総務省の「令和5年住宅・土地統計調査 」によると、2023年の総住宅数のうち、空き家は900万戸。2018年(849万戸)と比べ、51万戸増加し、過去最多となりました。将来、親から実家等の不動産を相続する可能性があるあなたにとって、「空き家リスク」は決して他人事ではありません。相続後に誰も住まない家は、管理の負担増や税金の支払いなど、予期せぬトラブルの火種となることも……。不動産相続に精通する山村暢彦弁護士が、相続が起こる前にできる対策として、家族間での話し合い、生前贈与の検討など、将来の「負動産」化を防ぐための準備について解説します。
空き家は他人事ではない!

本来、空き家問題は自分の家系で空き家が発生するかどうかを心配するような言葉でした。しかし近年は、自分の保有する不動産と、隣接する土地建物の「空き地・空き家」問題まで視野に入れておく必要がでてきたように思います。
なぜなら、不動産業界・金融機関のコンプライアンス意識、隣地間での権利意識が高まってきたことで、売却・建て替えの際には、隣地との権利関係の調整が必要になることが多いからです。
そのため、不動産を保有する世帯にとっては、「空き家は決して他人事ではない」という意識を持つことが重要です。
自分や親族所有の空き家問題

まず、こちらはシンプルな従来の空き家問題といえるでしょう。第一には住み手のいなくなる空き家の解決を考えていく必要があります。
地方で育ち都心部に移り住んだ世帯のケースや、叔父叔母等に子どもがおらず甥姪が空き家の権利関係を整理しなければならなくなるケースなど、近年は少子化の影響もあり、特に空き家問題が深刻化しています。
子どもが住めば一番よいのでしょうが、実家は親が終の棲家としており、その間子どもらは都心部で生活圏を築いていると、いざ親が亡くなっても実家に戻ってくるというのはなかなか難しいものがあるのが現実です。
そのため、実家の空き家問題はなかなか難しい問題でしょう。しかし、住まないのであれば、売却または賃貸が基本的な解決策です。
もっとも実家の売却には、生まれ育った家、先祖代々の土地を売却することに心理的抵抗が生じることも少なくありません。
加えて、売却しようにも近隣関係の問題を抱えていると、私道の通行掘削承諾が取れず建て替えできない、確定測量が取れず正規の条件で売却できないなど、売却時の法的問題も生じる可能性があります。
また貸し出すという選択も、少なくとも老朽化した部屋のまま貸し出すことは難しく、リフォーム費用が一定程度かかりますし、老朽化物件は賃貸に出すと修繕トラブルが多々生じます。賃料に比して高額の修繕を要求されるようなトラブルです。
かといって、建て替えるというのも、不動産賃貸業に相当慣れていないと難しいのが現実です。維持だけできればよいと、大手ハウスメーカーに一任してしまえば手間はかからないでしょう。しかしそれでは利回りが低くなりますし、自身で収益を上げてやろうと企画するのは、経験や知識が必要になってきます。
ここまで読んで「では、どうすればいいのか」と悩む方も多いでしょう。少なくとも将来の方向性を考えておくというのが最初の第一歩だと思います。住んでいる人が、今後も土地や建物を維持してほしいのか、それとも売ってもらっても構わないのか。こうした方向性を先に確認しておくべきです。
また、その土地建物に相続人が住む可能性や、不動産の活用方法は、所有者のライフスタイルや資産状況も踏まえて検討することが大切です。仮に売却方向、賃貸方向と方向性がでてくれば、それに向けて知識や問題点を把握していく必要があります。
このような問題を発見して解決策を考えていくだけでも、不動産に馴染みのない人には非常に時間と労力のかかる作業になってくるでしょう。
隣地の空き家問題

近年、難しく感じるのが、近隣の空き地・空き家問題です。
土地を売却するには、その正確な面積を把握するため、隣地の承諾を得た「確定測量」という測量が必要になるのが一般的です。この際に、隣地が空き地・空き家だと承諾を取る対象がおらず、非常に困ってしまいます。
また、昔ながらの土地の場合、道路付けが「私道」になっており、その所有者から「通行・掘削承諾」という書類を取らないと建て替えできないことがあります。この「私道所有者」が見つからないというケースで難航する事態も多々起きています。
いずれも法的に、所有者不明、所有者の所在地不明であれば、所有者不明土地管理制度や不在者財産管理人という裁判所を通した手続きで対応が可能です。
他方、隣地の方に単純に反対されて承諾が取れなかったり、連絡が取れずいるのかいないのかもよくわからなかったりといった状態のほうが困ってしまうことが多いです。
さて、このような事態に備え、先ほどの「売却か賃貸か」という方向性を考えるうえでも、隣地の状態というのも調べておくべきだといえます。
特に、法的な調査自体は法務局などを利用し、弁護士・司法書士等の専門家を通じてある程度状態を把握できるかと思います。しかし実際にどういう隣地との付き合いだったのかという点は、居住している方と話してみるほかありません。
たとえば、右隣のおばあさんとは以前から仲が悪い、左隣は最近引っ越してきた世帯で親交がないなど、実際のご近所付き合いや関係性は、現住者に確認しなければ把握できません。
また近隣の権利関係の整理は、法律で一刀両断的に対応するのが難しい分野です。このような心情面が解決の切り口になることもあるため、できる限り従前の情報も集めておくべきといえるでしょう。
「負」動産化を防ぐために

従前、土地建物は資産だと考えられてきましたが、近年、近隣関係での権利意識の高まり、金融機関・不動産会社のコンプライアンス意識の高まりから、権利が安定していない土地建物は簡単に「負」動産になってしまうケースが増えてきました。
負動産化を防ぐためには、土地建物について、被相続人が生前時から情報収集し、将来どのような不動産活用が考えられるのかを検討するとともに、それに必要な情報やノウハウを収集していくことが高まってきたといえるでしょう。
もちろん、不動産会社、金融機関等が手伝ってくれるところもあるかと思います。ですが「外部に依頼する」には依頼するための知識やノウハウが必要ですし、「判断する」という一番重要な部分は、相続人自身で行っていく必要があります。
「負」動産を生まないためには、特に精神面でしんどい部分もあるでしょうが、相続財産を遺す人や相続財産になり得る土地建物と、しっかりと向き合っていくことが重要です。
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