お気に入りのマグカップに、ふわりと立ち上るコーヒーの香り。
そんな「ちょっといい時間」を、自宅で手軽に楽しめるのがハンドドリップコーヒーです。
「興味はあるけど難しそう」「道具がたくさん必要なのでは?」と思っている方も多いかもしれませんが、実は基本の道具とちょっとしたコツだけで、誰でもおいしい一杯を淹れることができます。
本記事では、ハンドドリップ初心者でも失敗しにくい道具の選び方や手順、豆の選び方までを、国内外で活躍するバリスタ、鈴木 樹さんにわかりやすく解説していただきました。
休日の朝や、ほっと一息つきたい午後に。自分で淹れるコーヒーの魅力を、あなたもぜひ体験してみませんか?
ハンドドリップコーヒーの魅力とは?

ハンドドリップコーヒーは、道具があれば自宅でも手軽に始められ、豆やお湯の温度・注ぎ方次第で自分好みの味に仕上げられるのが魅力です。香りや音に包まれる抽出の時間は、心を整えるひとときにもなります。この章では、そんなハンドドリップの魅力をわかりやすく解説します。
初期コストが低く始めやすい!
まずハンドドリップの一番のおすすめポイントは、“比較的低コストで始められる”というところです。自宅でコーヒーを楽しむ第一歩として、手軽に始めやすいと鈴木さんは話されます。
もちろん、道具や豆にこだわり始めると沼は深いですが(笑)、ベーシックなツールさえ揃えれば十分楽しめます。エスプレッソや他の抽出方法と比べても、ハンドドリップは手軽な価格帯からスタートできると思います。
「五感で楽しむ時間」になる
“淹れるという行為そのもの”もハンドドリップコーヒーならではの魅力です。
ハンドドリップしている時間は、瞑想とまではいかなくても、リラックスや気分転換につながるものになります。注いだお湯が落ちる音、立ち上る香り、色が少しずつ変化していく様子など、五感を使って楽しめるのも大きな魅力です。
好みに合わせて調整できる自由度の高さ
味わいを自分好みに仕上げられる自由度の高さもハンドドリップコーヒーならではの楽しみ方です。
ハンドドリップは、自分の好みに合わせて味を調整しやすいのも魅力の一つです。基本の淹れ方を身につければ、“今日は濃いめ”“今日はすっきり”といった微調整も自在にできるようになります。
豆の種類や淹れ方を変えることで、味わいのバリエーションも広がり、続けるほどに“自分だけの一杯”に近づいていく楽しさがあります。
初心者に必要な道具はこれだけ!

ハンドドリップを始めるのに、特別な道具をすべて揃える必要はありません。基本のアイテムさえあれば、自宅でも十分に美味しい一杯を淹れることができます。この章では、初心者に最低限必要な道具と、その選び方のポイントをご紹介します。
ドリッパー
ドリッパーは、コーヒー粉を入れたペーパーフィルターをセットし、お湯を注いで抽出するための器具。一般的にドリッパーの種類は、円すい型と台形型の2つが主流です。
円すい型はすっきりクリアな味わいになりやすく、台形型はコクのあるバランスのよい味になるといわれています。どちらも良さはありますが、鈴木さんは”円すい型がおすすめ”と言います。
台形型は底面に穴が2つ空いているタイプが多く、お湯がゆっくり落ちる構造です。
反対に、円すい型は1つ穴で、比較的スムーズにお湯が落ちていきます。お湯の抜けが早いのであれば、注ぐスピードをゆっくりにすれば味を濃くすることはできますが、逆に“抜けが遅いものを早くする”のは難しいんです。
だから、自分で味をコントロールしたい場合、円すい型のほうが調整しやすいと思います。
また、最近トレンドとしてじわじわ人気を集めているのが「フラットボトム型」のドリッパー。底が平らで、ペーパーフィルターがウェーブ形状になっているタイプです。
通常、ドリッパーにコーヒー粉を入れると“コーヒーベッド”と呼ばれる層ができます。円すい型だと粉が中心に集まりやすく、層が深くなるのですが、フラットボトム型は粉が横に広がるため、コーヒーベッドが浅く均一になりやすいのです。
粉全体にお湯が素早く接触しやすくて、効率よく成分を引き出しやすい構造になっています。
ペーパーフィルター
ペーパーフィルターはドリッパーのサイズや形に合ったものを使用するのが基本ですが、紙の質も重要なポイントにもなります。
安価なものだと、お湯を通したときに紙のにおいが強く出てしまうことがあるんです。コーヒーの味に影響してしまうので、できれば少しだけでもお金をかけて欲しいところですね。
ドリッパーと同じメーカー純正のペーパーフィルターや、紙質にこだわったものも売られているので、こうしたフィルターを使うと、思った以上に味が変わりますよ。
サーバー
コーヒーサーバーは、ドリッパーで抽出したコーヒーを受けるための容器のこと。
ドリッパーを直接カップに乗せて淹れる方も多いと思いますし、1杯分ならそれでまったく問題ないと思います。温度も下がりにくいので合理的です。
ただ、2杯以上になると、やはりサーバーがあると便利です。量の調整がしやすくなりますし、抽出の安定感も出ます。
素材はガラスのものが多いですが、そこまで神経質にならなくて大丈夫。まずは手元にあるもので試してみて、必要に応じて揃えるくらいで十分です。
ケトル
ハンドドリップでは、どんなケトルでもお湯は注げますが、“細く、狙った場所に注げる”という点で、細口のケトルがあると便利です。自分好みの味を再現しやすくなりますし、抽出の安定感もぐっと上がります。
もし専用のケトルが手元になければ、注ぎ口が細い耐熱の計量カップでもOK。まずは“細く注げること”を意識していただけると、ドリップがしやすくなると思いますよ。
スケール
あると便利なのが“スケール(測り)”です。これはコーヒーを毎回同じ味わいに近づけるための、とても大事なツールです。
特別なものではなく、普段使っているキッチン用のスケールでまったく問題ありません。“何グラムの豆を使って”“何ミリリットルのお湯を注いだか”というのが見てわかるようになるだけで、再現性がぐっと上がります。
コーヒー豆の選び方と保存のポイント

ハンドドリップをもっと楽しむためには、自分好みのコーヒー豆を選び、風味を保つ正しい保存方法を知ることが大切です。この章では、初心者でも迷わず選べる豆選びのポイントと、自宅での保存のコツをわかりやすく紹介します。
まずは「自分の好きな味」を見つけることから
最初に考えてもらいたいのは、“自分がどんなコーヒーが好きか”ということです。
例えば、フルーティーで爽やかな酸味のあるコーヒーが好きなら“浅煎り”。どっしりとしたコクや苦みのあるタイプがお好みなら“深煎り”を選ぶと、方向性がはっきりして選びやすくなります。
中煎りはバランスがよく無難ではあるのですが、逆に少し物足りなさを感じる方もいるかもしれません。どっちつかずで“可もなく不可もなく”に感じられることもあるので、最初のうちは思いきって浅煎りか深煎りか、どちらかに振ってみるのもおすすめですよ。
次のステップは、ブレンドorシングル
豆の焙煎度を選んだら、次に考えたいのが“ブレンドにするか、シングルオリジン(特定の産地・農園・地域で収穫されたコーヒー豆のみを使用したもの)にするか”という点です。
ブレンドは、浅煎りでも深煎りでも“味のバランス”が取れていることが特徴です。飲みやすく、どんなシーンにも合いやすいので、初めての方にもおすすめです。
また、“どのお店のブレンドが好きか”ブレンドを比較してみるのもおすすめです。お店によってブレンドの設計がまったく違うので、作り手の意図や個性を感じる面白さもあります。
一方で、シングルオリジンは“その土地ならではの個性”を楽しめるのが魅力です。アフリカ系のフルーティな酸味、中南米のナッツ感ある風味など、産地ごとに味の表情が全然違うんです。少し慣れてきたら、好みの地域や農園を探す楽しみも出てきます。
豆でも粉でも、“冷凍保存”がおすすめ
豆でも粉でも、冷凍しておくことが劣化を遅らせる一番の方法です。
豆でも粉でも、冷凍しておけば基本的に間違いありません。保存する際は密閉できる袋や、遮光性・ガスバリア性のあるパッケージを使うのが理想です。
最近は、そういった配慮のあるパッケージで販売しているコーヒーショップも増えてきました。そして、“なるべく早めに飲みきる”こと。これがやっぱり一番おいしく飲むコツです。
ハンドドリップの基本手順をやさしく解説
ハンドドリップは、ポイントさえ抑えれば誰でも美味しく淹れられる抽出方法です。ここでは、初心者にもわかりやすく、ハンドドリップの基本的な手順を解説します。粉とお湯の量のバランスや注ぎ方など、少しの工夫で味わいが大きく変わるのも魅力のひとつです。
ステップ①:コーヒーを計量する(コーヒー粉から計る場合)
粉の量は、粉とお湯の量がおおよそ「1:16」になるようにします。
例えば、大きめのコーヒーカップ1杯分の場合、
15.5gの粉で250mlのお湯を使うイメージです。
ステップ②:器具を温める(リンス)
ドリップの前に取り入れたいのが、“リンス”という作業。ペーパーフィルターをセットしたら、コーヒーを淹れる前に一度お湯を注ぎます。
この作業には大きく2つの意味があり、ひとつはドリッパーやサーバーを温めること。もうひとつは、ペーパーに残る紙の匂いを取り除くことです。紙のにおいがコーヒーに移ってしまうのを防げるので、よりクリアな風味を楽しめます。
ステップ③:粉をセットする
ドリッパーにフィルターをセットし、コーヒー粉を入れます。粉が平らになるようドリッパーを軽く叩いて表面をならします。
ステップ④:お湯を5回に分けて注いでいく
お湯の温度はおおよそ92℃前後が目安。250mlのお湯の量ならだいたい50mlずつを5回と均等に分けて注いでいきます。
抽出したい量が増えても、「5回に分ける」というのは変わりません。何mlずつというのは肌感覚で構いませんが、スケールに乗せながら作業すれば量を正しく測ることができます。
ポイント:1回目は蒸らす
焙煎したてのコーヒー豆は、粉にすると中にガスをたくさん含んでいて、お湯を注いだ瞬間に“ふわっと膨らむ”ように泡立ちます。これを“蒸らし”といって、最初のステップでとても大事な工程なんです。
まず粉全体に軽くお湯を注いで、ガスをしっかり放出させましょう。そのあと、1分間ほど待つのがポイント。この蒸らしでコーヒーの抽出効率が大きく変わってきます
その後、中央から“の”の字を描くように円を広げながら、ゆっくりと全体にお湯が行き渡るように注いでください。粉全体に均等にお湯がかかるように意識すると、味わいも安定しやすくなります。
お湯を注ぐタイミングはおおよそ20秒ごとが目安。毎回同じように“の”の字を描くことを意識して注いでください。ペーパーフィルターに少しお湯がかかってしまっても大丈夫なので、あまり神経質にならず、楽しくやってみてくださいね。
「味が決まらない…」を防ぐために知っておきたい、調整と失敗回避のポイント

ハンドドリップに慣れてきた頃、「なんだか味が安定しない」「前より薄く感じる…」といった悩みに直面することも少なくありません。
ここからは、そんな“味が決まらない”ときに見直すべきポイントや、初心者が陥りがちな失敗とその対処法をわかりやすく解説します。ちょっとした工夫で、ぐっと安定した一杯に近づきます。
味の調整は「お湯と粉の比率」と「お湯の温度」で変わる
味が薄く感じたり逆に濃く感じた場合は、粉の量の増減、またはお湯の量の増減で調整します。前述した、粉とお湯の量がおおよそ「1:16」からスタートして、そこから微調整してみましょう。
また、渋みや苦みが強く出てしまう場合は、お湯の温度が高すぎる可能性も。そのときは90℃くらいに下げると、角の取れたまろやかな味になります。
よくある失敗と、意外と忘れがちなこと
よくあるのが、ペーパーフィルターを湯通し(リンス)したあとのお湯を捨て忘れて、そのままコーヒーを抽出してしまうこと。これは味が濁ってしまう原因になるので要注意です。
また、豆の挽き目が合っていないケースも多く見られます。細かすぎると時間がかかりすぎ、荒すぎると逆にすぐ落ちてしまって味が薄くなります。レシピ通りにやっても落ち方が極端な場合は、粉の挽き具合もぜひチェックしてみてください。
最後の一滴まで落とすべき?
注いだお湯ができるまで待ったほうがいいのか?と疑問に思うことがあると思いますが、これは自然に落ちきるまででOKです。ポタポタと時間をかけて最後の最後まで出そうとすると、コーヒーが冷めてしまうこともあります。
表面のお湯がなくなって、流れが緩やかになってきたら、サッとドリッパーを外すくらいのタイミングで問題ありません。
まとめ:1杯の手間が、おうち時間を豊かにする

ハンドドリップコーヒーは、味わいだけでなく、淹れる過程そのものに心を整える力があります。たった1杯に丁寧な手間をかけることで、慌ただしい日常の中に、ほっとできる時間と豊かさが生まれます。
ハンドドリップコーヒーの魅力は、“おいしい一杯が淹れられる”ことにとどまりません。湯を注ぎながら、ふくらむコーヒーの粉を見つめ、香りに包まれる。そんなひとときは、まるで心のノイズがすっと消えていくような感覚に近いものがあります。
たくさんの情報を浴び続ける毎日のなかで、自分自身とじっくり向き合うための小さな隙間をつくってくれるのです。
たった数分かもしれませんが、そうした時間を意識的に持つことが、人生の豊かさにつながっていくと思うんです。ハンドドリップは、誰でもできる“小さな自己表現”。ぜひ五感を使って、自分のペースで自分だけの1杯を淹れてみてくださいね。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。