相続人のあいだで遺産分割の合意がまとまらないとき、とりあえず法定相続分通りの「共有名義」で登記してしまうケースがあります。
一見すると公正公平な印象を与える共有名義ですが、実は実務上の制約が多く、将来的に誰も手を出せない「塩漬け不動産」を生む原因になりがちです。
本記事では、不動産相続に精通する山村暢彦弁護士が、共有名義の法的リスクと、共有状態に陥らないための現実的な対応策について解説します。
なぜ安易な「共有名義」での相続登記が危険なのか

相続の現場では、「とりあえず法定相続分どおりに共有名義にしておけば公平だろう」という判断がよくみられます。
しかし、共有名義は一見平等にみえるものの、法律上は“各人の権利が制限される特殊な状態”であり、実務上はトラブルを生む典型的な原因となります。
共有とは、複数の人が同じ不動産を同時に所有している状態です。単独所有と異なり、処分・管理の自由度が大きく下がります。
特に不動産は、売却・賃貸・建替えなど「誰か一人の行動で完結できない」という特性が強く、共有のまま時間が経つほど、なにも決断ができないまま塩漬けになるリスクが高まります。
環境の変化が招く「不公平感」
実務では、相続直後は関係が良好でも、数年のうちに「生活環境」「家庭事情」「経済事情」が変わることで意見が割れやすくなります。
たとえば、「固定資産税を負担している人」と「名義だけ持っているものの費用を出したくない人」とのあいだで不満が生まれるケースは典型です。
また、共有者の1人が認知症などの病気で判断能力を失えば、売却や賃貸のための意思確認すらできず、家庭裁判所で後見人を選任しなければ手続きが進まないという事態にも陥りかねません。
さらに、共有名義は“問題を先送りする効果”が強く、相続人が3人なら3分の1ずつで済んでいたものが、次の相続では5人、10人へと持分が細分化し、関係がさらに複雑になります。
一度共有名義にしてしまうと、あとから解消するには家族全員の合意が必要となり、争いの火種が急速に拡大してしまうことも珍しくありません。
共有名義は、法律上も実務上も「公平」ではなく、「不自由」と「将来のリスク」を内包した状態です。安易に採用すべきではなく、相続の段階でしっかりと分割方法を検討することが、後々のトラブル防止につながります。
共有不動産を売る・貸す・建て替える際に必要な「同意の割合」

共有名義の最大のハードルは、「売る」「貸す」「建て替える」といった重要な判断に、必ず複数人の同意が必要になることです。民法では、共有者が行える行為を3つに区分しており、それぞれ必要な同意の範囲が異なります。
- 保存行為(修繕など): 各人が単独で行える
- 管理行為(賃貸契約など): 持分価格の過半数で決まる
- 変更・処分行為(売却・建替えなど): 全員の同意が必要
建物の賃貸、修繕、管理会社との契約などの「管理行為」については、共有者の持分価格の過半数で決することができる、とされています。
しかし実務では、過半数の同意が得られても、反対者が強い不満を持ち、後の売却や清算に協力してくれなくなるケースも多いため、全員の同意がない場合には慎重な判断が求められます。教科書どおりにスムーズに進むとは限らないのです。
より問題となるのは、「処分行為」と呼ばれる大きな変更を加える類型です。これらは法律上、共有者全員の同意がなければ行えません。
たとえ持分99%を持つ共有者であっても、残り1%の共有者が反対すれば、原則として売却することはできません。相続人の誰か一人が「売りたくない」「もっと高くなるまで待ちたい」といえば、その時点で売却の話はストップしてしまうのです。
このような場合には、共有物分割訴訟にて共有関係自体を解決する必要が生じてきます。
また、売却には司法書士・仲介会社・買主の三者が関与するため、共有者の1人でも連絡が取れない、書類が返ってこないといった事態が起きれば、契約自体が成立しません。
共有は“全員が常に協力してくれる”ことが大前提の制度であり、現実にはその前提が崩れやすい構造になっています。この点こそが、共有名義が実務で敬遠される最大の理由といえるでしょう。
「自分の持分だけ」を売却することは現実的に可能か

共有名義の不動産では、法律上「自分の持分だけ」を第三者に売却することができます。しかし、実務ではこの方法は極めて現実性が乏しく、家族関係に深刻な亀裂を生むケースもあります。
理由は単純で、共有持分だけを購入しても、買主は不動産を自由に使うことができないからです。持分を買っただけでは住むこともできず、共有者全員の同意がなければ売ることも建て替えることもできません。
一般の買主にとっては“メリットのない権利”であり、事実上、市場ではほとんど相手にされません。
買い手は「持分買取業者」がほとんど
では、誰が買うのかというと、実際に出てくるのは「持分買取業者」と呼ばれる専門業者です。ただし、業者は共有状態のリスクを織り込むため、買い取り価格は、共有状態のリスクが織り込まれるため、実勢価格の3〜5割程度となるケースが多いのが実情です。
さらに問題なのは、業者が共有者として入ってくることで、ほかの相続人との交渉が一気に硬直化する点です。業者は利益追求が前提であるため、「全体の売却に応じてもいいが、〇〇万円でなければ応じない」といった強硬な姿勢を示すことも珍しくありません。
結果として、家族間の話し合いは完全に破綻し、裁判(共有物分割請求訴訟)に発展する事例も少なくありません。
このように、持分だけの売却は“法律上できるだけの話”であり、現実的には最終手段としてしか使われません。共有を選ぶと、このような行き場のない選択を迫られる危険が常に存在する点を理解しておく必要があります。
共有状態を解消する3つの方法(換価分割、代償分割、現物分割)

共有名義にしてしまった不動産を整理するためには、法律上「換価分割」「代償分割」「現物分割」という3つの方法が用意されています。共有状態をそのまま放置しても解決しないため、相続時点でこれらの方法を正しく理解しておくことが重要です。
換価分割
不動産を売却し、その売上代金を相続人間でわける方法で、実務では最もシンプルで公平性が高いとされています。客観的な市場価格で売却するため、「誰が得をした・損をした」という不満が生じにくいことが利点です。
また、共有者同士が物件を共同で管理し続ける必要もなくなるため、紛争を迅速に終わらせたい場合に向いています。ただし、売却には共有者全員の同意が必要であり、一人が反対すると進まない点は注意が必要です。
代償分割
相続人のうち誰か一人が不動産を引き継ぎ、その取得者がほかの相続人へ「代償金」を支払って持分の公平を図る方法です。
実務では、兄弟姉妹のうち一人が実家に住み続けたい、あるいは管理しやすいというケースが多く、代償分割が最も現実的な解決方法となる場面が非常に多いと感じます。
代償金の支払方法としては、金融機関の住宅ローンを利用することも可能で、最近は「代償金支払いローン」を積極的に扱う銀行も増えています。不動産評価が適切であれば、最も双方の納得度が高い分割方法です。
現物分割
不動産そのものを物理的にわけて取得する方法で、土地の形状が広く整っている農地や地方の戸建用地では採用されることがあります。
しかし、都市部の住宅地では、道路付け、建ぺい率、容積率、敷地の形状などの制約から、現実的には適用が困難なことが多いです。無理にわけてしまうと建築不可地や利用価値の低い形状になってしまい、不動産価値が大きく毀損される恐れがあります。
このように、共有解消には複数の選択肢があるものの、どれを選ぶべきかは「家族関係」「資産状況」「希望」「不動産の特性」を総合的にみて判断する必要があります。
特に代償分割は交渉が複雑化しやすく、専門家が入ることでスムーズに進むケースが多いため、早めの段階での相談が有効です。
次の相続(甥・姪の世代)で権利関係がさらに複雑化するリスク

共有名義のまま相続不動産を放置すると、時間の経過とともに問題は確実に深刻化します。特に大きな影響をおよぼすのが「次の相続」です。
たとえば、3人きょうだいで共有していた不動産であれば、各人が亡くなった際、その持分はそれぞれの配偶者や子どもへと承継され、共有者の人数は5人、10人へと増えていき、権利関係は急速に複雑化していきます。
こうなると、誰がどれだけの持分を持っているのか、そもそもどこに住んでいるのかすらわからない“所在不明共有者”が発生することも珍しくありません。
話し合いの土台となる「関係性」が失われる
さらに、次の世代(いとこ同士など)では相続人同士の交流がほとんどないケースが多く、交渉の土台となる「家族関係」が希薄なため、話し合いがまとまる可能性は一気に低下します。
たとえ売却の必要性を全員が理解していても、共有者の一人が認知症で判断能力を失っていれば、家庭裁判所で後見人を選任しない限り、売却手続きは進みません。
後見人選任には数ヵ月単位の時間と費用が必要になり、さらに後見人が売却に反対する可能性もあります。
その結果、売却も賃貸もできず、固定資産税だけが毎年発生し続ける「塩漬け不動産」になってしまう危険性が高まります。
親世代では“話せばなんとかなる”と思える共有状態でも、子や孫の世代では、もはや現実的な解決が不可能になることが少なくないのです。
だからこそ、共有名義は「いまの家族関係がいいから大丈夫」ではなく、「次の相続を見据えて早めに解消しておくべき問題」といえます。
おわりに…相続は世代をつなぐ「バトンリレー」

本記事でお伝えしてきたように、相続時に「ひとまず共有で済ませておく」という判断は、問題を一時的に棚上げするだけで、将来の世代に大きな負担を残す危険があります。
共有状態は、時間が経てば経つほど権利関係が複雑化し、解消が難しくなる構造を持っています。
特に次の相続が起きたときには、甥・姪を含む多数の共有者が関わることになり、家族だけでは解決が困難な紛争に発展するケースも珍しくありません。
とはいえ、共有が選ばれてしまう背景には、「代償金の支払いが難しい」「財産が不動産しかなく、きれいにわけられない」という根本的な事情があることも多いのが実情です。だからこそ、相続対策の段階で、
- できる限り“わけやすい財産状況”を整えておくこと
- 相続が始まった際には“次の世代の負担を最小化する”視点で分割方法を検討すること
この2点を意識することが重要になります。
相続は、単に財産を配る作業ではなく、世代から世代へと価値を引き継ぐ「バトンリレー」です。自分一人ですべてを完璧に整えることはできませんが、自分が関与できる部分については、将来の家族が困らないように工夫することができます。
共有状態の解消や分割方法の検討に迷う場合は、早い段階で専門家に相談し、最適な方法を一緒に考えていくことが、結果的に家族全体の負担を軽減する近道となるでしょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。