人生を「勉強→仕事→老後」と大きく3つのステージに分けると、50代は「仕事」の後半戦。収入のピークを迎えるものの、パートナーや子どもがいる場合、支出負担も大きい世代といえます。20代で結婚したAさんと30代後半で結婚したBさん2人の事例をもとに、「50代の資産形成」で注意すべきポイントについて見ていきましょう。ファイナンシャル・プランナーの三藤桂子さんが解説します。
50代は「仕事期」のゴールが見えてくる世代

日本の平均的な50代は、20代前後で社会に出て以降、スキルや実績等を身に着けながら、収入が右肩に上がり増え、安定した収入を得ている人が多い年代といえます。
国税庁「令和5年分民間給与実態統計調査」によると、50代の平均給与は下記のとおりです。
男性:689万円(月額約57万円)
女性:343万円(月額約29万円)
■50代後半
男性:712万円(月額約59万円)
女性:343万円(月額約29万円)
全年代を通してみると、男性の給与収入のピークは50代後半、女性は40代後半~50代前半がピークを迎えます。ただし男性の場合、50代は支出も増加しているようです。
近年は「晩婚化」「晩産化」傾向
厚生労働省「人口動態調査(2023年)」の「全婚姻-初婚別にみた年次別夫妻の平均婚姻年齢及び夫妻の年齢差」によると、平均婚姻年齢(全婚姻)は夫が33.9歳、妻が31.8歳となっています。2000年は夫が30.4歳、妻が28.2歳だったことから、晩婚化傾向にあることがわかります。
同様に「晩産化」の傾向も見られ、実際、出産する母親の年齢は30歳未満では減少し、40歳以上で増加傾向となっています。
こうした流れは、50代の「お金の使い方」に大きく影響する可能性があります。ライフイベントのなかで上位を占める「教育費」は、かかるピークが晩婚や高齢出産で大きく変化するためです。
今回は、FPのもとに相談に訪れたAさんとBさんという2人の事例を通して、50代におすすめしたい資産形成方法やそのコツを紹介します。
相談者1.世帯年収720万円、20代で結婚したAさん

都内在住のAさんは、専業主婦の妻と2人の子どもとの4人家族です。Aさんは高校卒業後、中小企業に事務職として就職。同級生には転職する人も多いなか、コツコツと同じ会社で働き続けてきました。50代後半の現在、年収は600万円です。
Aさんは26歳のとき2つ年下の妻と結婚し、すぐに子どもを授かりました。そのため、第1子が大学に入学する40代前半から第2子が大学を卒業する50代前半にかけて、教育費の負担がピークに。しかし、妻がパートに出て家計を助けてくれたことで、世帯年収は720万円になりました。
子どもたちは奨学金を活用しながらストレートで大学を卒業し、就職。ようやく夫婦はひとつの家計負担から解放されたところです。
しかし、定年間近のAさんは、今度は自分たちの老後資金について考える必要があります。Aさんは自身の給与が同世代の平均給与まで上がらなかったことから、定年後の暮らしに不安があるようです。
50代というのは、会社によっては「役職定年」や「早期退職」を迎え、これからの働き方を選択しなければならない年代です。幸い、Aさんの会社は定年が60歳で定年を迎えたあとも、再雇用として勤務が可能。年収500万円で、65歳まで働くことができるそうです。
65歳から年金受給がスタートしますが、さらに働けるのであれば、受給開始を遅らせて増額された年金を受け取る「年金繰下げ受給」制度を活用するとよいでしょう。こうすることで、働けなくなったときの備えになります。
20歳より前から厚生年金保険に加入していたAさんであれば、夫婦の年金のみで日常生活を送る分は確保できそうです。
Aさんの場合、大きな支出である教育費が50歳前半で終了したことから、老後資金として積立型の資産形成を行うことをおすすめします。
相談者2.世帯年収1,300万円、30代後半で結婚したBさん

次に紹介するBさんは、都内在住の共働き夫婦で、2人の子どもは私立高校に通っています。
同い年の妻とは30代後半で結婚。40歳のときに第1子が、44歳のときに第2子が誕生しました。50代のいま、世帯収入は現在1,300万円です。
第2子が大学を卒業するのは、Bさんが66歳となり、夫婦の年金受給が始まったころ。Bさんの勤務先は定年が60歳のため、定年後も教育費が重くのしかかってくることになります。
共働きのB夫婦は収入が十分にあることから一見問題はないように思えますが、「コミュニケーション不足」に注意が必要です。計画的に資産形成をしないと、収入があっても家計が赤字になってしまうケースもあります。
2人で働いているから余裕があるという “安心感”に頼りすぎず、お互いがどのくらい貯蓄しているか、日ごろのコミュニケーションや家計アプリなどで把握することが大切です。
また、Bさんは収入を確保しながらできるだけ長く働くことを希望しています。会社員として定年まで働き続けるか、現職で培った専門スキルを活かして独立開業か……今後のキャリアについて改めて考えているようです。
もし新たな働き方を選択する場合にはキャッシュフローが変化するため、制度や公的な保障をチェックしながら、必要に応じて保険の見直しなどを検討するとよいでしょう。
ライフイベントが「いつ起きたか」によって、老後のプランも変わる

ここまで見てきたように、50代は定年後の生き方・働き方について選択を迫られる年代です。
教育費など、負担の大きい支出がいつまでかかるかによって、老後の生活や働き方も大きく変わってきます。晩婚化傾向のいま、定年後まで住宅ローンと教育費に追われる人も少なくありません。
一般的に、支出負担の大きいライフイベントとしては、「子どもの誕生(教育費)」、「マイホームの購入」の2つが挙げられるでしょう。子どもの成長に合わせて住宅を購入する人も多く、両者は密接に関わってきます。
出費がかさむ時期に自分が何歳になるのか、あらかじめチェックしておきましょう。
老後に向けて家計の見直しを検討する
現在、「高年齢者雇用安定法」によって65歳までの雇用機会の確保が義務となり、70歳までの就業機会の確保が努力義務となっています。
今回の事例では、AさんもBさんも共通して「定年後も働きたい」との希望を持っていました。老後の生活を豊かにするために長く働くことで、収入の確保と将来の年金額を増やすと考えているそうです。
Aさんは、コツコツと同じ会社で働き、安定した収入を得ることで、将来の年金額を増やしています。また、早くに子育てが終了したことで、50代後半は家計に余裕ができ、安定した働き方ができそうです。
Aさんのように教育費の支出が早めに終わったのであれば、子どもが独立したタイミングで生命保険の保障内容を見直し、貯蓄性の高い保険に切り替えるのも一案です。資産形成をする際は、なるべくリスクの低い商品を選ぶといいでしょう。
一方のBさんは、年金を受給するタイミングまで教育費がかかることから、夫婦のどちらかに万一のことがあった場合、リスクが大きくなります。したがって、夫婦それぞれにリスクに備えた保険が必要不可欠です。
夫婦それぞれに収入があるぶん、現役時から資産形成をしていれば、心にゆとりがもてるでしょう。厚生年金保険は上限があるものの、報酬額が高いと将来の年金額も高くなります。
教育費の支払いが終わった途端に老後生活に突入することになりますが、独立開業も視野に長く働きたいという希望があるBさん。60代以降は健康に留意が必要な年代ですから、体調管理には十分気をつけてほしいところです。
50代は家計収支の“見直し”に最適のタイミング

FPに相談後、Aさん・Bさんそれぞれから下記のように感想をいただきました。
Bさん「結婚が遅かったため、結婚後は生活費、教育費のみを夫婦の収入から1つの通帳にまとめていましたが、お互いの貯蓄等には干渉しないようにしていました。個人を尊重したい気持ちも考慮しつつ、コミュニケーションをとりながら資産形成をしていきたいです」
“人生の折り返し地点”ともいえる50代は、人生の後半戦をどう生きるか、その選択が迫られる年代です。
もし老後を見据えて資産形成を始める場合は、一般的に年齢を重ねてからの資産形成は、リスクの低い商品等で始めることをおすすめします。また、なるべく余裕資金を使って行うことが重要です。不安なことがあれば、始める前に一度専門家に相談してみてもいいかもしれません。
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