以上の物件は、相対的に空室率が低く安定性が見込まれます。
〈間取り別空室率〉
- ワンルーム(1R~1K):14.8%
- 1LDK~2DK:13.0%
- 2LDK~3DK:12.1%
- 3LDK以上:10.7%
このように、エリア・物件構造・間取りごとの空室率を客観的に分析することで、不動産投資のリスクとリターンのバランスを判断しやすくなります。
物件タイプ別のメリット・デメリット

実際の市場データを踏まえながら、物件タイプ別にみていきましょう。なお、今回は都内および首都圏の物件を想定します。
ワンルームマンション投資
〈メリット〉
1.空室率
東京23区内におけるワンルームマンションの空室率は約9.0%と、全国平均の約13.1%に比べて非常に低水準です。特に、山手線内や駅徒歩5分以内の築浅物件では入居率が95%を超えるケースも珍しくありません※。
※ 出所:第11回 全国賃貸住宅実態調査
2.単身世帯需要
総務省の「国勢調査2020」によると、全世帯に占める単身世帯の割合は約38.1%にのぼり、特に都市部ではこの傾向が顕著です。東京都では単身世帯が47.8%とほぼ半数を占めており、ワンルーム物件には安定したニーズがあります。
3.初期投資額
都内のワンルーム区分マンションの価格帯は、新築で2,500万円〜3,500万円、中古なら1,500万円前後から購入可能です。そのため、1棟物件と比べて初期投資を少額で抑えられます。
〈デメリット〉
1.競合が多い
先述したように、ワンルームマンションは供給が多く、築年数の経過が競争力の低下につながりやすい傾向にあります。特に築20年を超えると入居付けが一気に難しくなる印象です。
2.家賃維持の難易度
物件の競争力が低下すると、家賃の安さで勝負する大家も少なくありません。都内ワンルームの平均家賃(23区)は築10年以内で月8.8万円ですが、築20年以上になると約6.5万円まで下がるケースも。長期保有時に収益性が低下しやすい点には注意が必要です※。
※ 出所:東京カンテイ「賃料推移レポート2024年1月版」
1棟アパート投資(木造・軽量鉄骨造)
〈メリット〉
1.収益性
首都圏の木造アパートの表面利回りは平均7.5~8.5%とされ、区分マンション投資よりも利回りが高い傾向にあります。地方都市では10%超も現実的です※。
※ 出所:健美家「不動産投資利回りデータ 2024年3月」
たとえば、物件価格6,000万円のアパートで年間賃料収入が480万円(月額40万円)ある場合、表面利回りは8.0%となり、年間で家賃収入から固定資産税や管理費などを差し引いたあとの実質収益が300万円前後になるケースもあります。
2.資産価値
1棟アパートは土地と建物の一体所有となるため、土地部分に資産価値が残る点は長期的な安心材料となります。将来再建築や売却を行う際、自由度も高いのが特徴です。
〈デメリット〉
1.空室率
木造・軽量鉄骨造の1棟アパート投資は、空室率が高くなりやすいため注意が必要です。首都圏の木造アパートは耐久性(法定耐用年数22年)が低く、築20年超で老朽化が進み、賃貸需要が低下します。実際、首都圏の平均空室率について、RC造マンションは8.2%なのに対し、木造アパートは12.5%です※。
※日本不動産研究所「2023年賃貸住宅市場調査」
軽量鉄骨造も同様に、競合物件との差別化不足で空室リスクが高まりやすい傾向にあります。首都圏は新築供給過多で、築古物件は入居者獲得が厳しいことも影響しています。
2.修繕コスト
筆者の経験上、アパートは外壁塗装や屋根補修で100万円単位の修繕費が定期的にかかります。特に木造は建物劣化が早く、10~15年ごとの大規模修繕が前提です。
1棟マンション投資(RC造・SRC造)
〈メリット〉
1.資産価値
RC・SRC造は構造的に頑丈で耐久性があり、法定耐用年数は47年(RC)〜50年以上(SRC)と長いため、長期投資に適しています。また土地部分は、特に駅近・都市部では地価上昇の恩恵も得られやすいでしょう。
2.管理の効率性
1棟マンションは、10~20戸が同一建物内に集約されているため、清掃、修繕、テナント対応を一括で管理できます。区分所有(マンション1室)や戸建て投資では、複数の物件が別々の場所に散らばり、管理が分散するのに対し、1棟は1つの場所で完結できる点がメリットです。1棟マンションは“1つの大きな家”のようなもの。家の掃除を1回で済ませるように、管理業務をまとめてプロに任せられる点は魅力でしょう。
〈デメリット〉
1.初期投資額
都内のRC1棟マンションは相場が1億円~3億円以上と、初期投資額は非常に高額です。また融資審査も厳しく、ある程度の属性や資産背景、数千万円単位の頭金が必要となります。
2.維持管理コスト
筆者の経験では、エレベーターや給排水、消防設備などの共用部の点検・修繕費が年間100万~300万円規模となることも。特に築古RCは管理コストの圧縮が収益に直結します。
ファミリー向け区分マンション投資(2LDK〜)
〈メリット〉
1.入居タームの長さ
単身向けに比べてファミリー層は引っ越しが少なく、平均入居期間は5~7年と長め。そのため、空室リスクと再募集コストを抑えやすい点がメリットといえます。
2.需給バランス
令和4年度 東京都福祉保健基礎調査「東京の子供と家庭」によると、東京都では共働き世帯が60%を超え、都心アクセスのいい2LDK〜3LDKに対する賃貸需要が安定しています。また、ワンルームマンションと比べて供給が限られている点も魅力です。
〈デメリット〉
1.利回り
都内のファミリータイプ区分の利回りは平均3.5%〜4.5%と、ワンルームやアパートよりも低利回りです※。
※ 出所:健美家マーケットデータ2024年3月
2.初期投資額
たとえば都内の築浅2LDK区分マンションは、エリアによって大きく開きがあるものの4,000万円〜1億円程度が目安となります。人気のエリアであれば当然高額となるため、自己資金や融資枠に余裕がなければ投資は難しいでしょう。
このように、物件タイプによってそれぞれメリット・デメリットがあります。自分のリスク許容度を考えながら、エリアや構造、ターゲットとなる入居者層、そして自身の資金計画や運営能力を総合的に考慮して投資物件を選びましょう。
現状を「数値」で把握することが、不動産投資を成功に導く第1歩

今回みてきたように、物件タイプによって利回りや初期費用、空室リスク、維持管理コストなどが異なります。そのため、市況データを活用しながら、エリアごとの入居率や利回り相場を把握したうえで、「どのタイプの物件が自分の資産形成・ライフスタイル・リスク許容度に合っているか」を見極めることが重要です。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。