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【司法書士が解説】相続登記だけで不十分?相続した不動産で「最初に行うべき」手続きリスト

【司法書士が解説】相続登記だけで不十分?相続した不動産で「最初に行うべき」手続きリスト
近藤 崇(司法書士法人近藤事務所 代表司法書士)

執筆者

司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

近藤 崇

横浜市出身。横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。 取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。 司法書士法人近藤事務所ウェブサイト:http://www.yokohama-isan.com/  孤独死110番:http://www.yokohama-isan.com/kodokushi

令和6年から義務化された「相続登記」。放置すれば罰則の対象になることもあり、不動産を相続した場合、まず取りかかるべきは登記です。

しかし、登記を済ませただけでは安心とはいえません。 “やるべきタスク”に取り組まなければ、トラブルの種になるだけでなく、相続人が思わぬ不利益を被る可能性も。

本記事では司法書士の視点から、不動産相続における相続登記の重要性と実務の流れについて、近藤崇氏が解説します。

昨年から義務化…「相続登記」は、不動産相続の“はじめの一歩”

昨年から義務化…「相続登記」は、不動産相続の“はじめの一歩”

不動産を相続したとき、最初に着手すべき手続きはなんでしょう。迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、まず向き合うべきは「相続登記」です。

登記は、不動産において極めて重要であるだけでなく、その後不動産をどのように活用するにしても、すべての出発点となります。

相続登記を行っていないと、その不動産を売却するにしても賃貸するにしても、あるいは不動産を担保にして融資を受けるにしても、あらゆる手続きを進めることができません。

相続登記を放置すると、時間の経過とともに相続人が増加し、それに比例して不動産の共有者も増えていきます。共有関係の複雑化は、遺産分割や売却時の大きな障害になりかねません。

実際、司法書士として相続の現場に関わっていると、「もう少し早く登記をしておけば」という声をよく耳にします。それほど、相続登記は早い段階で取り組むべき重要な手続きなのです。

令和6年から義務化…放置した場合、10万円以下の罰金が科される恐れも

なお、令和6(2024)年4月からは、改正不動産登記法により相続登記が義務化されました。相続により不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければならないと定められています(不動産登記法第76条の2)。

正当な理由なく義務を怠った場合、10万円以下の過料(行政上の制裁)が科される可能性があります(同法第164条)。

従来は任意だったために登記が長年放置されることも多く、その結果全国的に「所有者不明土地」という深刻な問題を引き起こしてきました。今回の法改正は、こうした社会的課題の解消を目的としたものです。

不動産の「種類」によって異なる、相続後の実務の流れ

不動産の「種類」によって異なる、相続後の実務の流れ

しかし、登記はあくまで「権利関係を確定させる」ための手続き。不動産を適切に管理・活用していくためには、さらにいくつかのステップが存在します。その内容は、相続した不動産の「種類」によって若干の違いがあります。

マンションの場合

マンションを相続した場合、売却する、リフォーム工事を検討する、など相続後の選択肢はいくつかありますが、いずれにしても「残置物の整理」が必要です。

相続した不動産には、亡くなった方が使っていた衣類や家電などの生活用品がそのまま残っていることがほとんどです。売却や賃貸を進めるにも、これらを片づけない限りは手続きに入ることができません。

とはいえ、こうした遺品整理は、肉親を亡くしたばかりの相続人にとって、肉体的にも精神的にも非常に負担が大きいでしょう。たとえば、冷蔵庫などの大型家電を処分するには、専門業者を頼る必要があります。

そのため、現実的には、専門業者に依頼して遺品整理を進めるケースが多いです。費用はかかりますが、不動産を活用するには、こうした業者の力を借りてでも残置物の整理を迅速に行うことが、相続登記と並んで非常に重要です。

なお、遺品整理業者にもさまざまなタイプがありますが、私たちのような専門家が長年関わっている業者の場合、不動産の権利書や売買契約書などの重要書類を丁寧に取り分けてくれることがほとんどです。

これらの書類が見つからない場合、不動産売却時の譲渡所得計算や確定申告に支障をきたすおそれがあります。信頼できる業者を選び、司法書士など専門家と連携して整理を進めることが望まれます。

戸建ての場合

戸建てを相続した場合は「土地」が含まれるため、マンションと同様に残置物の整理を行うほか、追加の作業が必要となります。

まず重要なのが「確定測量」です。境界が未画定の土地は、原則として売却することができません。買い手の立場からみても、隣地との境界があいまいな土地や紛争の可能性がある土地は敬遠されがちなのが現実です。

確定測量とは、土地家屋調査士が現地で境界を測定し、隣地所有者の立会いと承諾印を得て境界を確定する手続きです。売却・分筆・登記の前提となるため、相続後は早期の実施が望まれます。

しかし、隣地所有者が海外在住など遠方に住んでいたり、個別の事情から境界承諾に非協力的だったりといった場合、数ヵ月~場合によっては1年以上かかることもあります。

費用も数十万円~100万円以上かかることもあり、相続人にとっては大きな負担ですが、避けられない必要経費といえます。

「特定空き家」に指定されると、固定資産税は最大「6倍」跳ね上がる

「特定空き家」に指定されると、固定資産税は最大「6倍」跳ね上がる

また、戸建てを相続し、老朽化した建物が残っている場合、売買契約の内容によっては解体工事が必要になります。

売却しない場合でも、空き家のまま放置すると倒壊や火災のリスクが高まり、近隣から苦情が出る原因になるためです。あまりに空き家を長期間放置していると、所在する市区町村から「特定空き家」に指定され、撤去を命じられるケースもあります。

特定空き家に指定されると、住宅用地特例(地方税法第349条の3の2)の適用が外れるため、固定資産税が従来の最大6倍程度まで増額されるおそれがあります(空家等対策特別措置法第14条)。

なお、「特定空き家」の認定基準は下記のとおりです。

【特定空き家の認定基準】

  1. 放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  2. 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
  3. 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
  4. その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

実際、筆者はこれまでの業務において、特定空き家に指定された家屋を何度か目にしたことがありますが、「こうした家屋がご近所だったり、子どもの通学路沿いにあったりしたら不安だろうな」と感じる状態のものが大半でした。

売却を予定している場合は、売買契約がまとまってから更地にしても十分間に合うケースが多いですが、次に説明する「空き家控除」を受けたい場合には、事前に解体しておくほうが安全です。

一定の要件を満たす場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除(いわゆる空き家譲渡特例)」を利用できることがあります(租税特別措置法第35条の2)。

なお、この控除を受ける場合であっても、実務上は解体が必須となります。

登記が遅れると、納税通知が“別人”に届くことも…「名義変更」に要注意

登記が遅れると、納税通知が“別人”に届くことも…「名義変更」に要注意

相続した不動産に対しても、当然ながら固定資産税が課税されます。では、この場合「納税義務者」は誰になるのでしょうか。

この点については、相続登記が完了していれば心配は不要です。

固定資産税の納税義務者は、地方税法第343条に基づき、毎年1月1日時点の登記簿上の所有者(名義人)とされています。そのため、速やかに相続登記を済ませていれば、市区町村への特別な届出は不要です。

一方で、相続トラブルなどにより登記が遅れている場合、市区町村から「納税管理人」などの代表者選定を求める書類が届くことがあります。

この場合、いったん代表者になってしまうと、登記名義を変更しない限り、毎年その方に延々と納税通知書が届き続けることになります。

遺産分割の調停などで家庭裁判所での手続きが進行している場合はやむを得ないケースもありますが、そうでない場合は早めに相続登記を済ませ、所有者と納税義務者が一致するように行っていくことが重要です。

「火災保険」の名義変更も忘れずに

また、見落とされがちなポイントとしては、「火災保険」の名義変更が挙げられます。

火災保険の契約者と登記上の所有者が異なる場合、事故発生時に保険金の支払いが制限されるおそれがあります。相続登記が完了したら速やかに保険会社へ連絡し、契約者名義の変更を行いましょう。

そのため、相続登記が完了したら速やかに保険会社に連絡し、契約者名義の変更を行うようにしましょう。なお、変更手続きの際には、相続登記後の「登記簿謄本」の提出を求められることがあります。

また、相続後に不動産を空き家のまま放置すると、保険会社が契約を引き受けない、あるいは割高な空き家専用の保険しか加入できなくなるケースもあります。木造の築古物件は火災や労災リスクが高いため、保険の加入自体を拒否される場合もあるでしょう。

こうしたリスクを避けるためにも、空き家となった不動産については、早めに利用方針を決めることをお勧めします。

専門家の力を借り、早めの相続登記で“リスクの無限増殖”を避ける

専門家の力を借り、早めの相続登記で“リスクの無限増殖”を避ける

今回みてきたように、相続した不動産を放置すると、税金や保険、管理、隣地との関係など、さまざまな面でリスクが増えていきます。

この点、最初の一歩である相続登記を早めに済ませることで、固定資産税や火災保険などの問題が整理され、その後の売却や賃貸といった不動産の活用もスムーズになります。

司法書士は、相続登記の専門家として、戸籍収集・相続関係説明図や遺産分割協議書の作成、登記申請までを一環して支援します。必要に応じて土地家屋調査士や解体業者とも連携し、相続後の不動産管理を円滑に進められる体制を整えています。

相続した不動産をどうすればわからないという段階でも、まずは司法書士に相談することで、必要な手続きの全体像が整理されるかもしれません。

相続登記を起点に、不動産の適切な管理・活用を進めていくことが、相続人にとって最も大切な一歩です。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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