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きょうだいの一人が音信不通…相続人に「行方不明者」がいる場合の不動産相続の進め方【弁護士が解説】

きょうだいの一人が音信不通…相続人に「行方不明者」がいる場合の不動産相続の進め方【弁護士が解説】
山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

執筆者

山村法律事務所 代表弁護士

山村 暢彦

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社からの複雑な相続業務の依頼が多数。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

不動産を相続するには、相続人全員の合意(遺産分割協議)が不可欠です。

しかし、相続人の一人とまったく連絡が取れない場合、手続きは完全に止まってしまいます。このような膠着状態を打開するには、どうすればよいのでしょうか。

本記事では、相続人のなかに行方不明者がいる相続トラブルの法的解決策について、不動産相続に精通する山村暢彦弁護士が解説します。

相続人のなかに行方不明者がいると、遺産分割協議が進められないワケ

相続人のなかに行方不明者がいると、遺産分割協議が進められないワケ

相続が発生すると、まず必要になるのが「遺産分割協議」です。これは、相続人全員で集まり、誰がどの財産を引き継ぐかを話し合って決める手続きです。

特に不動産が含まれる場合、名義変更を行うには相続人全員の合意が不可欠となります。

ところが、相続人のなかに「音信不通のきょうだい」や「海外に長期間行ったまま連絡が取れない親族」がいると、この協議自体を開くことができません。

なぜなら、遺産分割協議は一人でも欠けると無効になってしまうからです。

民法上、遺産分割協議は相続人全員の合意によってはじめて成立します。たとえ残りの相続人全員が話し合いで合意しても、行方不明者を除外して行った協議は法的効力を持ちません。

その結果、不動産の名義変更や売却といった実務的な手続きもすべて止まってしまいます。

このようなケースは、実務上珍しくありません。特に、兄弟姉妹間の相続では、親の生前から疎遠になっていたり、転居先がわからなくなっていたりすることがよくあります。

家庭裁判所で戸籍をたどっても所在が確認できない場合には、いくら登記所に書類を提出しても手続きが進まず、膠着状態に陥ってしまうのです。

相続の“膠着状態”を打開する「不在者財産管理人」制度

相続の“膠着状態”を打開する「不在者財産管理人」制度

こうした事態を打開するために用いられるのが、「不在者財産管理人」制度です。

不在者財産管理人とは、行方不明者(民法上の“不在者”)に代わり、財産を管理・処分するために家庭裁判所が選任する代理人のことです。

この制度は、不在者本人の利益を守りながら、残された相続人が遺産分割協議などの相続手続きを進められるように設けられています。

つまり、相続人のなかに行方不明者がいる場合には、いきなり不動産の名義変更などを進めることはできず、まずはこの「不在者財産管理人の選任申立て」を行うことが不可欠となります。

選任までに3〜6ヵ月程度かかる…選任申立て手続きの流れ

行方不明の相続人がいる場合、まず行うべき手続きが「不在者財産管理人の選任申立て」です。これは、不在者に代わって財産を管理・処分する人物を、家庭裁判所に選任してもらう手続きです。

相続の場面では、この管理人が行方不明者の代理人として遺産分割協議に参加します。

申立て先は、行方不明者(不在者)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

たとえば、兄弟の一人が横浜市に住んでいたまま連絡が取れなくなった場合には、横浜家庭裁判所に申立てることになります。申立人は、他の相続人や利害関係人(例:不動産の共有者など)です。

また、申立てには、下記のような資料の提出が求められます。

  • 戸籍謄本
  • 不在者の住民票除票(入手できない場合は、その旨を記した資料)
  • 相続関係説明図
  • 不在の状況を説明する陳述書
  • 「どの財産について管理が必要か」を示す資料(不動産登記簿謄本など)

裁判所はこれらを確認し、不在が客観的に認められるか、管理人を置く必要があるかを審査します。

手続きの流れとしては、申立てから実際に不在者財産管理人が選任されるまで、3〜6ヵ月程度かかるのが一般的です。

これは、家庭裁判所による調査や、候補者(通常は弁護士)の選定に時間を要するためです。

予納金が重くのしかかる…費用の目安は「30~60万円」

費用面では、裁判所への申立手数料自体は数千円程度ですが、選任時に予納金(管理人の報酬や公告費用など)として数十万円を求められるケースがほとんどです。

目安としては、管理財産の内容や地域にもよりますが、30〜60万円程度を想定しておくとよいでしょう。

なお、家庭裁判所に提出する申立書や添付資料の作成は、一般の方にはやや複雑です。記載内容や証明書類に不備があると、補正を求められて手続きが長引くことも少なくありません。

そのため、早い段階で弁護士に依頼することをお勧めします。書類の整理や陳述書の作成をサポートしてもらうことで、時間的ロスを大幅に軽減することができるからです。

代理人決定後も「半年~1年」は覚悟を…遺産分割完了までの長い道のり

代理人決定後も「半年~1年」は覚悟を…遺産分割完了までの長い道のり

家庭裁判所で不在者財産管理人が選任されると、ようやく相続手続きを前に進めることができます。ただし、管理人が選ばれた時点で即座に遺産分割協議ができるわけではありません。まずは、管理人が不在者の財産を調査・把握する必要があります。

不在者財産管理人は、行方不明の相続人の利益を守る立場にあります。そのため、単に他の相続人の希望どおりに署名・押印することは許されません。協議の対象となる不動産や預貯金などの財産を確認し、相続分に応じて公平な条件になっているかを慎重に判断します。

この過程で、他の相続人とやりとりしながら、具体的な遺産分割案を調整していくことになります。

その後、管理人が家庭裁判所に「遺産分割協議を行う許可」を申立て、裁判所が許可を得てはじめて、不在者の代理人として遺産分割協議に加わり、協議書に署名・押印できるようになります。

この「許可申立て」から実際に許可が下りるまでにも、通常1〜2ヵ月ほど要するのが一般的です。

許可が得られたあとは、管理人が不在者の代理として遺産分割協議に正式に参加します。他の相続人と協議書を作成し、全員の署名押印を経て、ようやく不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の分配といった実務的な手続きを進めることができます。

全体の期間としては、申立てから管理人選任、許可取得、協議完了、登記までを含めると、半年から1年程度みておくのが現実的です。

手続きの途中で裁判所から補正や追加資料を求められることもあり、想定以上に時間がかかるケースも少なくありません。

このように、不在者財産管理人を通じての相続手続きは、慎重かつ段階的に進められます。

7年以上行方不明の場合に検討する「失踪宣告」

7年以上行方不明の場合に検討する「失踪宣告」

行方不明の状態が長期に及ぶ場合、次に検討されるのが「失踪宣告」という制度です。

これは、生死が7年以上明らかでない人を、法律上“死亡したものとみなす”手続きで、家庭裁判所に申立てて審判を受けることで効力が発生します。

不在者財産管理人制度が「行方不明者の代理人を立てて、本人の権利を維持したまま相続を進める仕組み」であるのに対し、失踪宣告は「本人が死亡したものとみなし、その相続を開始する制度」です。

失踪宣告が確定すると、その効力発生日(審判確定日)時点で不在者が死亡したものと扱われ、そこで相続が開始します。したがって、不在者の配偶者や子といった次の世代が相続人として手続きに参加することになります。

ただし、後に行方不明者が生存していることが判明した場合には、失踪宣告は取り消されます。その場合、財産の返還義務や処分済み財産の扱いなど、非常に複雑な調整が必要となるため、実務上は慎重な判断が求められます。

一般的には、行方不明の期間が短い場合は「不在者財産管理人」、7年以上経過している場合は「失踪宣告」を検討するというのが目安です。

「行方不明」ではないけれど…“連絡不能”な相続人への〈最終手段〉

「行方不明」ではないけれど…“連絡不能”な相続人への〈最終手段〉

ここまでみてきたように、相続人のなかに行方不明者がいる場合には、「不在者財産管理人の選任」や「失踪宣告」といった家庭裁判所を通じた“特別な手続き”が必要になります。

加えて、実務ではもうひとつ、「所在はわかっているのにまったく連絡が取れない相続人」への対応という、判断が難しいケースも少なくありません。

このような場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、相手が調停に出席しなくても手続き自体は進行し、最終的には裁判所が分割方法を決定する「遺産分割審判」へ移行して解決を図ることになります。

実際の現場では、「不在者として手続きを進めるべきか」「調停・審判により強制的に終結させるべきか」の線引きが難しく、両方の手続きを並行して進めざるを得なかった事例もあります。

いずれにしても、行方不明者や連絡不能の相続人が絡む相続では、手続きが長期化しやすく、費用や労力の負担も大きくなりがちです。

したがって、早い段階で弁護士に相談し、証拠資料の整理や申立書の準備を進めながら、家庭裁判所での対応を見据えて行動することが重要です。

相続人の一人が音信不通という状況に直面した際には、まずは慌てず、利用できる法的手段を整理しながら、状況に応じた適切な進め方を検討することが重要です。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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