グローバル都市不動産研究所の調査(2023年)によると、「投資に興味がある」と答えた人の割合は46.8%(前年比5.4%増)と、投資に対する関心は3年連続で上昇しています。特に、副業や不労所得として、安定して家賃収入のある不動産投資に注目が集まっているようです。しかし、いくら安定しているとはいえ、当然リスクがないわけではありません。52歳弁護士の事例をもとに、不動産投資でおさえておきたいリスクをみていきましょう。FP Office株式会社の茂野博起FPが解説します。
「不労所得」を得る手段としても注目度の高い「不動産投資」

多忙を極める弁護士のAさん(52歳)は、不労所得に魅力を感じて不動産投資を開始。しかし、「楽して儲けたい」という思いが強いばかりに、早期撤退を余儀なくされました。
「いい物件を手に入れたのに、なぜ……」
Aさんの不動産投資の成功と失敗を分けた要因をみていきましょう。
楽して儲けたい…「不労所得」のため、駅近のタワマンを購入した52歳弁護士

Aさんは、弁護士として自ら事務所を開き、業務にあたっています。高収入ではあるものの、日々の業務は多忙を極めており、このままではいずれ身体を壊してしまうのではないかと不安を抱いていました。
「もっと楽に儲ける方法はないか……」そう考えていたAさんは、家賃収入で不労所得を確保できる不動産投資に興味を持ちます。
自身で調べたり、知人に相談したりするうち、投資熱が高まったAさん。早速不動産会社へ向かい、投資物件の調査を行いました。
そんなAさんが目をつけた物件は、都心にあるファミリー向けタワーマンションの1室でした。価格は6,000万円で、不動産投資の表面利回りは4.5%でした。
Aさんは3.5%程度を見込んでいたため、想定以上の利回りだと考え、迷わず購入を決めました。
しかし、日々多忙を極めるAさんは、購入後はなかなか投資物件を確認する余裕がありません。また、「楽して儲ける」ために不動産投資を始めたAさんは、物件の管理を管理会社に一任していました。
「良い物件だし、めったなことでは空室にならないはず。担当者も、いい物件を紹介してくれたものだ」
Aさんが思い描いていた未来は訪れず…
当初は楽観的に考えていたAさんでしたが、しだいにその表情が曇っていきました。なぜか空室が埋まらず、不労所得を得るどころか、支出ばかりがかさんでいたのです。
気づけば、4.5%のはずの利回りは2%以下に。物件を紹介してくれた不動産投資会社に相談したところ、「売却」を提案されます。悩みに悩んだAさんでしたが、泣く泣く損切り売却を決断。
「いい物件を手に入れたのに、なぜ……」
Aさんが不動産投資に失敗したワケ

Aさんのもっとも大きなミスは、高額な管理コストを放置した点です。特に、大きな資金が動く「大規模修繕」を軽視したことが致命的でした。
通常、マンション管理組合は大規模修繕に備えて修繕積立金を徴収します。Aさんはその残高の確認を怠ったことから、毎月3万円だった修繕積立金が、いつの間にか5万円に増額。想定外の管理コストを支払うことになったのです。
管理コストを過小評価して管理会社に丸投げしたことが、今回の失敗を招いたといっていいでしょう。
安定的な不労所得を得るための“最低限の努力”とは?
不動産投資は投資である以上、成功が約束されたものではありません。しかし、不動産投資が極めてリスクが高く難しいものかといえば、それも違います。不動産投資の仕組みや実態、注意点を理解すれば、投資の失敗確率を大幅に減らすことが可能なのです。
まず、安定的な不労所得を得ていくには、“最低限の努力”が求められます。
この“最低限の努力”とは、物件購入前の「できる限り精緻なシミュレーション」です。物件の老朽化に伴う管理コストやその他のコスト増加を見越して、表面利回りだけでなく、コストを差し引いた「実質利回り」を注視する必要があります。
また、投資物件の管理を管理会社に一任するのは一般的であり、Aさんも例に漏れずそうしました。
しかし、たとえ管理会社に一任したとしても、物件の現状や市場金利、物件評価額の確認を怠ってはいけません。この確認によって、売却のタイミングや管理費用の変動、固定資産税といったコスト上昇リスクを見極めることができるからです。
表面利回りばかりに目を奪われてしまったAさんですが、物件の老朽化リスクなどに低コストで対処する意識があれば、損切り売却に至らなかった可能性も大いにあるでしょう。
区分不動産投資の代表的な「5つ」のリスク

不動産投資で安定した収益を上げるためには、確認すべきポイントがいくつかあります。代表的なものは、下記の5つです。
1.空室リスク
入居者がいなければ、収入は当然ゼロです。とはいえ、いくら物件に魅力があって需要の高いエリアだとしても、購入した物件が必ず満室になるという保証はありません。
また、物件によっては、空室発生時に家賃収入の一定額を補填してもらえる「空室保証サービス」も存在しますが、コスト高は避けられません。
2.修繕費・管理費・修繕積立金残高
大規模修繕の時期や修繕前後の「修繕積立金残高」の確認は非常に重要です。これが不足すると、一時金の徴収や追加の積立金が発生する可能性があります。修繕積立金の健全性の観点から、確認を怠らないようにしましょう。
3.固定資産税・都市計画税
物件評価額が高騰すると、固定資産税や都市計画税といった税金が上がります。これらも利回り低下の要因のひとつです。
4.金利変動リスク
ローンを利用している場合、金利が上がると返済額が増加する場合があります。返済コストが上がれば利回り低下につながるほか、返済額の増加は返済計画を狂わしかねません。
5.出口戦略
流動性の低い物件は価格下落が顕著になる傾向にあります。そのため、購入前に利便性や居住性、築年数などを冷静に分析・評価することが重要です。
これらのリスクを回避するためには、管理を委託する不動産管理のサービス内容や手数料が重要になってきます。不動産投資を始める前に、上記のようなリスクをおさえたうえで、管理コストが変動する可能性を踏まえて管理会社を選ぶのが理想的です。
不動産投資は、「老朽化」への備えが重要

どんなにきれいで新しい不動産も、いずれは老朽化して修繕の必要が出てきます。そのため、不動産投資では低コストで質の高い老朽化対策ができるかどうかが重要です。
老朽化に伴う大規模修繕は管理コスト上昇の大きな要因となるため、不動産仲介業者の重要事項説明書などで「修繕履歴」を必ず確認しておくようにしましょう。また、管理組合の総会議事録からも長期修繕計画を知ることが可能です。
いつ大規模修繕を行ったか、次はいつ予定されているか。そして修繕積立金は十分に確保できているか……これらをきちんと確認・評価しておくことがリスク回避につながります。
また、管理コストについては、管理会社ごとにサービス内容や料金体系が異なります。そのため、物件に適した過不足のないサービス内容を提供してくれる業者の見極めが重要です。
管理手数料が高い、入居者募集が遅い、清掃やメンテナンスに不備があるなど、サービスの質に納得いかないときは、担当者に積極的に相談を持ちかけましょう。なるべくコストをかけずに利益を維持できるよう、一度管理会社を決めたあとも、定期的に見直すことをおすすめします。
不動産投資は魅力的な不労所得になりえますが、その前提として、最低限のリスク管理と定期的なコスト確認が重要になることを覚えておいてください。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。