相続で兄弟姉妹や親戚と共有名義になった不動産。どうすればいいかわからず、とりあえず放置してしまっていませんか?
共有名義のままにしていると、売却や管理の際に、必ずといっていいほど意見が対立し、資産価値を損なうだけでなく、大切な家族関係にまで亀裂を生じさせます。
本記事では、不動産相続に精通する山村暢彦弁護士が、共有名義を解消するための具体的な方法について、それぞれの手段のメリット・デメリットともにわかりやすく解説していきます。
相続した不動産が共有になってしまった…なぜ、共有名義を解消する必要があるのか?

親が亡くなり、兄弟姉妹で実家を相続した結果、「不動産が共有名義になってしまった」というケースは非常に多く見受けられます。
一見すると、法定相続分従って平等に持ち分を取得しているように思えますが、共有状態は、長期的な不動産管理や処分の面で数多くのトラブルの火種を抱えています。
まず、共有名義の不動産は、共有者全員の合意がなければ売却できません。
仮に一人が「売りたい」と考えても、他の共有者が「住み続けたい」「いまは売却したくない」と主張すれば、売却は進みません。
このように、処分の自由が極めて制限されることが、共有の大きなデメリットです。
また、賃貸に出す場合も、トラブルの温床になります。賃料の設定や賃貸借契約書の内容、借主の選定、原状回復の基準など、実務的な判断を下す場面で、原則として共有者全員の同意が求められます。
特に「原状回復工事にどこまで費用をかけるのか」「家賃を下げるか」「設備投資をするか」などの判断は、意見が分かれやすく、まとまらないことが少なくありません。
この点、明らかに台風で壊れた箇所の修理など「保存行為」は単独でも可能ですが、「管理行為(たとえば通常の修繕や賃貸契約など)」は持分の過半数で決定、売却などの「処分行為」は共有者全員の同意が必要と法律上明確に区分されています(民法252条ほか)。
ただし、実務上はこれらの線引きが曖昧になりやすく、解釈や運用を誤るとトラブルのもとになります。
さらに、大規模修繕や老朽化対策のタイミングでも問題が生じます。
たとえば築30年を超える建物で、外壁の修繕や設備の入れ替えが必要になっても、共有者のうち誰かが費用負担に反対すれば、修繕自体が進まない可能性があります。
管理責任は共有者全員にあるため、放置して事故や損害が発生した場合、法的にも全共有者が損害賠償等の責任を負う可能性があります。特に「誰が悪い」と特定できなくても、全員が連帯責任を問われることがある点に注意が必要です。
つまり、共有名義であること自体が、不動産の活用や管理を著しく困難にし、長期的にみれば、相続人全員にとってリスクになるのです。
「兄弟姉妹で仲がいいから大丈夫」と思っていても、ライフスタイルや経済状況、価値観が変わるなかで、いずれ対立が生まれる可能性は高くなります。
そのため、早期に共有名義を解消しておくことが、相続人全体の利益につながるのです。特に不動産が収益物件である場合、経営判断の遅れが収益悪化や資産価値の低下を招くこともあるため、放置すればするほど、問題は深刻化します。
共有名義不動産を解消する方法

共有名義となった不動産を円滑に管理・処分していくためには、早い段階で「共有関係をどう解消するか」を検討することが重要です。共有状態のままでは売却や管理が難しく、長期的にはトラブルや資産価値の毀損につながりかねません。
最もシンプルで理想的な解消方法は、共有者全員が話し合い、合意のもとで不動産を売却し、その代金を分けることです。
これが実現できれば、誰か一人が単独で所有するよりもスムーズに資産を現金化でき、遺産分割の清算も可能になります。
ただし、実際には「自分だけ住みたい」「まだ売りたくない」といった意見の相違から、話し合いでは合意がまとまらないケースが少なくありません。
そうした場合には、裁判所に「共有物分割請求訴訟」を提起することができます。この訴訟では、次のような解決パターンが想定されます。
現物分割
土地や建物を物理的に分割し、各自が単独所有する方法です。
ただし、建物は物理的分割ができず、土地も分割によって宅地や資産価値を大きく損なう場合は、裁判所が現物分割を認めないケースが大半です。
現実には換価分割や代償分割となることが多い点に注意してください。
代償分割
一人が他の共有者の持分を買い取ることで、単独所有に切り替える方法です。ただし、買い取り資金を用意できるかがネックになります。
加えて、代償金を算定するための不動産の評価額に争いが生じることが多いです。
競売による換価分割
裁判所が物件を競売にかけ、その売却代金を共有者で分ける方法です。競売の場合、市場価格よりも安くなることが多く、経済的損失が大きくなりやすいため、一般的には最終手段として扱われます。
このような事情を踏まえ、訴訟の途中で「このまま競売になるくらいなら、第三者に任意売却して現金で分けよう」と和解に至ることもよくあります。
訴訟はあくまで交渉を促す“後押し”として機能する場面もあるのです。
自分だけでも早く共有関係から抜けられる「新たな選択肢」

近年では、不動産会社に共有持分だけを売却する方法も現実的な選択肢になってきました。これは、他の共有者と話し合いができない場合に、自己の持分だけを売却して関係を抜けるというものです。
もっとも、買い取る側もリスクを負うため、相場より安く買いたたかれる傾向にあります。
たとえば、3,000万円の物件で3分の1(1,000万円相当)の持分を持っていても、買い取り額は「持分のみの売却」ゆえの流動性・利用制限リスクがあるため、300万~500万円程度にとどまるケースが多いのが実情です。
また、持分だけを買い取った第三者が将来的に他共有者とトラブルを起こすリスクも考慮する必要があります。
それでも、「共有関係から抜けて将来のトラブルを回避したい」「現金が必要」という方にとっては、有力な解決手段となるでしょう。
状況に応じて、不動産実務に詳しい弁護士に相談しながら進めることが、円滑な解消のための第一歩です。法的な判断を伴う相談は弁護士のみが対応可能なため、専門家選びの際はご注意ください。
共有名義不動産は「早期解消」が鉄則
相続により共有名義となった不動産は、売却や賃貸などの運用において意思決定が難しく、管理やトラブル対応に大きな支障をきたします。
そのため、早期に共有関係を解消することが重要です。方法としては、共有者全員の合意による売却・分配が理想ですが、難しい場合は共有物分割請求訴訟や持分売却といった手段も検討されます。
状況に応じて専門家の助言を受けながら、最適な解決策を見つけましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。