ビタミンDは「太陽のビタミン」と呼ばれ、免疫や骨の健康に欠かせない栄養素の一つです。現代人は不足しやすいとされ、感染症予防や健康寿命の観点からも注目されています。
本記事では、ナグモクリニック総院長・理事長の南雲吉則医師に、ビタミンDの働きと効率的な摂取方法を伺いました。
ビタミンDってどんな栄養素?

ビタミンDは、名前に「ビタミン」とついていますが、実はホルモンに近い働きをもつ栄養素です。
紫外線を浴びることで身体の中で作られ、全身の臓器や免疫細胞の働きをコントロールしています。不足すると、免疫の乱れ、骨粗しょう症、慢性的な疲労感、さらにはがんなど、さまざまな不調を引き起こすことが分かっています。
南雲先生によれば、「慈恵大学の調査によると、日本人の約98%はビタミンDが不足しているという結果も出ている」とのこと。つまり、ほとんどの人が意識して補う必要がある栄養素なのです。
ビタミンDは脂溶性(ステロイド系)ビタミンの一つで、カルシウムやリンの吸収を助けて骨や歯を丈夫にし、免疫機能を正常に保つなど、健康維持に欠かせない役割を果たしています。
ビタミンDは医学的には「ステロイドホルモン」と呼ばれています。通常ビタミンは体内で作られない必須栄養素ですが、ビタミンDは紫外線を浴びることによって体内で作ることができるため、厳密にはビタミンではありません。
ステロイド構造を持ち、男性ホルモン、女性ホルモン、副腎皮質ホルモンと同じステロイドホルモンです。体中のありとあらゆる臓器に受容体があり、不足するとさまざまな病気を引き起こす可能性があります。
免疫とビタミンDの関係
ビタミンDは、私たちの免疫機能を「整える」栄養素です。免疫には、体の外から入る異物を防ぐ「自然免疫(皮膚や粘膜などのバリア)」と、ウイルスや細菌を学習して攻撃したり抗体をつくったりする「獲得免疫」の2つの仕組みがあります。
ビタミンDが十分にあると、皮膚や粘膜が強くなり、細菌やウイルスが体内に入りにくくなるほか、免疫細胞がバランスよく働くようになります。
反対に不足すると、免疫のスイッチがうまく入らず感染症にかかりやすくなったり、逆に免疫が過剰に反応してアレルギーや自己免疫疾患を引き起こすこともあります。
免疫は“高める”ものではなく、“バランスを整える”もの。過剰でも不足でも、どちらも不健康です。ビタミンDは、体中のすべての細胞に受容体(レセプター)があり、免疫細胞にもその受容体が存在します。
そのため、ビタミンDは免疫細胞の働きをコントロールする役割を担っています。特に自然免疫では、粘膜や皮膚の抵抗力を高め、抗菌ペプチドの分泌を促して細菌の侵入や繁殖を防ぐ働きがあるのです。
つまりビタミンDは、ウイルスや菌から身体を守る“免疫の指揮官”ともいえる存在。身体の防御力を整えるために欠かせない、まさに健康のキーププレイヤーです。
現代人がビタミンD不足になりやすい理由

ビタミンDが足りなくなる理由は、決して特別なものではありません。むしろ、私たちの何気ない日常習慣の中に原因があります。下記に思い当たる行動はありませんか?
- 一日中パソコンの前で過ごし、気づけばほとんど外に出ない
- 外出しても、日焼け止めやUVカットガラスで紫外線対策をしている
- 魚よりも肉中心の食生活が増え、魚料理を作る機会が減っている
- 冬になると寒さで外出が減り、太陽の光を浴びる時間も短くなる
こうした日常の小さな習慣の積み重ねが、知らず知らずのうちにビタミンD不足を深刻化させています。
紫外線を怖がりすぎて、太陽の恩恵まで遮断してしまっている方が多いですね。昔のお年寄りは縁側で日向ぼっこをしていました。あれこそ自然なビタミンD補給法なんです。
便利で快適な現代社会では、“太陽の栄養”を取り入れる機会がどんどん減っています。健康のためには、毎日、太陽の光を浴びる時間を作ること。それが、ビタミンD不足を防ぐ最初の一歩なのです。
日光浴で得られるビタミンD

ビタミンDは「太陽のビタミン」とも呼ばれます。私たちの肌が日光に含まれる紫外線B波(UV-B)を浴びると、皮膚の中でビタミンDがつくられるのです。
南雲先生によると、「ビタミンDは食事でも摂れますが、実は“つくる”こともできる。その主な方法が“日光浴”です」とのこと。
ただし、日光浴といっても、長時間外に出る必要はありません。夏なら3〜5分、冬は沖縄で8分、札幌では1時間半程度、肌に日光を当てるだけで十分。ほんの短い時間でも、身体はしっかり“太陽の栄養”を取り込んでくれます。
また、意外かもしれませんが、衣服や日焼け止め、窓ガラス越しでは、紫外線B波がほとんど届かないため、ビタミンDはほぼ生成されません。つまり、完全に紫外線を遮ってしまうと、どれだけ外にいてもビタミンDはつくられないのです。
健康的に日光を浴びるコツ
夏の明るい日差しも、冬のやわらかな光も、すべてが身体のエネルギー源。下記を参考に、季節や年齢に合わせて、 “ちょっと太陽と仲良くなる時間”をつくってみてください。
- 朝や午前中など、紫外線が穏やかな時間帯に外へ出る
- 顔や腕など、できるだけ肌を直接日光に当てる
- 夏の晴れた日は数分でもOK。“短時間×こまめに”がポイント
- 紫外線が強い日や長時間外に出るときは、日焼け止めや帽子で部分的に調整
ビタミンDは貯蔵型のため、夏のうちにしっかり日光を浴びておくと、身体に“ビタミンDの貯金”ができます。冬の寒い時期も、その貯蔵分を少しずつ使えるんですよ。
最近では、ビタミンDを作る波長(290〜310nm)だけを通し、他の紫外線をカットする専用の日焼け止めやUVケアアイテムも登場しています。肌を守りながら、太陽の恵みを上手に取り入れる。それがこれからの時代の“日光浴の仕方”ですね。
食事でビタミンDを摂取するには

ビタミンDは日光だけでなく、食事からも補うことができます。しかし現代の食生活では、意識しないとなかなか十分な量を摂るのは難しいのが現実です。特に魚や干しきのこは、手軽に取り入れられる優秀な食材。
ただし、最近の干し椎茸やキクラゲの多くは屋内で乾燥されており、紫外線を浴びていないため、ビタミンDの量が少ないこともあるそうです。
<ビタミンDを多く含む食材>
| 食品名 | 含有量 (μg/100g) | 備考 |
|---|---|---|
| 鮭(焼き) | 39.0 | 鮭1切れで1日の推奨量を超える |
| マイワシ(丸干し) | 50.0 | 骨ごと食べるとカルシウムも摂取できる |
| サンマ(生) | 16.0 | 秋の旬魚、皮付きが望ましい |
| シラス干し(半乾燥) | 61.0 | 少量で効率よく摂取可能 |
| うなぎ(養殖・生) | 18.0 | タレ焼きでも栄養保持率が高い |
| カワハギ(生) | 43.0 | 高含有食品の一つ |
| きくらげ(乾) | 約85.0 | 天日干しでさらに増加 |
| 乾しいたけ | 約17.0 | 戻し汁も利用可能 |
| 舞茸(生) | 約4.9 | 炒め物・味噌汁に向く |
| エリンギ(生) | 約1.2 | 油調理で吸収率UP |
ビタミンDは青魚やきのこに多く含まれますが、食事だけで必要量を満たすのは大変なんです。
たとえばニシンの燻製なら、1日200g食べてやっと理想量に届くくらいです。キノコ類は、“天日干し”のものを選ぶことが大切ですね。
紫外線を浴びたキノコだけが、身体の中で活きるビタミンDになります。また、ビタミンDは脂溶性なので、油と一緒に摂ると吸収率が高まります。
魚を焼くときにオリーブオイルを少し加える、干し椎茸を戻して煮るときに少量の油を垂らす、こうしたひと工夫で、吸収率をぐっと高めることができます。
足りないときの味方!ビタミンDサプリの正しい使い方

ビタミンDは食事や日光浴から摂ることができますが、現代人のライフスタイルではそれだけでは十分に補いきれないことも多いのが現実です。南雲先生によると、日本人のほとんどがビタミンD不足であり、だからこそ、サプリメントで補うのはとても賢い選択だと話します。
<サプリが有効なケース>
- 屋内で過ごす時間が長く、日光に当たる機会が少ない人
- 魚やキノコをあまり食べない人
- 妊婦さんや授乳中の方、高齢者、成長期の子ども
- 冬場など、紫外線量が少ない季節
こうした方たちは、サプリメントでの補給を検討するとよいでしょう。
ビタミンDには「活性型」と「貯蔵型」の2種類があります。医薬品に使われる活性型ビタミンDは、一時的に血中濃度を上げるため、取りすぎると高カルシウム血症を起こすリスクがあります。
一方で、一般的なサプリメントに使われているのは貯蔵型。身体の脂肪に蓄えられ、必要なときに少しずつ使われるため、毎日摂っても安全です。
むしろ、コツコツ続けることが大切です。日光、食事、そしてサプリメント。この3つを上手に組み合わせることで、季節や年齢に左右されないビタミンDバランスを保つことができます。
まとめ:ビタミンDで免疫力と健康を守ろう

ビタミンDは、私たちの身体の中で免疫と骨の健康を支える「縁の下の力持ち」のような存在です。日光浴、食事、そして必要に応じたサプリメント。
この3つをうまく組み合わせれば、年齢や季節に左右されず、「免疫が整った強い身体」を維持できます。
今日からできる小さな習慣——朝の散歩で太陽を浴びる、食卓に魚や干し椎茸をプラスする。そんな小さな一歩が、あなたの健康寿命を延ばす力になります。太陽の恵みを味方につけて、ビタミンDで心も身体も健やかに保ちましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。