不動産投資において、物件選びの重要性は言わずもがなです。ただ、物件選びが投資の成否を左右するかというと、決してそうではありません。
不動産投資を始める前に行うべき「正しい準備」についてみていきましょう。FP事務所ストラットの伊豫田誠FPが解説します。
物件重視の不動産投資の落とし穴

「不動産投資は立地と物件選びがすべて」とはよく耳にする言葉ですが、現実はもう少し複雑です。
たしかに「好立地・高利回り・築浅」など、魅力的な条件を備えた物件は投資判断の重要な要素です。しかし、物件選びだけに注力して他の準備を怠ると、想定外のトラブルに見舞われ、失敗するリスクが高まります。
実際、不動産投資専門のファイナンシャルプランナー(FP)として多くの投資家と接してきたなかで、物件そのものは悪くなかったにもかかわらず、資金計画の甘さや目的の曖昧さから「失敗だった」と後悔する人は少なくありません。
ある40代の会社員男性(年収800万円)は、将来の年金対策として不動産投資を開始。しかし、ローン返済計画を十分に練っていなかったことから、3年後にはキャッシュフローが悪化し、売却を余儀なくされました。
では、不動産投資の成功率を上げる「正しい準備」とはなんでしょうか。今回は、不動産投資前にやるべき「4つの準備」について紹介します。
準備1.投資の「目的」と「ビジョン」を明確に

筆者は「不動産投資を始めようと思うのですが、どんな物件がいいですか?」という相談をよく受けます。
しかし、最初に考えるべきは「物件」ではなく投資を行う「理由」です。
「定年後の年金の足しに、安定した収入源が欲しい」「毎月5万円の副収入を得たい」「子どもの教育資金を10年後に確保したい」
その目的やビジョンによって、取るべき投資手法はまったく異なります。
短期で収益を狙うのか、長期で安定運用するのかなど、出口戦略も含めて明確にしておくことで、選ぶ物件・エリア・融資プランも変わってきます。
〈事例1〉「月5万円の副収入を得たい」50代Yさん
50代の会社員Yさんは、定年後の暮らしについて考えた際に年金だけでは不安と感じ、副収入を得る目的で不動産投資を始めました。
自己資金1,000万円を活用して、郊外にある築30年の中古アパート1棟(4戸)を現金購入。管理会社に委託しながら運用を続け、経費や修繕積立金を差し引いたあとも、毎月5万円以上の安定したキャッシュフローを得ています。
Yさんは、「退職後も家賃収入があることで、精神的にゆとりが持てるようになった」と語っています。
〈事例2〉「子どもの教育資金を10年後に確保したい」30代Kさん
30代の会社員Kさんは、子どもの教育費を確保するために不動産投資を開始。一番負担が大きい10年後の大学進学費用を見据え、自己資金40万円で都内の新築ワンルームマンション4軒に投資しました。
最初の3年間は減価償却による節税効果で約200万円の税負担を軽減できました。
キャッシュフローは毎月約2万円(10年間で240万円)の持ち出しがありましたが、予定通り10年後に物件を売却し、これまでの出費を清算しても約500万円超の利益を確保。無事子どもの教育資金に充てることができました。
Kさんは「目的が明確だったから続けられた」と語っています。
不動産は、一度購入してしまうとすぐに買い替えることができません。購入前にあらかじめ目的を明確にし、実現可能なプランをプロと話し合っておくことが重要です。
また、節税効果は一時的な減税効果であり、売却時の譲渡所得税や将来的な税制改正リスクも考慮した総合的な判断が必要です。
準備2.失敗リスクを未然に防ぐ方法

投資初心者が陥りがちなのが、「情報不足」から来る致命的な判断ミスです。下調べが不足していたせいで条件の悪い物件を選んでしまい、後悔する投資家が少なくありません。代表的なものは下記の3つです。
・「再建築不可」の物件
……古家を壊しても新しい建物が原則として建てられない土地(※一定の条件下で例外的に再建築できる場合もあるため、必ず専門家に事前確認を)
・「旧耐震基準」の物件
……震度6強以上で倒壊リスクが高い建物(新耐震基準は1981年6月以降。旧耐震は耐震診断や改修の有無で評価が大きく変わるため要注意)
・「法的瑕疵」のある物件
……建ぺい率・容積率オーバーなど、法律上の問題を抱える物件(※融資・売却・建て替え時に大きな制約が生じます)
こうした “見えないリスク”を知らずに購入すると、後々売却も建て替えもできずに困り果てることになります。
また、エリアの人口動向や空室率、金利のトレンド、融資条件などの「市場環境」を把握しておくことは、物件の適正価格や将来的なリスクを見極めるうえで非常に重要です。
たとえば、下記のような公的データや業界資料から、不動産投資をめぐる現状が見えてきます。
・総務省の「住民基本台帳人口移動報告(2024年)」によると、東京都特別区部は年間で約7万人の人口純増がある一方、一部の地方では年2%以上の減少がみられます。
・LIFULL HOME’Sの「見える!賃貸経営」では、全国の賃貸用住宅の空室率一覧が確認できます。(※空室率は年度やエリア、物件種別で大きく変動するため、最新データ・複数情報源の確認を推奨します)
・2025年1月、日本銀行は金融政策決定会合で政策金利を0.5%に引き上げることを決定しました。こうした流れを鑑みると、今後住宅ローンの変動金利は上昇する可能性があります。
・都市銀行は低金利である一方、審査条件が厳しく自己資金も多く必要な傾向にあります。信販会社は都市銀行と比べて金利が高い一方、審査条件が広く、フルローンなど柔軟さがメリットといえるでしょう。。ただし、信販会社は、返済が長期化しやすく、審査基準が独自の場合も多いので、融資条件や手数料・団信(団体信用生命保険)の有無等も必ず比較検討が必要です。
※出典:住宅ローン25社から比較・シミュレーション – 価格.com
こうした情報収集を積極的に行うことで、将来の空室リスクや金利上昇による返済負担、物件価値の下落リスクを予測することができます。
準備3.不動産投資は“チーム戦”

不動産投資は“個人戦”のように見えて、実は信頼できる人脈=ネットワークづくりが欠かせません。物件の紹介から融資の相談、管理・修繕の手配、税務申告にいたるまで、たった1人で対応するのは困難です。
そこで重要なのが、ファイナンシャルプランナー(FP)や税理士など、利害に関係のない立場でアドバイスをくれる中立的な専門家との関係です。
また、実績のある管理会社やリフォーム業者、金融機関担当者などとつながりを持つことで、思わぬトラブルの回避や、よりよい条件での取引が可能になります。
〈事例3〉専門家を味方につけ、初回から満室経営を叶えた30代Mさん
30代の会社員Mさんは、不動産投資を始める前に中立的なFPに相談し、自分の資金状況と目的に合った戦略を設計。その後、FPの紹介で実績が確認できる管理会社や修繕業者とつながり、初めての不動産投資を満室経営でスタートすることができました。
〈事例4〉大家の勉強会に参加し、知識とつながりを手に入れた40代Oさん
40代の公務員・Oさんは、ネットで見かけた大家の勉強会に参加して経験者からリアルな話やアドバイスを受けたことで、「知識だけでなく、人とのつながりが最大の安心材料になった」と語っています。
信頼できる不動産会社を見つけるには、Oさんのように実際に投資している人たちのコミュニティに参加するのも効果的です。リアルな体験談や注意点が共有される場に身を置くことで、営業トークに惑わされず、本当に自分に合った情報を判断できるようになります。
準備4.「2割+5%」の資金準備が、不動産経営を盤石にする

仮に「35歳の会社員で年収は700万円、貯金300万円」の人が、2,000万円の中古ワンルームマンションへの投資を検討しているとしましょう。
この場合、筆者であれば「物件価格を1,500万円以下に抑える」ことを勧めます。
ここでのポイントは、キャッシュフローと自己資金のバランスです。金融機関は自己資金1〜2割を求めるのが一般的ですが、物件や金融機関によっては「フルローン」や「オーバーローン」(諸費用も含めた融資)が可能なケースも存在します。
ただし、返済負担や金利が割高になることが多く、借りすぎには要注意です。また、運転資金として物件価格の5〜10%程度の余剰資金を持っておくのが理想といえます。
つまり、2,000万円の中古ワンルームマンションを購入する場合、自己資金は400万円(2割)+諸費用100万円(5%)が理想。そのため、300万円しか自己資金がない場合は物件価格を下げるか、自身の信用力を活かして金融機関と交渉する必要があります。
購入後のローン返済や税金支払いが無理のない範囲かを事前にシミュレーションし、自己資金比率を上げてプラスキャッシュフローで運用するか、マイナスキャッシュフローでも自己資金を多く残しておくのか、自分に合った資金管理を目指すことが重要です。
「目的・情報・人脈・資金」の4つの準備で、成功率を確実に上げる
「不動産投資=物件がすべて」は、あくまで一面的な見方。本当に大切なのは、「どんな準備をして、どんな意図でその物件を選んだのか、どんな人脈と協力していくか」というプロセスです。
不動産投資は物件選びだけに目を奪われず、目的・情報・人脈・資金の4つの準備を整えることで、初めて成果を出せるものです。
投資は人生のなかでも大きな決断のひとつですから、しっかり準備したうえで、自信を持ってスタートを切りましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。