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投資のプロが「結局これが最強」と認める“意外なほどお手軽”な投資手法【20年分の大検証】

投資のプロが「結局これが最強」と認める“意外なほどお手軽”な投資手法【20年分の大検証】

最近の株式相場は、トランプ米政権による相互関税政策をはじめ、米中貿易摩擦の悪化懸念や中東情勢の緊張、ロシア・ウクライナ戦争などを背景に乱高下を繰り返しています。こうしたなか、「投資はしばらく控えておこう」と考えている人もいるのではないでしょうか。ただ、それは資産形成の機会を逃す悪手かもしれません。実は、先行き不透明感の強い相場環境でも“意外なほどお手軽”に安定的な資産形成が可能なのです。そんな、筆者が考える最強の投資手法について、15年間の証券会社勤務を経て、現在はJ-FLEC(金融経済教育推進機構)の講師としても活動するCFPの倉橋孝博さんが詳しく解説します。

トランプ関税、中東問題…波乱含みの株式市場

トランプ関税、中東問題…波乱含みの株式市場

トランプ大統領の再登場で、波乱含みの株式市場と世界経済。今年(2025年)4月7日には突如発表されたトランプ関税への警戒感が強まり、日経平均株価は1日で2,644円の下落に見舞われました。

また、中東ではイスラエルを中心に紛争が頻発し、ロシアのウクライナ侵攻も継続中です。

昨年(2024年)の夏にも、日本銀行の利上げやアメリカ経済の減速懸念で世界中のマーケットが混乱し、8月5日には日経平均株価が4,451円安という過去最大の下げ幅を記録しましたね。

「こんな乱高下相場では投資できない」

「相場環境が落ち着くまで、株式投資はしばらく控えよう……」

そんな声が聞こえてきそうですが、混沌とした時代だからこそ力を発揮する投資手法があり、しかもそれが “意外なほどお手軽”だとすれば、ハードルもいくらか下がるのではないでしょうか。

今回は私が「結局これが最強!」と考える「ドル・コスト平均法」という投資手法についてのお話です。

投資の成功率を高める「ドル・コスト平均法」

投資の成功率を高める「ドル・コスト平均法」

ドル・コスト平均法とは、株や投資信託といった値上がり・値下がりするものへ投資する際、購入単価を下げるために定期的同じ金額で買い続ける方法です。たとえば、毎月1万円コツコツ買い続けることをイメージするとわかりやすいでしょう。

まとまったお金で一度に購入するのではなく、毎月など時期を分散することで、株や投資信託の価格変動に対応できます。

毎月同じ金額であれば、株価が安いときは多く、株価が高いときは少ない株数を購入することになるため、結果として1株あたりの購入価格は平均化されます。

資産運用は、20年以上の長期投資で成功の確率が高まります。そこにドル・コスト平均法を加えれば、さらに確度が増すのです。

たとえば、2003年1月から2022年12月までの20年間(240ヵ月)、毎月末に世界株式で運用する投資信託を、ドル・コスト平均法で1万円ずつ買い続けたケースを考えてみましょう。この場合、トータル240万円の購入額は690万円に増えています

途中2008年秋にはリーマンショックに見舞われ、その後4年間世界経済は低迷しましたが、ドル・コスト平均法での投資が好成績の一因であることは間違いありません

※ 参照:金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」

ただし、検証開始時の2003年1月は株価が低かったこと、そして20年後の2022年12月のマーケットは活況を呈しており、株価水準が高く、よりよい結果が得やすい期間であったことは事実です。

詳しく見ると、2003年の経済は金融危機の終盤で疲弊しきっていました。実際、2003年1月末の日経平均株価は8,339円と、バブル崩壊後の最安値近辺です。

それが、2022年12月末には新型コロナウイルス対策の金融緩和が功を奏し2万6,094円まで上昇しており、20年間で3倍以上になっています。

NYダウも8,053ドル(2003年1月末)から3万3,147ドル(2022年12月末)まで上昇しており、こちらはなんと4倍以上になっているので、先ほどの検証結果はある意味当然のことといってもいいでしょう。

ドル・コスト平均法は本当に最強なのか?

ドル・コスト平均法は本当に最強なのか?

では、本当にドル・コスト平均法での投資が「最強」なのか、より厳しい状況で検証してみることにしましょう。私が選んだ期間は、ITバブル絶頂期直前の2000年3月から、新型コロナウイルスのパンデミックが宣告された2020年3月までの約20年間(241ヵ月)です。

日経平均株価は2000年3月末の2万337円から、2020年3月末の1万8,917円まで約10%弱下落しています。この期間に毎月末、日経平均株価にドル・コスト平均法で1万円ずつ投資し続けたとして検証しました。

この期間は、まさに「激動の20年」といえます。ITバブル崩壊やアメリカ同時多発テロ、イラク戦争、アメリカ住宅バブル崩壊、サブプライムローン問題、リーマンショック、東日本大震災、アベノミクス、新型コロナウイルスのパンデミック……。トピックは枚挙にいとまがありません。

はたして、ドル・コスト平均法での投資で利益は出たのか? 激動の20年を振り返ってみましょう。

■2000年3月末

2337(買付総額:1万円/評価額:1万円)

……マーケットはITバブルを謳歌。しかし崩壊の足音が間近に。ちなみに、ITバブルの天井は翌4月12日の2万833.21円。

■2000年4月末

17,973(買付総額:2万円/評価額:約1万8,800円)

……ITバブル崩壊。相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育ち、歓喜のなかで終わる。

■2000年12月末

13,785(買付総額:10万円/評価額:約8万5,300円)

……2000年代最初の年で「ミレニアム」とも呼ばれるが、マーケットは軟調。

■2001年9月末

9,774(買付総額:19万円/評価額:約13万2,000円)

……ITバブル崩壊以降軟調な相場展開のなか、9月11日、アメリカ同時多発テロ発生。世界経済は大混乱に。日経平均株価はバブル崩壊以降初めて1万円の大台を割り込む。ドル・コスト平均法での投資は買付総額19万円に対して評価額約13万2,000円と大苦戦。

■2003年4月末

7,831(買付総額:38万円/評価額:約26万円)

……ソニーショック勃発。ソニーの暴落に引きずられる格好で日経平均株価は4月28日、バブル崩壊後の最安値7,603.76円を付ける(2008年のリーマンショック時にはこの安値を一時下回る)。

ドル・コスト平均法での投資は買付総額38万円に対して評価額約26万円と30%下落。ただし、銀行への公的資金注入の効果がしだいに現れ始め、株価はこの安値を転機に上昇に転じる。

■2004年12月末

11,488(買付総額:58万円/評価額:約60万円)

……評価額が約60万円となり、買付総額の58万円を上回る。株価低迷時に我慢して買い続けた効果が出始める。

■2005年12月末

16,111(買付総額:70万円/評価額:約99万6,000円)

……評価額が約100万円となり、買付総額の70万円を約30万円上回る。

■2006年12月末

17,225(買付総額:82万円/評価額:約119万2,000円)

……評価額が約120万円となり、買付総額の82万円を約38万円上回る。この時点での平均利回りは約11%になる。

■2007年8月末

16,569(買付総額:90万円/評価額:約122万2,000円)

……フランスのBNPパリバ銀行が傘下の3つのファンドの凍結。サブプライムローン問題の表面化。ドル・コスト平均法での運用も苦戦が始まる。

■2008年10月末

8,576(買付総額:104万円/評価額:約72万2,000円)

……リーマンショック勃発。日経平均株価は10月28日、バブル崩壊以降の最安値を更新する6,994.90円を付ける。世界経済は低迷期に突入する。評価額は約72万円に値下がりし、買付総額の104万円を30%以上下回る。元の木阿弥となる。

■2011年3月末

9,755円(買付総額:133万円/評価額:約111万8,000円)

……3月11日、東日本大震災発生。東北地方を中心に甚大な被害。低迷を続けていた株価に、さらに暗雲が垂れ込める。評価額は約112万円と、依然元本割れの状況。

■2012年10月末

8,928(買付総額:152万円/評価額:約120万9,000円)

……アベノミクス直前。依然として投資元本を割り込む。

■2013年2月末

11,559(買付総額:156万円/評価額:約160万9,000円)

……アベノミクス開始4ヵ月あまりで投資元本を回復。成長路線に突入。

■2019年12月末

23,656(買付総額:238万円/評価額:約435万7,000円)

……コロナショック直前。約20年間の平均利回りは約6%/年となる。

■2020年3月末

18,917(買付総額:241万円/評価額:約351万1,000円)

……新型コロナウイルスのパンデミック宣言。世界中の株価が暴落。しかし、評価額は約351万円と買付総額の241万円を110万円上回る。

[図表]ドル・コスト平均法の結果
[図表]ドル・コスト平均法の結果
出所:日本経済新聞にて公開された日経平均株価の数値もとに著者作成

検証で証明された「ドル・コスト平均法」の有用性

検証で証明された「ドル・コスト平均法」の有用性

―――以上が約20年間の検証結果です。

2000年3月末に241万円を一度に投資していたら、20年後には約224万円になり、約17万円の損失が発生していたはずです。

ところが、ドル・コスト平均法で毎月1万円ずつ投資し続けた241万円は、約351万円に上昇しています。

もちろん、2013年以降の株価上昇の恩恵を受けてはいるものの、2000年代前半のITバブル崩壊や金融危機、2008年以降のリーマンショックによる景気低迷時に踏ん張ったことが好成績につながっています。

株や投資信託は常に上がったり下がったりの繰り返しです。それを毎月、定額で購入し続けるので、時価総額も上がったり下がったりを繰り返します。

ところが、これを20年以上継続すると、その上下はおおよそ買い付け総額より上の部分で起こることがほとんどです。シミュレーション後の日経平均株価は、2024年7月11日に4万2,426円の史上最高値をつけています。

いかがでしたか? ドル・コスト平均法が「最強でお手軽な投資手法」であることがご理解いただけたのではないでしょうか。

世界各地で起こる紛争には心を痛めますが、朝令暮改のトランプ発言に右往左往するのではなく、いまマーケットで起こっていることは景気循環の一環ととらえ、腰を据えた投資スタンスで臨みましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

〈参照・出典〉

※ 金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」(P5)

倉橋 孝博 (株式会社くらはしFP事務所 代表取締役)

執筆者

株式会社くらはしFP事務所 代表取締役

倉橋 孝博

大学を卒業後、15年間証券会社に勤務。2009年、CFP®を取得。企業などで開催する「マネープランセミナー」や「資産運用講座」は、わかりやすく情熱のこもった内容で高い評価を得ている。また、J-FLEC(金融経済教育推進機構)講師としても活躍。平成28年度金融知識普及功績者表彰。家族は妻と1男2女の5人。【保有資格】CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員1種

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