実家の土地や建物など、兄弟姉妹や親戚と「共有名義」になっている不動産はありませんか。相続の際に「皆で公平に」と選んだその選択は、一見、円満な解決にみえます。
しかし、年月が経つにつれて、その不動産が家族間の深刻なトラブルの火種になってしまうケースが後を絶ちません。本記事では、不動産相続に精通する山村暢彦弁護士が、共有名義不動産をめぐる典型的なトラブル事例から、具体的な解決策、そして最も重要な「そもそもトラブルを起こさないための予防策」まで、わかりやすく解説していきます。
「公平に分けよう」から一転…“共有名義不動産”がトラブルになるワケ

「共有名義不動産」とは、一つの不動産を複数人で所有している状態のことです。
特に、相続の場面で、土地や建物を兄弟姉妹が「とりあえず均等に分けよう」と判断し、共有名義になるケースが多くみられます。これによって兄弟姉妹のうちの誰か一人に相続財産が偏る事態は避けられるでしょう。
一時的には、相続人同士のトラブルを回避できるのです。しかし、この“平和的解決”は長くは続きません。
共有名義では、売却や大規模修繕といった重要な判断に、原則として全員の合意が必要になります。たとえば、ある共有者が「売却したい」と思っても、ほかの共有者が「住み続けたい」「いまは売りたくない」と主張すれば、話が進みません。
さらに、誰がどの範囲を管理するのか、費用をどう負担するのかといった運営面での合意形成も難しく、トラブルが表面化しやすくなります。共有名義は、見た目の公平さとは裏腹に、長期的には大きな不安定要素をはらんでいるのです。
筆者が経験したケースでも、当初はよかったものの、後に、「長男が利用している清掃業者が友人で、異常に清掃費が高い」など、兄弟姉妹間で不満が噴出し、最終的には共有物分割の紛争が生じた事案もありました。
共有名義の不動産における典型的なトラブル

共有名義の不動産における典型的なトラブルといえば、「売却」や「管理」をめぐる意見の対立です。
たとえば、兄弟3人で相続した実家を、1人は早く売却したいと考えているのに、他の2人は「思い出の家だから残したい」と主張して譲らないといったように、相続人同士の意思決定が分裂してしまうと、結局誰の希望も実現できないまま、時間だけが過ぎていきます。
また、共用部分の修繕費や固定資産税の支払いを誰がどう負担するかで揉めるケースが後を絶ちません。特に、共有者の一部が遠方に住んでいて連絡が取りづらい場合、必要な意思決定ができず、管理が事実上ストップしてしまうこともあります。
理論上は、共有者全員で修繕費や必要経費などを貯めておき、そこから支払うような形を取れば、共同運営ができる可能性もありそうなものです。
しかし、特に親族間で共有している不動産の場合、ビジネスライクな関係を築くのは難しく、お金の問題が感情的な対立に発展し、円滑な運営を妨げるケースがほとんどです。
解決策の基本は、あくまで当事者間の話し合いによる合意形成です。しかし、一度こじれてしまうと感情的な対立が先に立ち、建設的な議論は難しくなります。そのような場合に視野に入れるべきなのが、「調停」や「共有物分割請求訴訟」といった法的な手続きです。
まずは、家庭裁判所に「共有物分割調停」を申し立てる方法があります。これは、調停委員という中立的な第三者が間に入ることで、当事者双方の言い分を整理し、冷静な話し合いを促して合意点を探る手続きです。訴訟に比べて費用も安く、柔軟な解決が期待できます。
それでも話がまとまらない場合の最終手段が、地方裁判所への「共有物分割請求訴訟」です。
これは、法律に基づき裁判官が最終的な分割方法を決定する強制力のある手続きです。
この訴訟では、不動産そのものを物理的に分ける『現物分割』(ただし、実際には土地など一部のケースを除き、建物や小規模地では現物分割が認められないことも多い)、共有者の一人が他の共有者の持分を買い取る『代償分割』、不動産全体を売却して代金を分け合う『換価分割』といった方法で、裁判所が最終的な判断を下します。
相続直後は問題が表面化しなくても、数年経つと各々のライフプランが変化し、利害のズレはより顕在化します。
問題を塩漬けにするほど解決は困難になるため、話し合いでの解決が難しいと感じた時点で、早期に専門家へ相談し、適切な法的手段を検討することが、最終的な解決への一番の近道となるのです。
相続してすぐには気が付かない…共有名義不動産の最も大きなリスク

共有名義不動産のトラブルを避けるためには、「そもそも共有にしない」という選択が最も有効です。
特に、相続時には遺産分割協議を丁寧に行い、可能な限り単独名義にすることが望まれます。不動産は現金のように分けることが難しいため、他の相続財産(預貯金など)とのバランスを取りながら、取得者を明確にしておくことが重要です。
遺言書の活用も有効です。被相続人があらかじめ遺言で「不動産は長男に相続させる」と指定しておけば、原則として遺産分割協議を経ずに名義変更ができるため、残された家族間での争いを防ぐ一助になります。
ただし、遺留分(法律で保障された他の相続人の取り分)の請求リスクが残る場合もあるため、内容次第では紛争回避にならないケースもあります。
公平感を持たせるためには、不動産を取得する人に他の相続人へ代償金を支払わせる「代償分割」も検討されるべきでしょう。
早く解消しなければ、想像を絶する事態に…
すでに共有状態になってしまっている場合には、放置せず、早めに解決を目指すことが重要です。
もっとも、法的手続きを利用した場合でも、持分の買い取りや換価分割には共有者間での意見調整や時間がかかることも多く、必ずしも短期間で解決できるとは限りません。
トラブルを先送りせず、早期に専門家へ相談し、現実的な選択肢やリスクを検討することが大切です。
そして、共有名義の最大のリスクは、世代交代によって問題がさらに複雑化することです。
仮に当初は3人の兄弟姉妹で共有状態だった、という場合であっても、そのまま長期化するとどうなるでしょうか。
それぞれに相続が発生すれば、その子どもたちへと引き継がれます。面識の薄い、いとこ同士など10人近い共有状態になることも珍しくありません。さらにもう一世代を超えると30名以上の共有状態になってしまうケースもあります。
このような極端な例は稀ではありますが、世代を重ねるごとに共有者が増加し、お互いの関係性が希薄になっていくという問題は、実際に多くの不動産で発生している現実です。
世代が進むほど共有者がねずみ算式に増え、共有者同士の関係性は希薄になり、話し合いによる合意形成は絶望的に難しくなります。
これが「共有名義の不動産は放置してはいけない」といわれる最大の理由です。次世代に“負の遺産”を残さないためにも、自分たちの代で解決するという強い意志が求められます。
共有名義の不動産は、一見平等でも長期的にはトラブルの温床となりがちです。
相続時には単独名義や遺言を活用し、すでに共有状態であれば早期の解消を検討しましょう。法的な判断を伴う相談は弁護士のみが対応可能であるため、合意形成が難しい場合は、不動産問題に詳しい弁護士に早期に相談にいくことをお勧めします。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。