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個人事業主の銀行融資ガイド、申請のタイミング・審査対策と成功事例

個人事業主の銀行融資ガイド、申請のタイミング・審査対策と成功事例
辻 哲弥(税理士・公認会計士)

執筆者

税理士・公認会計士

辻 哲弥

有限責任監査法人トーマツにて会計監査業務に従事。23歳時、「日本一若い会計事務所」として”ACLEAN(アクリーン)会計事務所”を開業。スタートアップ、マイクロ法人を中心とした税務業務や補助金・融資等の資金調達支援、経理を対象とした業務改善コンサルティングを展開。 2023年に同事務所を”税理士法人グランサーズ”と統合。同法人の代表に就任。中小企業の税務顧問対応、内部統制構築支援、組織再編支援、事業承継・企業のクラウドサービス活用と経理効率化サービスも提供。また、自身のボディメイクの経験を活かした健康経営に関するコンサルティングも得意としている。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」絶賛配信中。

副業解禁、フリーランスの増加、ECやオンライン講座など小さく始められるビジネスモデルの多様化。こうした流れの中で個人事業主の数は年々伸びています。

売上が軌道に乗れば、次に直面するのが「拡大するための資金を、どう確保するか」という壁です。自己資金だけで成長を賄うのは時間がかかり、チャンスを逃すリスクも高い。そこで注目されるのが銀行融資です。

本記事では、銀行融資を検討する個人事業主に向けて、最適な申込み時期、準備すべき書類、審査を通すためのポイント、そして実際の成功事例までを体系的に解説します。

なぜ今、個人事業主も銀行融資を考えるべきか

なぜ今、個人事業主も銀行融資を考えるべきか

銀行融資の魅力は何より低金利かつ長期返済が可能な点にあります。オンライン完結型の短期高利ローンやカードローンはスピードこそ速いものの、金利が年15%を超えることも珍しくありません。

一方、メガバンクや地方銀行、信用金庫が扱う事業性融資であれば、金利は年2〜4%台が中心。返済期間も3〜7年と比較的長く、キャッシュフローの安定に寄与します。

さらに近年、銀行は地域の活性化や事業承継支援の一環として“事業性評価”を重視し始めています。

これまでの「個人信用」一辺倒から、ビジネスモデルや将来性を加味した審査へとシフトしており、個人事業でも事業計画が明瞭であれば融資を受けやすい環境が整いつつあります。

銀行融資の基礎知識

銀行融資の基礎知識

銀行が個人事業主向けに提供する代表的な融資には、次の3つがあります。

プロパー融資(信用保証協会の保証のない融資)

銀行が自らリスクを負う分、金利は低め。ただし、実績や財務内容が一定水準にないと審査は厳しい。

保証協会付き融資

各都道府県の信用保証協会が債務を保証するため、創業まもない事業主でも利用しやすい。保証料がかかるものの、金利自体は抑えられる。

ただし、万一返済が滞った場合は、保証協会が代位弁済した後に「保証協会への返済義務(求償債務)」が個人事業主に残る点に注意してください。

制度融資(自治体連携)

地方自治体と銀行、保証協会が連携するタイプ。補助的に利子補給や保証料の一部負担があるため、総コストは最も低くなることが多い。

ただし、自治体ごとに制度や審査基準が異なるため、地元商工会議所や金融機関窓口で事前確認が必要です。

資金使途は、大きく運転資金(仕入・外注費・人件費など)と設備資金(機械、店舗改装、システム開発など)に分かれます。必要な金額と目的を明確にし、それに合った融資メニューを選択することがスタートラインです。

銀行融資のベストタイミングはいつか?

銀行融資のベストタイミングはいつか?

融資にもっとも通りやすいタイミングは「資金が不足する“前”」。資金繰りが逼迫してから駆け込むと、売上が下がっていたり、支払遅延が発生していたりするケースも多く、審査にマイナスです。

理想的には、売上が伸び始めた初期段階で、拡大に必要な設備や広告投資の見通しが立った時点で動き出しましょう。

もう一つの狙い目は確定申告直後。直近の青色申告決算書や所得税申告書が揃い、銀行としても最新の業績を把握しやすいため評価がしやすいのです。決算後に利益が出ている場合は自己資本が厚く見え、プラス材料になります。

これだけは押さえておくべき書類と実績

これだけは押さえておくべき書類と実績

審査時に必須の書類は、次の5つです。

  1. 確定申告書(直近2〜3期分)
  2. 青色申告決算書または収支内訳書
  3. 試算表(直近月次)
  4. 事業計画書(1〜3年分の損益・資金繰り)
  5. 借入金一覧表(他行・リース含む)

とくに事業計画書は数字とストーリーの整合性が鍵です。売上計画は顧客数×単価の積で示し、コストは人件費・販促費・原価を具体的に分解。返済原資である営業キャッシュフローが毎月プラスで推移することを示せれば、金融機関の納得度は一気に高まります。

融資が通りやすい人・通りにくい人

融資が通りやすい人・通りにくい人

通りやすい人

・青色申告で黒字決算が継続
・売掛サイトが短く、キャッシュフローが健全
・家計と事業の財布を分け、資金使途が明確(預金通帳やクレジットカードも可能な限り事業専用とし、生活費との混在を避けることで、融資審査での信頼度が向上します。)
・代表者個人の信用情報に傷がない(カード払い遅延ゼロ。銀行融資では、代表者個人の信用情報(CIC・JICC等)も必ず照会されるため、クレジットカードや携帯電話割賦などの延滞も厳しくチェックされます。)

 通りにくい人

・白色申告または申告内容に不整合が多い
・高金利ローンやリボ残高が膨らんでいる
・売上が急減し、資金使途が「返済のための返済」になっている
・借入申込金額が自己資金の倍以上で裏付けが弱い

要するに、“数字で説明できる経営者”ほど融資は通りやすいのです。

融資の実例紹介

融資の実例紹介

◎ 成功例:オンライン英会話サービス Aさん

背景と目的
 
Aさんは自宅スタジオとオンライン会議システムを活用し、英会話レッスンを提供。開業2年目に月商80万円を超え、さらなる集客と講師の確保が課題に。

調達スキーム
 
地元信用金庫の《制度融資・創業支援枠》で500万円を調達。保証協会付き、実質金利1.8%、5年返済(元金据置6か月)。

事業計画のポイント

・広告100万円:SNS広告+LP制作、CPC60円・CV率3%でリード1,600件超→有料顧客500名
・LTV:3万円(6か月継続 × 月額5,000円)
・講師3名を外注契約で追加
・広告投資後3か月で月次営業CF+20万円を想定

 結果

・半年で550名の新規顧客を獲得、LTVは計画比107%
・売上は前年同期比200%超、粗利率も60%を維持
・9か月後、営業CFは月40万円に成長し、銀行側から追加融資の提案も

成功要因

1.KPIが具体で説得力があった
2.キャッシュフローをもとに返済余力を数値で提示
3.資金使途が「売上直結型」に集中していた

◎ 失敗例:物販EC Bさん

背景と目的
ファッション雑貨の輸入ECを運営。コロナ禍で売上が一時増加したものの、その後は客単価・回転率が低下し、3期連続赤字に。

資金繰り状況
在庫回転120日、粗利率28%。支払いは45日、回収は30日で、常に資金不足。カードリボ残高200万円。

申込内容と否決理由
「在庫を増やして広告で売上回復を図りたい」と1,000万円のプロパー融資を申請。しかし以下の点が否決要因に。

赤字継続で自己資本がマイナス
売上予測が曖昧で返済原資の説明が弱い
過去のカード延滞が2回記録されていた

その後の展開
融資が得られず、急場しのぎで2社間ファクタリング(手数料15%)を利用して在庫を補充。しかし高い手数料により利益が圧迫され、経営状況はさらに悪化した。半年後には廃業を検討する状況に追い込まれる。

注意点:ファクタリングは短期の資金繰り改善には有効ですが、手数料負担が大きく、中には違法なヤミ金融業者も存在するため、利用する際は十分な検討と信頼できる会社選びが不可欠です。

 失敗要因

1.「在庫を増やせば売れる」という希望的観測
2.赤字状態での大型借入申請
3.高コスト資金(ファクタリング)への依存

◎ 事例から学ぶチェックリスト

□ 資金使途は売上・利益直結の施策か?

□ KPI(広告・採用等)が定量的に示せるか?

□ 営業キャッシュフローで返済余力があるか?

□ 個人信用情報に延滞や過剰借入はないか?

成功したAさんは「数字で語れる計画」と「返済余力」を明確にし、銀行との信頼関係を築いた一方、Bさんは「勘と勢い」に頼り、準備の甘さが命取りとなりました。資金調達の明暗は、計画の質と資金使途の設計で決まるのです。

融資後に気をつけること

融資後に気をつけること

借入金の期中管理

借入後は、月次の資金繰り表で利息・元本返済を確実に管理。約定返済日に遅れが出ると、次回以降の融資枠が大幅に縮小します。

追加投資とのバランス

借入金を投下した施策の効果検証を怠らず、次の投資判断を早めに行う。融資を受けたからこそ、ROI(投資対効果)のモニタリングは必須です。

金融機関との情報共有

売上が計画比で大きく上下した場合は、早めに担当者へ連絡し、見通しを共有。信頼関係が構築できれば、追加融資や条件変更にも柔軟に対応してもらえます。

まとめ 銀行融資を“成長のレバレッジ”に変える

銀行融資を“成長のレバレッジ”に変える

個人事業主が銀行融資を成功させるために最も重要な要素は、①融資のタイミング、②実績の見せ方、③事業計画の説得力の三つです。

この3点が揃っていれば、たとえ法人化していなくても、開業数年以内でも、金融機関は「この人に資金を預ける価値がある」と判断します。

自己資金のみで事業を回そうとする姿勢は堅実に見える一方で、実はリスクでもあります。「投資したいが手元資金が足りない」「広告を打ちたいが今は我慢する」といった判断が続けば、本来得られたはずの顧客・売上・成長の機会を逃していることになります。

これは“見えない損失”であり、非常に大きな機会コストです。

一方で、適正な借入によって手元資金に余力が生まれれば、採用・広報・商品開発など未来への先行投資が可能になります。

銀行融資とは、目先の資金繰りを補うものではなく、“未来の利益”を先に手に入れるための仕組みです。ここを正しく理解できるかが、経営者としての分岐点になります。

融資申請においては、「なんとなく借りたい」「必要になりそうだから準備」では通用しません。数字で語れる資料を揃え、目的・計画・返済可能性まで一貫性のあるストーリーを示すことができれば、金融機関も“パートナー”として支えてくれます。

逆に言えば、準備の質が、そのまま調達結果を左右するのです。

資金調達は単なる「借金」ではありません。それは、事業の成長を加速させる“レバレッジ”であり、“信用を得る力”を試されるステージでもあります。

ただし、融資は将来的な返済義務があるため、過剰な借入や返済計画の甘さは事業リスクとなります。健全な資金計画・管理が前提です。

だからこそ、きちんと向き合い、銀行と対等に付き合える力を持った個人事業主こそが、次のフェーズへ進んでいけるのです。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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