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不動産投資の費用負担を軽減…“賢い投資家”が実践する「コスト管理術」

不動産投資の費用負担を軽減…“賢い投資家”が実践する「コスト管理術」
伊豫田 誠(FP事務所ストラット代表・不動産投資専門ファイナンシャルプランナー)

執筆者

FP事務所ストラット代表・不動産投資専門ファイナンシャルプランナー

伊豫田 誠

1972年生まれ、愛知県出身。東証一部上場企業・外資系保険会社の勤務を経て、2005年に自動車販売修理店および保険代理店で独立する。その後、会社は年商2億・従業員数15名に成長し、個人でも不動産投資を行い経験や実績を重ね45歳のときにセミリタイヤ(FIRE)を達成する。2010年より「FP事務所ストラット」を開設し、会社員・公務員に向けて、最適な投資などを『不動産投資セミナー』を通して伝える活動を行っている。

不動産投資で収益を上げるには、「いかに高く貸すか」「いかに高く売るか」と同じくらい「いかに無駄な費用を減らせるか」も重要です。家賃収入が順調でも、見えない支出が膨らめば実際の利益は削られてしまいます。そこで、不動産投資初心者が押さえておきたい「費用の種類」と「削減のポイント」について、不動産投資専門FPの伊豫田誠氏が、自身の実体験を交えて解説します。

不動産投資の主なコストとは

不動産投資の主なコストとは

不動産投資では、物件価格以外にも多くの費用がかかります。購入時の初期費用だけでなく、管理費や税金などのランニングコストも見逃せません。そのため、投資をはじめる前に全体の費用構造を把握することが大切です。

初期費用の全体像(物件価格:2,000万円の場合)

  • 仲介手数料:3%+6万円+税……約72万6,000円
  • 登記費用:所有権移転や司法書士費用等……約20〜30万円
  • 印紙税:売買契約書用……1万円
  • 固定資産税:購入時期により変動……約5万円
  • 火災保険:複数年分を初年度に一括支払い……約3〜5万円
  • リフォーム費用:壁紙や清掃等(中古物件の場合)……約10〜50万円

※融資を利用する場合、さらに以下の追加費用がかかります

  • 保証料:保証会社への支払い……約50万円
  • 金融機関手数料:事務契約手数料……約3〜10万円
  • 借入契約印紙税:2万円

運用中のランニングコスト(年間例)

  • 管理費:月8,000円の場合……約9万6,000円
  • 修繕積立金:月12,000円の場合……約14万4,000円
  • 固定資産税等:地域により変動……約8〜10万円
  • 賃貸管理手数料:家賃の5%(家賃8万円想定)……約4万8,000円
  • 火災地震保険:年割換算……約1万円
  • 軽微な修繕・更新費:年間想定……約2〜3万円

インフレ傾向の市場において、初期費用やランニングコストの値引き交渉はハードルが高くなっています。ただし、他社と比較して不要に高額な費用が見つかった場合は、交渉の余地があるでしょう。

空室リスク・修繕費・資金繰りの基本知識と対処法

空室リスク・修繕費・資金繰りの基本知識と対処法

不動産投資における最大のリスクは「予定していた収益が得られない」こと。これは入居者の有無に限らず、「予測困難なコスト」による場合も少なくありません。ここでは、空室リスク・修繕費・資金繰りという3つの落とし穴とその備え方について、投資家の視点から解説します。

空室リスクの影響と備え方

空室は家賃収入がゼロになるだけでなく、次の入居者募集のために「広告費」や「原状回復費用」「フリーレント(家賃無料期間)」といった追加費用がかかるのが現実です。

実際に、都内の中古ワンルーム(家賃8万円)で退去が発生した際、オーナー負担で広告費2ヵ月分+室内クリーニング費用6万円が発生し、合計22万円の支出となったケースもあります。

〈空室リスクを軽減する基本策〉

  • 立地を重視する:駅徒歩10分以内、周辺施設の充実度は空室率に直結
  • 入居者ニーズに合った間取りや設備:単身者向けなら宅配ボックス、ファミリー向けなら独立洗面台が重要
  • 管理会社との連携強化:客付け力の高い会社を選び、定期的な報告と改善提案を受ける
  • 広告費、フリーレントの戦略的活用:広告費2ヵ月+フリーレント1ヵ月で空室期間短縮

【経験談】管理会社を味方につける交渉術

広告費はオーナー負担の場合がほとんどですが、契約内容や交渉によって管理会社負担で行ってもらうことも可能です。管理会社の言いなりになったり任せっぱなしにせず、日頃からオーナーの考えを伝え、信頼関係を築くことで管理会社を味方につけましょう。

修繕費の実態と備え方

不動産は経年劣化する資産です。築10年・15年・20年を節目に、給湯器・エアコン・外壁・水回り設備などの交換や補修が発生します。

〈修繕費に強くなるための備え方〉

  • 購入前に「長期修繕計画」と「修繕履歴」を必ず確認
  • 自主管理ではなく管理会社がいる場合も、自己積立月額5,000〜10,000円を準備
  • 設備保証や火災保険の「設備補償特約」も活用して、予期せぬ支出をカバーする

【経験談】ある日突然「50万円の追加徴収」も

築18年の区分マンションで、給湯器の交換に15万円、3年後には共用部の大規模修繕積立金として1戸あたり50万円の追加徴収を経験しました。日ごろの自己積立の重要性を再確認したケースです。

資金繰りの安定こそが投資の継続力

不動産投資では、たとえ表面利回りが高くても、現金が回らなければ破綻リスクが高まります。たとえば「空室2ヵ月+修繕20万円+管理費・ローン返済10万円/月というケースでは、40万円以上の持ち出しが必要になる場合もあります。

〈安定した資金繰りを維持する鉄則〉

  • 家賃3〜6ヵ月分の「緊急予備資金」を必ず確保し、想定外の空室や修繕にも対応できる資金力を持つ
  • キャッシュフロー計算は「税引後・ローン返済後」で判断し、帳簿上の利益ではなく、実際に手元に残る現金で判断する
  • 融資比率と返済比率を抑え、余裕を持ったレバレッジ管理が重要。DSCR(元利返済カバー率)1.2倍以上が安全水準とされる

見落としがちな「出口コスト」に要注意

見落としがちな「出口コスト」に要注意

不動産投資の本当の収益は、「売却して初めて確定する」といわれます。つまり、売却時にもコストが発生するということです。ここでは出口コストを考えてみましょう。

〈売却時にかかる主な費用(2,000万円で売却時)〉

  • 仲介手数料:3%+6万円+税……約72万6,000円
  • 譲渡所得税:利益が出た場合の課税で利益に応じて……20%〜39%
  • 抵当権抹消登記費用:ローンが残っている場合……約1〜2万円
  • クリーニング修繕費用:引渡し前の調整費……約5〜15万円

【経験談】賃貸管理契約解除時に想定外の出費

売却時に賃貸管理契約を解除しようとしたところ、違約金として家賃6ヵ月分(48万円)を請求されたことがあります。

ただし、日頃から管理会社と良好な関係を築いていると、違約金減額の交渉ができる場合もあります。賃貸管理契約の解除条件は事前に必ず確認しましょう。

物件選びで「費用対効果」を見極めるチェックリスト

物件選びで「費用対効果」を見極めるチェックリスト

これまでの内容を踏まえ、費用対効果を最大化する物件選びのチェックポイントを整理します。

①立地・エリアの将来性

……駅までの距離、周辺の空室率、人口密度、再開発の有無、治安のよさ

②賃貸需要の有無

……単身・ファミリーの需要状況、近隣に大学・企業・病院などがあるか

③表面利回りと実質利回りの差

……管理費、修繕費、税金、空室リスク等を差し引いた「実質利回り」で比較

④物件価格と相場のバランス

……同エリア、同築年、同間取りの相場と比べて割高か割安かを調査

⑤管理会社の手数料・契約条件

……管理費率、対応品質、広告費・フリーレントなど募集時コストの確認

⑥修繕履歴と今後の修繕予定

……築年数に応じた修繕履歴の有無、将来の大規模修繕計画と積立状況の確認

不動産投資で成功する鍵は「コスト管理」

不動産投資で成功する鍵は「コスト管理」

長期的な視点で収益を最大化するには、物件選びや家賃収入の高さだけでなく、「いかにコストを抑えるか」が非常に重要です。購入時の初期費用、運用中のランニングコスト、空室リスクや修繕費、さらには売却時の出口コストまで、見落とされがちな費用がキャッシュフローに大きな影響を与えます。投資判断時には、立地・利回りだけでなく、費用対効果や長期的な収益性を総合的に見極めることが必要です。

賢い投資家は、「収益を増やす」だけでなく、「費用を管理する」視点を持っています。これから不動産投資に取り組む場合は、まずは徹底したコスト管理からはじめてみましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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