結婚や出産などライフイベントが多く発生する30代は「貯金がしにくい世代」です。会社員の健太さん(仮名・33歳)は、年収540万円ながら貯金は100万円。そんななか、妻から「マイホームがほしい」と言われてしまい、思わず狼狽……。妻に相談のうえ、心機一転「40歳までに貯金する」と決めた夫婦は、7年後無事に目標額の1,000万円を貯めることができたのでしょうか。ファイナンシャルプランナー(FP)の山中伸枝さんが夫婦の事例をもとに、FPの視点から30代が「お金を育てる」現実的な方法について解説します。
「マイホームがほしい」…妻のひと言に困惑する33歳夫

「ねえ、私たちもそろそろマイホームを考えてみない?」
年収540万円の会社員、佐藤健太さん(仮名・33歳)は、同い年で正社員としてフルタイム勤務の妻・美咲さん(仮名)の言葉に動揺しました。
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」※によると、30代前半の男性正社員の平均年収はおよそ533万円。年収540万円の健太さんは決して低収入ではありません。
※ 厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」
しかし、二人には子どもがいないにもかかわらず、健太さんの銀行口座にある預金残高は100万円と、住宅購入どころか今後の生活設計すらおぼつかず、不安が募ります。
「家なんて夢のまた夢だよ……」
マイホームは贅沢品!?…30代会社員の“厳しい懐事情”

総務省「家計調査」(2023年)※によると、30代夫婦2人世帯(勤労者世帯)の平均消費支出は月30万円ほど。住居費や食費、通信費、光熱費、教育費などが家計を圧迫し、思うように貯蓄ができない家庭は少なくありません。
※総務省「家計調査」(2023年)
さらに金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(2023年)※によると、30代の単身世帯・2人以上世帯ともに、金融資産保有額の中央値は200万円台。健太さんの貯金額は、決してめずらしい金額ではないのです。
※金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(2023年)
加えて、住宅購入には購入時の頭金や諸費用だけでなく、その後の住宅ローン返済や固定資産税の支払い、修繕費の積み立てなど、長期間さまざまなお金がかかります。
近年の住宅価格上昇も相まって「現実を見ると賃貸しか選択肢がない」と考える層も増えているのが現状です。
40歳までに1,000万円貯める…夫婦が立てた「マイホーム購入計画」

妻の唐突な言葉に戸惑った健太さんですが、実は以前から「いつかは家を持ちたい」と漠然と考えていました。
そこで、これを機に一念発起し、マイホーム購入のための現実的なプランを練ることにしました。
妻に「今すぐには難しい」と詫びたうえで話し合いを重ね、マイホーム購入に向けた明確なゴールを定めました。それが、「40歳までにマイホームを購入する」ことです。
具体的には、40歳までに1,000万円を貯めることを目標にしました。健太さんは現在33歳なので、タイムリミットは7年後です。単純計算すると、年間約143万円、月約12万円の貯蓄が必要になります。
とはいえ、すぐに収入が激増するわけではありません。そこで、夫婦は協力して「家計改善」に取り組むことを決めました。
家計を「徹底的に」見直した結果

家計改善には、美咲さんの存在が不可欠ですが、マイホーム購入のためということもあって、美咲さんもやる気に溢れています。
目標を定めた直後、美咲さんはすぐさま家計簿アプリをインストール。また、収支を記録するだけでなく、節約に関する情報があればすぐにキャッチして行動に移すなど、貯金への努力を惜しみませんでした。
その結果、下記のように支出を減らせることがわかりました。
→年間▲18万円
現在の家を解約し、より家賃が安い物件に引っ越すことで、固定費を削減。
・スマホ通信費:1.5万円→ 5,000円
→年間▲12万円
大手キャリアから格安SIMへの乗り換え
・生命保険:月1.5万円→ 8,000円(保障の見直し)
→年間▲8.4万円
保険を見直し、不要な保障をカット
・外食費・娯楽費:月2万円→ 1万円
→年間▲12万円
・サブスク整理:月2,000円削減
→年間▲2.4万円
その後、この表をもとに外食を減らし、スマホを格安プランに変更するなどを行った結果、合計で年間約52.8万円、月に約4.4万円の節約を実現することができました。
積立投資で「お金を育てる」
さらに、節約で生まれた資金は、ただ貯めるのではなく積立投資で「育てる」ことに。勉強熱心な美咲さんから「やるならちゃんと勉強しよう」と誘われた健太さんは、2人でNISAについて知識を深め、下記のようにリスクとリターンについて確認しました。
たとえば、
・年利4%(国際分散投資で長期運用の期待リターン)
で7年間運用すると、以下のとおりです。
年利:4%
積立期間:7年
→将来資産:約1,130万円
(※試算は複利計算による概算)
この計画どおりの運用ができれば、40歳で1,000万円超の資産を築けます。
さらに健太さんは、年間ボーナス80万円のうち、毎年20万円を積立に回すことにしました。
・年利4%の運用益:約22万円
→合計:約162万円
これを先の積立額と合計すると、40歳時点で試算額約1,290万円が見込めます。
7年後…佐藤夫妻の資産額は

そして、7年後。40歳を迎えた佐藤夫妻には、1,300万円近い資産がありました。
妻の美咲さんは「正直、最初は夢物語かと思っていました」と笑います。
子の誕生で計画見直しを余儀なくされるも…
実はこの7年間のあいだに、佐藤夫妻には第1子が誕生しました。
出産は家計に大きな影響を及ぼすイベントですが、2人は「40歳までに家を買う」という目標をきっかけに、普段から将来のことを話し合う習慣ができていたため、育休取得や家計再編も2人で相談しながら進めることができました。
そのため、健太さんも美咲さんも育休をしっかり取得したうえで、収入減の期間を乗り越えるために予算を再調整。お互いの収入状況や子育てにかかる費用を「見える化」し、運用も継続したことで、目標達成が揺らぐことはありませんでした。
佐藤夫妻は、子育てをしながらも「お金を育てる」習慣を継続させ、安心してマイホーム購入に向けた次のステップを踏み出したのです。
「期限付きの目標」が成功を左右する
大事なのは、漠然とした夢を「期限付きの目標」に変えること。そして1人で悩まず、家族と一緒に取り組むことです。固定費を見直し、無理のない範囲でお金を運用する。その積み重ねが、未来の大きな安心につながります。
これからマイホーム購入を目指す皆さんも、まずは家計の点検と家族での話し合いから始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。