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みんなが「資産形成」をはじめたきっかけ「夫の稼ぎには満足しています。でも…」専業主婦の事例【FPが解説】

みんなが「資産形成」をはじめたきっかけ「夫の稼ぎには満足しています。でも…」専業主婦の事例【FPが解説】

人生にはさまざまなライフイベントがあります。このイベントごとにライフステージを仕事→結婚(子育て)→老後という3つに分けるとすると、専業主婦(夫)は、老後が最も経済的な不安を抱きやすいステージではないでしょうか。結婚を機に退職し、配偶者の扶養でいる「専業主婦(夫)」は、「配偶者に養ってもらっている」という意識が大きく、老後の生活(老齢年金の受給)に不安を抱えている人が少なくありません。そんな専業主婦の「老後資金の備え方」について、ファイナンシャル・プランナーの三藤桂子さんが解説します。

働き方の“常識”が変化…多様化する「専業主婦」の懐事情

働き方の“常識”が変化…多様化する「専業主婦」の懐事情

この30年で働き方の常識は大きく変化し、女性の社会進出が活発化。共働き世帯は増加の一途を辿り、専業主婦(夫)と呼ばれる「第3号被保険者」の数は減少しています。

※以降、性別にかかわらず、表記を「専業主婦」と統一する。

実際、厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金の第3号被保険者数は、令和5年度末時点で686万人(男性:13万人、女性:673万人)となっており、前年度末に比べ36万人(4.9%)減少しています。

しかし、かつては「夫が外で働き、妻は家庭を守る」という考え方が一般的だった日本。妻が結婚や出産を機に仕事を辞めて家庭に入り、夫の扶養に入る(=夫が加入する社会保険の被扶養者になる)というケースが非常に多くみられました。

なお、「社会保険の被扶養者」と聞くと配偶者を思い浮かべがちですが、必ずしも配偶者に限られるわけではありません。

ただし、公的年金制度における「国民年金の第3号被保険者」は、厚生年金に加入している会社員や公務員など(=第2号被保険者)の配偶者にあたります。このため、第3号被保険者は「第2号被保険者の被扶養配偶者」とも呼ばれています。

第3号被保険者は、配偶者に扶養されていることから、自身で医療保険や年金の保険料を納める必要がありません。そのため、生活は配偶者の収入に依存しており、「配偶者に養ってもらっている」という意識を持つ人もいます。

なかにはまったく就労していない人もいますが、パートやアルバイト等をしながら、配偶者の扶養の範囲内で働いている人も少なくないでしょう。

そこで今回は、2組の夫婦の事例を紹介します。事例を通して、現代の専業主婦が抱えるお金の課題と、専業主婦ができる老後に向けた備えについて考えていきましょう。

2人の専業主婦の対照的な選択

57歳専業主婦の対照的な選択

■相談者1.夫の稼ぎには「満足です」…働かず家庭を守る57歳Aさん

都内在住のAさんは、大手企業の部長を務める夫との2人暮らしです。子どもは2人いますがすでに独立し、それぞれ家庭を持っています。

結婚前は働いていたものの、結婚を機に退職して以降は現在に至るまで一度も働いていません。

家計の管理は夫が行っており、毎月決まった金額を生活費として通帳に入れてくれています。

夫の稼ぎだけでも生活に不自由はなく、不満もないものの、「夫の給与がいくらなのかも知りません」というAさん。A家にどのくらいの貯蓄があるのかも把握していないそうです。

今後も、60歳までは夫の扶養に入っている(=国民年金第3号被保険者)予定ですが、先日届いた「ねんきん定期便」に衝撃を受けました。

年金受給見込み額が「年額約78万円」と記載されていたのです。

「月6万5,000円!? 夫の年金額がいくらかわからないけど、これじゃあ安心して暮らせないわ……」

年金受給見込み額を知り老後が不安になったAさんは、ファイナンシャルプランナー(FP)のもとに相談に訪れたのでした。

■相談者2.夫の稼ぎに「不安」…扶養内で働く54歳Bさん

もう一人の相談者Bさんは、大学卒業後とある中小企業に就職。同じ勤務先で出会った夫と社内結婚しました。

結婚を機に一度退職したものの、子どもの教育費や住宅ローンなどが心配になり、子育てが落ち着いたタイミングで復職。現在は、夫の扶養内で働いています。夫の収入は生活費などでほぼ使い切ってしまうため、夫の賞与や自身の収入の一部を貯蓄に回すよう心がけています。

直近のねんきん定期便には、年金受給見込み額が「年額約78万円」と記載されており、この数字を見て、改めて将来への不安を感じるようになったといいます。

老後資金まで十分に備えられていないことを実感したBさんは、FPのもとに相談に訪れました。

専業主婦の年金は、夫の収入にかかわらず「定額」

専業主婦の年金は、夫の収入にかかわらず「定額」

AさんとBさんの共通点は、夫に扶養されていることです。夫の扶養でいるメリットとしては、自身で保険料を納める必要がない点が挙げられます。

ただし、老後のことを考えると国民年金(老齢基礎年金)は定額であるため、仮に20歳から60歳までずっと扶養に入っていた場合、満額(480ヵ月)で約83万円です。ここに、夫の収入の多寡は関係ありません。

一方、夫の年金額は、現役時代の収入や厚生年金の加入期間によって大きく左右されます。とはいえ、Aさんの夫のように現役時代の収入が多かったとしても、年金額の算出に使われる「標準報酬月額」には上限があるため、現役時代と同じ収入を得られるわけではありません。そのため、夫が退職したあとは、生活費の見直しが必要になるでしょう。

Bさんの場合、思うように貯蓄ができなかったというのであれば、今後の働き方を見直してみるのもひとつの方法です。

近年は最低賃金の上昇に加え、パートであっても、勤務先の規模や勤務時間によっては社会保険への加入が義務づけられる方向に進んでいます。扶養内で働き続けるには限度があるため、将来の年金受給額を増やすという視点からも、社会保険に加入する働き方をおすすめしたいところです。

たとえ専業主婦であっても、「収入をすべて夫に頼っている」と考えるよりも、「夫婦で協力して家庭の収入を支えている」という視点を持つことが重要でしょう。また、家計管理をすべて夫任せにするのではなく、可能であれば夫婦で一緒に資産形成に取り組み、現状を把握してすることも大切です。

資産形成は専業主婦でも可能

資産形成は専業主婦でも可能

ひと口に「専業主婦」といっても、そのライフスタイルや考え方はさまざま。とはいえ、年代を問わず資産形成において大切なのは、配偶者とのコミュニケーション。配偶者がどのような資産形成をしているのかを話題にするなど、日ごろから情報共有し、歩調を合わせることが大切です。

収入がない、あるいは少ない専業主婦が資産形成を始めるなら、「長期・分散・積立」を基本とするNISA(少額投資非課税制度)から取り組んでみることをおすすめします。

NISAは投資によって得られる利益(売却益や配当金)に税金がかからない制度で、投資初心者でも手軽に始めやすいのが特徴です。

また、老後の資産形成を目的とするなら、iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用するのもいいでしょう。

さらに、生活用品の購入などでクレジットカードを利用する専業主婦のなかには、ポイントを上手に活用する「ポイ活」をする人も増えています。無理なくコツコツと続けられる制度を、お得に活用していくこともひとつの手です。

なお、配偶者の扶養に入れるのは、年金制度においては原則60歳までとなります。ただし、過去に保険料の未納期間があり、老齢基礎年金を満額受け取れない場合は、60歳以降に「国民年金の任意加入制度」を利用して年金額を増やすことも可能です。

あるいは、社会保険に加入できる働き方に切り替えることで、自身の将来の年金を増やすという選択肢もあります。

FPに相談後、AさんとBさんは次のように話しています。

Aさん「これまで長いあいだ、家計の管理を夫に任せきりにしていたことを反省しています。夫に万が一のことがあっても大変なので、これからもコミュニケーションをとりながら自分も勉強し、むりをしない範囲で一緒に資産形成をしてみようと思います」

Bさん「パートの仕事は今後も長く続けたいと考えているので、社会保険に加入する働き方を検討します。ポイ活の経験はあったものの、ポイントを使って少額から投資ができるとは知りませんでした。楽しみながらポイ活投資を始めてみようと思います」

法改正により、配偶者の扶養内で働く専業主婦の多くは社会保険に加入する働き方に変わってきています。世の中の変化をきっかけに自身の働き方や収入の仕組みを見直し、資産形成を始めるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

三藤 桂子(社会保険労務士法人エニシアFP代表)

監修者

三藤 桂子(社会保険労務士法人エニシアFP代表)

社会保険労務士法人エニシアFP代表。社会保険労務士・ファイナンシャル・プランナーとして相談、セミナー講師や執筆等で活動している。本名は三角桂子。会社員時代に年金の仕組みに興味を持ち、社会保険労務士、FPの資格を取得。公務員、自営業、会社員、専業主婦、シングルマザーとあらゆる立場の経験をもとに、会社側と社員(個人)側、両方の立場を理解することで、社労士として労務・年金相談、FPとして家庭内のお金の悩み等をサポートしている。

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