不動産投資は「購入して終わり」ではありません。長期的に安定した収益を出すためには、買ったあとの「物件管理」が肝になります。
そこで、大家経験もある不動産専門弁護士の山村暢彦氏が、自身の体験や弁護士としての相談事例をもとに、物件管理において起こりがちなトラブルの具体例と未然に防ぐ方法を解説します。
1年分の利益が“帳消し”に…筆者が頭を抱えた悲劇

不動産投資は「買って終わり」ではありません。むしろ買ったあとの物件維持・管理こそが、安定した収益を生み出すカギを握ります。
しかし、エアコンや給湯器といった設備の突発的な故障や漏水トラブル、管理組合の対応停滞など、実際には予期せぬトラブルが頻発し、オーナーを悩ませるケースが少なくありません。
筆者自身が体験したトラブルのひとつが「給湯器の故障」です。
入居者から「お湯が出ない」と連絡が入り、すぐに管理会社へ修理対応を依頼したものの、「繁忙期のため業者手配に1ヵ月以上かかる」との回答。仕方なく、自ら業者を探して連絡を取ることになりました。
しかし、給湯器が特殊な型で、さらに設置場所の構造も難しく、施工可能な業者が限られていたため、対応に大幅な時間とコストがかかりました。
結果的に、修理完了まで2ヵ月以上を要し、その間の家賃減額や対応費用などで、1年分の利益が帳消しになってしまったのです。
こうした突発的なトラブルに備えるには、火災保険に加えて「電気的・機械的特約」や「設備特約」が付帯された保険に加入することが有効でしょう。ただし、免責金額や対象外となる設備もあるため、補償内容をよく確認のうえ加入することが大切です。
これらの特約は、給湯器やエアコン、ポンプといった機器の不測の故障に対して修理・交換費用を補償してくれるもので、特に築古物件では必須ともいえる内容です。
また、管理会社任せにせず、施工経験のある業者を事前にリストアップしておくことで、緊急時の対応スピードが格段に上がります。
また、設備トラブルの費用負担や修理範囲(借主・貸主どちらが負担するか等)は、賃貸借契約書や管理委託契約書の内容によって異なるため、事前に確認・合意しておくことが重要です。
不動産投資では、こうした「経験してみないとわからないリスク」が潜んでいます。だからこそ、収益性と同じくらい事前にリスクを想定して、備えておく視点が欠かせません。
「区分マンション」でよくあるトラブル

他方、筆者が弁護士として受けた相談のなかで印象的だったのが、区分所有マンションにおける「漏水トラブル」です。
相談者の所有する住戸で天井からの水漏れが発生し、調査の結果、原因は共用部分である配管の劣化であることが判明。
そこで管理組合に修繕を求めたところ、「理事会が開かれていない」「予算がない」「決定ができない」などの理由で、修繕がまったく進まない状況に直面しました。
このように、区分マンションでは、建物全体の維持管理を管理組合が担うため、その機能が停滞していると、オーナー自身が自衛的に動くしかないケースがあります。
(区分所有法により、管理組合が修繕等に責任を持つが、現実には実効性に課題が生じやすい点にも注意)
相談者の場合、修繕自体は数十万円程度で済む内容でした。管理組合に対応させるべく訴訟を起こすことも考えられましたが、訴訟費用のほうが高くつくため現実的ではありません。
こうした場合、裁判所による調停や行政相談など、訴訟以外の紛争解決方法も選択肢として検討できます。
結果的に相談者は自費で修繕を行うことになり、「購入前にもっと管理状況を確認しておけばよかった」と悔やんでいました。
こうしたトラブルを防ぐには、購入前の「管理組合の健全性チェック」が重要です。具体的には、長期修繕計画や管理規約の内容、直近の総会議事録などを確認し、管理組合が実際に機能しているかを見極める必要があります。
また管理会社が入っている場合も、その業務内容や実績を調べるといいでしょう。見た目や利回りだけでは判断できない「内部の管理体制」こそ、長期投資の安心材料です。この点、「マンション管理適正評価サイト」なども参考になります。
築年数が経ったマンションでは、管理組合の高齢化や空室化によって意思決定が遅れがちです。不動産投資において、管理状況の見極めは収益以上に「損失を防ぐ」視点で重要視すべきでしょう。
“丸投げ”は失敗のもと…物件管理「見える化」のススメ

前述のとおり、投資物件を購入時の利回りや立地だけで判断することはおすすめできません。
入居者対応や設備トラブル、定期点検、更新交渉、共用部分の修繕対応……。投資用不動産には、日々さまざまな管理業務が発生します。
管理会社に任せているから安心しがちですが、「なにをどこまで任せられるのか」「緊急時の対応は誰がするのか」まで把握していなければ、予想外にトラブルが深刻化する可能性があります。
たとえば、管理会社の報告が遅い、連絡手段が電話や郵送に限られているなどの“情報の不可視化”が原因で、オーナーとしての対応が後手に回ったとしましょう。
そうなれば、結果的にトラブル時の初動が遅れ、入居者の不満が高まり、退去や賃料減額に繋がる可能性が高まります。
こうした事態を防ぐために有効なのが「管理の見える化」です。具体的には、次のような取り組みが考えられます。
- 月次の管理報告をデータ化し、定期的にチェックする
- トラブル発生時の連絡フローと担当者を明確にしておく
- 設備や修繕履歴をスプレッドシートなどで一覧管理する
- 重要連絡はチャットツールやメールで即時にやり取りできる体制にする
オーナーは不動産賃貸業という「事業の責任者」です。経営者としての視点を持ち、現場の状況を把握し、必要な指示を出せる状態を維持することで、管理の質が安定し、ひいては収益も安定していきます。
「買って終わり」ではなく、「買ってからが本番」。この視点を持つことが安定した不動産経営の第一歩です。
トラブル対応に“怒り”は禁物

ここまで、自身の体験や筆者の弁護士としての体験を交えて話してきましたが、「不動産を専門とする弁護士」である筆者でさえも、残念ながら賃貸トラブルのすべてに対して事前対策をとることは不可能だと実感しています。
今回紹介したようなさまざまなトラブルは、日々勉強や情報交換を行い、加えて自身の経験のなかで、突発的なトラブルをこなしていくほかないでしょう。
また、なんでも自分でやろうとするのではなく「頼れる人」を確保しておくことも重要です。不動産投資の先輩や、リフォーム・賃貸管理会社と普段から交流し、いざというときに頼れるようにしておくといいでしょう。
最後に、トラブルがあると、つい怒りの感情が芽生えてしまう人もいるかもしれません。しかし、トラブル対応に怒りは禁物です。
正直なところ、私自身トラブルに遭った際は相当イライラしました。しかし、怒ったところで事態はなにも好転しません。
怒りのままに管理会社やリフォーム会社に当たっても、嫌われて今後助けてくれなくなるだけですし、入居者に怒ったら、反発されてより事態が深刻になるだけでしょう。
経験を積むなかで、怒りをコントロールしながら解決のために必要なアクションを淡々とこなしていくほかないのだと気づきました。
管理トラブルは多種多様で、すべてを想定することは難しいかもしれません。しかし、できる限り備えたうえで、実際になにか起きた際には信頼できる第三者や専門家に相談しながら、冷静にひとつずつ対処していく。
これを肝に据えて賃貸管理を実践できれば、おのずと結果もついてくることでしょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。